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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
54/146

54.女子会。

「竜子さん。す、すみません……。ぼ、私……」

「竜男だ。何言ってんだよ、僕でも俺でもここは店じゃないんだから。それより、どうした?」


 俺は突然泣き出したことが恥ずかしくて堪らなかった。

 リビングに通された俺は椅子に座って顔を上げられなかった。

 新ちゃんが心配そうな顔をして俺を覗き込んでいる。


 悪いことしちゃったな、驚いただろうに。

 新ちゃんは、俺と目が合うと悲しそうな顔をして俺の頭をなでなでしてくれる。

 きっといつもこうやってお母さんに頭を撫でてもらって安心しているんだろう。

 だから、俺を安心させようとして同じことをしてくれる。

 本当に素直でいい子だ。


「俺……。こんな格好で、初めてお姉ちゃんって言われて嬉しかったんです」

「ア~ハハハ、お前はどんな格好でもお姉ちゃんだよ」

「そ、そんな事ないですってぇ」

「まっ、それは言い過ぎだとしても……こんな子供には目に見えるものだけが本当のことじゃないかも知れないな」

「本当ね、純粋だからこそモノの本質ってのが見えるのかもねぇ」

「潤子さん……」


 俺は胸の奥にじわっ広がる幸福感を噛み締めていた。


「おい! いつまで、メソメソしてんだぁ。飯だ飯! おい、潤子。ビールくれビール! まひるも飲むだろ?」

「あ、はい。いただきます」

「潤子ぉ! お前も飲めぇ!」

「アハハハ、後でね~」


 家族団欒ってこういうのを言うんだろうなぁ。

 って、俺は思った。

 別に俺の家族がどうって訳じゃないけど……。


 家族に対して見方が変わったのは……俺の方だ。

 イジケてしまったのは、俺だ。


 子供達の食事を一通り済ませ寝かしつけてきた潤子さんは、冷蔵庫からビールを取り出してシュポっと栓を開けた。

 そしてビールを一気に、ググッと飲むと、


「はぁ~! 美味い! 生き返るよねぇ!」


 と言いながら、竜さんの隣に座った。


「まひるちゃん、食べてる? 今日の鯛は竜ちゃんが良いの仕入れて来たんだよぉ」

「はい! 頂いてます。メッチャ美味しい!」

「でしょぉ! このカルパッチョは、竜ちゃんが作ったんだよ」

「マジっすかぁ? すっげぇ! 竜さん料理もできるんですね」

「何が料理だ。こんなもん、オリーブ油と酢を掛けときゃいいんだよ」

「そんなことないよぉ~。なに、照れてんのぉ?」

「ば、なんで照れるんだよ」


 竜さんは潤子さんに肘で小突かれながら、ビールを一気に飲み干した。


「しかし、ホンッと綺麗だねぇ。まひるちゃん」

「え? あ、ありがとうございます」

「お化粧したらさぞや、でしょうねぇ」

「そんな事はコイツにとって今更なんだよ」

「そんなことないよねぇ~。女の子って何回でも綺麗だとか可愛いって言われたいんだからぁ。竜ちゃんたら最近全然言ってくれないんだよぉ。人をオバサン扱いしちゃってさ」

「そんなことしてないだろぉ。潤子は俺の天使さ」


 ゲッ……。引く……。


「アハハハ。まひるちゃん困ってるぅ」

「あぁ。はぁ……」


 な、なんか調子狂うなぁ。

 竜さん、ギャップあり過ぎッス。


「まひるの彼女って、あの子だろ? 誕生日に遅れて来た子」

「はい。そうです、晴華って言います」

「長いの?」

「中学の時、片思いで……ブランクあったんですけど最近やっと♡」

「きゃ~♡ おめでとう!」

「おい! 大きい声出すなよ。子供起きるぞ」


 潤子さんは慌てて口を押さえ、隣の部屋の様子を伺った。


「アハ。大丈夫みたい」


 何歳(いくつ)くらいなんだろう? 

 飾りッ気のないその笑顔はとても魅力的だった。

 竜さんが潤子さんを見る瞳は愛おしくて堪らないって目をしている。

 いいなぁ。


「お二人はどうやって知り合ったんですか?」


 やっぱ聞きたくなるよなぁ。


「うふ♡ あのね……」

「おいおい、またかよぉ」

「え? またって?」

「アハハハハ。竜ちゃんはねこの話、嫌がるんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ、あんまり自慢できた話じゃないからな」


 竜さんはそう言いながら、前髪を止めているカチューシャを外し頭を掻きむしった。

 竜さんの髪は顎の線までのワンレン・ボブ。

 普段はカチューシャでオールバックにしているようだ。

 時々、男でカチューシャをしてるヤツを見かけるが、竜さんも似合っていてカッコイイ。


「竜ちゃんはね、ある日ベンチで寝てたの。夏の暑い日だった。公園のベンチとかじゃないんだよ。よく街角にあるベンチ見たことない?」

「あります。交差点とかの角にあるやつでしょ?」

「そう、それ。銀行の前にベンチが二つ並んでるとこがあってね。そこに寝てたの」

「夜ですか?」

「アハハハハァ、それが違うのよぉ」

「しぃ~! 起きるだろうが、もっと小さい声で笑えってば」


 潤子さんはペロッと舌を出して肩を竦めた。

 アハ。可愛い。


「私が竜ちゃんを見つけたのは、朝の8時過ぎ。夏だったからねぇ、汗びっしょり掻きながら……。でね、そこって少し行くとバス停があるとこだったから道行く人がみ~んな竜ちゃんの寝相を横目で見ながら通って行く訳よぉ」

