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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
32/146

32.いつまでも、君のそばに。

 オイ! オマエ! 表ぇ出ろぉ!!


 な~んて、言える訳ないしなぁ。

 俺は恨めしそうに晴華を見た。

 晴華が困ったような顔をして俺を見ている。


 おい! そこの先輩! 腕をどけろって、晴華が嫌がってるじゃないかぁ。

 あ~ん、晴華ぁ。

 俺の目の前で晴華が汚されていく~。やだよ~。


『ね、ね。まひるちゃんは、男が好きなの?』


 なんだよ。煩っせなぁ。今それどころじゃないっつうの!


『さぁ。どう思います?』

『俺、まひるちゃんだったら。彼女になって貰いたいかもぉ』


 なる訳ねぇだろ! 俺は男には興味がないの!


『え~! 恥ずかしい! そんなに面と向かって言われたのって初めてぇ』

『ほんとぉ。わ! まひるちゃんの手。綺麗だなぁ~』


 と言いながら“先輩の連れA”は俺の手を握った。


 ゲッ! やめろって。常連様でもまひるの手に触れるのはレアなんだぞ!

 こ、この新参者が、無礼な!


『いやん。嬉しい、この手はまひるの宝物なのぉ。ほぉら』


 と言いながら、スルっと手を抜き“先輩の連れA”の目の前に翳して見せた。

 俺はいつもこの手で、オッサン達から貞操を守ってきた。

 “先輩の連れA”は馬鹿みたいに、俺が翳した手を眺めながら。


『ホントだぁ~』


 なんて言って、呆けた顔をしている。

 すると、“先輩の連れB”が、


『お前。独り占めすんなよなぁ。まひるちゃん俺にも見せてぇ』


 って、割り込んできやがった。

 俺の手を、ぐいっと自分の方へ引っ張ってジロジロ見ている。


 気持ち悪りぃ~。助けてくれ~。

 その時、俺たちのテーブルの後ろを通った常連さんが、


『へぇ~。まひるが手ぇ握らせてるよぉ。珍しいなぁ』


 その声に振り向いた俺は、


『いや~だぁ。いつも握手してるじゃないですかぁ。はい、握手』


 と言いながら“先輩の連れB”から手を抜き取って、常連さんに向かって手を差し出した。


『おお。今日はやけにサービスしてくれるじゃないか。俺はてっきり、まひるも若い男が好きなんだと思ったよぉ』

『そんな事ないですよぉ。まひるは竹下さんの事だ~い好きですってぇ』

『ほんとかぁ?』

『ほんとですぅ』


 竹下さんと握手を交わし冗談を言い合っていると“先輩の連れB”が、


『おい! オッサン。その手離せよ』


 と絡んできた。

 へっ? なんだぁ? コイツ。

 俺は思わず“先輩の連れB”の顔を覗きこんだ。


『あれ~? 酔っ払っちゃった? まだ乾杯もしてないのにぃ?』


 いきなり、真正面に俺の顔を近づけられた“先輩の連れB”は、焦ったのか、


『いや。そ、そうだな。乾杯しなきゃな』


 と言って、席に座わりグラスを持った。


『はぁ~い。じゃ、乾杯のやり直しねぇ。皆ぁ、グラスもってぇ』


 号令と共にそれぞれがグラスを持つ。そして一斉に……


『『『カンパ~イ!!』』』

『晴華ぁ。おめでとう!』

『ありがとう!』

『『おめでとう!』』


 パチパチパチパチパチパチパチ……。


 ひぇ~、どうなるかと思ったぜ。

 今日は、晴華の誕生日だぞぉ。騒ぎなんか起こしてたまるかってんだ。


 こんな仕事していたら、色んなトラブルがある。

 客同士のいざこざなんて、大したことはない。

 だいたい、ゲイバーで騒ぎ立てる奴は馬鹿だ。

 何考えてんだぁ? って思う。

 基本。スタッフは全員男なんだから、強がって見せても何もならない。


 そりゃ、見るからにヤバそうな人とか、やたらガタイのデカイ奴なら、ちょっと引く時もあるけど。

 お姉さん達は、大概の事には動じない。


 今でも、茜さんと梨奈さんの顔が一瞬、男になったのを俺は見逃さなかったよん。

 ダメダメ~。


 みなさ~ん、マナーは大事ですよぉ。楽しくお酒を飲みましょうね。(^^)b


 乾杯が終わって一頻り騒いだ後、俺は他所のテーブルに着いた。

 この時が一番嫌なんだなぁ。晴華が心配でっていうか、気になって仕方がない。

 俺って、ほんっとオチョコだよなぁ。器が小さ過ぎらぁ……トホホ。


 離れたテーブルから、晴華を見る。

 いつもは、お姉さん達がついているのを見ているだけだが、今日は違う。

 高校の先輩とかいう男が晴華の肩に腕を廻してるんだぁ~!

