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ビュリオン盗賊団

「とにかく、お前は宿に戻っていろ。この作戦は俺一人じゃないといけないんだ」


 そう言ってデュベルはコナに背を向けて歩き出す。

 そのときだった。


「おい、お前が勇者マオウだな!」


 背後からの声にデュベルは振り向く。

 迂闊だった。

 コナは数人の男達に囲まれ、喉元にナイフを突きつけられている。

 ビュリオン盗賊団だ。


「てめぇ! 人の女に何して…!」


デュベルは魔法で攻撃しようと手をかざす。


「動くな! 動いたらこいつは殺す!」


 ビュリオン盗賊団の一人が大声で言う。


(くっ…人質というわけか)


 デュベルは歯を噛みしめる。


「こいつを死なせたくないなら、身代金1億ペール持って北にあるドッグズノーズ洞窟に来い。夜が明けるまでに来なければこいつの命は無いと思え」


 そう言い残すと、ビュリオン盗賊団はコナを連れて去って行った。


「くそっ! 油断し過ぎたか!」


 デュベルの中に悔しさがこみ上げる。


「奴らは俺の女に汚い手で触れたんだ、絶対にただじゃ済まさない!」


 デュベルは辺りの小石を錬金魔法で金貨に変えると、持っていた袋に詰め込み、ドッグズノーズ洞窟に向かった。



 ◆



「おい、こいつどうする?」

「よく見ると結構美人だよな」

「乳は頭領の足元にも及ばないがな」


 手足を縛られたコナを盗賊達が品定めするように見下ろす。


「ボス、こいつどうします?」


 盗賊の一人が、ククリナイフの手入れをしている女性に尋ねる。

 彼女こそが、このビュリオン盗賊団の頭領である女盗賊のペローニである。


「そいつは大事な人質だ。殺さなければ好きにしていいよ」


 ペローニは一度チラッと盗賊達の方を見ると、ククリナイフの手入れを続けてた。


「よし! ボスの許可も出たし好きにしちゃうか!」


 盗賊達はいやらしい笑みを浮かべながらコナに近づく。


「やめて……」


 コナは必死に逃げようとするが、拘束されているため、あっという間に距離を詰められてしまう。


「ふひひひひ、お前も一緒に楽しもうぜ」


 一人の盗賊がコナの衣服を剥ぎ取ろうと手を伸ばす。

 だが、次の瞬間、その盗賊の伸ばした手は無くなっていた。


「あれ? なんだぁ?」

「おい! 手が!」

「うわぁぁぁあああああ!」

「手が! 手がぁぁぁあああ!」


 盗賊達が悲鳴を上げる。先が切り落とされた盗賊の手首からは血が溢れ出し、地面に流れ落ちた。

 血が垂れた地面には盗賊の切り落とされた手首が転がっている。


「おい! どうした!?」


 ペローニもその異変に気づく。

 だが、冷静さを欠いている盗賊達に説明できるはずがない。


鎌風かまかぜ魔法。凝縮した風を一点に集中して一気に放出させることによって鋭い風の刃を作る魔法だ」


 背後からの声にペローニが振り向く。そこにはデュベルがいた。


「てめぇ!」

「頭領! こいつです! こいつが勇者マオウです!」


 盗賊達が口々に叫ぶ。


(こいつがビュリオン盗賊団の頭領か……噂通りなかなかの美人じゃないか)


