74.焼却炉での会話。(柳…目線)
『……さあ、俺はハッキリとは……』
『ホントかよぉ』
『本人が……』
俺、柳。
今日は吉村の塾のイベントの助っ人に来ている。
久しぶりの肉三昧。旨かったなぁ。
子供達とはしゃぎまわって結構楽しい一日だった。
彩ちゃんとの絡みが少なかったのが残念だったが……。
まぁいい、楽しみは後に取って置くのが俺のやり方だ。
初めて吉村に会ったのは2年前の女装コンテストだ。
ビックリしたよ、全く。モロ女なんだもん。
それだけじゃない、美人なんだ。俺、美形に弱いんだわ。
それから、吉村の隠れファン。かと言って、ゲイではないぞ。
吉村と友達になりたいと思ってゲイバーにも行ってみたけど、残念ながらそんなに近い関係にはなれなかった。
学内で擦れ違ったときに『よぅ!』って、親しげに挨拶するぐらいだ。
普段のアイツは人を寄せ付けない所があるんだ。
まぁ、その理由は今回の改名事件で解ったんだけど。
確かに吉村は女性的なところがある。ちょっとした仕草とか……。
だけど、一生懸命男のフリをしてるんだって長尾に聞いてからは見方が変わった。
正直、吉村の気持ちはわかんね。
ただの思い込みじゃないのか? とか思ったりもする。
だけど、人の心って誰も解らないもんだよな。
大学で吉村を見かけるとヒソヒソ話を始める奴が結構いる。
俺も話につい混じってしまう時もあった。
でも結局は憶測でしかないし、面白可笑しく盛り上がってオチつけてお終い。
所詮は、他人事なのさ。
誰一人、吉村が住んでる世界を理解しようなんて思ってるヤツなんかいない。
俺は偶々、改名事件の時に長尾と絡んだから吉村の事を知るようになったんだけど……理解してるかと聞かれれば、してるとは答えられない。
そう考えると長尾って、ホントいい奴だよ。
友達の事であんなに真剣に喧嘩売ってる奴見たことない。
俺は吉村が羨ましいよ。
俺、ボランティアとかやってるけど……。
最近、何でこんな事してるんだろうって思うようになったんだ。
人の為とか何とか、そんな大袈裟なもんじゃないけど誰かがやらなければ……なら、俺がやってみようかなってノリなだけさ。
だけど、長尾が吉村の為に事務局長に詰め寄ったあの迫力は半端なかった。
カッコよかったなぁ。
俺は長尾に興味が湧いた。と、同時に長尾をあそこまでさせる吉村に更に興味が湧いた。
で、友達の超可愛い♡ 彩ちゃんにはもっともっと興味が湧いたぁ。
「おい、聞いてんのか? 柳」
「え? ああ、聞いてるよ。だから俺はちゃんと知ってる訳じゃないんだって」
「じゃあ、お前はどう思うんだ? 吉村が女に見えるってのか?」
「だから、そんな問題じゃないんだろ? 心が女なんだって……俺だって最近親しくなっただけだから分かんないよ」
煩いなぁ。俺、人選間違えたかなぁ?
上野がさっきから吉村の事を根掘り葉掘り聞いてくる。
晴華ちゃんが吉村の彼女だって知った途端、よけい食い下がってきた。
俺は段々イライラしてきて、
「お前さぁ、あの二人見ててそんな事想像する? 考えられないね。お前の頭ん中どうなってんだ? 関係ねぇだろそんな事」
「まぁな、だけど……アイツが女で彼女も女で……身体は男女……だろ?」
「止めとけよ…。『他人のセックスを笑うな』って何かなかったか? そういうことだ」
「ああ、あったな」
ったくぅ、こんな話長尾に聞かれでもしたら大変だぞ。
「おお。上野、柳、ご苦労さんだったな。ゴミ、それで終わりか?」
「いや、お母さん達の方からまだ出てくると思う。長尾、そこ暑いだろ? 代わろうか?」
「いや、大丈夫だ。子供らの方見張っててくれ。事故でもあったら大変だからな」
ほらな、コイツはいいオマワリさんになると思うよ。
「なっ、長尾。お前は吉村本人から直接カミングアウトされたんだろ? どうだった?」
「上野。何、言ってんだよ。もういいじゃないか」
「べつに…アイツはアイツだ何も変わりゃしねぇよ」
長尾はサラッと聞き流すかのように答え、俺と上野が持ってきたゴミを焼却炉に放り込んだ。
びっくりしたぁ。止めてくれよ上野ぉ。心臓に悪いわ。
俺は、上野がそれ以上吉村の事を言い出さないように違う話を振った。
暫らくすると、
「柳く~ん。コレも捨ててくれな~い?」
あっ! 彩ちゃんだ!
