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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
75/146

75.言えないこと。聞けないこと。

 や、やなぎ? 呼び捨て……。何で?


 柳の何だかバツ悪そうな表情。俺と目を合わそうとしない上野。


「おい、どうしたんだ? 何かあったのか? 長尾、どうしたんだ?」


 雰囲気悪いなぁ……。

 さっき、確かに長尾は上野の胸座を掴んでるように見えたんだけど……。

 彩が俺の方を見て笑ってるが……作り笑いそのものだ。


「おい、長尾。聞こえてんのか?」

「ああ。いやね俺のゴミの扱いが雑だって……柳と上野に注意されてたんだよ」

「ゴミの扱い?」

「ホラ、コイツらボランティアの達人じゃん? ゴミはちゃんと分別しなきゃいけないとか何とか煩くてよ。な? 柳?」

「あ? ああ……。ああ、そうだ。分別しなくちゃいけないんだぞ」

「……そうなのか?」


 ウソつけ! いつからお前等はゴミの捨て方に命掛けるような人間になったんだ?

 ってか、セリフが棒読みだっつうの。

 ふむ。上野が俺を見ないことからして……。

 俺のことだな……。

 柳の表情から察っすると……間違いないだろう。


「芙柚。そっちのゴミは? 私、取りに行こうか?」


 ほら見ろ。彩が俺に気を使ってるぞ。

 んなこと、絶対ありえない。

 かえって気持ち悪いってぇの。


「ああ。後から晴華と子供達が運んで来るよ。多分、それで終わりだ」

「そっか。じゃ、俺達は子供の守でもするか……上野、行くぞ」


 柳はそう言うと上野を引っ張って行った。

 俺はその後ろ姿を見ながら、長尾と彩にもう一度聞き直した。


「よぉ。本当は何だったんだ?」

「え? 何が?」 

「お前ら、何か揉めてなかったか?」

「ゴ、ゴミよ……。長尾が何でもかんでも焼却炉に放り込むから……ビニール系が燃えて酷い匂いでしょ? 分かんない?」

「ああ、そう言えば、そうだな……」


 これ以上は無理だな……。

 まぁ、俺の勘違いでなかったら……俺のことで揉めてたんだろう。

 それくらい分かるぞ、長尾。……まったく。


「あ! 来た来た」


 晴華が生徒達と最終のゴミを運んできた。


「おつかれ~。長尾君ありがとうねぇ、大変だったでしょ? 彩もありがとう、日焼けしちゃったね。ごめんね」

「大丈夫よ。ちゃんと日焼け止め塗ってきてるから」


 その後、俺達は洗い場の周りを掃除して子供達のところへ戻った。

 全員が揃ったところで塾長がイベント終了の宣言をして、それぞれ自由解散になった。

 俺は、子供達を塾長と保護者に任せて、直帰させて貰うことにした。

 そして、皆を見送った後長尾達に声を掛けた。


「おい。お前ら、腹は一杯だと思うけどコーヒーでも飲みに行かないか? お疲れさんのお礼に俺が奢るよ」

「私も!」


 晴華が俺の隣で、同じよう皆に声を掛けた。

 ナイス! 晴華。


「当然だな」

「そうよねぇ。私、フラッペがいいわ」

「何でも好きなもの頼んでいいよ。今日はホントに助かったよ」


 長尾と彩が当然だというのを、当然だと思いながら礼を言った。


「お、俺は……もう、帰らなきゃ……時間が……この後、ちょっと用事があって……」


 上野がしどろもどろになりながら、リュックを肩に掛けた。

 その様子を長尾と彩が冷めた目で見ていたのを、俺は見逃さなかったぞ。

 まぁいい。上野は帰ればいいさ。

 話は長尾から聞くとしよう。

 柳を見ると、どっちつかずになってオロオロしている……。

 しゃーない。


「柳! 来いよ。お前も頑張ってくれたからな。っと、君たちどうする?」

「美紀もおいでよ。細川くんも」

「私、帰るわ。身体中が焼肉と煙の匂いで……ムリぃ」

「俺も同感。早く風呂入りてぇ!」


 上野と一緒に来てくれたボランティアの二人も帰宅組になった。

 結局、いつもの面子だけが残ったんだが……。

 俺にとってはその方が都合がいいんだ。

 俺達は駅前のファミレスへ直行した。


「「「お疲れ~!!」」」


 先ずは、お冷で乾杯だ。

 俺は素知らぬ顔を装いながら、長尾達を観察していた。

 三人とも、平静を装っているようだが俺の目は誤魔化せないぞ。


 まず、長尾だ。

 柳に対して、ホンの少しだが余所々しい……。ホントにすこ~しだけな。

 で、笑えるのが彩だ。

 長尾に対して何気に優しいんだなぁ、これが。

 名前の呼び方はいつものように、『長尾!』なんだけど……。

 俺には『長尾ちゃ~ん』って聞こえてくるんだよなぁ。

 もう、噴出しそうだぜ。

 一体、何がコイツをそうさせたんだぁ? 

