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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
56/146

56.目標・目的・手段。

 

 三回生になった。


 学生達はそろそろ進路を真剣に考え始めている。

 今から考える者、前から目指す道を決めている者。

 まだまだ時間があると楽観しているヤツもいる。


『あと1年くらい遊んでから考えればいいさぁ』

『遊べるのって、今だけだもんな』


 って言う、輩。本心なのかどうかわからないが。

 俺は一人暮らしをしようって思い始めたと同時に、将来は……なんて考えるようになってきた。

 いや、それだけではない。

 ヒロさんが言った言葉。


『人を育てなさい』


 あの言葉がずっと頭の中にある。

 どうやって? 

 でも、考えられないんだ。

 将来……ってなんだ?


 竜子さんの家族と一緒に過ごして、こんな家族が俺に築けるのか?

 答えは……。否だ。

 まず、結婚がない。

 だから……子供が作れない。

 ふむ。という事はこの形ではないな。


 俺は色々考えた。

 子供の頃……小学校の頃。

 コレでも俺は野球が好きだったんだ。

 でも、髪の毛を切れと言われてやめた。


 将来ってなんだ?

 俺は何が欲しいんだ? 何を得たいんだ?

 答えは……自分の性だ。本当の自分の性だ。

 だがそれは将来の事ではないんだ。


 司法書士、薬剤師、経理、福祉、映画関係、デザイナー、教師、弁護士、建築関係、医師、看護師、作家……。


 世の中には様々の職業があり、その職業に就くことで自分が将来何を得たいのかを繋げながら選択する。


 例えば重病を患ったとしよう、自分自身でなくても家族や大切な人が。

 そんな人が死の淵から甦った! となれば? 

 そう、「僕、大きくなったらお医者さんになる!」


 綺麗な服を着た時、こんな服を自分で作れたらなぁ。もしくは、自分が作った服を沢山の人がきてくれたらなぁ。となれば?

 デザイナー。まっ、ファッション関係? なんかと繋がるわけだ。


 だが、考えてみろ。それは全部、夢や目標から来てる手段の選択なだけなんだ。

 解るか? 沢山の人の病気を治したいという目標の為の手段が医者なんだ。

 間違っても建築関係に進むヤツはいないってことさ。

 他にもバイトを通じて自分に合った仕事を見つけるってパターンもあるけどな。


 だが、今の俺は? もしくはこれから進路を決めるヤツらは?

 その手段を仕事を見つけることを目標にしてしまっているんだな。

 悪くはないぞ。

 大方、殆どの人間がそうなっているんだから。

 そこからだって目標を見つけることはいくらでもできるんだからな。


 俺は、金が欲しい。

 何故だ? 手術を受ける為。女に戻る為。

 じゃ、その向こう側は? 

 答えは……。解らない。

 それが幸せなのか、将来と結びつける事ができるのか?


 ただ、金が欲しいと金が目的になってしまっているとその向こう側がぼやけてしまうんだ。

 職につくのは金を得る手段であって、金は目標を得る手段なんだって……最近思うようになってきたんだ。


 俺が得たいものはいったい何なんだ?




「お前、将来の事……考えてる? 」


 突然、長尾が言い出した。

 バイトの帰り、小腹が空いた俺と長尾はハンバーガーでも食べようと近くの店に入った。

 ハンバーガーとポテトのセットとコーラを買ってカウンターに並んで座る。

 まぁ、そんな時期だしな。学校でもそこらじゅうで話題になってる事だ。

 別に驚く話題ではないが。


「俺は、公務員になるんだ。警察官」


 は? 長尾が? 警察官? 

 これには驚いた。考えても見なかった。

 ってか、イメージが……。


「えぇ~!! ちょ、ちょっと待て。そんな話、聞いた事ないぞぉ」

「ああ、初めて言った」

「な、なんで?」


 長尾は少し俯いて暫くの間、目を閉じた。

 その雰囲気が……話かけるのを躊躇わせたほどだ。

 長尾は、顔を上げると俺に向かって笑いながら、


「俺の死んだ親父、実は警察官だったんだ。小さい頃は憧れてたけど……。何て言うか……。母親が、元々身体弱かったんだな。なのに親父の心配ばっかりして、親父は仕事ばっかで……。そんな親達の関係を見てたら、だんだん気持ちが離れていってさ。母さんが入院したときも、あんまり顔出さなくって……。恨んだねぇ。当然だろ? 別に、刑事って訳でもなかったし……。なんで来れないんだよって。もっと、親身になってくれよって……。だけど、親父の方が先に過労であっけなく死んじまった」

