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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
33/146

33.告白

 晴華の誕生日が終わった。ある日の事__。


 俺はいつものように、校舎裏の木の下のベンチで寝転んでいた。


 この頃になると五月病という言葉があちこちで聞こえてくる。

 ま、新入生たちが新しい環境に適応できないということらしいが……。


 不眠、疲労感、食欲不振、やる気が出ない、人との関わりが億劫を主とした。

 抑うつ、無気力、不安感、焦りなどの症状がでるそうだ。


 俺なんか、生まれてからずっと適応できてなかった。

 男にも女にも適応できてないんだから……。

 だから、人との関わりが億劫で、やる気がでないのかな? 

 無気力と思ったことはないが、不安はあるな……。


 なんて、そんなのカンケイない♪ だ。

 要は、自分だ。自分が何者であるかだ。


 俺の場合。

 男 → 変態 → 女。

 履歴書にも書けないや。


 はぁ~。哀れだね~。

 って、別に自己憐憫に浸っている訳ではないぞ。

 まだ、行き先を決めてないだけだ。


『カズオ~!』


 出たな、俺の知り合いの中で最も哀れな男。

 俺は身体を起こして、大きく伸びをした。


『どうした? 長尾』

『お前さ、6月8日。絶対、空けとけよ』

『何で?』

『へっへ~。彩ちゃんの誕生日♡』

『へ~。そうなんだぁ』

『お前、幼馴染なのに知らないの~?』

『知るか! そんなもん』


 何が嬉しくて、晴華以外の誕生日を覚えてなきゃならないんだぁ?


『で、パーティ会場は“美無麗”で~』

『ワンパタ~ンやのぉ』

『勝手知ったる何とかだ。俺、バイト休ませてもらおっかなぁ?』

『休んで、遊びにくるのかよ。お姉さんに弄られても知らんからな』

『だ~いじょうぶ。彼女の誕生日って言うも~ん』

『ゲッ! マジか? いつ告ったんだよ』

『まだだよ~。その為に休ませてくださいってさ』

『調子いいよなぁ。お前は』

『へっへ~♪』



 俺たちは、彩の誕生日を“美無麗”で祝った。


 長尾のハリキリようは尋常ではなかったが、そこが奴のいいとこだ。

「お、俺。今日告白しようと思ってるんだ」

 って、手に汗握ってたけど……。


 タイミングを外しまくりで……。ダサダサ……。

 おまけに、彩が


『私、今日は加州雄と帰るから』


 って、いきなり言い出したんだ。


『え? 何で?』


 俺は、晴華を送って行くんだって。

 何、考えてんだコイツ?。

 って思っていたら。


『ごめんね。今日、両親も出掛けてて……。この近くで待ち合わせしてるの』


 って、晴華が言ったんだ。


 え~! マジかよぉ。

 今日は、久しぶりに二人っきりになれると思ってたのに~。


 しかし、そんな俺より可哀そうなのは……長尾だ。

 がっくりと肩を落として……。ってことがないのが、長尾だ。


『そ、そっかぁ~。じゃ、気ぃつけて帰れよ。カズオ! 彩ちゃんを頼んだぞ! じゃぁ、俺こっちだから! 行くわな! じゃあな!』


 って、思いっきり明るく帰って行った。

 長尾~。お前のその明るさが、逆に悲しいぞぉ。


 その後、俺と彩は晴華を見送った。

 晴華ぁ~。


『何、今生の別れみたいな顔してんのよ。バッカじゃないの』

『うるせーよ。何が悲しくて、俺はお前と帰るんだ?』

『近所だからじゃん。何、言ってんの。今更』

『……』


 キライだ。やっぱりコイツ、嫌いだぁ~!


