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勇者選考試験

 エレット王国。それは勇者を目指す者は必ず訪れる国である。

 ここで選ばれた勇者は歴代の魔王と戦い、幾度となく世界を救った。

 そのため、エレット王国は勇者を目指す者たちから“最初の国”と呼ばれている。


「この辺をウロウロしてたら勇者と会えるかな」


 エレット王国の外の草原にデュベルはいた。

 デュベルの元には勇者の目撃情報はまだ無い。となると、勇者はまだこの辺りにいるはずだ。

 そう考えたデュベルは草原をひたすら歩き回る。


「勇者どこかな~っと」

「勇者ぁ~」

「勇者ぁ……」

「……」


 だが、何時間経っても勇者らしき人物は全く現れない。

 歩き疲れて途方に暮れていたデュベルに、近くを歩いていた老人が見かねて声をかけた。


「そこの若いの、道に迷われたかな?」


(人間か、ちょうどいい、こいつに聞くとしよう)


 デュベルは魔王だと気づかれないよう、愛想笑いをしながら老人に尋ねた。


「あの、勇者は……」

「おお! お前さんは勇者選考試験の受験生じゃったか!」


 だが、デュベルが言い終わる前に老人が答える。


「いや、俺は勇者を……」

「勇者選考試験ならあそこのエレット城でやっておるぞ」


(くそっ! 全く話が噛み合ってねえ!)


 またしても言い終わる前に答える老人に、デュベルは苛立ちを隠せず、下唇を噛みしめる。


(でも、話を聞く限りだとまだ勇者はいないってことか。それなら勇者選考試験に紛れ込んで勇者になったばかりの勇者を倒せば良いだけの話だ!)


 一瞬、不敵な笑みを浮かべたデュベルは、その表情を再び愛想笑いに変える。


「サンキュー! 爺さん!」

「頑張れよ、若いの」


 激励する老人に一礼し、デュベルはエレット王国に向かって走り去って行った。



  ◆



 エレット城。 魔王の城と比べても見劣りしない立派なこの城で毎回勇者選考試験は行われる。


「お前は勇者選考試験の受験生か?」


 エレット城の門番の兵士がデュベルに尋ねる。

 表情一つ変えずに槍を構えるその姿から、エレット城の兵士であることに誇りを持っているのだろう。


「はい」

「よし、ならばついて来るがいい」


 兵士に促されるまま、デュベルはエレット城の城内に入る。


(これでエレット城に入り込めた。あとは勇者を倒すだけ……)


 そう心の中で呟きながら、デュベルは廊下を進んでいく。


「もうすぐ勇者選考試験が始まる。ここで待っていろ」


 兵士について行った先には大広間があった。

 そこには百人以上もの受験生がいて、デュベルは面食らってしまう。


(こいつら全員勇者選考試験の受験生か。よくこんだけ集まったもんだ。別に勇者になったからといって魔王を倒せるほどの力が手に入るわけでもないのに……)


 事実、勇者は必ずしも魔王に勝てるとは限らない。

 過去に魔王に敗北し、命を落とした勇者は沢山いる。魔王の城に向かう途中に行方不明になった勇者も少なくない。

 そう、勇者というのはただの肩書きなのである。


「おう小僧、お前も勇者選考試験の受験生か?」


 突然、デュベルは背後から男に話しかけられる。

 そこには筋肉質の男が立っていた。

 髪は禿げ上がり、上半身は筋肉をアピールするためか、露出度の高い服を着ている。


「はい」


 デュベルは作り笑いをして筋肉質の男に答える。


「こんなひょろいガキも試験を受けるとはな、勇者選考試験もレベルが下がったものだ」


 デュベルは筋肉質の男を睨みつける。だが男はそんなこと全く気にしないようにニヤニヤと笑みを浮かべている。


「まあ、せいぜい頑張りな。もっとも、勇者になるのは俺だがな!」

「大した自信だな」

「俺はこれまで勇者選考試験を5回以上受けてきたベテランだぜ!」


(5回も受けて受からないなら、もう勇者の素質無いから諦めろよ)


 そう言い返したくなるのを我慢して、デュベルは憐れむような目で筋肉質の男を見上げた。



 ◆



「よくぞ集まってくれた、これより勇者選考試験を始める」


 壇上にエレット国王が現れ、言う。

 顎まで伸びた白い髭と、年老いてもなお衰えない鍛え抜かれた身体が、王としての風格を表している。

 壇上に兵士数人がかりで剣の刺さった岩を運ぶのを確認し、国王は続けた。


「試験はいたって簡単、この岩に刺さった剣を抜くだけだ。この剣は勇者だけにしか扱えないと言われている剣である。つまりこれを抜いた者が勇者ということになるのだ」


 受験生の大半が皆唾を飲み込む。

 無理もない。その金色の装飾が施された剣は、かつて勇者が魔王を倒したときに使われたとされる剣、ヴィットなのである。

 ヴィットの存在は伝説でしか語られることがなかった。実際に自らの目で見たことのあるものはごく少数だろう。


「それでは一人ずつやってもらおう」


 兵士に促され、手前にいる受験生から順番に剣を抜こうとする。

 しかし、受験生が挑戦する度に悔しそうな声が大広間に響き渡った。

 何十人もいた受験生の誰もが剣を抜くことができないのだ。


「ふんぬわああああああ!」


 先程の筋肉質の男も挑戦するが剣はビクともしない。


「はい、失格」

「くっそおおおおおおおおおお!」


 こうして百人以上いた受験生全員が挑戦したが、誰一人剣を抜くことができなかった。


(ここには勇者は現れなかったか……)


 もう受験生のほとんどは諦めて帰ってしまい、先程まで受験生で埋め尽くされた大広間にいるのは国王と兵士ぐらいであった。


(仕方ない、俺も帰るとしよう)


 デュベルは残念そうな顔をしながら、大広間を後にしようとする。


「おい、どこへ行く? 次はお前の番だぞ」


 兵士の一人がデュベルの肩を掴んだ。


「いや、俺はもう帰るから……」

「何を言ってる? お前はまだ剣を抜いてないじゃないか。諦めるなら剣に挑戦してからにしろ」


(まあいい、どうせ魔王の俺には抜けないんだし、適当にやって帰るか)


 溜息を一つついたデュベルは、壇上の岩に向かって歩いていく。


「じゃあ、いきます」


 そう言うと、デュベルは剣の柄を掴もうとした。

 だが、剣はデュベルが軽く握った瞬間、自分の意志を持つかのように自然に岩を離れた。


(な、なんだと!?)


 突然の出来事にデュベルはただ呆然としていた。


「お……おお! この者が勇者だ!」


 国王の声に続き、兵士達も歓喜の声を上げる。

 その声で我に返ったデュベルの手には、既に岩から完全に抜けた剣が握られていた。


「ちょっと待った! 俺は魔王だ!」


 思わずそう叫ぶデュベルに国王が笑顔で近づいてくる。


「そうか、そなたはマオウという名か」

「いや、ちが……」

「勇者マオウ、健闘を期待しておるぞ」

「だからそうじゃなくて……」


 動揺しているデュベルの肩を国王が叩く。


「ところで今宵は宴だが、もちろん勇者マオウも来てくれるな?」

「だから俺は……」


 デュベルは何とかして断る口実を探した。だが、


「宴には美女もいっぱいおるぞ」


 その国王の言葉を聞いた瞬間、デュベルの目の色が変わった。


「もちろん行きます!」

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