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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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6.自分自身へのカミングアウト

 ハッハ……。

 

 俺は笑ったね。大笑いさ。

 可笑しくて、可笑しくて、可笑しくて、笑いが止まらなかったぜ。

 涙で前が見えなかったけど……可笑しくて、可笑しくて。

 こんなに可笑しいのに、涙が止まらなくて……。

 だから俺は、俺に向かってカミングアウトしてやったのさ。

 

『加州雄。実は俺、変態なんだ』ってね。

 

 そしたら涙がピタッと止まりやがった。……ピタッとな。

 

 その日は学校へは行かず……どこ行ったんだっけ?

 あっゲーセンだ。麻雀のオンラインゲーム。晴華とやったヤツ。

 それからだ。毎日、麻雀ゲームに嵌ってた。

 1人になりたかったけど、1人になると余計な事を考えてしまう……悩んでしまう。

 柄じゃないんだよな。悩むってさ……。

 麻雀は良かったぞ。高段位目指して俺は必死だった。

 だけど、頭打ちした時に現実に引き戻された。

 誰にも言えないし……とりあえず、本を読み漁った。

 この手の本はすぐに見つけることができたから……結構、読んだな。

 だが、読めば読むほど凹んだよ。

 だって、態々自分で自分に太鼓判押し捲ってたんだからな。

 

 そんな時だよ。純子さんに会ったのは……。

 俺は救われたと思ってるよ。

 本を読んでると色んな体験談とか書いてあって、俺だけじゃないって思う反面……現実が濃くなっていってたんだ。

 本って受身だろ? 与えられる知識がどんどん自分の中に溜まっていくんだな。

 勉強とかだったら書物から与えられた知識が蓄えられていくってのは願っても無いことだよな。

 だがこの場合、俺の中に蓄えられたのはネガティブな部分だけだった。意識的にそういう部分をチョイスした訳ではないけど、俺自体がネガティブを引き寄せる媒体になってたんだと思う。

 でもって、1人で悩んでるから吐き出すところがないんだよな。

 俺が俺自身の事を見ないようにしてたから、当然人間関係も希薄だ。

 相談できる奴なんて居る筈もない。

 まっ、カミングアウトする気なんてさらさら無かったし。全ては俺の選択だ。

 かなりの本を読んだお陰で知識だけは、それなりにあった。

 少しずつ、小出しで自分と向き合っていけばいいやなんて呑気に考えた。っていうか、そういうふうに考えられるとこまで来てたんだ。

 毎日、ぶつぶつ独り言いながら……あの頃の俺、絶対ヤバかったと思うよ。傍から見てたら。うん、多分。

 

 

 兄貴に連れられて純子さんの店に行った日。帰りにメモを渡された。

 

「店のチラシ配ってくれる子探してるの。バイト代弾むから手伝ってくれない?」

 

 ってさ。純子さんは一目で分ったんだと思う。俺のこと……。

 でも、何も言わなかった。他のお姉さん達も何も言わなかった。

 だから、最初に女装してって言われた時は驚いたよ。

 

『え~! 聞いてないですよ~。無理です。俺』

『大丈夫よ~。私に任せなさいって~。綺麗にしてあげるから♡』

 

 金が欲しかった俺は、身投げ状態だ。

 で、俺は純子さんにされるがままで……その後、女に仕上がった俺は鏡を見て。

 気持ちがすーっと、軽くなるのを感じたんだ。暫く呆然としていたのを覚えている。

 心の底の方から何か込み上げてくる物があって、目頭が熱くなり掛けた時。

 

『さ! いってらっしゃい! 大きな声を出して、宣伝してきて頂戴ね!! チラシ全部配ってしまうまで帰ってきちゃダメよ!!』

 

 と言って。俺は背中をバシッ!! と叩かれたんだ。

 これが、また痛くてなぁ~。半端じゃなかったぜ! やっぱ基本、男だな。

 目頭が熱くなるどころか星が飛び散ったよ。

 それから俺は金を稼ぐために女装してる。って事になってるけど、本当は女装したいからこのバイトを始めた訳だ。

 

 バイトの日には必ず店に行って着替えるんだ。お姉さん達に化粧の仕方とか色々教わるのが、メッチャ楽しいんだよな。

 お姉さん達も面白がって色々教えてくれるし、俺は自分で言うのも何だが優秀な生徒だった。

 衣装だってより取り見取り! 毎日のように綺麗な衣装を見たり着せて貰っていたら、それまでの悩みとか……一気に吹っ飛んじゃったね。

 

