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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
31/146

31.幼馴染は、女戦士。

 そうなんだ……。

 彩には、恥ずかしい事なんてないんだ。

 俺が彩に勝てないのは、そこだ。

 何でも堂々とやってのける、彩。

 自分の間違いにも一早く気がついて、素直に謝る。

 チャレンジ精神旺盛、自分のモノにするまで努力を惜しまない。

 だから、人の話をよく聞く。

 結構、長尾に似てるかもしれない。そういうとこ……。


 俺は、人を寄せ付けなかったから、人の話なんて聞いちゃいない。聞いてるフリだけだ。

 いつもシレっとした顔して、横目で人を見て疑って本当には関わらない。

 でも内心はビビッてるから適当に友達作って、話合わせて……結局、心はいつも一人だった。


 悔しいけど、降参だ。

 もう、いいよ。

 彩……。俺、女に戻るんだ。


 俺は思う。

 この中で、一番俺を理解してくれるのはコイツなんじゃないかって。

 何故か、分からないけれど……直感っていうか。

 ま、俺の直感なんて当てにならないけどさ。


 ガキ大将なんだ。

 なんだかんだ言っても、俺たち近所の子供たちはコイツに守られてた。

 悪ガキがちょっかいだしてきても、コイツは一人で立ち向かっていた。

 いつも俺たちを守ってくれてたんだ。

 まるで、女戦士だな。


 コイツと話していてムカつくのは、喋り方が高飛車だからでもない、目つきがキツイからでもない、在りかたが偉そうだからでもない、時々ひとをバカにしたように言うが、そんな事ではない。


