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犯人は僕でした  作者: 駒米たも
本編
154/174

第百三十一幕 暴走

「つまり僕が死んでいる間にミス・トリ新旧監督ズとナンシーがレイヴンを裏切り、僕が西山さんの書いた推理小説の登場人物モブであることが発覚し、僕のモデルになった子が『ミステリアス・トリニティ』の原案を作っており、君もまた同じ子をモデルに作られたミス・トリの没キャラだったと!」

『一万字前後をまとめた前回までのあらすじ!』


 物語の登場人物は今までの人生があるから突然自分の生が作り物だと言われても信じられない。

 それを自分自身で体験するはめになるとは思わなかった。

 事実は小説よりも奇なり、と言いたいところだけれど、僕自身がフィクションの中の存在になるんだよなぁ。どう言えばいいのかな。世にも奇妙な何とやらだ。


 パリーン、と。

 清み渡った空のように、響く音と輝きが心地よい。

 役目を終えたガラス細工が手のひらから地面に還った。


『あと、僕の姿も声も、他の人には分からないから気を付けて』

「僕は幻聴幻覚と会話していると思えばいいんだね!」

『リチャードはよく多重人格だってばれなかったよなぁ』

「声に出してぽろっと喋りたい映画ネタ」


 そういえば、レイヴン、いまピンチだったかも。


 脱線していた話を本筋に戻したのは、そんなぽろっとした話題だった。従って全力疾走している。サーカス団のメンバーは心配してくれたけど、制止を振り切って無理やり飛び出した。

 いまや一分、一秒だって惜しい。だってレイヴンのピンチを見逃せるわけなかろう、諸君。


 サーカス団員はJulesのメンバーと同じ面子だった。どういう仕組みか分からないけれど、顔見知りなだけにギャップが凄く面白い。


「僕、サーカス団長なんていうキャラクターがミス・トリに存在したなんて知らなかったよ」

『僕が出て来たのはある意味特殊な状況下だったからだよ。これも話せば長いんだけど』

「どれくらい?」

『絵描きと上流階級の娘が恋に落ちている間に豪華客船が沈没するくらい』

「なら聞こうか」


 前編後編なら、何とか走りながらでも聞けるのではないだろうか。


『ナンシーから、君の殺し方は聞いた?』

「うん、僕によく似た子を殺せば僕も死ぬんだって」

『その子さぁ、ミステリアス・トリニティには存在していないキャラクターなんだよ。正確には、出版されたミス・トリ第一作目には登場しない。没になった第一稿に、シスター・ケイトリンの殺害を目撃した部分(シーン)があるんだけど、ナンシーはその子を使おうとしたんだ。レシアって名前なんだけど』


 こっちのレシア君は、さっき見たな。 


「僕のとこにもいたよ。大学生のドラマーで、演劇サークルに入ってる。童顔で、身長の事言われたらマジギレする元ビジュアル系」

『こっちも、まさにその子だよ。そうやって無意識にナンシーが没世界をサルベージし続けた結果、レシアより君に似ている僕の命が偶然リンクしたんだ』


「こっちの僕が死ねば、そっちの僕も死ぬってわけだね。ある意味正しいけど、物凄くややこしいなあ」

『そう思う。姉ちゃん大味だから、どの時点の、どの話だったか忘れちゃったみたいで。そういえば、こういう子供がいたから使っちゃえってくっ付けたのが、僕のいる世界だったワケ。突然本編に連れてこられて途方に暮れたよ。母さ、マザー・エルンコットにさりげなーく漢字や決め台詞書いた手紙を送ったんだけど、父さん迎えに行って入れ違いになっちゃったみたい。さっき、出した手紙をレイヴンが持ってきたんだよね。びっくりした』

「ほーう?」


 それは、気になる。僕の知らない内に、いつそんな重要アイテム入手したんですか、レイヴンさん。そして漢字が書いてあるのに、どうして向こうの僕のところに持って行ったのですか、レイヴンさん。漢字読める人がここにいますよ、レイヴンさん。それとさりげなくこちらの世界からお迎えが来ているようですよ、西山さん。


「しかし、君がシスター・ナンシーの弟とは。そんな重要キャラを没とは信じられないよ」

『他人事みたいに言ってるけど、君、自分のお姉さんの名前言ってみなよ』

「杏菜……oh」


 常々シスター・ナンシーに似てると思っていた無表情な姉が、いっそう説得力を増して帰って来た。

 僕たちは平和な日本で暮らす、西山さんが夢見た家族の姿だったんだね。


……ならば何で殺したし!? 悲劇スキーの宿命か何か!? ハッピーエンド回避しないと気がすまないの!?