「彩ちゃん、言ってくれれば俺やったのに……。手、汚れるじゃん」
「いいのよ。これぐらい……」
可愛いなぁ、今日の赤と白のチェック柄がメチャクチャ似合ってるんだよなぁ。
日焼けが気になるから唾の広い帽子を被ってさぁ。
でも、子供達の世話してる時なんかマリア様みたいだったよぉ
俺、長尾を裏切っちゃうかもぉ~。
「君、彩ちゃん? 吉村の幼馴染なんだろ?」
「ん? そうよ」
「吉村って子供のころからおかしかったの?」
「へ? なんのこと?」
「上野やめろよ!」
「いいじゃんか、吉村の事を知ることでアイツにより近い友達になれるんじゃんか。で? どうだった?」
彩ちゃんの表情が少し険しくなったような気がする。
「ねぇ、柳君。この人何言ってんの?」
「い、いや。気にしなくていいよ。上野、もう終わりだ。次のゴミ運んでこなくっちゃ」
俺は上野の腕を引っ張った。
だが上野は俺の手を振りほどいた。
「なんでさぁ、大事なことじゃんか。改名した事だって大学じゃ結構憶測飛んでるぞ。白黒ハッキリさせとくべきじゃん」
「なんの白黒?」
「あ、彩ちゃん……」
「ちょっと、さっきからアンタ誰の事言ってんの? 芙柚のこと?」
「ほら~、皆もう芙柚って呼んでさぁ。そんなにすぐに順応できるもんなの?」
「皆、友達なんだから……順応とかじゃないだろ? ねえ、彩ちゃん」
「そうかなぁ。俺の友達が急に名前変わったとしたら……暫らくは間違えて呼んでしまうと思うけどなぁ」
「上野、行くぞ。早く」
俺がいくら急かしても上野はそこから動こうとしない。
いったい、コイツは何が目的なんだ?
見ろよ。彩ちゃんの顔がみるみる変わっていくじゃないか。
「アンタ……うざいよ」
「彩ちゃん……」
「アイツの何を知ることで近くなれるって? アンタ、本当に芙柚と友達になりたいって思ってるの? アンタの話しっぷりを聞いてると興味本位で面白がってるようにしか聞こえないんだけど? そもそも先に相手のことを知っていなければ友達になれないの? アンタはいったい何様? アンタみたいなのに友達選ぶ権利があるとでも思ってんの? 私達がアンタみたいのに芙柚の情報なんか米粒程も渡すもんか! 舐めてんじゃないわよ!」
「ハハハ。彩ちゃんて正義感が強いねぇ、そうやって仲間で守り合ってるって訳? そんなふうに仲良しって顔してるけど、案外色々気も使ってるんじゃないの?」
「上野!!」
さっきまで背中を向けて静かに俺達のやり取りを聞いていた長尾が、上野の暴言に弾かれたように立ち上がった。
「お前!いい加減にしろよ!!」
長尾は立ち上がると、そう言いながら上野の胸座を掴んだ。
するとさっきまで俺の横にいた彩ちゃんが長尾の傍に移動して……
「長尾! 殴れ!」
な、殴れ? あ、彩ちゃん。何ていうことを……。
「やめろ! こんな…子供がいるとこで」
「関係ないわ、こんな奴ぶっ飛ばすべきよ! 長尾やっちゃいなさい!」
ダメだ! 今騒ぎを起こしたら……。
「わかったよ。悪かった、もう言わない」
上野は長尾にそう言いながら、ひたすら謝っている。
「今回は許してやってくれよ。連れてきた俺に免じてさ、頼むよ」
長尾は上野を睨みつけながら言った。
「この事で学内のカズオの噂に1つでも情報が上乗せされたら、ブッ飛ばすからな」
「分ったよぉ。誰にも何もいわないよぉ」
「俺はずっと耳を澄ませているからな。覚えてろ!!」
長尾……カッケ~!!
「柳! アンタ、私達とツルみたかったら。連れてくる友達選びなさいよ!」
や、やなぎ?
は、はい! 僕、彩ちゃんのしもべになりますぅ♡




