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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
92/146

92.別れ……そして。

「まひる……。晴華ちゃんまた来てるわよ。いいの?」

「テーブルに行ってあげなさいよ。可哀想じゃない」


 別れ話をしてから2週間程経った。


 晴華は俺が塾のバイトの日は帰る時間を見計らって……外で待ってたりしている。

 もちろん一緒に帰るさ。無視したりなんかしないよ。

 だけど……晴華はいつも下を向いて歩くだけで駅に着くと何も言わずに帰ってしまうんだ。


 そして最近、晴華は一人で店に来るようになった。

 一人で席に座って悲しげな視線を俺に向かって送ってくるんだ。

 晴華……。それはストーカーだよ? 晴華がそんな事しちゃいけないよ。

 って……させているのは俺なんだけど……。胸が痛むよ……。


 俺が他のテーブルに付いていたらママに呼ばれた。、


「まひる……。ちょっと控え室に来てくれる?」

「あ、はい」


 晴華のことだよな……。

 晴華の席には他のお姉さんが付いてくれている。

 俺が付くわけにいかないだろ……。


「まひる……。私が何を言いたいか分かるわね?」

「は……い」


 ママは鏡に向かって、鏡に映っている俺に話しかけている。

 化粧を直しながら時々俺の方をチラッと見る目が……痛いっす。


「晴華ちゃん……。いつまであの子をあのままにしておくつもり?」

「そんなつもりは……」

「あなた、胸が痛まないの? 晴華ちゃんを見て……」

「痛みます。でも……どうしていいのか分からなくて……」

「あなたから別れを切り出したのでしょう? 優しさは毒よ。晴華ちゃんの苦しみを長続きさせたいの? 取り除いてあげたいの?」

「取り除いてあげたいけど……元は私なんですよ。私にそんなこと……」


 これ以上何を言えばいいの?

 私が何か言えば晴華がもっと傷ついてしまう。無理……。


「違うわ。晴華ちゃんを前に進ませてあげるのはあなたなのよ。あなたが晴華ちゃんを嫌いになったなんて思ってないわ。あなたが前に進む為には必要な事だって解ってる。このままじゃいつか二人共苦しむ時が来るって考えたのよね? 晴華ちゃんがあなたと世間に挟まって苦しむ時が来るって……それならちゃんと別れてあげなきゃダメじゃない。あなたに未練があるから晴華ちゃんがそこに縋るのよ。手を差し伸べちゃダメ。辛いだろうけど……生殺しよ。こんなの……もっと辛い思いをさせているのよ。心を鬼にするのも愛なのよ」

「ママ……私……言えない」

「言うのよ。彼女を亡霊のようにさせとくつもりなの? まるで生気がないじゃないの……。魂を抜き取られたみたいになってしまって……。可哀そうに……。本当にあなたの事が好きだったのね。あなただけだったのね……」


 ママが目を潤るませている。

 俺だって晴華だけだよ。

 今でも晴華は……俺の恋のままだ。


 俺はママに背中を押されて晴華が待つテーブルに向かった。

 いつもなら駆け出したいくらいの衝動を抑えながら晴華が待っているテーブルに向かう俺なのに……今日は思うように足が前に進まない。

 鉛の足枷をはめられているようだ。

 晴華が俺の気配を感じたのか……こちらを向いて微笑んだ。


 やつれた顔……。

 目の下の隈は俺の所為だよな。

 晴華……俺達。辛いな……。


「まひる……」

「晴華……」

「来てくれたの? 今日はここにいてくれるの?」

「……話をしにきたのよ。晴華と……」

「そうなんだぁ。何の話する? 昨日見たテレビの洋画ね地上波初の放送だったんだよ。まひるの好きな俳優が出てるの。昨日塾のバイトだったでしょ? ちゃんとビデオってるから安心してね。今度ダビングして持って来るから、内容は言わない方がいいよね」

「晴華……」

「凄かったよ。ラストシーンは感激したなぁ。まひる絶対わかんないよ犯人。ウフ♡」

「晴華……ビデオはいらない」

「どうして? 前に見たいって言ってた映画だよ? アハ、犯人言っちゃおっかなぁ」

「晴華……私、映画見ないから……」

「うそ! まひるは映画大好きよ。サスペンスが大好きなのよ。映画館でもアクションシーンなんか身体が勝手に動いて横の人に迷惑かけたこと何回もあるんだもの。芙柚はねすぐになりきっちゃってさ。映画の帰り道で気に入ったセリフを何回も何回も言いながら……」

