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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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69.長尾の目的。

 

 甦る忌まわしき過去……。

 長尾……俺はお前を信じていいんだよな?


 長尾は俺の目の前まで走ってきた。

 はぁはぁ……。

 話しだそうとするが、息が切れて言葉が出てこないって感じだ。

 俺に向かって片手を挙げ、ちょっと待てのポーズをしている。


「大丈夫か長尾。お前に言われた通りあの本、吉村に渡しといたぞ」


 ん? 長尾に言われた通り? 何のことだ?


「サンキュ、柳。読んだか? カズオ」

「ああ、さっき読んだ。パラパラだけどな」

「そうか、腹立ったか?」

「そりゃいい気はしないな」

「よし、それでいい」


 はぁ? 何言ってんだ?

 よし、それでいい。

 一体、何がいいんだよ。


「俺は、あのオバさんに仕返しするんだ」

「仕返し?」

「ああ。まぁ、見てろって。俺はアイツを許しちゃいない」

「許しちゃいないって……」

「俺はアイツに土下座させてやるんだ。その為に色々動いている。お前は心配しなくていい、何もしなくていい」

「土下座? 何もって……お前、一体何をする気なんだ?」

「別に特別なことはしないよ。当たり前の事をするだけだ」


 当たり前の事?

 う~ん。よく解らん。


「とりあえず少し時間が掛かるから待っててくれ。柳、頼むぞ」

「おお、任せとけって」


 何だ? コイツら、いつの間にツーカーの仲になってるんだ?

 まぁ、それはいいとして……。


「おい、長尾。お前進路とか大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。言ったろ? 当たり前の事をやるだけだって。その間、お前は嫌な思いをしなければならないけど我慢しといてくれな」

「嫌な思い?」

「ああ、この噂は当分は消えないからな」

「吉村、大丈夫だよ。一気に消し飛ばしてやるからよ」

「柳……」

「そうだ。カズオ、お前はいつも通りにシレっとしとけばいいんだって。じゃ、行くか柳。またな、カズオ」

「吉報、待っとけよ吉村。じゃあな」


 長尾と柳は、何やら自信満々で俺の前から走り去っていった。

 で? 俺は? 

 俺は何も解らないまま、三冊のエロ本と一緒にその場取り残されてしまった。

 おい。(・・)


 とにかく、長尾の事は信じていいんだろうと思うことにした。

 で、このエロ本はどうする? あの様子ではこの本は何かの鍵かもしれないな。

 うん、後で隅から隅まで読むことにしよう。


 今日はゲイバーのバイトの日だ。

 俺は久々のメイクとドレスで超ご機嫌だった。


「まひる。ご機嫌だな、いいことあったのか?」

「いらっしゃいませ~、おひさしぶりで~す。金ちゃん」

「久しぶりなのは、まひるだろ?」

「そうよね。二週間お休みさせて貰うんだけど、今日は一日だけ出勤。はぁ、やっぱこのバイトいいわぁ~」


 ほんと、いいわぁ。鏡の前で化粧するのって……。


「まるで、水を得た魚だな」

「ほんと~、ここは私の水槽ね。暫く外に出ていたら干上がっちゃったわ」

「どれどれ、皺くちゃの肌を見てやろうか?」

「やめてよぉ! 意地悪なんだからぁ」

「で、良い事あったのか?」

「このバイトに入るのがいいことなのよぉ。私にとってはね。明日からまた塾のバイトが一週間……みっちりと入ってるのよねぇ」


 はぁ、明日からまた塾長の嫌味を聞くと思うと……。

 晴華には悪いが逃げ出したい気分だ。


「まぁ、頑張れよ。ママが言ってたぞ、寂しくなるけどまひるを引き止められないって。いつまでも、こんな仕事させとく訳にはいかないって」

「え……」


 ママがそんな事言ってたの?

