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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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36.忘れられない事

 それからの彩と麻由は凄かったぞ。

 何が凄いかって言うと……。鬱陶しいくらい何だかんだと俺に関わってくる。


『カズ兄! 化粧の仕方教えて』

『はぁ~? お前が何で化粧すんだよ。まだ早いだろ』

『そんな事無いよ。皆してるよ。私はホラ、元がいいからポイントだけでカワユイんだけどぉ』

『じゃぁ、それで良いじゃん。そうしとけ、お前にはまだ早い。せっかく綺麗な肌してんだから、態々傷める必要ないだろ』

『カズ兄だってじゃん。綺麗な肌を態々、傷めてるじゃん』

『馬鹿か! 俺は仕事でやってんだ。普段はスキンケアに徹してる。』

『や~だ~! 麻由もばっちリメイクしたいんだも~ん。教えてよ~』

『やだよ、めんどくさい』

『なんで~! 意地悪! ケチ! ……じゃあさ、今度カズ兄がバイトの日。メイクするとこ見てていい?』

『あぁ。それくらいだったら……』

『やったぁ~! よっしゃ~、これで他の子に差をつけてやるんだぁ~!』


 おいおい。差をつけんのはいいけど。


「きゃ~。麻由ぅ、メイクばっちりじゃん。どうしたの?」

「へっへ~。私には最高の師匠がいるんだぁ」

「え~! マジぃ。いいなぁ。で、誰よ~」

「お兄ちゃん!」


 ってかぁ? いいのかよぉ。俺は知らんぞ。


 で、数日後__。


 バイトの前にシャワーを浴びて部屋に入る前に、俺は麻由に声をかけた。


『お~い。はじめっぞぉ~』

『『はぁ~い!』』


 ん? なんで返事がハモッてんだ?

 ゲッ!


『な、何で、お前がいる……?』

『はぁ~い。アンタこの前、私より化粧が上手いって豪語したじゃない? 確かめてやろうと思ってねぇ~』

『ば、ばっかじゃねぇ~の? そんなもん自分で研究して腕上げろ!』

『敵情視察ってとこね。相手を知らねば作戦も練れないわ~』


 けっ! 白々しい。

 大方、俺のやり方にいちゃもんでもつけようって魂胆だろうよ。


『カズ兄~。早くぅ、時間もったいないよ~』

『麻由ぅ。テメェ!』

『コラコラ。女の子はそんな言い方しないのぉ』

『うるさい!! お前が言うなってぇの!』


 どういう訳か、彩まで一緒にメイク講習会を開くハメになってしまった。

 麻由の奴ぅ……。覚えてろ。

 っていうか……。何なんだ二人とも、そのメモとペンはぁ。

 どんなけ、やる気やねん。


『じ、じゃぁ。は、始めるか……』

『『わ~い!』』


 俺は彩を見て睨んだ。

 ちっ! 舌出してやんの。ムカつくぅぅぅ……。


『じゃ、時間がないから始めるぞ。まずスキンケアからだ』


 俺は、化粧水と乳液、下地クリームを手早く塗りこんだ。


『で、コンシーラは、この2色だ。言っとくが、あくまでも俺が店に入る時の化粧方法だ。それでいいか?』

『うん。いいよ、カズ兄。濃いなって思ったら、それなりに加減すればいいんだよね』

『そうだ。麻由はコンシーラはいらないかもしれないが……。あ、もしソバカスが気になるんだったら使って見てもいいかもしれない。だけど、ちゃんと化粧を落として寝るんだぞ。化粧したまんまだと肌が老化しちゃうからな。一旦、老化した肌を元に戻すには倍以上の日数と努力が必要になる。それを、ちゃんと覚えておけ』

『네。 선생님(イエ。ソンセンニン)』

『な、なんだぁ?』

『うふ。韓国語で。“はい、先生”っていう意味よ』

『韓国語?』


 彩の顔がドヤってる……。

 後がうるさそうだから、突っ込まないことにした。


『でも、なんで2色も使うの?』

『いい質問だ、麻由。男の顔を女のように滑らかにする事はできない。そこで、目の錯覚を利用するんだ。影を作って立体感を出す。女性らしい立体感だぞ。色の濃い方を顎の辺りに……。あと、シミとかソバカスなんかも、濃いほうのコンシーラを使う。で、目の周りには白い方のを使う。こんな感じだな。伸ばすときは、人差し指や中指は使っちゃダメだぞ。力が入り過ぎるからな』

『へぇ~。そぉなの?』

『そうだ、薬指を使って……。擦っちゃダメだぞ。こうやって……小刻みにポンポンって叩いていくんだ』


 俺は一通り、化粧をして見せた。彩と麻由は熱心にメモを取りながら、聞き入っていた。

 化粧が仕上がると麻由が、


『カズ兄ぃ。すっご~い! カンペキぃ~!』

『ほ~んと。誰にでも一つくらいは取り柄があるもんなのねぇ~』

『彩? お前、喧嘩売ってないだろうな? 俺は、いつでも受ける準備はあるんだからな』

『あ~ら。そんな事ある訳ないじゃな~い。可愛い妹の前で~。ア~ッハハハハ』


 へッ! 笑い死にしろ!