「晴華!」

「いつだって、主人公のものまねしてさぁ……」

「晴華! ダメよ……。映画も見ないし……ダビングもしなくていい」

「芙柚……、どうして? そんなこと言うの?」

「晴華……何を言ってもダメなの。ダメなのよ。私達はもう変わらないの」

「芙柚……、こんなに好きなのに……。愛してるのに……?」


 か細い声……。

 震えているのか? 晴華?


「晴華、ゴメンね。私はもう晴華と前のような関係に戻る気はないの」

「芙柚……。私が……」

「晴華は何も悪くないの。私が……私が晴華といると……苦しいの」

「どうして? どうして苦しいの?」

「私が……私が……」


 本当のことを言うしかない。

 晴華の身体に嫉妬したって言うしかない……。


「晴華ちゃん。こっちむいて」

「ママ……」


 いつのまにかママが俺達の席の横に立っている。


「どうしたの? 苦しそうな顔をして何かあったの? 二人とも変よ?」

「え? 何でもないです。お、おかしかったですか?」

「まひる。今は、晴華ちゃんはお客様なんだから楽しませなきゃダメじゃない」

「ご、ごめんなさ~い。晴華飲み物のお替わりは?」

「え? ああ、これと同じもので……」

「じゃあ持って来るわねぇ」


 俺はそう言いながら席を立った。

 はぁ、ここまでだ。俺にできるのは……。


「あ……まひる」

「晴華ちゃん、落ち着いて。まひるはすぐに戻るわ」

「ママ……。私達……」

「ええ、聞いたわ。あなたずっとまひるのこと好きだったんだってねぇ。長い間告白もせずに気持ちを心に秘めて……。しかも、二人共がねぇ。で、純愛?」

「ママ……」

「ね。その純愛、もう少し続けてみない? あの子を信じて……」

「え? どういう……」

「私を信じて、あの子を信じて……。今はあなたの道を進みなさい。いつか解る日が来る」

「ママ……」

「お願い。あなたの為にあの子為に、前を向いてちょうだい。晴華ちゃん」



 俺がテーブルとへ戻ると晴華はいなかった。

 ママが『さっき帰ったわよ』って一言いっただけ。

 晴華……大丈夫かな?


 その日から晴華の姿が俺の前から消えた。

 携帯も鳴らない……。メールも来ない。

 プッツリと……消えてしまった。

 晴華ぁ……何処行ったんだよぉ。

 自分で振っておいて……俺ってヤツは……。


 暫らくしてから長尾情報で晴華が少しずつ元気になりつつあると聞いた。

 俺だっていつまでも落ち込んでられない。

 治療も始まっている。俺こそ後戻りできないんだ。

 やるべきことをやる! 

 今はそれだけだ。


 いつものように塾のバイトとビブレのバイトに明け暮れる毎日__。

 塾の方のカミングアウト後の状況は……。

 まぁ。落ち着いてきてると言っていいだろう。

 最近男子が俺を見てるくせに目が合うとパッと逸らす。

 何かのゲームか? 今度聞いてみよう。


「まひるぅ。ちょっとさぁ……」

「どうしたんですか? 凜さん」

「多分、間違いないと思うんだけどぉ」


 凜さんが客の見送りから戻るなり俺の席へ来た。


「随分前だから私もはっきり分からないんだけどさ。前に表のガードレールに座ってた男の子いたじゃない?」

「え?」

「多分、あの子だと思うんだけど……」


 朔也?

 俺は跳ね上がるように立ちあがって駆け出した。

 エレベータはちょうど5階に止まっている。

 閉まるのボタンを先に押して1階のボタンを何度も押す。

 カチカチカチ……。

 チンッ。

 扉が開くと同時に飛び出し表通りに向かう。

 懐かしいあどけない笑顔の男の子がそこにいた。


「サク!!」

「先生!!」


 朔也は俺を見るなりガードレールから飛び降り俺に向かって走る。

 俺は両手を広げ走ってくる少年を受け止め抱き締めた。


「おかえり。朔!」

「ただいま先生。会いたかった!」


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