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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
42/146

42.誕生日プレゼント

 


 一回目のショータイムが終わった。 

 俺は、花やプレゼントのお礼に各テーブルを回る。


 長尾たちが、バタバタしだした。

 入れ替えか……。よし、化粧直しだ


 控え室に入ると、凜さんが


「まひるぅ。凄いじゃなぁい。帰りにお花、少しちょうだいねぇ」

「はい。いいですよ。私の家には入りきれませんから。母は喜ぶと思うけど」

「お母さん、お花好きなの?」

「ええ。大好きですよ。家の周りなんか鉢植えがズラっと並んでます」

「うふ。何か、想像できるからいいわぁ。私もしばらく帰ってないし……」

「実家にですか? なんで?」

「うふ、バカね。こんな姿になった息子が帰ってきたら、それこそ噂のネタにされるだけ。私は帰るからいいけど、家族は違う。『息子が何しようっても、どげんことなか!』なんて、開き直れる人達じゃないからさ」

「そうなんだぁ……。色々ありますよねぇ」

「そう、人生色々よ」


 そう言って、凜さんは寂びしそうに笑った。

 それから、次々とお姉さん達が花を持って帰りたいと言ってきた。


 ホラな。皆、ふつうに女なんだ。

 男が花なんか欲しいって言うかぁ? ないない。


 部屋に飾って、ウキウキしながら愛でるんだよ。

 可愛いよなぁ。感動しちゃうよ。

 お姉さん達は、真剣に女を生きてる。

 心底、女なんだ。


 家族に理解してもらってるお姉さんや、そうでないお姉さん。

 彼氏がいて幸せそうな人もいる。まぁ、この場合BLなんだけど……。

 この前なんか、皐月さんが


『あ~ん。アイツぅ、女と浮気してたぁ! 殺してやるぅ』


 って、叫んでた。

 マジかよぉ。両方イケんのかぁ、すげぇなぁ。

 なんて、思ってたけど。これも、人生色々のうちか?


 俺の人生は……。

 次に、赤フチに会う時『性転換手術受けます』って、言おうと決心している。

 その為に晴華から遠ざかった。


 晴華に話してからでもよかったんだが、彼女の顔を見ると……男になってしまう。

 踏ん切りがついてないのかな……。

 たかだか、晴華が他の男と話してただけで……。


 女になりたい気持ちは変わってない。

 それどころか、早くって思うほどさ。

 ふむ。なんか、考えが錯綜してるな……。

 こんなんで赤フチに会っても、ちゃんと話せるかどうか……。


「お客様ぁ。入りま~す」


 ボーイが控え室に顔を出して、俺たちに声をかけた。


「「「はぁ~い!」」」


 扉の前にズラッと並んで、お客様を迎える。

 圧巻だぞ。


 そして、扉が開く__。


「「「「いらっしゃいませ~!」」」」


「おめでとう! まひるぅ」

「ありがとう!」

「きゃ~! まひるだぁ!」

「だっこしてぇ!」

「ダメ~。私ぃ~」


 この手のファンは多い。

 イヤじゃない。俺は女が好きだから。テヘ。

 女の子を抱き締めるのは好きだ。柔らくて、フワフワしてて……。

 そして、俺も抱かれたい、抱き締められたいと思う。


 そこんとこ微妙なんだなぁ。

 男に抱き締められたいんじゃないんだよなぁ

 ふむ。レズ疑惑、再び……。


 2回目のショーが始まった。

 あれ? あそこ前の席……。まだ、誰も来てないのか?

 ショー、始まったぞぉ。


「今日は、まひるの誕生日に来てくださり、ありがとうございます。見ましたぁ? あの花、花、花」

「「「見たぁ~!!」」」

「もう! 悔しいわ! あんなにお花をもらえるなんてぇ。羨ましいったらありゃしない! そう思わなぁい?」

「「「思うぅ~!!」」」

「そうよぉ。花を贈られるって、女の幸せのひとつよねぇ。まひる! ここへ来て、ちゃんとお礼言いなさい!」

「「「そうだぁ! まひる~! 言え~!」」」


 茜さんがステージから俺を呼んだ。

 照れるなぁ。


 俺はドレスを摘んで、テレテレでステージに上がる。


「今日は本当にありがとうござます。まひる、最高に幸せですぅ!」 


 そこまで言ったとき、扉が開いた。

 ここからは遠くて見えない。さっきの空席のお客だな。

 ショーは、もう終わったよ。残念だな。

 しかたない、俺がサービスしてやるか。


「いらっしゃませ~。今、お着きですかぁ? 今、あなたの噂してたとこなのよぉ。遅いわねって、あんまり心配かけないでよねぇ」


 お客がどっと笑う。

 だが、俺は長尾に案内されている客を見て言葉に詰まった。


 晴華……? ……彩。


「あ、あ……。い、いらっ……しゃい……ま……せ。ようこ……そ」


 なんで? 

 あ、どうしよう……。

 急に頭の中が、真っ白になってしまった。


「……」

「あら~! 残念ねぇ。ショーは終わったけど、まひるがサービスするから待っててねぇ~」


 俺の様子に気づいたのか、茜さんが咄嗟にフォローに入ってくれた。


「いいなぁ~。私にもサービスしてよぉ。まひるぅ」

「あとでねぇ」


 俺はウィンクをしながら……。

 急いで、控え室に向かった。


 何故だ? なんで晴華が来るんだ。

 ……彩だ。彩の考えだ。きっと、そうだ。


「お~い。まひる、なにやってんだぁ? 晴華ちゃん来たぞ~」

「おい! 長尾。お前、知ってたのかよ」

「ああ、彩ちゃんに頼まれてさ。ホラ、ここ。いろどり様って」

「いろどり様ぁ?」


 ほんとだ、書いてある。気づかなかった……。

 ったく、定食の名前じゃないってんだよ!


