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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
40/146

40.傷つけたくない。

 

 9月に入って、久しぶりに晴華から電話が掛かってきた。


 着信音と同時に携帯の画面に映し出される「はるか」の文字に懐かしさが込み上げる。

 画面なんて見なくたって晴華の電話はわかる。着信音で……。

 だけど俺は、画面を見て確かめた。


 ずっと、晴華からは電話はなかった。そう、あの日以来だ。


『バイトは休まない。……ずっと』


 晴華の言葉を遮って、彼女に寂しい思いをさせた。

 もちろん、俺もかけてはいない。


 どうしたんだろう? 急に……でもないか。

 画面をタップするかどうか迷ってしまう。

 以前、約束したことがあった


「掛かってきた電話は無視しない」


 けれど、この電話を取ってしまうと。

 おれの決心が……。

 いや、ダメだ。それとこれとは関係ない。


 俺は人差し指で画面に触れた。

 しかし、呼び出し音が鳴りやんでしまった。

 迷ってる時間が、ちょっと長すぎたな。

 待てなかったか……。


 と、思っていたら。また、掛かってきた。

 俺は、すぐに画面をタップする。


『もしもし? 晴華?』

『あ、もしもし、加州雄……。ひ、久しぶり』


 晴華……。緊張してる……? 

 可哀そうに、よっぽど勇気を振り絞って掛けてきたんだろうな。

 胸が痛むな。……ごめんよ。

 だから、俺は。


『よぉ! 久しぶりだなぁ。元気だったかぁ?』


 晴華を不安にさせない為にも、できるだけ明るく話すんだ。


『う……ん。加州雄も……。忙しい?』

『まぁ。ボチボチかなぁ』

『そうなんだ。全然、バイトお休みしてないの? 疲れてない?』


 心配してくれんのか? 晴華。優しいな……。


『大丈夫さ。別に肉体労働ってわけじゃないし、結構、楽しくやってるよ』

『そう、それならいいんだけど……』


 やっぱ、しゃべりにくいかなぁ?

 そうだよな、あんな別れ方したんだから仕方ないか。

 晴華にとっては、一杯一杯なんだろなぁ。

 こんな元気のない晴華の声を聞いてると胸が苦しいよ。

 俺のせいだけどな。


『で? どうしたんだ? 今日は』

『あっ、あのね。来週、加州雄の誕生日だから。少しでも、会えないか……』

『あー!! 来週のイベント俺の誕生日と、被んのかぁ!』


 あ~、俺って最低……。また、晴華の話しに被らせてしまった。

 だって、この方法しか思いつかないんだよぉ。


『え? イベント?』

『あぁ。内容はよく分からないけど、ママがそんなこと言ってた』


 ウソだよ。


『そ、そうなんだ。じゃ、忙しくなるね』

『そうだな。ダンスの練習なんかもしなくちゃならないし……。俺、新しい衣装着せてもらえるんだぁ~。ヘヘェ』

『そうなのぉ。見てみたいなぁ、私もぉ』

『……そのうちな』


 くっ、バカ。なにも、そこまで素っ気なくすることないだろ! 

 何やってんだよ。晴華を傷つけてどうすんだよ。


『う、う……ん。そうだね』

『ごめんよ。何か、バタバタしちゃってて……』

『ううん。色々あるよね。仕方ないよ。ねぇ、加州雄……。もし……』

『ん? もし?』

『あっ。ううん、やっぱり何でもない。また、電話してもいい?』


 あぁ。こんな俺に、そんな風にお願いしてくれんのかよぉ。

 なんて可愛いんだ。俺はせつないぞぉ~!


『いいに決まってんじゃん。でも、取れないときがあるかも知れないし……その時は、勘弁な』


 うう、これが精一杯だ。傷ついてないかなぁ? 大丈夫かなぁ~?


『う、うん。わかったぁ。その時は、また掛け直すね』


 う、うそだろ? そこまでしてくれんのかぁ? 

 晴華ぁ。お前は、俺のマリア様だぁ~!


『い、いや。そんなの、わ、悪いじゃん。こっちからかけ直すからいいって……。そこまでしなくても』

『ううん。私が、そうしたいの。ね、じゃ」


 プツ……。

 へっ? 切れた? 晴華?


『もしもし……?』


 へ? 切れてるよ。おい。

 ん?……最後の言葉……。何か、強気に感じだけど気のせいかな?


