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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
50/146

50.晴華の選択。

 

 レズ……って、晴華。

 何、言ってんの? 

 身体を震わせて……、手を握り締めて。

 涙目にまでなってるじゃないかぁ。


 そうか、長い間思いつめていたんだなぁ。

 可哀そうに……。でもな、晴華。


「ちょっと待って晴華。少し落ち着こうね」

「え? う……ん」

「自分はレズかも知れないって、思いつめてたのね?」

「う……ん。だってそうでしょ? 証拠が揃い過ぎてると思わない?」

「な、なんの証拠かな? 私にはサッパリ解らないんだけど……。ただ男の子が苦手なだけじゃないの?」

「どうして? まひるのことが好きなのよ。加州雄よりまひるが好きなのよ」


 加州雄よりって……。晴華は、加州雄とまひるを別人視してたのか?

 だから、男の時はよそよそしかった?

 おいおい。俺は多重人格じゃないって……。

 ん? もしかして、そう見えるのか?


「まひるが好きで、まひるに会いたくて……私、加州雄を利用したのぉ。ごめんなさ~い」

「でも、加州雄のこと好きだっていってたじゃない」

「うん……。ずっと、好きだった。最初は、加州雄が女装してるって解ってたのよ。でも、いつの頃か……。別々に見え始めて……」


 じゃ、何か? 俺が晴華と腕を組みたかった為に、まひるになってたのが仇になってたってことなのか? 俺はまひるに、晴華を取られたってことか?

 いやいや。俺が混乱してどうすんだ。


「私はきっとレズなんだって思ったら。加州雄に会えなくなってしまったの」


 ふぅ。話が見えん。

 っていうか……。晴華が宇宙人に見えてきた。

 晴華って、実は不思議ちゃんだったのかぁ?

 どんな思考回路しとんねん!

 なんか、ぶっ飛んでんぞぉ!


 お、落ち着け……俺。

 整理してみよう。


「晴華。俺の話を聞いてくれるか?」

「う……ん」

「俺が思うに、晴華はレズじゃない。さっきも言ったように、男が苦手なだけなんじゃないかな?女の子に恋愛感情を持ったことはないと言ったな? 全然ないか?」

「うん、ないと思う。でも、憧れたことはある。彩に憧れるの。強くて、賢くて、優しい彩に」

「そうだ、男にだってそんな時はある。逞しい男、強い男。それと同じと思わないか?」

「同じ……だと、思う」

「まひるが好きか?」

「うん、好き」

「晴華の夢を壊すようで……悪いが。まひるは俺だ。加州雄だ」


 晴華が俺を見つめる。

 晴華の瞳が潤んで……涙が零れた。


「私は加州雄を傷つけてばかりいるんだね?」

「そんなことないさ。加州雄もまひるも俺なんだから、まひるが好きって言われても俺が好きって言われてることだからな。傷つかないさ」


 そうさ。俺はこれから、まひるになっていくんだから。

 傷つくどころか、そうあって欲しいと願っているんだから。


「晴華はレズじゃない。レズは俺だ」


 晴華の顔が、急にキョトンとする。

 アハ、かっわいい。お人形さんみたいだ。

 晴華は表情がコロコロ変わる。

 こういうとこ、メッチャ可愛いんだよなぁ。

 根が素直だから、言葉に一々反応するんだな。


「どういうこと?」

「俺は女なんだ。身体は男で心は女っていう、性同一性障害っていう……」

「でもさ。身体が男なら、女を好きになってもおかしくないんじゃないの? 私は身体も心も女よ。私の方がレズ度、高くない?」


 へっ? 晴華ちゃん? あなた食いつくとこ、そこ?

 っていうか。今、俺の決死のカミングアウトを軽く流された感があったんだけど?

 でもって。言葉、被ったよね? 俺の言うこと最後まで聞かなかったよね?

 ダメだぞ~。人の言うとこは最後まで聞くもんだぞぉ。

 人のこと言えねぇけど。ここは聞いとこうよぉ。

 ネ。晴華。


「レズ度?」

「そう、レズ度。出生の性と性自認が独立している。男か女どちらかってことね。性指向は男、女どちらか一方に決まっている。って場合で考えると。加州雄の場合は、出生の性が男。性自認は女。性的指向も女。この場合、MTF女性同性愛になるけど加州雄が私を好きになった心は男?女?」

「た、多分。男……」

「まだ、自分を知らないときだからそうかも知れないね。気持ちに揺らぎがある頃……だわね。で、私。出生の性は女、性自認も女、性的指向も女。ね? 私の方がレズ度が上でしょ?」


 上? 上とか高いとか。なんか、勝ち負けになってないかぁ?

 っていうか、俺のカミングアウトはどこへいったんだよ~!


