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犯人は僕でした  作者: 駒米たも
本編
14/174

011 新手

 二十三時を過ぎた頃、闇に紛れて現れた「(だれか)」はずるりと湿った音を立てて時計塔の扉をしめた。


 泥で汚れたズボンに黒上着。フードの奥に隠れた目元を念入りに煤で汚し、黒い三角布で口元を覆っている。ここまでしっかり顔を隠しているのだ。「こういった事態」を前提に雇われているのは間違いだろう。


 男の視線の先には可憐な……可憐な? 少女が横たわっていた。

 全身は雨に濡れ、打ち上げられた魚のようにぐたりとして動かない。

 口に巻かれたハンカチのさるぐつわと、ロープ。

 男は靴音を立てて少女へ近づく。


「悪く思うなよ。お嬢ちゃん」


 男はくぐもった声を出したがそれ以上喋る事はなかった。

 ごん、という音と共に倒れたからだ。


 その音を合図に横たわっていた少女が立ち上がる。何事も無かったかのようにさるぐつわを外し、大きく伸びを一つ。自分を縛っていたロープを手で弄びながら、スーさんが下衆の笑みを浮かべて先程まで立っていた男性を見下ろす。


「悪く思うなよ、おじちゃん」

「悪く思うな、おっさん」


 悪い笑みを浮かべたダックさんが、時計塔のカンヌキとして使われていた木板を肩にかついでみせた。

 二人ともどちらが悪者か分からなくなる、実に素敵な笑顔だった。


 夜襲とは暗殺者だけの特権ではない。正義めんざいふの名の元に主人公側にも許される。


「それで、こいつはどうする」


 手早く縄で男を縛り上げていたキースランドさんが鋭く言う。的確に関節を縛り動けなくするのは、さすが人体に精通した医者というべきだろうか。


「警察に渡そう」

「警察がマーシュホースと組んでいないという証拠はどこにもないぞ」

「それは先程も話したはずだ。俺たちが帳簿を持っていても、親父たちと同じ運命を辿る。これは、広く開示するべきだ」

「この帳簿を見た人間の命が危険に晒される。そもそも本物だとどうやって信じてもらう?」


 カンテラを掲げたテイラーさんが応え、口々に言い争いを始めた。止めてくれそうなミス・ワイズは警察を呼びに行ったまま、まだ帰ってこない。議論となると僕は蚊帳の外。がんばってね。うしろで聞いているよ!


「おえーっ」


 何をしているかというと、時計塔の石壁に頭をつけながら必死に吐き気と戦っている。


 お酒の酔い方にも色々ある。普段より気が大きくなっちゃう人。感情の制御が出来なくなっちゃう人。寝ちゃう人。


 僕はいわゆる、気が大きくなって、饒舌になるタイプ。

 饒舌なときは言語を問わない。酔っ払いの僕はべらべら喋る。

 英語だろうが、フランス語だろうが、ドイツ語だろうが、ポーランド語だろうがお構いなしだ。

 そういう時は、おもしろいように状況がプラスに働くのだ。


 酔っていない時の僕と、酒を飲んだ時の僕は別の人間になっているのだと思う。

 ある意味僕も、リチャードとトマスのような素面と酔っ払いの二重人格だ。


 ただし、上手く扱えないという点でも一緒だ。

 便利な酔っぱらいと称される一方で、一度飲めば一週間近く二日酔いに悩まされる。二日酔いという名前なんだから、二日でアルコール分解すればいいのに。


 だから僕は酒が得意ではない。けれど酒を飲めば仕事でもプライベートでも上手く事が運ぶ。

 飲むか、死ぬか、それが問題だ。

 急性アルコール中毒で緊急搬送された回数は、まだ三回。高畑家わがやでは節度のある方だといえよう。


 横になった僕の隣にそっとエビフライが添えられた。これではどちらが襲撃者か分かったものではない。


「帳簿をネタに、マーシュホースに脅迫文を出すってのはどうよ」

「どうよも何も、却下だ却下」


 スーさんは、しっかり誘拐グループに溶け込んでいた。先程から外道な案を出してはキースランドさんに却下されている。


「……悪いが、そのどちらも却下だな」

「誰だっ」


 閉められたはずのドアが開く。

 雨の中、黒い男の影が雷鳴に照らされる。先程現れた男と同じ黒いローブ。

 スーさんを殺した犯人は二人組だったのか!!

 招かれざる客の姿に、全員が動きを止めた。


「ぉぇー」


 訂正。一人をのぞいて、全員が動きを止めた。


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