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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
35/146

35.良き理解者。

 何故だ? なんでコイツが知ってる?

 ……麻由?


 そうだ、それしか考えられない。何で、麻由はコイツに?

 そんなに仲良かったのか? ってか、何で?


 俺は目から零れたものを隠す為、前に向き直った。

 さりげなく、素早く涙を拭き取る。


 彩の目、俺を見る目……。

 同情しているのか? 哀れんでいるのか? 

 どちらにしても……。あの目はイヤだ。

 あの目から感じるオーラは、何故か俺を萎縮させる。


 あのデッカイ瞳がうるうるして、キラキラして……可愛くて。

 負けた感満載だ。あっ、そっちなのね?

 いやいや、それも合わせてだ。


 麻由……。

 やっぱショックだったんだな。そうだよな。

 父ちゃんでさえ、あんなに狼狽してたんだから。なのに……。

「私は、カズ兄の方が大事だよ」って。

 きっと、誠一杯考えて搾り出した言葉だったんだろうなぁ。

 で、一杯一杯になって……。彩んとこへ行った。

 そんなところだろう……。


 彩……。

 驚いただろうなぁ。

 今のアイツを見ていれば良く分かる。

 多分、アイツにも手に負えないって……。

 だから、面と向かって来たんだ。そう言う奴さ。

 黙って……。遠巻きに……。何て、出来ない奴だ。

 自分が納得しないまま、素通りするなんて出来ない奴なんだ。

 いても立ってもいられない。ってとこなんだろうなぁ。


 けどさぁ。これは反則だぞ。俺はどんな顔してお前を見ればいいんだぁ?

 心配で、心配で堪らないって顔しやがってよぉ。

 らしくないっての……。


『加州雄……。私……』

『麻由だな……?』


 俺は彩に背を向けたまま訊ねた。


『う……ん。でも、麻由を叱らないでね。あの子は精一杯……考えて考えて、私のとこに来たんだと思うの。なんて言うか……。受け止め切れなかったんだと思うの。ひどく落ち込んで……。自分を責めて……。泣いてたわ』


 うん。そうだろうな。

 あの夜、俺の服の袖を引っ張って……縋るように「麻由は、ずっとカズ兄ってよんでいい?」

 あれは……。せめてもの抵抗だったんだろう。


『私だって驚いたのよ。まさか、アンタが……。ううん、そんな事。今更、言ったって仕方がない。そ、そう。私にできる事があったら何でも言ってくれればいい……。アンタの事は、アンタしか分からないし……。あ、麻由。麻由のケアは任せて。幼馴染だし、それに女同士だし……あっ。ごめん……』


 ふっ。バカなやつ……。自爆してやんの。

 サンキュ。

 

 俺は彩に向き直った。


『な~に、言ってんの? なに深刻になってだよ。重いよぉ、重いってぇ。俺はもう、どうって事ないんだから。ただ、いつお前たちに言うか困ってたんだよなぁ。そっか、麻由が言ったかぁ。まぁ、手間が省けたかな? だってよぉ、改めて場を設けるなんて面倒じゃん? 今のお前見たく長尾の心配そうな顔なんて想像しただけでも……。ううう、鳥肌が……』

『ちょっと! アンタ。そんな言い方ないんじゃない? 長尾はいい奴だよ。あんな風だけど、単純で素直ないい奴だよ』

『おっ! 惚れたかぁ~? いいねぇ。その言葉、長尾に言っとくわ。喜ぶぞ~。今から電話してやろっかなぁ?』

『ふざけてんじゃないわよ! 何で今、長尾に電話するのよ。ばっかじゃない!』

『だって今日、凹んでだぜ~。お前を送るのを楽しみにしてたんだから』

『知ってるわよ。だけど、仕方ないじゃない。私にだって都合ってものがあるんだから……』

『何の都合だよ。長尾の事、嫌いなの?』

『嫌いじゃないわよ。まだ、そこまで考えられないって……。ちょっと! 何で私の話になってんのよ!』

『アハハハハハ』

『ちょっとぉ! 何が可笑しいのよ!』


 おもしれ~。彩って、こんなだったかぁ? 


 いつも高飛車で、偉そうに上から目線で俺にガン飛ばしながら話すのが、コイツのふつうって思ってた。

 なのに、今のコイツは何だぁ? 