「い~や! 違うね。晴華は俺を好きになった時点で性的指向は男だ。俺は元々ヒョロイ、晴華が言うように手が女みたいとか仕草が女っぽいとか言われていたが、誰一人俺を女だと認識してる奴はいなかった筈だ。晴華を含めてな。だから、晴華の性的指向は男。でだ。晴華はその男の女装にはまったんだ。あまりにも美しすぎてな。それは、性嗜好だ。よくある、足フェチ、指フェチ、体毛、体臭フェチ。それらのものと同等のものだと俺は思う。だから、晴華はノーマルでただの女装フェチ。よって俺の方がレズ度は上さ」


 ウシッ! 勝った。

 って……。なにやってんだぁよ。

 俺のカミングアウトの場が、レズ度の争いの場になってるじゃんかよ。

 何でこうも簡単に話が横道にそれるんだ?


 しかも。晴華の表情から、こころなしか悔しさが伺えるのは何故だ?

 レズでいたかったのか? 


「晴華……。俺……」

「ごめんなさい!」


 急に晴華が、俺に謝った。

 頭を下げて、肩が震えてる……?

 どうしたんだ? それに、また被らせたなぁ。

 ダメだぞ。コイツ。


「私、加州雄が『性同一性障害』って言ったとき、もの凄くドキッとした。何か……聞いちゃいけない。って思って……聞こえてないフリした。話題変えて、知ったかぶりして、平気なふりした」

「晴華……」

「怖かったの……。私にできるかな? って。加州雄が悩んだ時とか、ちゃんと受け止めてあげれるかな? って。一瞬で考えてしまったの。だから、加州雄の言葉を本能的に拒絶したの」

「晴華……そんなこと……」

「でも、一番怖かったのは……、ちゃんと話を聞いてしまうと、何だか加州雄がどっかへ行っちゃいそうで……。私なんかが、加州雄を元気づける言葉が思いつかなくて……そんな自分から逃げたの」


 晴華……。解るよ、その気持ち。

 俺が今まで、何度も何度もしてきた事だからな。


 一瞬で身を翻す__。

 人間ってとんでもなく器用な生き物なんだ。


 悪戯をしてバレそうになったら? 周りの意見と違うと感じてても仲間はずれにされるかも知れないと感じたら? ある日突然、友達が苛めの対象になってしまったら?


 ウソをつく、人に合わせる、知らん顔する、ごまかす。

 ぜ~んぶ、生き残る為だ。それが一瞬で、できるんだぜ。


 よっぽどの勇気と意図と、それを自分に留めておく意思がなければ一瞬で危険を察知して、簡単に身を翻すんだ。


 でも、それは何も悪くないと俺は思う。

 何故なら、本当に生き残れているのか? って考える時がやってくると思うから。

 そうやって生き残っても、後でツケが回ってくるのさ。

 これでよかったのか? あのときこうしてれば良かった、ああしてれば良かったってな。


 晴華、お前は偉いよ。

 自分から逃げたって言えるんだからな。逃げている自分が見えてる証拠だ。

 殆どの人は見えてないと思うぞ。


 晴華は泣き続けた。自己嫌悪からだろう。


「晴華。俺はどこへもいかないよ。晴華が離れていかない限り。俺はずっと晴華といたくて、どんな形でも晴華に傍にいてほしくて本当の俺を話そうと思ったんだ。黙っていようって何度も思ったさ。でも、隠し事をしたままだと、必ずどこかで歪みがうまれる。俺はそれをきっと元に戻すことはできないと思ったんだ」

「加州雄……。一杯、悩んだんだね。一杯、考えたんだね。一杯、一杯……。一人で決めてきたんだね」


 晴華が言った『一人』という言葉が俺の胸を打ち抜いた。

 そうだ、俺は一人だった。寂しかった、悔しかった、辛かった。

 それを解って欲しかった。

 解って欲しかったくせに、そう思うことが俺を危険に晒すんだと決めてきた。

 そうやって、身を翻し続けてきたんだ。だけど……。


 ママに導かれ、ヒロさんに許され、晴華に受け取ってもらえた。


 彩。俺は最善の選択ができたぞ。

 怖気づいたが、やり切ったぞぉ。


 後は……晴華の選択だ。


「私も、ずうっと加州雄と一緒にいたい。何ができるか今は分からないけど……一緒に考えることはできると思う。考えられなくても……私は加州雄を抱き締められる」


「ありがとう。嬉しいよ」


 瞳を潤ませながら、俺を見つめる晴華に吸い込まれるように……


 二人は唇を合わせた。


 この瞬間を、どれほど望んできたことか……。



 離したくない。晴華……。



 俺の恋。





 ♪♪~ ♪♪~ ♪♪~ 


「はい。もしもし、彩?」

「ごめん、加州雄。お取り込みの最中」

「バカ。何言ってんだよ。カ、カラオケだよ。カラオケ」

「そんな事どうでもいいのよ。私には手に負えなくて……」

「どうしたんだ?」

「ちょっと、待って。代わるわ」

「……」

「もしもし……」

「麻由! どうしたんだ? 何かあったのか? ってか、何で彩んとこに……」

「カズ兄。モトキがモトキが……」

「モトキがどうした」

「カズ兄のことを言うの……」




『お前の、兄ちゃんどうなってんだ?』








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