 でもなんか、変な感じだよな。 

 俺が、妹に化粧を教えるなんてなぁ。笑っちゃうよなぁ。ハハハ。

 でも、楽しいのは確かだ。お姉さんに化粧を教えて貰っている時の楽しさに似ている。


『カズ兄。ありがとう。私、自分でもやってみる』

『ああ。また、見てやるよ』


 そう言って、俺はバイトに向かった。

 おっと、今日は赤フチに会いに行く日だ。

 今日の質問は……っと。


 俺は、カバンから手帳を取り出して確認した。

 ページをめくると質問の上の欄に、前回の宿題が書いてあった。


 “いつから治療を始めるか?“


 う~ん。赤フチは急がなくていいって言ってけど……。

 いきなり治療を始めて、みるみる俺の身体が変わっていったら……。

 想像するだけで恐ろしい……。父ちゃんや母ちゃん……。


 もう少しの間、女装で我慢するか……。金もないしね。

 それに、麻由の心にも合わせてやりたいしな。うん。



『お久しぶり~。まぁ、今日はまた一段と美しいわねぇ。今からお仕事?』

『はい。この後、バイトに……』

『そうなのねぇ。で、何か変わったことありましたかぁ?』

『妹が……』


 俺は麻由と彩の事を話した。赤フチはニコニコしながら聞いていた。

 そして、俺は準備してきた質問をしてみた。


『ようするに、彼女の前では強がって見せたいって事かしら?』

『いや、そうではなく。僕の中から女が無くなるっていうか……。忘れるって言うか……』

『あなた……。その彼女の事、いつから好きだって言ってたかしら?』

『中学3年生です』

『その時はどうだったの?』

『僕……』


 そうだ、変態かもしれないって事……忘れてた。


『忘れてました。そんな事なんて、考えなかった。ヘアピンをつけたいとか、学生服がイヤだとか……。ランニングは着てましたけど』

『ランニング?』

『ええ。下着のランニングです』

『それは? 何故なの?』

『僕。半そでの……、下着を着たくなかったんです。男は全員、それを着てましたから。僕は、女の子の下着ありますよね? スリップっていうのかな? シミーズっていうのかなぁ? アレが着たかったんですが、もちろん母は買ってくれないじゃないですか。だから、それに似たランニングシャツを買って貰ってたんです。冬でも……』

『まぁ。そうだったの、なるほどねぇ。それで? 彼女の事が好きな時は?』

『あぁ、ランニングは着ていましたが……。その他の事は、女の子になりたい気持ちを……忘れてた? みたいな……。よく覚えてないですけど……』


 そうだなぁ。

 不思議だけど……、晴華に夢中で自分の事なんかどうでも良かった。

 って感じだったなぁ。


『それぐらい、彼女に夢中だったのね? 楽しかったのね? いい思い出はあるの?』

『はい! あります』

『うふふ。いい返事だわ』


 そう言われて、恥ずかしくなってしまった。

 どうも俺は、赤フチの前で幼稚園児にでもなった気分になる。

 決してイヤではないぞ。心地いいくらいだ。

 純子ママといても、こんな感じだな。


『そうね、他の患者さんの話だけど……。高校から大学にかけて好きな女性がいたって人の話なんだけど。彼女も……。そう、彼は彼女になったの。あなたと同じMTFよ。彼女もそう言ってたわ。忘れてたって。自分は正常なんだ、今までの事はちょっとした勘違いだったんだって。でも、その女性と結婚して……気づいたのね。やっぱり、自分は女だって……』

『えぇっ! ど、どうしたんですか? その人。それから……どうなったんですか?』


 俺は驚いた。

 え? そういうのって……。


『別にそのままよ。子供もいるわ。女の子が一人』

『そ、そんな……。今、彼女になったって……。女性の身体になったんじゃないんですか?』


 子供がいるって事は……。

 当然、その後だよな。


『そうよ。性転換手術を受けたわ。それが一番自然なことだから……』

『奥さんは、それでもいいと?』


 どんなけ理解があるんだよ。

 ダンナが女になっちゃうんだぜ? 信じられない。

 うちなんか……。

 まぁ、比べるもんじゃないけどさ。

 羨ましいって言うのも、ためらってしまうよ。


『そうね。長い間、悩んだ。別れよう……って、何度も離婚を考えたわ。でも、愛してたの……彼を人として。尊敬もしてた。そして、何より……。一度、愛してしまったら……。愛されてしまったら……、それを忘れる事などできなかった』


『できな……かった?』




『そう。私の主人は、MTFなのよ』


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