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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
9/146

9.うそだろ? おい!

 ある日、長尾が転がるように俺のところへ走ってやってきた。


『何だ? やけに嬉しそうだな』

『はぁはぁはぁ……。カズオ。お前、金欲しくねぇか?』

『……欲しいに決まってんだろ。何言ってんだ』

『今度の学祭さぁ。恒例のミス○○っていうのと、女装大会があるんだとよ。なっ、お前出ろよ』

『はぁ~? 何言ってだぁ?。馬鹿か! 店であんなけ女装して学校でもできるか! それに俺は学祭の期間学校へは来ないつもりだ』

『え~? 何でだよ~。学祭に来ないって』

『興味ない……』

『お前変わってんね~』

『ほっとけ! 俺の勝手だろ』


 俺は長尾を置き去りにして、立ち去ろうとした。

 すると、長尾は俺の腕を掴んで、


『まままま、ちょっと話を聞けよ』

『女装の話なら聞かん!』


 俺は長尾の手を振りほどきながら言った。


『そう言うなよ~。優勝すると10万にはなるぜ』

『……』

『な、悪くないだろ?』

『嘘だね。どう考えても10万は多いな。たかだか○○コンテストで優勝したからって賞品はあっても賞金はないね。誰が協賛するんだ? どこかの企業か? 協賛したとしてメリットはなんだ? ありえないね。学祭の資金云々かんぬんの事は詳しく知らないけど。この話は腑に落ちない』

『かぁ~! お前って堅いよなぁ~。そんなんで、よくあのバイトこなせてるよなぁ。ホント不思議だわ。俺が金になるって言ったら、金になるんだよ』

『一番信じられない説得の仕方だな』

『まぁ、そう言わずに聞けって』


 俺は取り敢えず話を聞いた。というか勝手に喋ってるから聞こえていたというのが正しいかもしれないが。

 スポンサーは長尾のもう一つのバイト方の店だった。

 あっ、スポンサー、本当にいたのね。


 でだ。その店って、色々なジャンルに手を広げていてその一つが長尾の店だ。

 バーは長尾がバイトしてる店の他に4店舗。ファッション関係や、弁当屋まであるらしい。

 今回はバーの店舗が仕切ってるらしいんだが、早い話が客寄せだ。

 今回のコンテストには、店のウェイターがこぞって女装するらしい。

 うちの大学にもバイトしている奴はかなりいる。モテモテ君たちだ。

 お~お。さぞや賑やかになるだろうねぇ。


 で、奴らばっかりではヤラセ丸出しだから一般からも募集して……それらしく催すというわけだな。奴らの入賞は、ほぼ決まっていて賞金はバイト代みたいなものらしい。

 金の行き先が既に決まってるって、八百長じゃんかよ。


 各店舗で女装コンテストに合わせたイベントがあるらしく、本命はこっちだと。

 チケットとかのノルマなど色々あるようだ。

 ややこしい事やってんなぁ。大変だねぇ。

 だけど話を聞いていても、やっぱり腑に落ちないぞ。

 コイツの説明、何か抜けてないか? で、何で俺が出なきゃならないかが分らない。

 10万はデカイが、今の俺にとってはそれ程ではない。

 うん……なんか、ひっかかるなぁ。何だろ?


 とにかく、俺はキッパリ断った。長尾は残念そうな顔してたが、知らんな。

 ふんっ!


 学内は女装の話で持ちきりだった。

 そんなに珍しいことかねぇ。たかが女装だろ?

 長尾もまだまだ諦めてないみたいだ。会話をそれとなくそちらに誘導しては俺に睨まれている。


 女子達はしきりにお目当ての男の話をしている。


『絶対。イサオよ~。綺麗になるだろうな~。店の一押しでしょ?』

『トオルもいい線いくんじゃない? 切れ長の、あの目最高よねぇ』

『衣装とかも特別らしいよ。メイクもプロの人雇ってるんだって』

『で、学祭のあとそのまま店でパーティでしょ? 行くよね?』

『決まってるじゃん。行かなきゃ~』


 はいはい。いってらっしゃ~い。

 こんな会話が学内のあちこちで囁かれている。


 いったい何人が店に行くんだろう? すっげぇ人数だぜ? 入んのかよ? 