 デュベルがペローニをまじまじと眺める。

 髪や肌はあまり手入れされていないが、顔や身体つきはその辺の女性よりは確かにレベルが高い。

 ペローニもデュベルを見て、納得したような顔をした。


「なるほどね。アンタが噂の勇者マオウか。で、ちゃんと金は用意したんだろうね?」


 デュベルは金貨の詰まった袋をペローニに向かって放り投げる。


「これで満足か?」


 金貨の入った袋を受け取ったペローニは、袋の中を覗き込む。

 そこには確かに1億ペール分の金貨が詰まっていた。


「……確かに受け取ったよ。おい、人質を解放してやりな!」


 ペローニは盗賊達に向かって命令する。


「いや、しかし……」

「仲間がやられたんですよ!」

「そうだ! このまま大人しく帰していいんですか?」


 盗賊達は納得いかない顔で反論する。

 そんな盗賊達をペローニは睨みつけた。


「いいから解放しな!」


 ペローニの命令に盗賊達は渋々コナを解放する。


「魔王様……信じてた……」


 盗賊達から解放されたコナはデュベルの許に駆け寄り、デュベルの胸に飛び込む。

 デュベルは自分の胸に頭を埋めるコナの頭を撫でた。


「さて、これで取引きは終わったわけだけど、アンタはアタシの仲間に攻撃したんだ。まさか、このまま帰れるなんて思ってないよね?」


 ペローニはククリナイフを取り出す。

 それを見て、デュベルもニヤリと笑う。


「奇遇だな。俺も、俺の女を汚い手で触ったり、いやらしい目で見てたゴミ共を放置しておくつもりは無い」

「なら話が早い。お前ら、やっちまいな!」


 ペローニの合図と共に盗賊達がデュベルに斬りかかった。


「死ねぇ!」


 盗賊達のナイフが次々にデュベルの身体に刺さる。


「やったか?」


 盗賊達はデュベルの身体に刺したナイフを抜く。

 デュベルの身体は血が溢れ出て、地面に倒れた。


「ふひひひ、俺達ビュリオン盗賊団に逆らうからこうなるんだ!」


 盗賊達は地面に横たわるデュベルの身体を踏みつけて、笑う。

 だが、次の瞬間、デュベルの身体は無数のムカデに変わり、盗賊達の身体を這い登った。


「な! なんだこりゃ!」


 盗賊達は慌てて掃い落とそうとするが、圧倒的に数が多いムカデは盗賊達の抵抗をものともせず、次々に身体を這い登る。

 そして、盗賊達の身体を食らい始めた。


「う、うわぁぁぁあああああ! やめろ! やめろ!」


 盗賊達は必死にムカデを掃おうとするが、身体に食らいついたムカデは全く動じない。 ムカデは皮膚を、肉を、臓器を食い散らかしていき、盗賊達は次第に骨だけになっていく。


