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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
45/146

45.知らないうちに……。

 

 ヒロさんに買ってもらった服を着て、

 (結局、買ってもらった。誕生日のお祝いという名目で……)


 次に行ったのは、美容院だ。


 まるで、映画のワンシーンみたいだ。

 冴えない女の子を淑女に仕上げていく、シンデレラストーリーの映画見たことないか?

 そんな感じだ。


 綺麗にセットされた髪、高級ブランドの服、バッグ、靴。


 俺は膝上15cmのミニスカートを、初めて身につけた。

 ミニは着たことはあるけど、冬限定。

 ブーツを履くからな。


 基本、膝から下は出したことがない。

 俺の美的感覚では、男の足はやっぱりオトコなんだ。

 筋肉質で……。


 ホルモン療法を始めるとまた、変っていくのかもしれないが。

 それまでは……。

 俺は、少しでも男の部分を人の目に晒すのが嫌なんだな。


 だが、今日は違う。

 自分の要求が通るとは思えない。

 なんて言うか……。


 俺はまるで、人身御供にでもなった気分だ。

 これから、誰に捧げられるんだぁ? 神か、悪魔か……。ヒロさんか?



 綺麗に着飾らされて、


『さあ、こっちにおいで。そして、その服をお脱ぎ……』



 わ~。ウソだろう! 冗談じゃないぜぇ。

 どうしよう、そうなったらホントにどうしよう。

 うぅ、パンツ……。


 俺が美容院のドアを開け、外へ出ると。

 ヒロさんは、車の外でタバコを吸っていた。


 俺に気づくなり、タバコを携帯灰皿に入れる。

 うん。エチケットだな。


「おっ。終わったか?」


 ヒロさんは俺に近づきながら、まるで品定めをしているように、俺を頭の先から足の先まで眺めた。


「う~ん。よし! まひる、女が上ったなぁ。とても、綺麗だ」


 と言って、俺の肩に手をおき……。

 おでこに“Chu♡”


 へっ? チュッ? な、なに~!!

 ぎゃ~! や、や、やられちまったぁ~!