 俺は店に行ったことがないので規模とかは知らない。長尾に聞くのもいいけどまた、

『出る気になったか?』などと言われそうなのでやめた。知らん顔しているのが一番だ。




『なんだ~。がっかりだなぁ。本物であの程度かよぉ』

『まったくだ。勉強にもなんないよなぁ』

『見に来て損した。時間の無駄だったな~』


 ある日のバイトの時だ。

 俺はいつものようにビルの前でお姉さん達とお客を見送っていた。


『ありがとございましたぁ~。また、来て下さいねぇ』

『ああ、また来るよぉ。今度はまひるちゃんもショータイムに出てよぉ』

『は~い。頑張って練習しま~すぅ』

『キミちゃんは、もうちょっとダイエットしなきゃステージの床が抜けるぞぉ』

『あ~ん、いじわるぅ。この身体が好いって言ってくれる人にダイエットするなって言われてるのよぉ』

『物好きだねぇ。俺は、まひるちゃん一筋だからねぇ』

『うふ♡ ありがとうございます』

『じゃねぇ。バイバイ~』

『『ありがとうございましたぁ~!』』


 お客の姿が見えなくなるまでお見送りする。うちの店方針。冬の寒い日は勘弁してくれ~と言いたくなるが。お客がたまに振り向いたとき安心するんだそうだ。

 そんなもんかねぇ。

 俺とキミ姉さんとチカ姉さんがエレベータの前で待ってた時、聞こえてきたんだ。


『この辺じゃ1番って聞いてたんだがなぁ』

『大したことないじゃん』


 イサオだ。俺は持っていた扇で思わず顔を隠した。

 多分向こうは俺のことなんか知らないだろうが、反射的に手が動いた。


『何言ってんのぉ? 聞き捨てならないわねぇ』

『やめときなさいよぉ。たかが、ガキの戯言じゃない。早くお家に帰ってママにオッパイ貰っておネンネなさ~い』


 お姉さん達はイサオらを軽く往なしエレベータに乗り込もうとした。

 すると、そいつらのひとりが


『ふん! じじぃが気色悪いってんだよ!』


 と吐いた。まったく性質が悪い。

 そんなこと言ったらどうなるか分ってんのか? こいつらは。

 ホラ、見ろよっ。キミさんの顔色が……。ヤ、ヤバイ!


『『オイ!! もっぺん言うてみぃ! ああぁ!! このガキらぁ』』


 あああぁ!! ダメだぁ~。誰か~助けてくれ~。


『なんだとぉ! 気色悪いから気色悪いって言って何が悪いんだよぉ』

『こんなんばっかりが、店にウヨウヨいるんだろ? 動物園かよ』

『いや~。ここまでくるとゴーストハウスってかぁ。アハハハハハ』

『『『アハハハハハハハ……』』』

『ぁんだとおおぉ!!!』


 キミ姉さんがドレスの裾を持ち上げて駆け出してしまった。

 ひぇ~! やめてぇ~! チカさ~ん、加勢しに行かないで~!

 と、その時もう一つのエレベータの扉が開いた。


『何やってるのぉ~。遅いじゃない。ささ、こちらの方もお帰りよぉ。一緒にお見送りしてねぇ』

『ママ!!』


 俺は声を張り上げた。その場にいた全員がこちらに向き直る。


『ち! オイ! 行くぞ』


 奴らが慌てて走り出していく。

 ほ~。助かった~。ママ様様だ。


『コラァ!! 待たんかいぃ!』

『何言ってんのぉ。キミちゃ~ん、お仕事よ~。お仕事ぉ』


 ママがキミさん達に向かって優しく言った。が、目が笑ってない。

 ママ……。ガチ恐いっす。


 その後、店が終わるまでは何も無かったかのようだったが、控え室でキミ姉さんがいきなり、


『ああぁ! 腹が立つわ~。あんなクソガキに! 見くびられたもんだわ!』

『ほんとよねぇ! 普通いきなりあんなこと言う? マナーがなってないわぁ』


 って言い出したんだ。他のお姉さん達も食いついたねぇ。皆、


『誰よぉ! そいつ見つけたらタダじゃおかないわ!』

『オカマ馬鹿にしてんじゃないわよ!!』


 もう、控え室は一瞬にしてヒステリーの溜り場になってしまった。

 キーキー悔しがる姉さんや。奴らを探して懲らしめようと頷いてる姉さん達もいた。

 そんな風にガヤガヤやってるところに長尾が顔を出したんだ。


『どうしたんっすか? 騒がしいっすけど』

『長尾ちゃ~ん。アンタ知らない? さっきねぇ~……』


 キミ姉さんが一部始終を長尾に話した。すると……


『カズオ。お前知ってるんじゃないのか? 誰だった?』


 ば、馬鹿! 俺に振るなっての!

