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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
41/146

41.花と俺。

 


『イベントなんて知らないよ。アイツの誕生日は皆に宣伝してあるから、イベントみたいなもんだけどさ』


 やっぱり……。あのバカ!

 自分のことばっかり考えて……晴華の気持ちなんか、ちっとも分かってない。


 会わなくなったら自然消滅するとでも思ってんのかね?

 お互い中学から好き同士で……。まぁ、その事をお互い知らなかったんだけどね。

 だけど、ずっと会ってなかったにもかかわらず今の、今まで好きだったくせに。


 会わないだけで消滅するくらいなら、とっくに消えてるよアンタなんか。

 晴華の心の中から……。

 そうじゃないから、今なのに……。ったく、分かってないんだから。


『そうよねぇ~。アイツの誕生日だからイベントみたいなもんって、聞き間違えてのかもぉ』

『きっとそうだよ。で? やんの? サプライズ』

『うん。おもしろそうじゃない?』

『いいよ。俺も混ぜてくれるよね?』

『当然よぉ。長尾がキーマンなんだからぁ』

『そ、そうなのかぁ? 彩ちゃんに言われると、メチャうれしいなぁ』

『だから。さっき言ってたように、予約しといてくれる?』

『いいよ。任せといて、いい席とっとくよ』

『ありがとう! 感謝するわぁ』

『で、プレゼントとかは? 決まってんの? 俺、準備しようか?』

『それは大丈夫。もう決まってるから』

『へ~。ちなみに、何? 教えてくれる?』

『晴華よ』

『へっ? 晴華ちゃん? なんで?』

『あの二人、最近会ってないのよねぇ。加州雄のバカがバイトばっかして、何考えてんのか……』


 何考えてるのかは、手に取るように分かる。

 私を見くびるんじゃないわよ。


『そうなんだぁ。で、キューピットってか? 優しいなぁ。彩ちゃんはぁ』

『ま、そんなとこね。加州雄のバカのことはどうでもいいけど。晴華が可哀そうでさ』

『そうだよなぁ。女を待たす男はダメだよね。彩ちゃん』

『まっ。人によりけりだけどね』

『そ、そうだよね。よりけりだよね。彩ちゃん』

『とにかく、加州雄にはバレないようにお願いね』

『承知! だけど、バカだよなアイツも。会えなくて自棄になるんだったら、会えばいいのに』

『何のこと?』

『え? 晴華ちゃんと会えないから自棄になってんじゃないの? アイツ』

『ヤケって?』

『アイツ。毎日、ぐでんぐでんに酔っ払ってさ。最近、変だなって思ってたんだよ』


 なんですってぇ? 毎日、酔っ払ってるですってぇ?

 自分で勝手に晴華を遠ざけておいて、自分はヤケ酒くらってるってかぁ?

 はっ! まったく、呆れてものが言えないわ。


 待ってなさい! 加州雄。

 思い知らせてやるからね!



 9月14日__。


「ふぇ~。たまんねぇな……この暑さ。30℃超えてるじゃないのかぁ~」

「もう、9月の半ばだぜ。さすがにそれはないだろ。お前、髪切れよ。ちょっとはマシになるんじゃないか?」

「ば~か。これは俺の商売道具だ。ここまでするのに大変だったんだから、簡単に切れるか!」

「だよな~! 去年の大学祭。驚いたもんな~! いや~。参った参った。俺はお前に惚れちまうかと思ったよ」

「はっ! 言っとけ。俺は男に興味はない。それに純愛なんだ」

「晴華ちゃ~ん!! ってか?」

「うるせーよ!」


 今日は俺の誕生日だ。

 昨日、店の予約表を見てみたら、結構な組数が書いてあった。

 頑張るぞ~! 今日はチップも期待できそうだしなぁ~。

 いつ稼ぐ? 今でしょ! 