「過労?」

「ああ。何か事件があったんだと思う。そんな事は家族にも言わないからさ……。親父、風邪引いてたんだ。だけど、毎晩どっかの見回りとか色々……。俺にはわからない、気がついたら顔に白い布被せて横たわってた。その時、俺は絶対警察官になんかならないって思ったよ。だけど……母親が、最近親父の話をするんだ。優しかったとか、偉かったとか……どうでもいいことをさ。『人を守るという事は家族も守るっていうことだ』なんて尤もらしいこと言ってさ。親父がよく言ってたことだ。母さんはハッキリとは言わないけど、俺に警察官になって欲しいのかなって思ったんだ。なら、俺は親父とは反対に『家族守るついでなら、人を守ってやってもいいぞ』って思うようになってて……」

「……で、警察官?」

「ああ。お巡りさんだ」


 人を守る……か。


「そっか……。いいな目標があって……」

「カズオは女になることが目標なのか?」

「目的ではあるが……。これと言った目標とか夢は……。今のところ……」


 長尾の家族のことを初めて聞いた。

 妹がいるとかお母さんが女手一つで育ててくれたとかは知っている。

 だから学費を稼いで家計を助けているんだもんな。


 考えてみれば親父さんの話はしたことがなかったのに気がついた。

 俺があまり人のことに興味がないせいだな。

 俺は長尾の話を聞いているうちに、急に取り残された気持ちになってきた。



 久しぶりに晴華とデートした。今日の俺は男だ。

 今日の晴華はそれでも腕を絡ませてくれる。

 映画を見て、ショッピングをして、食事して……。いつものデートだ。

 ただ違うのは、晴華が俺をまひると別人視していないのを感じること。

 俺の気持ちは今までのデートより穏やかだった。

 ビクつくことがないからな。

 竜さんのお宅にお邪魔したときの穏やかさに似ている。


「ねぇ。加州雄、就活とかどうすんの?」


 かぁ~。やっぱ、その話になりますかぁ。

 だよなぁ。リアルに焦りますよぉ、晴華さ~ん。


「晴華は? 決めてるの?」

「私? あれ? 言ってなかった? 学校の先生だよ。中学の……」

「はぁ? 聞いてないよぉ! え? いつから? 前から?」

「うん。高校の時には決めてた。本当は小学校の先生になりたかったんだけどね」

「じゃ、何で?」

「競争率が高いの。えへへ……」


 晴華は悪戯っぽく笑った。

 教師になろうって人間が、楽な方を取ったってのが後ろめたいらしい。

 そんな事はないさ、立派な選択だと思う。

 少なくとも今の俺にとっては羨ましい限りだ。

 麻雀の方は諦めたらしい。親の反対もあるが生活には繋がらないと判断したのだと。


 う~ん。ますます、取り残された感が増してきた。

 こんな時、彩には絶対に会いたくないな。絶対にだ。うん。

 何を言われるか堪ったもんじゃないぞ。

 避けるべきものは避ける。鉄則だ。


 それでもデートは楽しくて、晴華を送った後もルンルン気分だった。


「ただいま~」

「ああ、おかえり。今日はバイトじゃなかったの?」

「うん、今日は休み。何か食べるもんある? ちょっと小腹が空いちゃって」

「今日はカレーだよ。残ってるから自分で食べなさい」

「はぁ~い」


 俺が鼻歌交じりで台所に入っていくと麻由がアイスクリームを食べていた。


「あ~。カズ兄、おかえり~。バイトじゃなかったのぉ?」

「ああ。休みだ、カレー残ってるんだろ?」

「うん。麻由がやってあげるよ」

「おっ、サンキュ」


 麻由は立ち上がって、カレー皿にご飯をよそって俺に見せた。


「これくらい?」

「ああ。それでいい」


 俺は麻由が運んでくれたカレーを食べながら今日のことを思い出していた。

 自然と顔が綻ぶ……。フン♪フン♪フン♪


「な~に? カズ兄、なんかいいことあった? 今日何してたのぉ?」

「デートさ」

「デートぉ? え~、誰とぉ?」

「うふ。カ・ノ・ジョ」


 と言った瞬間、後ろから声がした。


 

「はぁ? 彼女ぉ~? 何考えてんだぁ? おまえはぁ!」



 と、父ちゃん……。





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