表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
5/146

5.変態で悪かったな!

 

 俺って……綺麗なのか?

 

 青白い顔、細い腕。

 とても筋肉質とは言えない体。

 俺の美的感覚からすると、『綺麗』という表現から最も遠いところにある容姿。

 

 純子さんと出会ったのは高校2年の時だ。兄貴に連れられてゲイバーへ行った時。

 

『あら~! まぁく~ん、可愛い子連れちゃって~。私の大好物よ~、このタイプ。ねぇ、お姉さんといいことしな~い? 何から何まで手取り足取り教えてあげるわよ~。っていうかぁ教えたいわ~。そそるぅ~』

『馬鹿言うな! 俺の弟だ。変な事吹き込むんじゃねぇぞ!』

『何言ってんのよ。自分で連れて来といてそれはないんじゃない? それに私が何を教えても、覚えるか覚えないかはこの子次第じゃないの~。ねぇ~? っと』

『あ……加州雄です』

『カズオちゃんね。感じいいわこの子。磨き甲斐あるわよ~』

『冗談言ってないで、酒作れよ。ママ』

『あら。ごめんなさ~い。カズオちゃんは? 何にするの? お酒はダメよね』

『あ、コーラで……』

『は~い。あけみちゃ~ん! コーラの濃い~の持ってきてぇ~。今晩この子落とすから~』

『ば~か。そんな事したらコイツが腹壊すだけだろ。オイ! 加州雄。このオッサンには気をつけろよ』

『ちょっと待てやぁコラ~!! 誰がオッサンじゃぁ~!! NGワード言いやがったなぁ! ぶっ殺してやる!! みんな~! まぁくんの一気が始まるわよぉ~!!』

『『『おおおおおぉ!!!』』』

『『『♪まぁくんの男らしい一気が見てみたい♪!! 一気! 一気! 一気! 一気! 一気!! わぁーー!!』』』

 

 店に入ってから、ものの30分も経ってないのに兄貴は一気飲みでグラスを空けた。

 ひぇ~。

 何だよこの雰囲気。すっげ~!!

 大人の世界って、こんななの?

 着飾った女(?)の人達、子供のように燥ぐ大人たち。

 煌びやかな世界を目の前に俺はワクワクが止まらなかった。

 未成年の俺にとって、何もかも初めての体験だ。

 

 俺は純子ママの軽快な会話に、当たり前のように引き込まれていった。

 会話だけではない。手振り身振りが見ていて気持ちが良いのだ。

 気持ちが良いと言うのが妥当かどうかは分らないが、流れるような動作が見ていて飽きないっていうか。

 俺は、純子ママの美しい手の動きに見惚れていた。

 

 この人……男なんだよな~? さっき(やから)飛ばした時、さすがの迫力に『わ! 男出た!』って思ったけど……すっげぇなぁ。

 今は、女の人にしか見えないや。

 腕なんか真っ白で、染みひとつ無いっていうか……日焼けとか、半端ないぐらい気ぃつけてるんだろうなぁ。

 肌もなんかふわふわしてそうで……触ってみたいなぁ。

 背は高い方だよな……170……以上はあるよな。

 スリットから見え隠れする太腿なんか、モロ女。

 男の足みたいに筋肉質でもないし……最近流行っている棒のような太腿でもない。

 お尻から膝に向かっていい感じに細くなっている……。

 作ってるのか、持ってるものなのか分かんないけど……触らせてくれないかなぁ。

 

 などと思いながら、純子ママの肢体に魅入っているとママと目が合った。

 おっ、ビックリしたぁ~。

 薄っすらと浮かべている笑みに、俺は心臓が飛び出るかと思うぐらいドキッとした。

 顔も綺麗だよなぁ。

 整ってるっていうか……肌もすべすべしてそうで……。

 ……見過ぎだ……な。ちょっと失礼だよな。 

 ま、まぁ。こんな事は、男として正常な反応だろうと思う。

 いくら男であっても完璧なまでの女。

 世間の女性達よ……女に生まれたからと言って、胡坐掻いてる場合じゃないぞ。

 あんまりジロジロ見るのも失礼かと思い視線を逸らすが、ついつい俺の目が純子さんを追いかけてしまう。

 チラチラと彼女を盗み見ては、周りをキョロキョロと見回す。

 そんな挙動不審な俺に、純子さんがウィンクをしてニコっと笑ってくれた。

 そして、席を立ったかと思ったら俺の横にすっと腰を下ろした。

 ウオ! ち、近い。

 彼女は俺を見て、微笑みながら俺の手を取り、自分の手のひらに乗せた。

 

「綺麗な指をしているのね」

 

 低音だが耳障りの良い声。

 彼女はそう言うと、テーブルの上の小さなスプーンをそっと持ち上げた。

 スプーンでアイスクリームの上に掛かっている苺ジャムをほんの少しだけ掬うと、俺の中指の爪の上に乗せ、俺の爪をピンク色に染めた。

 

「うふ♡ やっぱり。ピンクが似合うわ」

 

 そう言って悪戯っぽく笑うと、俺の目を見つめたまま俺の指を持ち上げた。

 な、何ですか? 何するんですかぁ?