「なぁ、カズオぉ。最近、晴華ちゃんと会ってんの?」

「え? なんでだ?」

「い、いや。お前バイトばっかしてるしさ。い、今『純愛』って言ってたじゃん」

「あぁ、そうだな。あんまり……会ってない。ってか、2ヶ月くらい……」

「えっ? 2ヶ月ぅ~? なんでぇ? 何で、そんなことになってんだよ」

「う……ん」


 俺も、分かんなくなってきた。何で晴華を遠ざけてるのか。

 こんな事、意味ないよな。


「長尾……」

「なんだぁ?」

「実は、俺さぁ……」

「ん? 実は?」


 コイツはいい奴だ。

 それに男だし……は関係ないか、ゲイバーのバイトも一緒だし、お姉さん達の事情とかも知ってる。

 だからって、お姉さんの誰々がゲイとかなんとか一切口にしたことはない。

 今、俺がコイツにカミングアウトしたって……。

 そりゃぁ、最初は驚くだろうけどさ。

 コイツなりに、上手く消化してくれるんじゃないかなって思うんだけど。


 でも、俺がやろうとしてることは、晴華に言う前に一人でも多くの味方をつくっておこうって、セコい考えからなんだよな。


 だけど、俺が俺の秘密をひとつでもコイツに渡してしまったら、俺の人生にコイツを巻き込んでしまうかも知れない。なんか、そんな風に考えてしまうんだよ。

 家族は仕方ないとして、彩を巻き込んだ。

 で、長尾……か? 次に、晴華?

 ああぁ。わかんないよぉ。


「何だよ。カズオぉ。何か、言いかけてやめるなよ。気持ち悪いじゃんかぁ」

「すまん。何でもないんだ」

「なんだよぉ……。気になるなぁ」

「何でもないってんだろ。さ、行くぞ。きょうも稼ぐぞ~」

「はぁ~? 何、言ってんだかぁ」




「いらっしゃいませぇ~!」

「まひる。誕生日おめでとう!」

「きゃ~。レイちゃんもマコちゃんも来てくれたんだぁ。ありがとう」

「あたりまえよぉ。私達、まひるのファンなんだからぁ。はい、コレ」

「うわ~! 綺麗なお花ぁ。ありがとう!」


「いらっしゃいませぇ~!」

「カズぅ~。おめでとう!」

「沙也加さん! わぁ、きてくれたんだぁ。嬉しい!」

「あたりまえよぉ。私はカズのファン第1号よ。絶対、お持ち帰りするんだからぁ」

「アハ、沙也加はそればっかりぃ。まひる、おめでと」

「ありがとう。美香さん、ゆっくりしていってねぇ」


「木下さぁん。大きなお花ありがとう。まひる幸せぇ♡」

「おお、まひる。すごい花だな。通路が花だらけじゃないか。ママの誕生日も凄かったが、まひるもたいしたもんだ」

「ありがとうございます」


 綺麗な花を抱えて、お客が次々と来店してくる。


 長尾と店に着いた時、俺達はビックリした。

 エレベーターから店の入り口までズラッと並んだ、花、花、花。

 プレートには“「美無麗。まひるさんへ。お誕生日おめでとう」って書いてある。


「ひゃ~! すっげぇなぁ。カズオぉ!」

「お、おお……」


 さすがに、反応に困る。

 全部、俺宛て?


「なんか、芸能人みたいじゃね? ケイズの方でも誰かの誕生日パーティやってたけど、ここまでじゃなかったねぇ」

「そ、そうか?」


 す、凄すぎる。

 いつのまに、こんなことになってんだぁ?

 俺一人の誕生日に、こんなに……。


「しあわせ……。まひる」

「げっ。いきなり、まひるモードかよぉ。まぁ、分からんでもないがな」

「私ひとりに、こんなに……。お花屋さん、大変だったわね」

「そっちかよぉ。何軒もあるんだから大丈夫だって。って、そんな事どうでもいいじゃん。早く店入ろうぜ」

「ええ」

「だから。やめろって、俺といる時はカズオでいろって」

「なんで? まひるはイヤなの?」

「……殴るぞ」


 そうか……。長尾はイヤなんだ。知らなかった。

 危うく、カミングアウトしそうになったな。

 しばらく、保留だ。アブナイ、アブナイ。


 一回目のショータイムが終わった。

 俺は、花やプレゼントのお礼に各テーブルを回る。


 ありがとう。ありがとう。ありがとう。

 こんなに幸せなのは、私がゲイバーに勤めているから?

 そうよね、最初から女だったらここでバイトすることもないし、女装コンテストに出ることもない。

 普通に女の子で、コンテストを見る側、客席に座ってる側。

 この人達にとって、私はあくまで“綺麗な男”なのよ。


 他のお姉さん達もそう。

 心は真面目に、真剣に女なのに……、お客にとっては究極は男なのよね。


 だからなのかしら? ショータイムがあるのは?

 キャバや、スナック、ラウンジ……。女性がメインの店では“女”ってだけで客が来るもの。

 可愛い女の子や、綺麗な人に入れあげて金を使い捲くるオッサンなんかもいる。


 だけど、私たちには、少なくともこの店のお客にはそんな人はいない。

 あくまで“男”なのよ。


 私を女として見ている人がこの中に、どれ程いるのかしら?




 私を女として……。




 愛してくれる人がいるのかしら……。












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