 俺は事の真相を聞きたくてウズウズしていた。


 だけど、柳がやたらと喋り捲るんだよな。

 まるで、俺に何にも言わせたくないってくらいに……。

 長尾も彩も、柳の話に妙に食い下がって会話を繋げるから話題を変えることが出来ないんだ。

 益々、怪しい。


「なぁ。お前らが揉めてた原因って、もしかして俺?」


 こうなったら、強行突破だ。

 長尾が驚いた顔をして俺を見る。柳は自分の飲み物に視線を落とし……。

 彩は、フラッペの氷を削りだした。

 わかりやすっ!


 自分で話を振ったのは確かだが……。

 出来たら、もっと上手く隠して欲しかったと思うのは……、勝手か?

 だが、誰も何も言わなかった。


「え? 何? 揉めてたの? 芙柚がどうしたって?」


 ああ、そうだ。晴華がいたんだ。

 ふぅ。まっ、いいか。

 俺もそれ以上何も聞かなかった。

 俺達は今日の事を思い出しては一日を振り返りながら話した。


「アレぐらいの子供達って、案外素直なのね」

「そうね。塾長も神田先生もいたしね。おとなしかったと思う」

「そうだな。塾にいる時の方がやんちゃだな」

「吉村もちゃんと先生してたしな。ハッハハハ」

「ホント、ホント。結構向いてんじゃないのぉ」

「勘弁してくれよ。もう、溺れそうだ」

「ハハハ……」

「フフフフ……」


 他愛無い会話をしながらも俺は、やっぱりあの上野のことが気になっていた。

 アイツは俺からは長尾達ほど近い存在ではない。

 事務のおばさんと何ら変わらない。

 もし、俺の想像通り原因が俺だったら……アイツの言葉が長尾の逆鱗に触れたんだろう。

 俺は、また長尾に助けて貰ったのかも知れないな。

 彩にもな……。

 俺は、俺の前で素知らぬ顔を決め込んでいる二人を見ながら、嬉しい笑いが込み上げていた。



 その夜、夢を見た__。


『僕……更衣室、入るのイヤなんだ』

『じゃ、トイレで着替えろよ』

『見張っててくれるか?』

『え~、やだよぉ。一人で行けるだろぉ?』

『う……ん』

『○○、お前変わってんねぇ』

『……』

『早く、行って来いよ。先生は俺が誤魔化しとくから』

『うん。吉村、ありがとう』



『○○ぁ、お前~スカート穿けよ。絶対、似合うぜぇ』

『返してよぉ。ズボン返してよぉ』

『ひゃひゃひゃひゃ……』



『お~い! ○○ぁ~。何処行ったんだぁ! ○○ぁ~』



『吉村……僕、転校するんだ』

『……ガンバレよ』

『多分、もう会えないね』

『そんなこと……分かんねぇじゃん』

『分かるよ。自分のことだもん』


「何、言ってんだよ!」


 はっ! 

 俺は寝言を言いながら目が覚めた。

 何だ? この夢……。

 まるで走馬灯のような夢だった。


 アイツ誰だ? いつのこと?

 名前が思い出せない。

 名前の最後の音が『ア』。


 俺は起き上がって、卒業アルバムを引っ張り出した。

 高校のアルバム……。

 各クラスの名簿と写真を見比べながら、全クラスのページを見たがいなかった。

 中学……?

 俺はクローゼットの奥のダンボールの中から、中学校の卒業アルバムを取り出した。


 パラパラとページを捲っていく……。

 いた……。

 しらすな はやと。白砂隼人……だ。


 何で? 今頃、ましてや夢の中に……。

 すっかり忘れていた。

 典型的な苛められっ子だった。

 弱々しくて……、本を隠されたり、ズボンを取り上げられり……。

 俺も大概、苛められたがコイツに比べるとマシな方だった。

 俺はコイツみたいに苛められないように上手い事立ち回っていたからな。

 それでも、苛められてたから……立ち回れてねぇよ。


 コイツが苛められてるのを何回も見て見ぬふりしてた。

 ヘタに関わるとこっちが危ないからな。

 罪悪感はあったけど……生き延びる為だ。


「何で、今頃……?」


  何だか、胸騒ぎがする__。





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