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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
68/146

68.吉村先生はオトコです。

 

 はぁ~。

 神田先生との会話を途中で塾長のチャチャが入ったお陰で晴華を待つどころか、ファミレスで待っていたのは晴華だった。

 あの後、塾長が……。


『君の学生証は……仮のものなのか?』

 うっ。やっぱソコ気になりますか?


『あ、はぁ。ふ、紛失しまして……』

『失くした? 君は車の免許を持っているのか?』

『へっ? いや、まだですが』

『じゃあ、大事な身分証明書じゃないか。そんな大事な物紛失するかねぇ? 全く……、先が思い遣られるというもんだ。それに、その髪の毛はどうにかならないのか? そんなに伸ばして……願掛けでもしているのか?』


 願掛け? へぇ、そっちにいくんだぁ。

 それなら……。


『はぁ、まあそんな所です』

『フン、何の願いか知らんがそんな物信じてるとは……情けない』


 落とすんかい!


 ああ、塾長は理数系かぁ、なら解らんでもないか。

 俺の周りの理数系は、そういうスピリチュアルな物を信じる奴は少ない。

 そう言ってる俺も、その中の一人だけどね。


 別に、嫌いではないが……、あんまりピンとこないんだな。

 過去の事を言い当てられても……、で、なんですか? って、なってしまう。

 済んだことは仕方がないじゃんか。一秒前は過去ですもの。

 『あなたの星の廻りが三ヶ月後に大きく動きます』

 って、言われても……。防ぎようがないんだろ? 星は必ず廻ってくるんだから。

 何があるか解らないので気をつけるように……って、言われてもなぁ?

 どんなふうに、どのジャンルで気をつけるのかサッパリ分からん。

 病気か? と思ったら、交通事故だったり。

 別れがあります。って言われたら、爺ちゃんが死んだり……順番だっつうの。

 全部を見張ってるなんて不可能だろ。

 で、何か起きたときに『これか!』ってか?

 まぁ、人それぞれだけどな。


 とにかく、塾長はグチグチと嫌味を言ってた。

 神田先生も俺の横でウンザリした顔をしていたが……。

 また、始まったみたいな感じだ。

 さすがの晴華も助け舟は出してくれなかった。

 俺の横を小さな声で『お先に失礼します』と言ってすり抜けていった。

 わかってるな晴華。後で、お仕置きだぞ。

 とにかく、やっと解放された俺はファミレスに向かった。


「ひぇ~。マイッタよぉ、あんなに嫌味ばっか言うんだったら採用しなくていいっての」

「あんな人だけど……、人はいいのよ」

「前にも聞いたよ。晴華と俺のいい人基準は全然違うんだ。晴華は菩薩レベルだからな」

「そんなこと……」

「あるさ」


 俺の言い方がキツかったのか晴華はシュンとして下を向いてしまった。

 はっ、八つ当たりだな。


「ゴメン晴華。キツかったな」

「う……ん」

「何食べる? お詫びに奢るよ」

「ホント? じゃあ、グレープフルーツフラッペ」

「はや! 決めてたのか?」

「うん。待ってる間にね」

「そっか」


 そっか、そっか……。しかし、これはお詫びだ。

 お仕置きは、また別だぞ。晴華。

 晴華を送って帰る途中、人通りのないところで俺は晴華に濃厚なキスでお仕置きしておいた。

 どうだ参ったか。晴華。



 翌日も同じように神田先生の授業を見学した帰り際、俺は生徒に呼び止められた。


「センセ。吉村先生」


 振り返ると女の子が2人と男の子が1人。

 何やらコソコソ話している。


「ホントだって。私 聞いたんだから。ちゃんと聞いてなさいよ」


 ん? 何を聞いておくんだ?


「センセ、吉村先生」

「はい?」

「わ! ホントだ。男だ!」


 な、なに~? 何の事だぁ?

 『わ! 男だ!』といった男子は走ってどっかへ行ってしまった。

 その場に残った女子二人は満面の笑みを浮かべ、


「「さようなら」」


 と言って帰っていった。

 何だったんだ?

