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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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94.嬉しい痛み。

 

「ただいまぁ……。はぁ疲れたぁ」


 今日は凜さんの誕生日。

 俺が塾のバイトを掛け持ちするようになってから凜さんはずっとビブレのNo1だ。

 持ってる客数、トーク、サービス、どれを取っても一流だ。

 一時でも俺がNo1だったことが不思議なくらい。

 でもって、凜さんの客は酒飲みが多いんだな。

 竜子さんのお客と層がよく似ている。

 類は友を呼ぶっていうけど……事実だ。


 なので、今日は大忙しだったんだ。

 祝いの振る舞い酒が何本も空けられた。

 ホール係にも酒が振舞われるなんて滅多とないことだが、そこは凜さんのお客。

 今夜は店全体が酔っ払ったと言ってもいいくらいだろう。

 帰り際には凜さんに送られてきた花を少しずつ譲って貰う。


「お疲れ様でしたぁ。お花いただきますねぇ」

「はぁい。気をつけて帰るのよぉ。まひるぅ、今度いつバイトに入るの?」

「来週の土曜日です」

「最近、忙しそうね。塾の方どうなの? そろそろ就職とか……」

「ええ。一応、そのまま塾に勤めるようになると思います」

「まぁ! そうなの? ママが心配してたのよ。アンタが治療を始めたから就職が難しくなるんじゃないかって……。よかったじゃない。じゃ、ママに早く報告してあげなさい」

「はい、そうします。私もつい最近に塾長からお話があったばかりで……。まだ母親にしか言ってないんです」

「そうなんだぁ。じゃあ、お店辞めちゃうの?」

「結果はそうなりますけど、まだまだ先の話ですよ。私にお金が掛かりますから」

「うふ、そうよねぇ。まだまだ稼がなきゃねぇ」

「はい。だからもう少しの間、よろしくお願いしますぅ」

「はいはい」


 俺はママに報告に行った。

 ママは、自分の事のように喜んでくれた。

 思えば兄貴がこの店に連れて来てくれなかったら、俺はどうなっていたか分からない。

 全てはそこから始まったんだからな。

 街頭でチラシを配っていなかったら晴華にも会えていなかったと思う。

 きっと今でも無関心さを装い、内心ビクつきながら生きてきたと思うよ。

 あの頃の俺は誰にも自分の秘密を言わないと決めていたからなぁ。

 多分今とは180度真逆の人生を送ってるだろう。なんて簡単に想像がついてしまう。

 かぁ~。俺って簡単な人間なんだぁ。

 でも実際はこの人生しか知らないから何とも言いようがないんだけど……ね。

 俺は凜さんから大きな花束を貰い店を出た。


 あれ? 今日は長尾……休みだったな。

 シフトには名前が書いてあったのに……。風邪でも引いたかな?

 明日電話でも掛けとくか……。



 家の玄関に入ると子供用の靴が、俺達家族の靴に混じってキチンと並べられてあった。

 最近の見慣れた光景だ。


「先生、おかえり!」

「おお、ただいまぁ。宿題してきたか?」

「えへへ、忘れた。だけど今、麻由ちゃんと一緒にやってたんだ」

「宿題が出来てなかったらうちには来ない約束だったろ?」

「う……ん」


 ったくぅ、ちょっと甘い顔をすれば……だ。

 朔也は俺の機嫌を取る為にあの手この手で擦り寄って来る。


「先生、宿題が終わったらゲームしてもいい?」

「今日は遅いからダメだ。風呂は? 入ったのか?」

「うん。さっき入ったよ」

「宿題してる最中にか?」

「え? いや……その……」

「アンタ達いつまでも玄関で喋ってないで、さっさと入ってきなさい!」


 奥の部屋から母ちゃんの声がした。


「行くぞ朔!」

「うん!」


 朔也には俺が風呂に入ってる間に宿題を済ませることができたらゲームを1時間だけ許すと約束した。

 俺が風呂から出てくると朔也はゲームの前でチンっと座って待っていた。

 やれやれ……。


 俺と朔也はゲームに夢中になった。

 一時間どころか……。

 もう夜が明けてもおかしくない時間だ。


「わーー! どこにいるの? 見えないよぉ!」

「ははっは! いっけぇーー!! バナナの皮だぁ!」

「やーー!! くらったぁー!」

「ゴーール!! 俺の勝ちだぁ! よえ~、朔ぅ」

「な、な、な、もう一回だけぇ」

「ダ~メ! もう終わりぃ。片付けるんだ」

「えーーー!!!」

「『えーーー!!!』は、ない!」

「うわ~ん!! ケチーー!!」

「なんとでも言え。俺は寝る」

「ちぇぇぇ!!」

「イタッ!」


 朔也が拗ねて放り投げたリモコンが俺に飛んできた。

 リモコンに勢いはなかったが、それは俺の胸に当たったんだ。

 いってぇ~! 


「あ! ゴメン! 先生、大丈夫?」

「ああ。大丈夫だ。気にしなくていい」


 俺は服の上から、自分の胸を触ってみる。

 乳首あたりが硬くなっている。

 俺は服の上から何度も胸を擦りながら喜びを噛み締めていた。

 私の胸♡




「で、最近どうなの?」

「うふ♡ 少し胸が大きくなってきてるの。乳首が痛くってぇ」

「硬くなってきてるのよね?」

「うん。見た目なんかはまだ乳輪が硬くなっただけなのに、私の妄想がボインちゃんなのよぉ」

「あはは。わかるぅ。でも稀に気分が落ち込んだりして、鬱状態になることもあるから気をつけてね。何かあったら、必ず私に連絡するのよ」

「解ってるわ」


 葵が先輩らしく、色々とアドバイスしてくれるから俺は安心して治療に専念する事が出来た。


「はぁ……こっちに越してきなさいよ。花屋一緒にやりましょうよ」

「だめよ。私には大事な子供達がいるんだから」


 そう、俺にとって大切な子供達。

 俺は葵の誘いを断りながらこの仕事は天職だと思った。

 子供の成長を見ているのはホントに楽しい。


 子供達は俺の体の変化に気がついているのか……最近微妙な視線を投げかけて来る。

 特に女の子は敏感だ。

 言葉使いにも注意が必要になってきている。

 一人称を『俺』から『私』へ……。

 少しずつ、少しずつ……。

 身体とアイデンティティを同一化させていく。


 早く、スカートが堂々と穿ける日がくるといいなぁ。

 私は日が経つにつれ、夢見る少女に変わっている。

 その日の為にムダ毛の処理は怠らない芙柚なのでした。



諸事情により明日、明後日お休みします。

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