 電車の中で、俺たちはお互い別々に携帯ゲームに耽った。

 電車を降りると、急に眠気が襲ってきた。

 俺はあくびをしながら、彩の前を歩く。


 しばらく、歩いていると……。


『加州雄……』


 彩が話し掛けてきた。


『ん? 何だ?』


 彩は、少し躊躇いながら俺を見る。


『アンタ。晴華と付き合うの?』

『え? な、何だよ急に……。な、何でお前が聞くんだよ』

『……』


 彩は、下を向き歩みを止めた。そして、もう一度顔を上げると……。


『答えて。晴華と付き合うの?』

『……。お、お前に関係ねぇだろ』


 俺は、彩から顔を背けた。

 答えられる訳ねぇじゃん。何、言ってんだ。コイツ……。


『か、関係ないけど……。関係あるよ。だって、晴華は私の親友なんだから……』

『それは、知ってるけど。何で晴華より先に、お前に告白の内容を言わなきゃなんないんだぁ?』

『そ、それは……』


 何を言い出すかと思ったら……ったく。人のことはホットケっての。

 そんな事より、お前は少しでも長尾に優しくしてやってくれ。


『何してんだよ。早く帰るぞ』


 俺は、振り返って歩き出した。5、6歩進んだとこで振り向くと、彩はまだ同じ場所に立ち止まっている。

 はぁ~。何、やってんだよぉ。


『彩! 歩けよ! おいてくぞ!』


 そう言って俺は、また歩き出した。

 が、彩がついて来ている気配がない。振り返る……。


『彩! もう、知らんからな! 一人で帰れよ!』


 アッタマきた。何なんだよぉ。


『彩! いい加減にしろよ! ほんっとに、おいて行くからな!』 


 もう、どうでもいいや。俺は帰る。母ちゃんに何と言われてもかまわない。

 俺は、彩に最後の警告を発した。


 すると彩が、崩れるようにその場に座り込んだんだ。

 お、おい! 


 俺は、慌てて彩の所まで走って戻る。


『どうしたんだよ、お前』

『……』

『彩?』


 俯いている彩の頭を持って。俺は無理矢理、彩を上に向かせた。


 涙……。彩?

 何で泣いてんだ? 


『どうしたんだよ。何で……』

『加州雄!』


 彩は俺の名前を呼ぶと同時に、俺に抱きついてきた。

 俺はその勢いに押されて尻もちをつく。


『イテッ!』

『加州雄ぉ……』


 彩は俺に覆いかぶさって、泣き続けた。

 どうなってんだぁ? 訳がわからん。


 俺は泣いている彩の肩を掴み、身体を起こした。

 こんな道端で若い男女が、半ば寝転んだ状態でいられる筈もない。

 ご近所さんに見られでもしたら、それこそ母ちゃんに何言われるか……。

 アブナイ、アブナイ。


 何とか彩を立たせた俺は、彩の手を引くことでゆっくりと歩き出す事ができた。

 彩は泣きやむ気配すらない。

 俺たちは遠回りしながら、ゆっくりと歩き続けた。


 はぁ~。腹減ったなぁ。晴華の顔見てたら、食べるどころじゃなかったもんなぁ。

 長尾、ちゃんと帰ったかなぁ。明日電話してやんないとな。あれは、かなり凹んでるぞぉ。

 俺が二十歳になるのは、あと三ヶ月かぁ。

 ん? 長尾はいつだ? ヤバ、アイツの誕生日知らねぇや。

 今度、赤フチんとこ。いつ行くんだっけ? 帰って質問まとめとこっと。

 “晴華の前では、男になりたくなる”ってのを聞かなきゃ。

 それがどうって事にはならないかも知れないけど、情報は必要だ。うん。


 俺は、振り返って彩を見た。

 ん~。ちょっとは落ち着いたかぁ?

 どうしたんだろう? 急に……。


 まっ、いっかぁ~。乙女心は複雑なのよぉ~。

 わかるわぁ、まひるぅ。ってかぁ。

 今日の聖子さんの髪型、決まってたなぁ。

 俺は……。まだまだ素人ダネ~。


『……お』


 ん? 


『加州……雄』


 おっ。復活したかぁ? 

 ふむ。これをネタに、今までの形勢逆転でも狙うか? あ~っははははは……。

 やっぱ、俺は邪悪だ……。テハ。


『大丈夫か? もういいのか?』

『う……ん。もう大丈夫』

『そっか。帰れるか?』

『……』

『彩? 帰れないか?』

『……』


 おいおい。また、ふりだしに戻ったのかぁ?


『加州雄……』

『なんだぁ?』

『怒らないで聞いてくれる?』

『何をだ?』

『怒らないって約束して……』


 はいはい。怒りませんよぉ。女王様ぁ。


『ああ、怒らないって約束する』

『誰の事も……。怒らないって約束して』

『わかったよ。誰の事も怒らない』


 ん? 誰の事も? 誰を怒るんだ?

 今は、俺と彩しかいないじゃん。誰を怒るっていうんだ?


『私……、……たの』

『え? 何だって?』

『私……』


 俺の背筋が凍りついた。身体中の力が抜け……。

 彩の手を握っている俺の手の力が抜け、彩の手がスルッと離れた。


 俺はゆっくりと彩を振り返る。

 彩は涙を流しながら、俺を見つめていた。


 み、見るな! そんな目で……。俺を見るな……。

 彩……。お前にそんな目で見られると……。

 

 彩は泣きながら、言葉を続けた。



『加州雄……。女の子だったんだね……』


 抑えこんでいた俺が、少しずつ俺の中から流れ出るように……。



 俺の目から、一筋の涙が零れた。



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