 それにしても、俺はいったい何がしたいんだぁ?

 手術を受けるって決めたじゃないか。

 なのに、晴華の声を聞いたとたんヘロヘロになってやんの。

 まったく、情けないぜ。

 だって~。しかたないだろう~。好きなんだもん。


 ああ~! くっそぉ!


 その日のバイトは最悪だった。

 俺は珍しく酒を飲んだ。半ば自棄酒だな。

 案の定、ぐでんぐでんに酔っぱらってしまい、長尾に家まで送ってもらう始末。

 ほんっと、何やってんだか。


『ごめんなさいねぇ。長尾君、世話掛けたわねぇ』

『いや~。大丈夫っすよ、俺は。カズオもこんなの珍しいんっす』

『お店忙しかったの?』

『まぁまぁですけど。カズオは人気があるんです。それに来週の誕生日で二十歳になるから、今まで未成年で飲ませられなかったお客さんが面白がっちゃって』

『それにしても……。ごめんなさいね。気をつけて帰ってね』

『はい。お休みなさい』


 母ちゃんと長尾の会話は聞こえていたさ。

 でも、バツが悪いから倒れたまんまでいたんだ。

 しばらくしたら、父ちゃんが奥からでてきた。

 ヤバ! もうちょっと、倒れておこう……。


『どうした。何かあったのか?』

『加州雄が酔っぱらっちゃって、お友達に送ってもらったのよ』

『なんだ~! 情けない。どんなけ飲んだか知らんけど、自分の足で帰れないなんてバカ言ってんじゃねぇぞぉ!』


 だよなぁ。アンタなら、そう言うと思ったよ。


『そんな頭ごなしに言うもんじゃないよ! この子には、この子の遣り切れない気持ちってのがあるのよ』


 ん? かあちゃん。そっちへいくかぁ? すげぇ。やっぱ母親は子供の味方だなぁ。


『ま、まぁ。どっちにしろ、ここで寝かすしかないんだから……。風邪引かんようにしてやれ!』


 父ちゃんは、そう言い残して奥へ引っ込んで行った。

 こんな会話を聞くたび俺は、親の事を本当には知らなかったんだなぁって思う。

 思いやりや、優しさをだ。

 ちぇ、泣けてくるじゃねぇかぁ! 父ちゃん。


 けど……。自業自得だけど、今夜は玄関で寝るんだよな、俺は。クスン……。


 翌日。俺は、お約束の頭痛と吐き気に苦しんだ。


 ひぇ~! 参ったぁ~。腹まで壊しっちゃったよぉ。

 今日は、飲まないぞぉ!

 ってか、飲めないけどね。酒の顔も見たくないや。


 しかし、昨日の飲みっぷりを他の客に話すお姉さん達がいた。

 お客は喜んだねぇ~。


『おお! まひるの乱れたところが、見れるのか~』


 なんて言って、飲ますこと、飲ますこと。

 まぁ、俺も悪乗りして飲んでんだけどさ。


『う~ん。まひる飲めるようになっちゃったぁ。まひるが酔うとオンナ度がアップするのよ~』

『そっかぁ、飲め飲め。お~い、ボトル下ろすぞぉ』


 ってな、調子で毎日どこかのテーブルで必ず、ボトルが1~2本空になった。


『ねぇ、ママ。まひる、大丈夫なの? ここんとこ飲みっぱなしよ』

『そうねぇ。私も気にはしてるんだけど……』

『何か、あったのかしら』

『わからないわ。今度、機会があったら話してみるわ』

『ええ。ママ、お願いするわ』


 俺は、そんなママとお姉さん達の心配をよそに……。

 酒を浴び続けた。


 酒だ、酒だ! 酒もってこぉい!




 ♪~♪♪  ♪~♪♪ ♪~♪♪


『はい! もしもし。彩ちゃん?』

『もしもし、久しぶりね、長尾』

『わ~。彩ちゃんから電話かかってくるなんて、嬉しいなぁ! どうしたのぉ? 急に』

『ねぇ、長尾。加州雄の誕生日に、店でイベントがあるって聞いたんだけど。晴華とサプライズで行くから、偽名で予約しといてくれない?』


『イベント? 何の? 俺、聞いてないけど』


『……やっぱりね。アイツ……』



 あのヘタレが……。



 待ってなさい、加州雄……。



 私がアンタのその目、覚まさせてあげるわ!








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