 彼女はジャムでピンク色に染まった俺の指を、そっと口に含んだ。

 

 ボン!! プシュー……。プスプスプス……。

 

 その瞬間、俺の身体の中の全ての回線が……ショートした。

 いや、ショートする前に電流が走った。ってのが正解だ。

 男だと分っているのに何でだ? 気持ち悪くない……。

 だってぇ! キレイなんだも~ん。

 やば! 

 

「うふ♡ 満更じゃないわよね。カズオちゃん♡」

「うぃっす。メロメロですよぉ。ママ」

「んっ。憎らし~い。上手くあしらわれちゃったぁ~」

 

 ママがしな垂れ掛かるように俺に抱きついた。

 ああ、いい匂いだぁ。

 ずっと嗅いでいたい……って、俺は変態か!

 

 『変態』__。

 何でこの世に、こんな言葉があるんだろう。

 

 実際、俺は変態かも知れないと思っていた。俺は女の子が好きなのだ。

 当たり前だと思うだろうが……異常に好きなのだ。

 これも、人によっては……と思うだろうが……。好きで好きで堪らないのだ。

 俺の部屋には、ボンッ、キュッ、ボンッ。のポスターが一杯張ってある。

 普通の男子……思春期の男の部屋だ。ポスターを見ながら身悶える事だってある。

 俺だって健全な1人の男だからな。

 

 男の奴等がこんなポスターをどんな思いで眺めているかを知ってるか?

 触りたい……抱きたい。×××××した~い!  って。

 はぁはぁ……。 すまない……興奮してしまった。

 だいたい予想はつくと思う。だろ?

 

 しかし、俺は違うんだ。

 俺は、俺は、俺はあの豊満な胸、括れたウエスト、肩に突き抜けるような鎖骨、甘い果汁が詰まっているかのようなヒップ……。

 あれもこれも何もかも! 俺の物にしたいんだぁーー!

 ……伝わっているか? 言い換えよう。

 そう。俺はあんな風になりたいんだ……。

 

 小学校の頃、同級生の女の子が持っていた髪留めが欲しいと思ったのが最初だ。

 クラスで一番可愛い女の子……その子の持ち物が欲しいと、男なら誰もが思っても可笑しくなかった。

 それを持っているだけで一緒にいるような気分になれるとか……。

 その子との距離が縮まったような錯覚……とか。

 

 だが、俺は違うんだ。

 それを身につけることで彼女のようになれるかも……って思ったんだ。

 友達が彼女に対する思いや考え方を聞きながら、焦りに近い……嫌な汗を掻いたのを覚えている。

 

 それからは、友達と同じ感覚を養おうと努力した。

 彼らが思うように、感じるように、感じた時どんな行動を取るのか……真似てみた。

 だが、どれも俺とは違うと思い知らされるばかりだった。

 ナニカガ……チガウ。ナニカ……ヘンダ。オレガ……ヘンナノカ?

 

 そう思った。

 

 それから俺は、俺自身を見なくなった。

 人に合わせ、人の言う事に何でも頷き。冗談を言い、いつもふざけて……道化だな。

 クラスで1番面白い人であり続けた。クラスで1番変な人になりたくないからな……。

 

 だが、そんな俺にも転機が訪れたんだ。

 そう、女の子を好きになったんだ。

 それが、晴華だ。

 俺は晴華に夢中だった。晴華派・彩派ができたのもその頃。

 晴華の一挙一動が俺をどれだけウキウキさせたことか……その頃から、俺には信頼できる俺だけの相棒ができたんだ。ちょっと遅いかも知れないが……。ほっとけ!

 

 やがて、いつも遠巻きに晴華を見ることしかできなかった俺と晴華には、別れがやって来た。

 卒業だ……。

 俺は俺自身を恨んだよ。心底恨んだよ。最後の最後まで……晴華に近寄る事さえできなかった、小心者の自分を憎んだ。

 

 高校に入って、ただなんとなく過ぎていく日々。学校へ行くのも親の手前みたいな……。

 そんなある日、通学電車の中で凄く綺麗な女の人を見たんだ。

 周りの男どもが落ち着かないのが手に取るように分る。マジ、スッゲ~美人だった。

 勿論、俺ももれなく落ち着かない男どもの仲間に入っていたさ。

 彼女は周りの視線なんか何処吹く風って感じで、目的の駅に着くとさっさと電車から降りていった。ま、あたりまえだわな。

 俺が思うに、彼女に釣られて降りた奴もいるんじゃないかな? 

 

 問題はその後だ。俺は彼女が座っていたシートから目が離せなかった。

 ドキドキ……胸の鼓動が、だんだん大きくなってくる。

 ジリジリとその席に近寄り……まるで、フワフワのソファにでも腰を下ろすような気分で、シートに座った。変だろ?

 その席に座って、彼女を感じた時……俺は悟ったんだ。何も変わってないって……。

 愕然としたよ。

 だって、俺はちゃんと女の子が好きで(まだ、晴華のことが好きだったんだな)思い浮かべて、恋しくて、恋しさ故に身悶えて……何処にでもいる男の気持ちや、感覚を身につけていると思っていたんだから。

 友達と女の話をしていても『そうそう……そういうの、堪らないよなぁ』なんて共感してたんだから。

 なのに、その席に座った俺が何を考えたと思う? 何を呟いたと思う?

 

 “ 俺は彼女のようになりたい……。”

 

 へっ(笑)……だとよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