「だけど、そんなに珍しくないんじゃないですか?」

「と思うでしょ? 竜ちゃんったらね、上半身裸だったのよ。いつから寝てたのか知らないけどさ、暑かったんだろうね。知らないうちに脱いでたらしいわ」

「え? ってことは、まさか」

「そう、そのまさかよ。背中の神龍(シェンロン)が丸出しなのぉ」

「ですよねぇ! よく捕まらなかったですねぇ」


 ってか、神龍(シェンロン)って……。


「バカ! 寝てるだけなんだから捕まるわけないだろ」

「そんなことないわよぉ。誰かが通報したら連れてかれると思うよぉ。ねぇ?」

「う~ん。俺もそう思うなぁ」

「な、なんだよ。知らないんだからいいじゃんかよ」


 竜さんは膨れっ面でビールを飲み続けている。

 よっぽど恥ずかしい話と見える。


 でも、潤子さんに横槍を入れるでもなく大人しいのは……。

 もしかして、カカァ天下ですか?

 だけど、すごく微笑ましくて……何だか笑ってしまう。

 俺は噴出しそうになった。


「まひる! 笑うなよ。殺すぞ」

「アハ。あ、はいはい。笑いませんよ、そんでもって誰にも言いませんよぉ」

「コラ! お前、脅す気か? カルパッチョ返せ!」

「何、意地汚いこと言ってるのよ。バカ」


 潤子さんは、お替わりのビールを冷蔵庫から取り出して俺に渡しながら話を続けた。


「竜ちゃん、その頃やんちゃしまくってたからその辺りの呑み屋さん全部から出入り禁止にされててさ、あるスナックのママに囲われてたの」

「かぁ~。やっぱそこ言うのねぇ」


 竜さんはもうその場にいられなくなったらしくて、隣の部屋でゴロンと横になってしまった。

 潤子さんは、悪戯っぽく笑いながら竜さんを横目で見ている。


「ある日、私が友達とたまたまその店に行ったら、カウンターの端っこで偉そうに踏ん反り返ってすわってたのよぉ。私、思わず『あっ! 神龍(シェンロン)!』って叫んじゃったの」

「へぇ~! 知らん顔しなかったんだぁ」

「そうよねぇ。暫く様子見てれば良かったかも知れないけど、思わず口から飛び出しちゃったのね。だって~、蚊に刺されながら寝返り打ってる姿って結構印象的だったんだよぉ。で、『何で知ってるんだ』ってことになって、『起こせよ!』なんて意味不明なこと言ってさ。まっ、それから何となく付き合い始めて……今に至るって感じかなぁ」

「でも、その店のママさんは? なんともなかったの?」

「そりゃぁ、一悶着あったわよぉ。取った取られたってね。モテる男は辛いね~竜ちゃん」

「うるさい!」


 竜さんは後ろを向いたまま怒鳴り返した。


「でもね、竜ちゃんのことばっかりも言ってられないのよ。私も結構やんちゃしてたからさ。こう見えて売れっ子だったのよぉ」

「はい。うちのママから聞きました」

「アハ。恥ずかしいなぁ」

「潤子さん綺麗ですよ。わかります、きっと人気あったんだと思います」

「そうね。でも、好かれたくない人もいるじゃない? やばい人なんか特にさ」

「ですよねぇ」

「一時そんな人に付き纏われたことがあって……竜ちゃんに助けてもらったの」

「そうなんだぁ。白馬の王子様ってか?」

「そんな良いもんじゃないけど、竜ちゃん……。あんときはチンピラみたいなもんだったから、ちょっとした刃傷沙汰になっちゃって……。怪我したあげく警察に捕まっちゃた」


 げろげろぉ~。本物だぁ~。


「その頃、お腹に新ができたのが分かって……。竜ちゃん人が変わったみたいに働きだしたの」


 そう話しながら、潤子さんは竜さんの方を見た。

 小さな寝息が聞こえてくる。

 あは、竜さん寝ちゃった。


 潤子さんと俺は顔を見合わせて笑った。


「ね、まひる。今日、泊まれる?」

「え? べ、別にかまいませんが……。明日、竜さん驚きますよ」


 っていうか。まず、俺が驚いた。

 いきなりお泊りなんて……。大丈夫なのかぁ?


「大丈夫。これからは私達の時間よ」


 

 潤子さんはそう言いながら、また2本のビールを冷蔵庫から取り出した。

 そのうちの一本を俺の前に置くと、にっこり微笑みながら言ったんだ。


 

 『さぁ。女子会の始まり、始まりぃ~!』





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