 こんなの、ありかよぉ~。

 恐れていたことが……。まさか……、この後……。


 俺は一瞬で、身体を強張らせた


「おっと、失礼。あまりに可愛いので、つい……。ハハハ、恐がるはことない。取って食う気はないよ、安心しなさい」


 ウソだ! 絶対、ウソだぁ。

 俺は疑いの目を向けた。

 多分、涙目になっていると思う。


 ヒロさんはホールドアップしながら微笑み、首を左右に振った。

 と、とにかく気をつけよう。


 車に乗り込むとヒロさんが、俺に薄い箱を差し出した。


「コレは?」

「開けてごらん」


 箱を開けると……。

 黒いレースの手袋。


「日焼けを気にしていそうだったから……。つけていなさい、その服にも合う」

「あ、ありがとうございます」


 わぁ、こんなの欲しかったんだよな~。

 ん~、誤魔化されてる気がしないでもないが……。


 にしても……、女心をよく分かってらっしゃる。

 ここまでされたら、女はイチコロだぜ。

 たいしたもんだわぁ。オトナだねぇ。


 その後、俺たちは日本料理の店へ行き。

 鹿威しのある庭が見える部屋で、食事をした。


「フフ……。まひるは、本当に美味しそうに食べるなぁ」

「だって、本当に美味しいんですもん!」


 美味いもんは、美味い! これ、にっぽんの常識ね。


「まひるは、好きな子がいるのかい?」

「え? あ、はい、います」


 俺は勢い良く答えた。いい返事だぞ。

 そうだ、俺は好きな女の子がいて、男なんかに興味はないってことを悟らせるんだ。


「アハハハ……、まひる。ここは、ふつう嘘をつくところだろう?」

「あっ。そ、そうですよね。お、俺……。あっ、私……」

「ハハハ。それに、外では男同士だ。俺でいいよ」

「でも、こんな格好で“俺”はないでしょうに……」


 ふっ。そうだよな、晴華。


 世間話をしながら食事をすませ、俺たちは“美無麗”へ。

 いわゆる同伴だ。


 俺の服を見る凜さんの目が……、イタイ。


「まひる。まさかと思うけど……」

「大丈夫ですって。誕生日のプレゼント貰って、食事をして、ここへ直行ですよ」

「そうなの? ホントよね? まひるぅ」

「本当です。ヒロさんに聞いてみてください」

「聞けないわよぉ~。まひるのバカぁ」


 はいはい。バカで結構。だから泣かないでくれ。


「凜さん。化粧が崩れますよ。ヒロさんが、待ってます。テーブルについてください」

「うん……。うん」


 ああ。こんな事は、これっきりにして欲しいよぉ。

 まったく……。はぁ、疲れたぁ。



 しかし、翌週__。


 ヒロさんから電話が、かかってきた。


「まひる。ボーリングに行かないか?」

「ボーリング? マジですか?」

「ああ。マジさ、男の格好でいいぞ。久しぶりに、身体を動かしたくなったんだ」


 俺は、兄貴に服を借りた。

 普段しないような格好をして、男をアピる。


「ち~っす。今日は、ベンツじゃないんっすか?」


 俺は待ち合わせの場所で、本を読みながらタバコを吸っているヒロさんの後ろから声をかけた。

 ヒロさんは振り向いて俺をじっと見ると、ふっと小さく笑い、


「いや。車は、待たせてある。さ、行こうか」


 ヒロさんは、そう言うとタバコを携帯灰皿に入れて歩き出した。

 な、なんだよ。今の笑いは……。

 気分ワルぅ。


 ボーリングをした後。俺はまた、服を買ってもらった。

 お披露目付きのな……。


 ホテルでフルコースを食べた後、店へ……。



 凜さんが、悲しそうに俺を見て……。顔を背けた。

 あ~ん。違うんだよぉ~。誤解だぁ~。



「ヒロさ~ん。勘弁して下さいよぉ。俺、お姉さん達から睨まれてんっすよぉ。仕事し辛くって」

「それは、大変だねぇ。ハハハハ」

「笑い事じゃないっすよぉ」


 ヒロさんは色んなことを教えてくれる。

 仕事のこと、世界情勢、経済、今まで口説いた女の数。

 ゲイだという事は言わないが……。

 知ってるもんねぇ。べぇ~だ。


 俺たちは、ふつうに仲良くなっていった。

 兄弟のように、もしくは親子のように。


 いきなり電話がかかってきて、


「近くまで来てるんだ。コーヒーでも飲まないか?」


 なんて……。言うのが、何回かあった。


 この人、ちゃんと仕事してんのぉ?

 俺は、今日も寝起きのボサボサ頭で出かけた。


「おいおい。チャンピオン台無しだなぁ」

「もう、いつの事を言ってるんですかぁ。あふ~」


 アクビをするのも平気だ。

 コーヒーショップのカウンターに並んですわり、店の外を行き交う人たちを眺めながら冗談を言い合う。


「今の子。足、キレ~。俺は、足フェチだなぁ」

「そうか。私は髪だな。あと……、手もかな?」


 そう言いながらヒロさんは、俺の手の上に自分の手を重ねた。


「ま、また~。手は手でも、女の手でしょ~」


 誤魔化しながら、スルっと手を抜き取る。

 最近、ボディタッチが増えてきたような気がする。


 いよいよ。パンツを二枚ばきにするときが来たかぁ?


「まひる。後ろ向いて」

「は? はい。こうですか?」


 髪を弄られてる? 何してんだ?


 ヒロさんは俺の髪を一本の三つ編みに、編み上げた。

 そして、どこから出してきたのか? 

 鍔の長いキャップを、俺の頭に乗せ。


「よし、行くぞ」

「え? い、行くって。俺、寝起きのままですってぇ」

「いいんだ。その格好でも平気なところがある」


 いやいや。平気な場所じゃないだろ~。

 平気かどうかは、俺が決めることなんだけどなぁ。

 とりあえず俺は寝起きのままの格好に、キャップを被らされてヒロさんに着いて行った。


「え? ここですか?」

「そうだ。学生の頃、よく通ったもんだ。授業も受けずに入り浸っていた」

「へ~。そうなんだぁ、以外だなぁ」

「そうかい? ギャンブルは好きだぞ。勝ったときの高揚感と、負けたときの絶望感。ジェットコースター並みだ。アハハハハ」

「へぇ~、変ってるよなぁ」

「いくぞ。まひる」

「あいよ~」


 俺達は、パチンコ屋に入った。

 俺は子供の頃、父ちゃんについてきた事があるくらいで何も知らない。

 まぁ、今も……父ちゃんについて来てるみたいなもんだな。


 ヒロさんは、ピエロの絵が書いてあるパネルのパチスロ台に座った。

 俺がその隣に座って、見よう見真似で打っていると。


 “ガコッ!”


 ん? なんだ?

 あっ。何か光ってる。


「お! まひる。やったな、ビギナーズ・ラックだ」

「え? どうしたらいいんですか?」

「“7”を揃えるんだ」

「見えませんよぉ。こんなの」

「そうなのか?」


 というと、俺の前にスッと手を伸ばしてきて、ポンッポンッポンッと、ボタンを押した。


「うわ! 並んだ! すごっ。見えるんですか?」

「ああ。この程度の動体視力なら、誰でも練習しだいで身に付くよ」

「へぇ~。そうなんだぁ」


 う~ん。見えないなぁ。

 俺が悪戦苦闘していると、ヒロさんが時計を見た。

 そして、


「まひる。着替えに行くぞ」

「え? 着替えって……」

「食事だ。そのままじゃ行けないだろう」

「俺、帰ります。一度、戻ってから……。でないと、何も持ってきてないし……」

「かまわない。帰りは、送らせるから心配しなくていい」

「でも……」


 ヒロさんは、さっさと前を歩いて行った。


 かぁ~。強引というか、自分勝手というかぁ。

 ったくぅ……。


 でも、イヤな気がしない。

 ヒロさんは、なんていうか……。頼れる兄貴って感じだな。


「店に行くのは今日が最後だ」

「え?」


 突然、ヒロさんがそう言った。


 チクッ……。


 何かが、俺の胸の奥を刺した。

 その途端、胸がドキドキして絞めつけられるように苦しくなった。


 どうしたんだ? 俺。

 何で、こんなに苦しいんだ?


「ヒロさん。もう、帰っちゃうんですか? 俺、ヒロさんにもらってばっかりで、何も返してません」


 俺は、何を焦ってるんだ?

 まるで、引き止めてるみたいじゃないかぁ。



「まひる。じゃ、その代わりに……。もう1日だけ、私にお前の時間をくれないか?」



 俺を見つめる、ヒロさんの瞳に魅入られてしまたのか……。




 俺は“No”と、言えなかった__。














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