 やめろぉ~! 


『まひる? どうした? ボーっとして』

『あぁ、ごめんなさい。グラス空いちゃって……』


 ったく、何やってんだ。しっかりしろ。


 はぁ~。ふぅ~。……深呼吸。

 はいはい。まひる、ちゃんとお仕事しま~す。

 そして、暫く俺は晴華のテーブルの事は忘れた。


 ん? 何だか騒がしいぞ? 

 え? な、何してんだぁ?


『ダメです。無理です』


 晴華が先輩に無理矢理、酒を飲まされようとしていた。


『いいじゃん。せっかく二十歳になったんだからぁ。お酒飲まなきゃ』

『イヤです。先輩、私飲めません』

『先輩。晴華は飲めませんよ。無理強いしないで下さい』


 それでも、先輩という奴は晴華にグラスを近づけている。

 俺は慌てて立ち上がると、急いで晴華のテーブルに向かった。

 すると、俺より先にママがテーブルについた。


『あらあらぁ~。いい男がこんなお譲ちゃん苛めて何してるのぉ?』

『お譲ちゃんじゃないんだよママ。彼女は二十歳になったの。れっきとした大人なのさ』

『あ~ら。私から見たら、まだまだ赤ちゃんよぉ。あなただってションベン臭いガキに見えるわ~』

『な、なんだとぉ!』

『あら? 怒ったの? おかしいわねぇ? ふつう、ここ笑うとこよ? ねぇ、茜ちゃん?』

『そうよぉ。ここらのお客は「俺の大人が見たくて、そんな事言ってるんだろう」なぁんて言ってさぁ。「その手には乗らないよ」って、前を隠して笑うとこよぉ』

『『アハハハハ』』

『おい! ヒロシ見せてやれよ! お前のオトナ!』

『いいぞぉ~。見せてやれぇ』

『ヒロシ! いっけ~』

『きゃー! やめてぇ。先輩ぃ~、脱がないでぇ!』

『脱がねぇよ!』

『『ア~ハハハハ……』』


 ふぅ~。よかったぁ。ママぁ、ありがとう。

 今日は心臓に悪い日だなぁ。疲れたぁ~。



『今日は、ありがとうございましたぁ!』

『晴華ちゃん、彩ちゃん。また来てねぇ』

『『はぁ~い!』』

『気をつけて帰れよ。晴華』

『大丈夫よぉ』


 そう言いながら、いつものようにエレベータへ向かう。

 すると急に彩が立ち止まって


『加州雄。アンタ、まだ帰れないの?』


 って訊いてきた。


『えっ? 俺?』

『うん。長尾も』

『えっ? 俺も?』


 俺と長尾は顔を見合わせて、ニッと笑い。


『おお、待ってろ。すぐだからな!』


 と言い、急いで店に戻った。


『ママ! お願いします! この埋め合わせは必ず!』


 俺と長尾はママに手をついて頼んだ。


『もう! 仕事を何だと思ってるの? 遊びじゃないのよ! まひる、アンタお金もらってんだからプロなのよ!』

『はい! 分かってます。だけど今日は、この通り! お願いします』


 俺たちはママに必死に頼み込んで、バイトを上がらせて貰った。


 よぉ~し! パーティのやり直しだぁ!


 俺たちは着替えると、晴華と彩が待っているエレベータへ急いだ。


『アハ。加州雄、化粧したまんまよ』

『いいんだよ。気にすんなって』

『そんなに、変わらないってカズオは』

『どうだかねぇ。あ~イヤだイヤだ。変態と友達って思われちゃう』

『なんだとぉ~!』

『もう! やめてよ。二人とも~』

『なぁ~。彩ちゃん何処へいくぅ』

『アンタの奢りだから、何処でもいいわ』

『お! 長尾の奢りかぁ~。ラッキー!』

『俺が、奢るのは彩ちゃんだけだ!』

『え~! 私の誕生日なのにぃ』

『ひぇ~。晴華ちゃんまで~? 勘弁してくれよぉ』

『『『ゴチになりま~す!!』』』


『うわ~! 俺、店に戻るぅ~。ママぁ~! 助けてぇ~!』

『アハハハハハ』

『きゃっはははは』

『ハハハハ』


 そうして俺たちは、晴華の誕生日パーティをやり直した。


『『『ハッピーバースディ、晴華!!』』』


 晴華の笑顔を見ながら、思う事。


 “いつまで俺の傍にいてくれるんだろう。”



 晴華……。俺の天使。


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