「あ……あ……」

「はぁ……はぁ……」


 盗賊達は目の前にデュベルが立っていることに気づく。

 ムカデは消えていて、骨だけになった身体は元に戻っていた。


「お……お前死んだはずじゃ……」

「何が起こったんだ……?」


 状況を理解できない盗賊達を見てデュベルは不敵な笑みを浮かべる。


「幻覚魔法だ。だが、俺ぐらいの実力になると、幻覚魔法とはいえ、実際に受けた感覚と同様の感覚を味わうことになるけどな」


 デュベルは地面に這いつくばった盗賊達を見下ろす。

 正気を戻した盗賊達はデュベルを睨んだ。


「き……貴様ぁ……!」


 盗賊達は立ち上がり、デュベルに掴みかかる。

 しかし、デュベルに触れるより早く、盗賊達の身体が風船のように膨れ上がっていく。


「な……なんだ?」

「おい! お前、身体が……!」

「く……苦しい!」


 そして、限界まで膨らみ続けた盗賊達の体は次々に破裂していった。


「うばぼわあ!」

「へばらあ!」


 盗賊達の断末魔が洞窟内に響くと共に、盗賊達の血や臓器や肉片が飛び散る。

 四肢は破裂と同時に四散し、辺りは地獄絵図と呼べるほど悲惨な光景になっていた。


「あぐ……あ……」

「が……は……」


 盗賊達が気がつくと、盗賊達の四散した身体は元に戻っていた。


「ま……また幻覚か……?」

「頼む……もう許してくれ……」


 盗賊達はデュベルに対して口々に命乞いをする。


「いいぜ、許してやろう」


 デュベルの言葉に盗賊達は安堵した。

 だが、それを見たデュベルは悪魔のような笑顔で続ける。


「あと98通りの死に方で、この感覚を伴う死の幻覚に耐えられたならな。それまでに精神が崩壊しなければの話だが」


 盗賊達の顔は一気に絶望の表情に変わる。

 デュベルが盗賊達の横を通り過ぎると同時に、今度は盗賊達の身体が炎に包まれていった。


「熱い! 熱いぃぃいいい!」

「助けてくれぇぇぇえええ!」


 洞窟内には再び盗賊達の悲鳴が響き渡った。



 ◆



「さて……と」


 デュベルがペローニの方に向かって歩いてくる。


「お前に二つ選択肢をやろう。俺の下僕になるか、ここで死ぬかだ」

「もう一つの選択肢があるだろ。それは……」


 ペローニは歩み寄るデュベルを睨みつけ、ククリナイフを構える。


「ここでアンタを殺すって選択肢だ!」


 デュベルは溜息をつくと右手をかざした。

 デュベルの右手から鎌風が繰り出される。

 鎌風は器用にペローニの服の服を切り裂き、ペローニの豊満な胸が露わになった。


「きゃっ……!?」


 ペローニは慌てて手で胸を隠す。


「やれやれ、少しは学習しろよ。お前に俺を殺すのは不可能だ。それともあんな風になりたいの?」


 デュベルは親指で盗賊達を指差す。

 盗賊達は相変わらず悲鳴を上げながら悶え苦しんでいた。


「……」

「さて、もう一度聞こう。俺の下僕になるかい? それともここでこのまま死ぬかい? まぁ、まだ勝つ気でいるなら相手に……」

「ご主人様とよばせてください!」


 デュベルが言い終わる前に、ペローニは跪いて頭を下げた。



 ◆



「えっと……この人は……?」


 翌朝、起床し、ペローニを見たナギサとセルティアがデュベルに尋ねる。


「俺の下僕のペローニだ」

「ふえぇ~、つまり新しい仲間ですか~?」

「そういうことになるな」


 ナギサとセルティアはもう一度ペローニを眺める。


「まぁ、仲間は多い方がいいですよね。じゃあ、行きましょうか!」


 ナギサは鞄を持って立ち上がる。


「行くって、どこに行くんだ?」

「何言ってるんですか? ビュリオン盗賊団を倒しに行くに決まってるじゃないですか!」

「あ、ああ。その、なんだ。彼女がビュリオン盗賊団の元頭領のペローニだ」


 デュベルはわざとナギサから視線を逸らしながら言う。


「えっ?」

「ふえぇ~?」

「ど、どういうことか説明してもらいましょうか!」


 ナギサは足音が立つほど激しくデュベルに向かって歩いていく。


「えっと……そう。昨晩、たまたま俺がビュリオン盗賊団を壊滅させてたまたま頭領のペローニを下僕にした。それだけだ」


 デュベルは睨みつけるナギサと目を合わさないように答える。


「嘘……たまたまじゃない……」

「おい! コナ!」


 慌ててコナの口を押えようとするデュベルにナギサが詰め寄る。


「なんで私達を置いて行ったんですか!? 足手まといってことですか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ……。ただ、女の子を危険な目に遭わせたくなかっただけだ」

「もう! 私達だってちゃんと戦えるんですからね!」


 ナギサは不貞腐れたように頬を膨らませた。


「あと、下僕なんてダメですよ! ペローニさんも私達の仲間です!」

「はぁ、分かったよ」


 デュベルは残念そうな表情になる。


「それにしても勇者様、あなたはいったい何者なんですか?」

「だから魔王だって!」

「勇者様の名前がマオウってのはもうわかりましたから」


(これ、わざとやってるの?)


「まぁいいです。ビュリオン盗賊団の件も解決したなら、早く次の町に行きましょう。こんなくだらない話をしている間にも、魔王は世界征服を進めているんですから」


(いや、その魔王は、今、君とくだらない話をしてるんだけどね)


 デュベルは呆れたような顔をした。

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