 後で解ったことは、クラスの男子は俺のことを女だと思っていたらしい。

 良い子達じゃないかぁ。

 だが、俺を呼び止めた女子は事務所で塾長と話している俺の声を聞いていたんだ。

 声はなぁ……。紛れもなく男の声だからな。

 声を高くする手術もあるんだが……、ヘタすると声が出なくなるリスクがあると聞いたからやめたんだ。

 という訳で、確めに来たってことだったらしい。

 ご苦労さんなことで……。




 最近、学内を歩いていると何だか人の視線が気になる。

 講義を受けていても、食堂にいてもコソコソと話し声が聞こてくる。

 ふむ。心当たりと言えば……。

 あれだ。事務局のキモい事件だ。

 噂の内容は大体把握した。

 あの、おばさん。

 どんなふうに噂を流したのか知らないが、事によってはキッチリとケジメを取らなければならないな。

 俺はこんな事を放っておくほど優しくない。


「おい、吉村。、お前またまた有名になってしまったな」


 柳……。

 コンテストのときの進行係だ。

 特に親しくなった訳ではないが顔を合わせると世間話程度の会話をしている。

 店にも何度か来てくれた。あのコンテストの時のままに好印象な奴だ。


「お前と長尾ができてるって、噂知ってるか?」

「ああ、知ってる。ってか、噂の元凶を知ってるからな」

「うへぇ~。誰だよそんな噂流す奴ぅ」

「事務のおばさん」

「なんで? 事務のおばさんが?」

「学生証の再発行が元だ」


 別に改名の事を言うまでもないだろう。


「はぁ? 学生証を再発行してなんでお前らがホモになんだ?」

「そういう思考回路なんだろ?」

「訳わかんね。ほんで? 反論せずか?」

「ムキになれば余計痛くない腹を探られかねないからな。ほっとく」


 な訳ないだろ。


「そうか? 結構エスカレートしてっぞぉ」

「エスカレート? ホモに加えてSMごっこでも始めたか?」

「いんや、小説が出てるぜ。BLモノの短編が………お前らが主人公だ」

「はぁ?」

「これが、なかなか手に入らないんだよ。あ、俺が言ったってことは内緒な。本人にバラしちまったてのが分ったらヤバイしな」

「何がヤバイんだよ。他人の人生弄んどいて……挙句に保身に回ってんじゃないよ。呆れるねまったく」

「ハハ、仰る通り」


 う~ん。もしかして使えるか?


「よぉ。その本手に入ったら読ませてくれよ。」

「マジ?」

「ったりめぇだろ? ちゃんと検証して感想文でも送ってやらなきゃな」

「お前らしいよ。まぁ、俺は信じちゃいないけどさ。噂ではそんなに悪質なものじゃないみたいだしな。」

「ば~か。本人に断りも無く事実無根の情報をネタにしていること事態、悪意が無いとは思えないね。どっちにしてもどこかの時点で火は消し止めなきゃいけない。長尾の進路に影響があったりしたら大変だ」

「長尾の進路?」

「ああ、警察官だ。関係ないかもしれないが、いらぬ根は早いうちに抜き取っておくに限るからな。」

「そっか、じゃちょっくら情報集めて手に入れてみるわ」

「おお、頼むわ」

「じゃぁな」


 そして数日後、俺は噂のBL短編小説を手に入れた。


「結構、探し回ったぜ。ホラ」


 俺は三冊の小冊子を渡された。三冊?

 いや~、驚いたねぇ。シリーズ物で出版されてますがなぁ。

 幼馴染編、バーテン編、オトナ編。

 幼馴染編は、高校から俺に思いを寄せていた長尾がコンテストをきっかけに告白するんだ。

 長尾の気持ちに薄々気づいていた俺は、躊躇いながらも長尾を受け入れる……。

 うっ、受け入れるのか……。だよな、でないと話が面白くないもんな。

 しかし……恐ろしくエロい描写だなぁ。見てたのかよって言いたいぐらいだ。


 バーテン編は、長尾がバイトしている店に俺が通いつめるって筋書きだ。

 これは俺が告白して、まんざらでもなかった長尾が俺を受け入れる……。

 こ、これもエロい……。幼馴染編より……高度だ。


 もうひとつのオトナ編は……。長尾が出てこない。

 ゲイバーでバイトをしている俺が、ナイスガイに見初められて……?

 壮絶なラブシーンを繰り広げる……。エロ過ぎる……。吐くぞ。

 なんか……引っ掛かるなぁ。まさかな……?

 うん、俺は長尾を信じている。大丈夫だ。


「柳、この本どこから仕入れたんだ?」

「ああ、最終は長尾からだ。驚いたよシリーズ全部もってるなんてレアだよなぁ」


 俺の胸にチクっと何かが刺さる。

 マサカ……。


 暫くするとその「マサカ」が、走り寄ってきた。


「おーい。カズオ~」


 長尾……。お前、また何かやってくれたのか?





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