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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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52.フリダシに戻る。

 

 翌日、母ちゃんが基樹の母親に俺のことを訊ねられたと言って、慌てて帰ってきた。


「加州雄~! 加州雄~!」

「はぁ~い。なに~?」

「なに~。じゃないわよ! アンタ何したのよ。モトちゃんのお母さんが、オカマになったのか?って血相変えてたわよ!」


 母ちゃんは買い物から帰ってきたらしく、台所のテーブルに食材を詰め込んだスーパーの袋をドンと置いた。 


「あっ。ああ……」

「『ああ……』じゃないわよ。言ってごらんよ」


 麻由が懸念していた事が……。


「ごめん!! 母ちゃん。俺、ガチ女装で家から出掛けたんだ。それを基樹が見てたらしくて……。麻由から電話があって……。ごめんなさい! 俺の不注意だった。皆に迷惑かける気はなかったんだ!」

「迷惑だなんて……。そんなこと微塵も思ってないよ。だけどね……バランスってものがあるじゃない? 母ちゃんは、加州雄が『俺は女なんだ』って言ったときから、アンタがその方が生きていき易いんだったら、って思ってきたけど。世間はそうじゃないから……、可哀そうだけどね」

「分かってるよ、母ちゃん。ホント、ごめん」

「アンタが謝る事じゃないんだ……」


 母ちゃんは、やり切れなさそうに俺から顔を背け俯いた。

 今回のは、おれが悪い。よぉく分かってる。

 ってか、こんなに自分を責めてる俺が不思議なくらいだ。


 もう少し前の俺だったら……。

 何が悪い! 俺は俺だ! もう男でいたくないいんだ!

 お前らになんか、俺の気持ちなん理解できないんだ! 

 って、叫んでたと思う。


 でも、昨日わかったんだ。

 自分が苦しい、辛いって思うより……麻由が泣いてる方が辛かったんだ。

 自分の気持ちはどうにかできる。開き直ろうが、何しようが、折り合いをつけることができる。

 コントロールできるんだ。

 人の気持ちってのは、心ってのはどうする事もできないんだ。


 事実、麻由の恐れを拭うことも、彩の激昂を治めることも俺にはできなかったんだから。

 もっと、効果的なやり方があるはずなんだ。

 それを探る前に……俺は、失敗してしまった。


 凜さんが実家に帰らないっていうのも、家族を守る為なんだ。

 決して逃げてる訳じゃない、自分を貫く為に影響を及ぼす周りのことを考えてるだけなんだ。

 それには、寂しさや、辛さや……色んな思いや感情がと伴うのは当たり前の事。

 それも全部含めて俺は俺にならなけらばいけないんだ。

 爺ちゃんも婆ちゃんも、受け入れてくれた家族に打撃を与えるようなことはできない。


 麻由に教えられた。ごめんよ、可愛い妹。


「まっ、今回の事は。ごまかしといたけどね」

「えっ? ごまかしたって?」

「ああ、大学の何かのゲームで負けて罰ゲームだと言っといた。私に似てるから、綺麗に仕上がってねぇ。なあんて、惚けといたわ」

「母ちゃん……」

「ただし! これからは許さないよ! この近所でスカートを穿くのは禁止! こんなふうに言うのは気が引けるんだけどね……。アンタはバイト先でスカートも穿けるし女の格好ができるじゃないか。もちろん、それは仕事なんだけど……麻由がもう少しオトナになるまで待てないかい? せめて麻由だけでも……」

「好奇の目に晒したくない?」

「う……ん。あの子が、せめてもう少し強くなるまで……」

「あぁ。約束するよ。この辺りでは……今まで通りの俺でいるよ」

「分かってくれるのかい? 加州雄の事も、ちゃんと考えてるからね。今だけ……ね」


 大丈夫だよ、母ちゃん。俺にとっては今更なことさ。

 どれくらいの時間をそうやってきたと思ってるんだぁ?

 俺は、この道にかけてはベテランだぜ。


 自分を隠すこと、偽ること、人から逃げること……。

 俺は母ちゃんの言葉を聞きながら思った。


 やっぱり、俺は理解されてないんだって……。

 また、ふりだしに戻っただけだ。

 はっ! やってらんないぜ!


 いいもんねぇ~。店に行けばお姉さん達もいるし、俺の事分かってくれる人。

 い~っぱい、いるもんねぇ。

 同類とヨロシクやってればいいんだ。

 それで十分さ。

 そんなこともできない仲間が一杯いるんだからな。


 そうさ、俺は恵まれている。

 ママや凜さんや、チカさん……聖子さん……。

 長尾だって、受け入れてくれた。

 赤フチなんて、俺をコーチしてくれるんだからな。

 不自由することなんてないさ。


 あぁ! 晴華だ。晴華が俺をずっと一緒にいてくれるって言ってくれたじゃないか。

 俺のことを知りたいって、一緒に考えるって、俺を抱きしめてくれるって言ってくれたよな。

 家族がいなくたって、俺の事を理解してくれる人が傍にいてくれたらそれで幸せってもんだ。


 ……でも、もし晴華が離れていってしまったら?

 長尾が、いなくなってしまったら?

 凜さんや、茜さんやお姉さん達が店をやめてしまったら?

 ママの店がなくなってしまったら?


 俺はどこへ行けばいいんだ?

 また、一人になるのか?

 人目を気にしながら俺はまた、俺じゃない俺を生きるのか?


 そんな事はもうできない。

 ヒロさんとの口づけ……あの時俺は、俺の全てを組み替えられてしまったんだ。

 女である事を知ってしまったんだ。

 もう、戻れない……。戻りたくない……。


 カミングアウトから、どれくらい経ったのだろう。

 受け入れられたと思っていた期間、俺は確かに幸せだった。

 家族を初めて身近に感じることができた。


 だが、今の俺はそれ以前より冷めている。

 身体の芯から、冷めている。


 寒いなぁ。なんで、こんなに寒いんだぁ。



 家族ごっこは終わりだ。




 俺は、俺の性を生きる。


 誰にも、何も言わせない。




 俺一人で……生きてやるんだ。







世間がゴールデンウィークなのは関係ないのですが。

明日、明後日。お休みします。ごめんなさい。

皆さんも、よい休日を~!


お詫びというか反省。今回の話は1000文字少ないです。面目ない(TT)


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