 彩は、いつも間違ってないんだ。

 その場その場において状況をちゃんと把握している。


 起きた事と、解釈をちゃんと区別して話すんだ。

 物事をちゃんと整理して……。

 俺は、いつも追い詰められてグゥの音もでなくなる。


 で、時間が経ってから気づくんだよなぁ。

 あっ、ホントだ。あーなって、こーなって……。

 げっ、俺が間違ってるって。

 悔しいぞ。

 だけど、彩は何も言わないんだ。


「ほら、みろ」とか「私が正しかったわね」とか。

 そんなことなんて、まるでなかったように振舞うんだ。

 俺が、聞いてみたら「そんな、過ぎたこと……。加州雄、一秒前は過去よ」

 って、さらっと言い退けるんだ。

 男だねぇ。女だけど……。


 まっ、そんな奴だ。

 竹を割ったような性格っていうか……。

 俺だって、本当に彩が嫌いな訳じゃあない。


 男っぽい彩を見ていると、自分が弱々しくて……引け目を感じるしかなかったんだな。

 その頃俺は、まだ自分を男だと思ってたからさ。

 だから、彩を避けるようになったって訳。


 まぁ、彩の話はもういいか。

 アイツは幼馴染のせいか、存在が近すぎる。



 俺たちはこの遊園地デートから後、会うときはいつも4人だった。

 俺としても、晴華とは遠回りしようって思っていたから丁度良かったかも知れない。


 俺たちの中で一番先に20歳になるのは晴華だ。

 5月5日 子供の日。


 俺はママに頼んで店でBirthday partyをさせて貰った。


『かんぱ~い! お誕生日おめでとう!』

『ありがとう』


 嬉しさに頬を染める晴華。

 可愛い~。

 お姉さん達から貰った花を胸に抱き、笑顔を振りましている。

 そんな花なんかより、晴華。お前が一番キレイだよぉ。

 お前は、俺の心に咲いた一輪の花だぁ~。


『呆けた顔してないで、ちゃんと仕切りなさいよ。まひる』

『わかってらぁ! 一々、煩るせぇんだよ!』

『まひる。お店なんだから……他のお客さんの手前、ちゃんと、“まひる”でいないと……』


 晴華が心配顔で、俺を諭した。

 俺は、どうも晴華の前では男でいたい病があるみたいだ。

 やっぱ、分裂症か? ふむ。赤フチに聞いてみるか……。


『わ、わぁったよ……。晴華ちゃん、お誕生日おめでとう。これは、ママからよ』


 まひるがそう言うと長尾ちゃんがケーキを持ってきたの。

 ママには、まひるの初恋の人って言ってあるわ。

 ママは、「そう、カズオちゃん好きな子いたのね」って、微笑んでいた。

 まひるは、「あなた、ゲイじゃなかったの?」って言われるかと思っていたんだけどね。


 他のお姉さん達も「頑張りなさいよ」って応援してくれた。

 ちょっと複雑だったけど、嬉しかったわ。


 晴華は、私がまひるでいる時も加州雄でいる時も、何一つ変わりなく接してくれる。

 だから、まひるの秘密を打ち明けたくなるんだけど……やっぱり、怖いの。

 うふ。臆病ね、加州雄が臆病なのよね。


『え? 晴華? 彩?』


 突然、どこからか晴華の名前を呼ぶ声がした。

 振り向くと、5~6人の学生らしい男が隣の席に座ろうとしている。

 その中の一人が、晴華の名前を呼んだんだ。


『せんぱ~い! こんばんは~!』


 彩が、立ち上がって手を振った。

 誰だ?


『高校の先輩よ。私達、サッカー部のマネージャしてたの』


 へぇ~。そんな話シラネ。

 だって、高校ちがうも~ん。


『え? 何でこんなとこに、二人が揃ってるんだ?』


 こんなとこで悪かったなぁ。

 馴れ馴れしいんだよ、あっち向いて座っとけって。


『今日、晴華の誕生日なんですぅ。友達がこの店でバイトしてて、ささやかなパーティしようってぇ』


 彩……。お前、おかしいぞ? なんだよ、その喋り方は。

 なんですぅ? しようかなってぇ? 何やってんだ? 何、媚売ってんだよ。


『へぇ~。晴華、誕生日なんだぁ。そりゃあ、おめでとう! 何歳だ? っと二十歳かぁ? 見えねぇなぁあ。な、オイ! 彼女達、俺の後輩なんだ。こっちの子誕生日なんだって』


 晴華と彩の先輩だという奴が、自分の連れに晴華たちを紹介している。


 余計な事すんなっての。

 う~ん。この、流れは……。すごく嫌な予感がするぅ。


『へ~、そうなんだぁ。君達、二人だけ?』

『友達がバイトしてるんだって』

『マジ? どの子?』


 男達が辺りを見渡しキョロキョロしている。


『あ。お、ぼ、僕です!』


 長尾が名乗りをあげた。


『なぁんだ~。ボーイじゃんかぁ。オカマさんじゃないのぉ?』


 カッチーン!!

 なぁんだとぉ! ボーイで何が悪いんだぁ? 


『だよなぁ~。やっぱ、そこ大事っしょぉ』


 晴華が心配そうな顔をして、俺を見つめている。

 大丈夫だって、心配すんな。俺はまひるだ。

 口をパクパクさせてそう言うと、晴華はホッとした顔をした。


『先輩達は、何で来たんですか?』

『ああ、コイツの大学で女装コンテストやったんだって。その優勝者がこの店にいるってんで会いにきたのさ』

『でも、もういいや。ねぇ、君達一緒にどう? 俺たちもそのパーティに混ぜてくれない?』


 カッチーン!! カッチーン!!

 も、もういいだとぉ! どういう意味だぁ? コノヤロー!