 目ぇキョロキョロさせて、赤くなったり、怒ったり、困ったり、まるで百面相だ。


『ヒィ~。ハハハハハ』

『いい加減にしなさいよ!』


 彩はムキになって手を振り上げた。


『おっと……』


 俺に向かって振り下ろされた手を、俺は受け止めた。


『サンキュ。彩』

『な、何が……よ』


 彩は顔を背け、口ごもった。


『麻由の事さ。お前がいてよかったよ』

『加州雄……』

『家族会議の事聞いたんだろ?』

『うん。「私は大丈夫」って言ったって』

『そうだ。アイツはそう言ったんだ。大きくなったなぁって、兄貴と話してたんだ。だけど無理してたんだな』

『う……ん、そうみたい。で、アンタはこれからどうすんの?』

『どうするって?』

『い、や、あ、あの……』

『女になっていくのか? って?』

『う……ん。まぁ、そういうことかな……』


 そうだろうな、そこ大事だよな。


『正直、俺もわかんね。女の身体になりたいってのは勿論だけど……。周りの事も考えないとな。それに、俺は店でいつでも女になれるから……。まだマシさ』

『でも……』

『いつまでも、そんな事できないってか?』

『う……ん。出来るかも知れないし、できないかも知れないし……』

『そうだな。だけど、今すぐどうにかって出来るもんじゃないし……。極端な話、性転換手術ってことになったら、いったいどれくらいの金が掛かると思う? その前にホルモン治療とか……。おっそろしいくらいの金が必要なんだぜ。今の俺には無理だ。親にも頼めないし……』

『……そうなんだ』

『ああ。だから、こうやってお前みたいに俺を受け入れてくれる人間が周りに一人でも多くいてくれることが、俺にとっては大切な事なんだ』


 そうさ。そうなんだ。そこからしか始められないんだ。


『私は大丈夫だよ。アンタが立派な女になれるように協力するよ。できるよ』

『何を協力してくれんの?』

『何をって……』

『だって、言っちゃ悪いが。俺の方がお前より化粧上手いし。服のセンスだって負けてないし……。ドレスなんか着た日にゃ、ハッキリ言ってお前を超えてるぞ』

『アンタねぇ。言わせておけばぁ~。調子に乗ってんじゃないわよ! アンタの仕草は女じゃなくてオカマなの。オカマ! 分かる? ママくらいになると、品も備わって本当の女性って感じだけどさ。所詮、素人なのよアンタは。ただの猿真似なのよ!』

『なぁんだとぉ! 誰がサルだってぇ? お前の化粧なんか、まるでタヌキじゃんかぁ』

『タヌ、タヌキだぁ~? よくも言ってくれたわねぇ。この、ナインペタンの洗濯板が!』

『ぬぁんだとぉ~! デカけりゃいいってもんじゃねぇんだよ! 控えめって言葉知らないのかよ! このミルクタンクが!』

『し、失礼ね! アンタにはこのナイスバディが分からないの? 電信柱のずん胴のくせして!』


『煩いぞ!! 何時だと思ってるんだ!!』


 ご近所様に怒鳴られてしまった。


『『す、すみませ~ん……』』


 俺達はそそくさと、その場を離れた。

 ある程度離れたところで息をつきながら顔を見合わせると、笑いが込み上げてきた。


『ふふふふふ』

『あっはははは』


 俺たちは小さな声で笑いながら手を繋いで歩き出した。


『久しぶりだね。手ぇ繋いで歩くなんて……。小学校入ってからは繋いだ事なかったもんね』

『いや、2年くらいまでは繋いでたと思う』

『そうだった?』

『ああ。俺は、お前の金魚のフンだったからな』

『自分で言うな!』

『だって、そうだったもん。俺、お前に頼ってばっかりいてさ』

『……そんな事、忘れた。加州雄……』

『『一秒前は、過去だよ』』


 よし。上手くハモれたぜ。

 彩が驚いたよう顔をして俺を見たが、しばらくして


『加州雄。私にアンタのこと教えて。理解したいなんて偉そうなことは言わない。だけど、話を聞いて一緒に考えるってことはできると思う。もしかしたら親友になれるかもしれない』


 そう言って彩は「あっ」って、小さく呟いて下を向いた。

 はっ、照れてやんの。


 だから俺は彩の頭の天辺に手を乗せて、こう言った。



『サンキュ、彩。ただし……。長尾の次だ』






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