 俺はきっとラッキーだったんだ。純子さんやお姉さん達は俺がどうとかは一切言わないけど、自分の場合どうだったとかどう乗り越えたとか……昔話風に色々聞かせてくれた。

 今、思うと俺を励ましてくれてたんだよな。大丈夫だって。1人じゃないって。

 本当に何度も何度も言うけど、俺は感謝している。

 こういう仕事してる人って基本、聴き上手なんだろうな。普通に会話してるだけでカウンセリングが受けられているって感じだ。

 それに、いつも化粧品やキラキラ衣装が手に届く所にあるから、ストレスも溜まらない。

 そういうのが俺にとって普通になりつつあったんだ。

『俺は変態だ』なんて事、忘れさせてくれそうになっていた。……晴華に会うまではな。

 

 はぁ~。だけどついに言われちゃったよ。

 

『アンタはこっち側の人間だ』

 

 って。でも、何か吹っ切れた感じだ。

 晴華のことが好きなのは今も変わらない。多分、もう会えないだろうけど……。

 

 

 そして、そのイベントのバイトの日から、俺はまた女装のバイトに戻った。

 

「よっしゃー! 稼ぐぞーー!!」

 

 はっ。我ながら、現金なもんだわ。

 

 バイトに戻った俺は純子さんやお姉さん達に、自分の事を少しずつ話し出した。

 皆、自分の事のように親身になって聞いてくれる。

 何度も、何度も、何度も(もう分ったって!)言うようだが俺は恵まれていたんだ。

 純子さんに会えて、本当に良かったと思う。

 という事は兄貴に感謝しないとな。言わないけど……。気持ちさ! 気持ち。

 

 吹っ切れた俺は自分でも思うほど、別人のようだった。

 バイトもチラシ配りやコンパニオンばかりではなく、店にも出るようになった。

 そうなると、化粧の仕方や髪型が多少変わってくる。少し派手目っていうか、濃くなる感じかな? アイラインの太さも変わってくる。

 俺は、ここぞとばかりにお姉さん達に付き纏うようにして習った。

 

 髪のセットは聖子姉さんが1番いい。毎回工夫を凝らして、俺の好みに合った髪型にセットしてくれる。聖子姉さんは盛り髪のマジシャンだ。

 彼女が自分の髪をセットしている時にいつも、

『指に目がついてるのか?』って思うぐらい、自由自在に後ろの髪を纏め上げる。

 もう、『神』の域だな。

 

 肌が綺麗なのは、純子ママがダントツ。あと麗華さんもかな……。

 触ると……指が吸い付くんだぜ。マジで! 

 スキンクリームを月に5~6本使うと言っていた。

 風呂上りに塗りこんで、塗りこんで、塗りこみ捲くる。最低30分は掛かると。

 皆、“美”に対して時間も金も惜しまない。

 ホント、たいしたもんだよ。

 

 プロポーションでは、凛さんだ。うまそうなケツ……いや、振るいつきたくようなお尻をしている。なんと! 500万円掛けたらしい。マーメイドのドレスがメッチャクチャ似合うんだよなぁ~。カッケ~!!

 俺もそのうち……なんて思わせるような美しさだ。

 

 俺は今、髪を伸ばしている。聖子さんの『神』の手に近づく為だ。

 せめて肩甲骨の下ぐらいまでのばさないと、聖子さんのようにはいかない。

 動画なんかで研究しながら頑張っている。もっぱら店でだけどな。

 自分の部屋でやってヘアピンの1つでも落ちてたら、母ちゃんがどんな顔するか……だから、やらない。

 

 純子ママが言うんだ。

 

『自己を表すことはいい事だわ。大切なことよ。でもね、周りの人に配慮することも凄く大事なことなの。カミングアウトされた方の気持ちも汲まなきゃね。私達は決して被害者でも何でもないんだから。カズオちゃんはどんな形で生きて行きたい? 周りの人全員に理解してもらいたい? 自分だけの秘密として私達のような同類と楽しくやっていければいい? どちらを選んでもいい。何も悪くないわ。考えなさい。悩みなさい。必ずあなたに合った生き方が見つかるわ』

 

 

 俺に合った生き方……、か。


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