「彩ちゃんだから、“いろどり”っていいだろぉ?」

「よ、よけいな……」

「へ? 会いたかったんじゃないのか? 彩ちゃん、そう言ってたぞ。早く行けよ。待ってるぞ」


 くっ。せっかく……。晴華断ちしてたのに……。

 彩の奴……。微妙だけど……。


 う、嬉しいじゃないかぁ~!


 化粧、直さなきゃぁ~。

 晴華はぁ、ピンクが似合うねって言ってくれたんだぁ~。

 あ~ん。片眉、薄くなってるぅ~。描いて、描いて。

 うん。キリッっと眉になったぁ。

 テカリも押さえてっと。

 よし! カ・ン・ペ・キ! まひるぅ。


 で、深呼吸……。

 顔を作り直す……。けだるく……、苦悩……、憂い……。

 よし……。


「おまたせ~」


 俺は、晴華の前に立った。

 そのとたん、作った顔はどっかへいった。アハ。


「ま、まひる。お誕生日おめでとう」


 おずおずと差し出すその手には、花が……。

 晴華……。


「ちょっとぉ。何とか言いなさいよぉ」


 くっ、黙ってろ……お前は後だ。

 今は、晴華だ。

 こんなに緊張して……上目遣いが……。

 可愛い、上目遣いが……。

 “媚”になってしまっている。


 俺に媚なんか売るなよ! 媚びるなよ! 

 くっ……。


「晴華ぁ、久しぶりぃ。ありがとう」

「かず……、ま、まひるの言った通りね。お客さんいっぱい、凄い。外のお花も凄いね」

「うん。ほんと、ありがたいわ。感謝してるの。晴華、帰りにお花持って帰ってね」

「え? いいの? ホントに?」

「うん。お姉さん達も、持って帰るのよ。だって、誕生日は今日だけだもの。お花は、まだまだ咲けるのよ。長生きさせてあげて」

「うん。わかったぁ。ありがとう!」


 晴華ぁ。素直だよなぁ。

 お前を見ているだけで、俺の周りは「お花畑」になってしまうぜぇ。


「はんっ! 絞まりのない顔しちゃってさぁ。見てられないわねぇ」

「言っとけ!」


 俺は晴華から、目が離せなかった。

 俺たちは、まるで空白の時間を埋めるように……喋り捲くった。

 楽しかったぞぉ! 


 晴華の顔がどんどん変わっていくんだ。

 明るく、朗らかに変わっていくんだ。


 よかった。あんなふうに……、俺を見てはいけない。

 機嫌をとるように、俺と接してはいけない。

 そうさせていたのは、俺だけど……。


「ごめん。私、ちょっとお手洗い」

「「うん。いってらっしゃ~い」」


 晴華が席を立つとすぐさま、俺と彩は顔を付き合わせた。


「お前な~! いらん、お節介やいてんじゃねぇぞぉ!」

「あ~ら。そんなこと言われる筋合いはないわぁ。鼻の下デレ~と伸ばしてたのは誰かしらぁ?」

「鼻……。な、なに言ってんだぁ? 俺がいつ鼻の下伸ばしたんだよ!」

「鏡でもみたらぁ~? 鼻の下が床に引きずってるわよぉ~。お~っほっほっほっほ」


 かぁ~! ムカつくぅ~!


「いい加減にしろよぉ~!」


 拳を握る手に、力が入る。


「おまたせ~。ちょっとね、長尾くんとお話してたの」


 晴華が戻ってきた。


「「おかえり~」」

「なに? また、喧嘩してたの?」

「「そ、そんなことないわよぉ。ねぇ~」」


 俺と彩はテーブルの下で蹴り合いながら、笑顔を作った。


「最近、私とまひるは仲がいいのよぉ。ねぇ、まひるぅ」

「そ、そうよぉ。だってぇ、私たち幼馴染だもんねぇ」


 彩と俺は顔を引きつらせながら、笑顔で答える。


「この間もさぁ~。秘密を打ち明けてくれた……痛ったぁ!」

「まあ! 彩ちゃん、どうしたのぉ!」

「アンタの足が、私の足の上に乗ってんのよ!」

「へっ? あ~ら、気がつかなかったわぁ~。ごめんなさいねぇ」

「アンタねぇ~!!!」

「どうしたのよぉ、二人共ぉ!」


 晴華が慌てて立ち上がった。

 ちっ! ここまでだ、覚えてろよ。彩!


 そして、閉店間際までいた晴華と彩をエレベーターまで送った。

 長尾が晴華を楽しませながら前を歩いてる。


「ねぇ、加州雄」

「なんだよ!」

「一々、突っ掛からないでよ……。ゲリラ……、悪く思わないでよ」

「あ、あぁ、そうだな。礼、言うべき……だな」

「そんなの、いらない。ただ……」


「ただ?」


「男とか、女とかじゃなくて……


 人として……


 人を、傷つけないで……」



 そう言って、俺を見上げる……。



 彩のデッカイ瞳が……、潤んでいた。






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