 そういうのはいいから! 気持ちは分からないでもないけど、どうせなら皆元気に寿命をまっとうする未来に登場させてよ。なんでミステリー作品に登場させちゃうの。

 ミステリアス・トリニティだけじゃ足りなかった!? よろしい、番外編とドラマ編とスピンオフを我は所望する。


『僕は君でもある訳でしょう。同じキャラが二人同時に同世界には存在できない。だから、僕が動いているときは君が。君が動いている時は僕が寝てたんだよ。バレると僕も殺されちゃうから、レシアを君と繋がっているように見せかけた』

「どうりで最近眠いと思った。君、僕なのに頭いいな」

『一生分、先払いで頭使ったね』

「ところで、頻繁に雨の音がしてたんだけど。あれは一体何だったの」

『ネズミは好き?』

「苦手」

『そういうこと』

「どういうこと!?」


 土地勘のない場所での最大の問題は、どこで交流イベントが行われているのか……もといレイヴンたちがどこに居るのか分からない点にあったけれど、これも解消した。いまや、僕の傍らには強い味方(ナビ)が憑いている。


『おっと、お喋りは一時中断。次のー、交差点をー、右に曲がりまーす』

「おい、テメェ! 変な格好しやがって! ぶつかっておいて謝罪の一つも無いとはゴハァッ!?」

「ごめん、いま急いでるんだ」


 パリーン、と。

 再びお酒の瓶で語り合う。

 出会い頭に揉めそうだったので、さっきぶつかってしまった人から貰った酒瓶を思いきり振りかぶり、ぶん殴った。掴んでいた瓶口を残して、四角いボトルが綺麗に破片と化した。

 酒瓶を割るのは、これでもう何回目だろう。そろそろ酒瓶作る人に怒られそうな本数になってきた。

 白目を出して今にも倒れそうな人もお酒の瓶を手に持っている。この周辺、飲酒率高すぎだろう。酔うと気が大きくなって、喧嘩になりやすいから没収だ、没収!


 相手の手に握られた瓶を奪い取った。大きめのビール瓶だ。ラベルがない。もしかして密造酒だったりするのだろうか。そうだとすれば、ハードボイルド度がうなぎ登りだ。

 ふらふらしている目の前の腹を軽く蹴ると、親切な彼はそのまま出てきた路地に向かって仰向けに倒れていった。


「レイヴンが簡単にやられるとは思ってないんだけど、見せ場を見逃すという危機感は覚えているんだ! お酒はほどほどにしておいた方がいいよ!」

  

 これで五件目の衝突事故だけど、こっちも向こうも歩行者だから、交通違反で捕まる心配がないので安心。


「この辺りで騒ぎを起こしてる奴というのは貴様か。悪いがグフゥ!?」


 いきなり背後から肩を捕まれたので咄嗟に肘鉄を食らわせてしまった。道に迷ったのかと心配して声をかけてくれた親切な人だったらどうしようと思ったが、事態は更に悪かった。


 警察官帽に、制服。思いの外、綺麗にこめかみに入ってしまったせいか倒れたままピクリとも動かない。

 停止させにきた白バイ殴っちまった。

 いやいや、彼からアルコールの臭いがするから、これはきっと飲み過ぎで倒れた警官コスプレイヤーに違いない。


 なので問題はない。まったくない。今のところ、捕まる予定は入れたくない。リスケジュールをよろしく頼みます。

 そう願いながら倒れた警官の手から棒状の鈍器を拝借した。最近、トマスに毒されてきた気がするな。

 そして駆け出す。はい、何も無かったよ!!


「レノーアとプルートーって、一体何だったのかな」

『リチャードの憧れかな。彼にとって、あの二匹の動物はお守りみたいな存在なんだ。そして僕らのバックアップに利用させてもらった。リチャードを見て思いついたんだ。二つの異なる人格であれば、同一体にいても不思議じゃないって。僕らは根っこが同じなだけで、同じ存在じゃない。それに気がついてから『リチャードの中で暮らしている君の象徴的人格』を観察して、団長としての僕の中にコピーしておいたのさ。君が、自分の世界で死んでも僕の中で生きていると言えるようにね。姉ちゃんがリチャードの中に潜りこんでいたのは誤算だったよ。本当なら僕がプルートーに入るはずだったんだけど「ネズミが怖い猫とか、青い猫だけでじゅうぶんです。キャラかぶりです」って追い出された。意味、分かる?』

「ふっ。まったく理解できないけれど、最後の部分の元ネタだけ何となく分かった」


『君の設定年齢は二十八だけど、どちらかといえば七歳だった頃の僕に近いよね。ところでさ。自分の作品に戻る前に、君、何かジャンル変更した?』

「うん。リチャードとレイヴンの実力は何となく分かったんだけどね、ジェイコブ先生の実力がまったく分からなかったんだ。だからこう思っちゃったんだ。『兄より優秀な弟など存在しない!』って」

『殺人鬼的な意味で?』

「殺人鬼的な意味で」

『ナイス』

「イエス」


 一つ言わせてもらうと僕と彼との間にはツッコミが存在しない。

 つまり火に油を注ぎ続けることになるのだが……この時の僕たちは相当に変なテンションだったので、とにかくやることなすこと全部やった。


 あとで分かった事だけれど、ミスター・グッドフェローはすでに相当量のお酒を飲んでいたらしい。

 つまり、酔っ払いの僕が二人。野に解き放たれていたのだ。


『それじゃあ、まず手始めにバグショー署長から殺るぞー! なぜなら現在位置が近いからー!』

「おー!」


 



to be continued……

「海外ドラマでシーズンまたいだ前後編と同じテロップが出た気配がした」

『プロデューサーと主演俳優のギャラ交渉が決裂して、更に脚本家が全員ストライキして再開未定を遠回しに言う時と同じテロップの気配がした』

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[良い点] ブレーキがいない [気になる点] ブレーキがいない…! [一言] ただでさえ止められなかったショウが更にフルアクセルに突き進んでいて腹と共に周囲の胃を考えて頭も抱えました( ´ ▽ ` )…
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