73.BBQ
俺は朔也の為にBBQを計画した。
それと長尾の為だ。
あのまま、5人で遊びに行くなんて考えるとどうしても長尾が……って、不安が拭えなかったからだ。
友情? そんなんじゃない、俺が嫌だったんだ。
柳と彩がイチャイチャするとこを見ている長尾を見たくなかったんだ。
だってそうだろ?
確かに彩は超可愛い。それは認める。
だか、大抵の奴は彩の高飛車で突き刺すような会話に嫌気が差すか、尻尾を巻いて逃げていく。
そんな彩に約二年近くひたすらに付き従ってきた……まぁ、こういう言い方は何だか……。
そうやって、ずっと彩を思っていた長尾だぞ? 今更、目の前で彩をかっ浚われるなんて……見せられるか? 俺は嫌だ!
それにアイツはきっと『彩ちゃんが選んだから仕方ない』なんて言うに決まってるんだ。
ああ、考えるだけで恐ろしい……。
あの長尾に、そんな奈落の底へ突き落とすような光景見せる訳にはいかない!
俺は塾長に一か八か、掛け合ってみた。
勿論、責任云々かんぬんの話から、髪の毛の嫌味から、相変わらずグチグチと説教がましいお言葉を頂戴しましたよ。
結果、神田先生の同行と、俺のクラス限定という事で承諾が降りた。
あと、飲酒禁止ね。
よっしゃー! 恩に着るぜ塾長。
これで、一人の若者の心が救われるんだ。
塾長、アンタ良い事したよ。うん。
それに神田先生も快く引き受けてくれた。
後は、ガキ共の口をどうやって塞ぐかだな……。
他のクラスにはバレないようにしなくっちゃいけない。
朔也には事前に話しておいた。
コイツが主役みたいなもんだからな、どうか土壇場で嫌がらない事を祈るだけだ。
まぁ、反応は良かったから大丈夫だとは思うが。
「よ~し。皆、よく聞けぇ。今度このクラスだけでバーベキューをやる。参加は自由だ。俺があと半月程でココを辞める記念に決行することにした」
「辞める記念ってなんだよぉ」
「お前らの顔を見なくて済む記念だ。こんな嬉しいことはないからなぁ」
「じゃあ、態々そんな事しなくていいじゃん」
「お前らが寂しがるだろうと思ってなぁ。俺の優しい気持ちだ感謝しろ」
「ゲ~。ないない、寂しくなんかある訳ないじゃん」
「私は寂しい。先生、私行きたい」
「私も行きたい!」
ふふふ……和樹、聞いたかぁ? 俺はお前が思ってる以上に人気があるんだぜぇ~。
「但し! 絶対に他のクラスにこの情報が洩れてはいけない。もし、情報が洩れた場合……BBQは無しだ!」
「「「え~っ!!!!」」」
「だから、秘密を守れ! 死守するんだ! わかったか!」
「「わかったぁ!!」」
一斉に返事をするガキ共。クラスが一丸となった瞬間だった。
ガキ共は言い付けをちゃんと守った。中でも和樹が一番煩かったんだと。
一々、『お前ら誰にも喋ってないだろうな!』と聞き回っていたそうだ。
ハハハ、可愛い奴だ。
だが、三日程して俺の考えが浅はかだった事に気付かされた。
それは保護者からの一本の電話から……。
「いきなり、郊外でイベントなんて聞いていません。安全面とかちゃんと説明して頂かないと安心して子供を行かせられません」
子供達は当然親に話す。その中には俺の事を辞めさせようとしていた親もいる訳だ。
そんな親同士がくっちゃべったらどうなると思う?