 何の為に黙ってると思ってんだよ。コイツは……ったく。


『えっ? カズオちゃん知ってたの? 何よ~。何で黙ってんのよ~。あたし達がこんなに腹立ててんのに~。私たちのことなんて知ったこっちゃないって事?』

『いや、そういう訳じゃないっすよ。あんまり騒ぎ立てても良くないかなって』


 ほら、見ろ。こっちに回ってきやがった。空気読めよなバカ尾。

 あっ……チカさん、視線が痛いっす。


『言えよ、知ってるんなら。誰だよ』

『イサオだよ。だけど、知ってどうすんだよ。ほっときゃいいんだよ』


 俺は長尾に向かって手のひらをヒラヒラさせながら言った。


『そ~よ。カズオちゃんが正解よ』

『ママ!』

『キミちゃん。アンタ何年オカマやってんの? あんなガキに『じじぃ』って言われたからって、一々反応してムキになってんじゃないわよ』

『だって~ママ。何か、刺さったのよねぇ。悪意みたいなものが~』

『そうそう、悪意よね~。からかいとかただの中傷なんかは屁とも思わないけどさ。アイツら何か悪意があったような気がするわ~』

『性質が悪いのよ。そんなヤツは五萬といるわ。放っときなさい。ささ、早く着替えて。閉めるわよ~』

『『『は~い!』』』


 さすがママだ。一瞬で皆を治めた。キミ姉さんの顔が、もういつも通りに戻っている。

 うん。もう、報復なんて馬鹿なことはないな。……多分。

 だが、その帰りママが俺を捕まえてとんでもない事を言い出した。


『『お疲れ様で~す』』

『カズオちゃん。ちょっとこっちにきて』

『何ですか?』


 ママの隣には長尾が座っている。

 何やってんだ? コイツ。


『あなた。女装コンテストに出なさい!』

『え? な、何で?』


 長尾を見ると口元が笑ってやがる。

 くっ、コイツ! 

 殴りかかりそうになった。

 俺は長尾を睨みつけ、ママに視線を戻した。


『い、嫌ですよ。俺、目立ちたくないんっすよ』

『何言ってのよ。これは報復よ。キミちゃん達の気持ちわかんない?』


 こじつけだぁ~。さっきは、ほっとけって言ってじゃないかぁ~。


『え~? 何々? 何の話?』


 帰りかけたお姉さん達が集まってくる。やばいぞ~。この流れはかなりヤバイ!


『わ~! カズオちゃん出なさいよ~!』

『そうよ、私達の仇討ってよぉ』

『アンタなら、絶対優勝するわ。うちのNO.1なんだから』

『そ~よねぇ』


 お姉さん達が口々に訳の分らない事を言っている。


『いい加減なこと言わないでください! 俺がいつNO.1になったんスか!!!』

『あら? 知らないの? 先月の売り上げカズオちゃんが、NO.1よぉ』

『へ?』

『うふ♡ そういうこと気にしないのが、カズオちゃんのいいとこなのよぉ』

『頑張ってるもんねぇ』

『ねぇ。出てよぉ。私、見に行くわ』

『『『私も、私も』』』


 おいおい! やめてくれ! 何なんだよ。

 長尾ぉ。てめぇ!! 殺す! 絶対、殺す!

 俺は長尾に向かって殺気を放った。

 すると、ママがテーブルを叩いて勢い良く立ち上がった。

 そして俺に向かってビシッ! と人差し指を突きつけ言った。


『カズオちゃん! これは命令よ! コンテストに出てあいつらをギャフンと言わしてやりなさい! 分ったわね!!』

『えーーーーーーっ!!』



 なんでこうなるのぉ? っていうかぁ……。


 一番ムキになってるの、ママじゃないっすかぁ!



kirakira様ご指摘ありがとうございました。思わず1話から読み返してみました。言われてみれば輪郭がハッキリしていないかもしれませんが、カズオはこれからどんどん変わっていくかと思われます。kirakira様の思うカズオが全てかと……。貴重なご意見、励みになります。ありがとうございました。

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