 俺の胸がキュンと鳴った。


「お前は恵まれてるよ。同じ男として腹が立つわ」

「何言ってんのよぉ、いきなりぃ。金ちゃん機嫌悪いの?」

「いんや、別に……。まひる、お前ノーマルなんだろ? 女装家か?」

「どうしたの? 金ちゃん。酔ってる?」


 珍しいなぁ、絡み酒か? ゲイバーに来てそれはご法度だろ。ネタバレじゃん。

 まぁ、金ちゃんならいいけど……。


「ああ、今日は酔ってるよ。まひるを抱きたいくらいにな」

「や~だ~。冗談ばっかりぃ、金ちゃんだってノーマルじゃない。もしかして……さては振られたな?」

「言うなよ~」

「あ~! 図星なんだぁ」


 なんだぁ、冷や汗かいちまったよ。

 ママのお客だからな、変なこと言えないしなぁ。


「まひるぅ、手ぇ握らせてくれよぉ」

「もう、ちょっとだけよ」


 そんなことで誤魔化せるなら、どうぞどうぞ。

 俺は手を伸ばして、金ちゃんの頬に手の平を当てた。


「はぁ、まひるの手は気持ち良いなぁ。温かくて……お前モテモテだろ」

「そんなことないよ~。それはこの店の中だけ。世間の風は冷たいのよぉ、こんな私達が生きていくには厳しいんだからぁ」

「そんなことないだろぉ」

「そんなことあるわよぉ。だって私……最近、大学で虐めに遭ってんだから」

「イジメ? 大学生でもそんな事するのか?」

「人間だからしかたないんじゃなあい? 弱者を見つけたらそういう行動にでる人間っているじゃない。可哀そうなまひるはイジメに遭ってますぅ」

「どんなイジメだ?」

「エロ本書かれてるの」

「は?」


 俺は一部始終、金ちゃんに喋った。

 金ちゃんは、うんうん頷きながら真剣に聞き入っている。

 話の途中からママが席について、最初から話し直したが二人とも真剣に聞いていた。


「で? 長尾ちゃんは何をしようとしているの?」

「解らないんです。訊きそびれちゃって……」

「あれじゃないか? プライバシーの侵害、もしくは個人情報の漏洩……みたいな」

「そうね……。その線かもね」

「それって……事務局みたいなとこにも適用されるんですか?」

「一応、個人情報をあつかう事業者の義務だからね。大学も事業でしょ?」 

「それに個人情報もたくさん扱ってるしな」


 金ちゃんとママが難しい顔をしている。

 個人情報ねぇ。


「電気通信法みたいのを聞いたことがあるんだけど……俺には関係ないからって忘れたけど」

「調べてみてもいいかも知れない。多分長尾ちゃんはその辺のこと考えてるんじゃないかしら?」

「俺もそう思うけど……、あれは訴えても、まず事業者が指導されて、改善されなかった時に始めて懲罰が発生するんじゃなかったか?」

「分からない。でも……情報を漏らした本人がわかれば……事業者はその人を雇用し続けるかしら?」

「事業者によるな……」


 長尾はこれを起こそうとしているのか?

 俺の為に?


 『土下座させてやるんだ』


 俺の耳に残る長尾の言葉……。

 何やってんだ俺は、長尾が何考えてるのか何故聞かなかったんだ。

 バカヤロウ!!

 確かに俺は、あのエロ本を武器に事務のおばさんに詰め寄る気はあったが具体的にどうとかはまだ考えていなかったんだ。

 なのに長尾は動き出していたんだ。

 チキショー、言ってくれよぉ。仲間はずれにするんじゃねぇよ。


 翌日、長尾に電話した。

 長尾はその通りだと言った。


「何で俺を外すんだよ」

「外した訳じゃないよ。今は確信が必要なんだ。あの本は本当にオバハンの情報が元で作られたものなのか? ってのがな」

「だけど……」

「なんだ?」

「いや……、何でもない」


 俺はオトナ編にこだわっていた、あれは誰も知らないことだ。

 正確に言えば、店以外の人間はだ。


「今、柳と聞き込みやってるから……」

「聞き込み?」

「ああ、噂を遡ってるんだ。あのオバハンに辿り着くルートを探ってるんだよ。大分、近くまで来ているんだ」


 聞き込みって……。

 刑事の、現場百回ってやつか? 

 長尾、お前は刑事志望なのか?

 そうして俺達を守ろうとしてるのか?

 長尾……お前って奴は。

 俺達を……。


「長尾……お前、刑事になるのか?」

「いや、俺は交通機動隊志望だ」


 取り締まるのかよ!



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