バッシングの嵐、再び……。だな。ハハハ。
子供達はBBQがなくなってしまうのかハラハラしながら俺に視線を送ってくる。
その視線を受け、俺も内心焦っていた。
やっぱ、そんなに簡単な事じゃなかったんだよな。
近所の仲の良いお兄ちゃんが遊びに連れてってくれる的なノリは通用しなかったようだ。
俺は塾長に呼び出された。
塾長は、保護者が来られるところは来て貰う事にして、小学高学年のみ参加の塾主催のオリエンテーションにすると言った。
おお! 太っ腹ぁ。
予想に反して大々的になってしまったこのイベント。
となると、人手が足りない。
俺は、急遽大学の方からボランティアを募る事した。
そうなると柳の出番だ。
柳はいとも簡単に3人の男女を集めた。
その内の1人はコンテストの時に見た顔だ。店にも来てくれている。
「よっ、吉村。お前、先生やってたのか?」
「ああ、そうだよ。今日はスマンな宜しく頼むわ」
「任せとけって」
なんて爽やかな奴らなんだ。
そもそも、ボランティアを買って出る奴ってのは心根が俺とは全く違うんだろうな。
無償で何かを担う? 悪いが俺にはそんな思考回路はない。
俺は何か見返りがないと行動する気になれない性分なんだ。
塾が主催のイベントになってしまったせいで、必然的に塾長も参加する事になった。
面倒な……。と呟く塾長の声が聞こえてきそうだ。
保護者が3人、俺達5人と神田先生、塾長、ボランティアが3人。
大人13人に対して子供が25人……。
ひゃ~、予想以上に集まったなぁ。
神田先生と女性陣には料理を任せ、俺達は子供の安全面に気を配った。
遠くに行くなとか、河に入るなとか……。
朔也も楽しくやってるみたいだ。
あの夜、ションボリしていた朔也はもう何処にもいない。
「お~い! 肉が焼けたぞ~!! 全員集合!!」
「「わ~い!!」」
小憎たらしいガキ共が、美味しそうに食べ物を頬張っている。
なかなか、和やかな光景ではないか。
俺は、我ながら妙案だったなぁと感慨に耽っていた。
長尾も子供達と走り回るのが精一杯で彩どころではないみたいだし、彩も同じく保護者に混じって子供の食事の世話に追われていた。
長尾にとっては、こんな筈じゃなかったと言いたい所だろうけど……、俺がお前にして上げれるせめてもの思いやりだ。解ってくれよな。
俺だって、晴華が遠いんだからさ。
柳も上野(応援のボランティア)もよくやってくれている。
一緒に来てくれた女子も頑張ってくれている。
ふむ。大成功じゃないか? ふふふふ……。
塾長をチラッと見てみると、保護者達と機嫌良く話をしている。
よしよし。そのまま、そのまま……。
俺達は一頻り、肉や焼きそばや保護者と晴華たちが作ってくれた様々な料理食べ、これでもかってくらい遊びまわった。
「よ~し。皆で手分けして片付けるぞ~。男子はゴミ拾いだ。自分達が使った場所にゴミを一つも残すんじゃないぞぉ」
「「はぁい!」」
「女子はお母さん達と晴華先生の手伝いだぁ」
「「はぁい!」」
皆、素直な良い子ばかりじゃないか。
俺と晴華はそんな事を話しながらバーベキューに使った火を消していた。
「あれ? 長尾らは?」
「さっき、集めたゴミを捨てに行ったわよ」
「何処まで行ったんだ?」
「あの手洗いの向こう側よ」
俺は立ち上がって長尾の姿を探した。
あっ、いたいた。
長尾は柳と上野が運んできたゴミ袋を焼却炉に放り込んでいる。
あっ、いつの間に……。
柳の横に、チンと彩がいるではないか。
おいおい。ここに来て俺の努力を台無しにするなよぉ。
俺は慌てて長尾達がいる場所へ向かった。
ん? どうしたんだ?
焼却炉の前に屈んでいた長尾がいきなり立ち上がって、柳に向かって何か言ってる。
柳の横に立っていた彩が、長尾の横に移動して……。
えぇ! 長尾が上野の胸座を掴んで激しく何か怒鳴っているようだ。
俺はそれを見た途端、走り出した。
何が起きているんだ?
彩が上野に対してかなり攻撃的だ。
「おーい! 何、やってんだよお前らぁ」
長尾は俺の方を見るなり、上野からパッと手を離した。
上野が俺から目を逸らし……。
彩は上野を睨みつけている。
柳が困ったような表情をして俺を見ている。
おいおい。どうなってんだぁ?
「はぁはぁはぁ……、何、やってんだよお前ら……。どうしたんだよ」
彩が上野から鋭い視線を外すと柳に向かって腕を組みなおし、顎をクィっとあげた。
そして……。
「柳! アンタ、私達とツルみたかったら。連れてくる友達選びなさいよ!」
や、やなぎ? 呼び捨て? 何で?
何故か、彩はいつもの高飛車女に戻っていた。