 晴華がさっきよりキツイ目で俺を睨んだ。

 だ、大丈夫だよ。わ、私はまひるよ。

 微笑みながら、ウィンクを返す。

 多分、引きつってると思うけど……。


『おい。晴華、彩。いいだろ? 一緒にパーティしようぜ』

『えっ。わ、私はいいけど……。どうする? 晴華』

『え? え~っと』


 晴華が長尾の方を見た。

 すると、先輩が長尾に


『ねぇ。キミぃ~、大丈夫だよね? 俺ら知り合いだしさぁ。問題ないよね?』

『は、はぁ……』


 長尾がチラっと、俺に視線をよこした。

 もう! せっかくの日がぶち壊しじゃな~い。


 俺はスッと立ち上がって、先輩達に微笑みながら、


『いらっしゃいませ。どうぞ、こちらにお座り下さい』


 と、席に案内した。

 あ~ん。嫌だよぉ~。晴華ぁ~。


『長尾ちゃん。テーブル変更してちょうだいね。で、ママにヘルプお願いしますって』

『あ、はい。承知しました』


 長尾はテキパキとテーブルを移動させ、注文を聞くと奥へ入っていった。


『俺、晴華と彩の間に座る~』


 と言いながら、先輩は二人の間にドンと腰掛けた。


 俺は自分の身体が、ワナワナと震えてくるのを感じた。

 でも、晴華の目が「ダメよ。まひる」って言ってるんだも~ん。

 んっ! もう! 我慢するわよ!


『おお! いいなぁ。両手に花かぁ? いいね、いいねぇ』


 やかましい! お前らは誰に会いに来たんだよ!

 俺だ! 俺だろ! 晴華を見るんじゃない!


『あっ! この子だ! この子が優勝者だ!』

『『えっ?』』


 男共が一斉に俺を見た。

 ハハハ。馬鹿め、今頃気づいたか。

 その調子で、晴華から目を逸らしとけってんだ。


『なっ。そうだろ? キミだよね?』

『えっ、ええ。そうです』

『へ~。優勝するだけあるなぁ~。うん、まるで女じゃん』

『ありがとうございます』


 どうだ、まいったか。かっかっかっかっ。


『俺、こっちに座ろうっと』

『じゃ、俺。反対側』


 男共の二人が俺の両脇に座った。

 そこへ、梨奈さんと茜さんがヘルプにきてくれた。


『まぁ~。イケメンばっかりじゃないのぉ~。嬉しいわぁ。偶には、こんなピチピチのイケメン見て目の保養しなくっちゃねぇ。毎日毎日、オカマばっかじゃ飽きがくるってもんだわさ』

『ハハッハハハ』

『お姉さん達って、やっぱ男が好きなの?』

『当たり前じゃないの。アンタ男好きなの?』

『いや……俺は。嫌いって訳じゃないけど』

『じゃ、こんな風に仕事できる?』


 茜さんが隣の席の男に擦り寄って、腕を組んだ。


『や、無理っす』

『でしょ~。誰でもできる仕事じゃないのよぉ。誰でもできたら競争率上がっちゃっていい男掴めないわ。アンタは女好きでいなさい。たまによそ見するくらいでね』

『『ア~ハハハハハ』』


 相変わらず、茜さんは盛り上げるのが上手い。

 オイシイとこ全部もってかれちゃったよぉ~。


『ねぇ。キミ、なんて名前?』


 隣に座った男が訊いてきた。


『まひるです』

『まひるちゃんかぁ。連れが言ってたんだけど、ホントだなぁ』

『何がですか?』

『絶対、勘違いするって。ホント、わかんないよ』

『うふ♡ ありがと』


 よし! 決まったな。


『でも、中身は男なんだろ?』


 突然、ツッコミが入った。


 俺はその声に顔を上げると、晴華と彩の真ん中に座っている先輩がこっちを見ていた。

 奴は両手を広げ、晴華と彩の肩に腕を掛けている。


 オイ! コラ! 何、やってんだお前!


『キミは確かにキレイだけど。俺はやっぱり女がいいねぇ』


 先輩は晴華と彩を交互に見ながらニヤけた。


 ドッカーン!! 


 頭の中で何かが破裂した。


 なんだとぉ! 上等じゃねえか! 


 オイ! オマエ!


 オモテぇ出ろぉ!!


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