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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
3/146

3.俺は男になる!

 

 晴華と再会してから二週間後、俺達は待ち合わせた。

 駅のエントランスにある超デカイ、クリスマスツリーの前で。

 勿論、俺はビシバシに男で決めてやったぜ! 

 

 この時期に、このタイミングで晴華とデートできるなんてぇ、俺って絶対持ってるよな。

 晴華が俺を見るなり、

 

「わぁ。大人っぽくなったのね加州雄。背が少し伸びたのかしら? この間はヒールの高いブーツだったからよく分らなかったけど」

 

 って、イタイとこをついた。

 おいおい、そりゃインパクトはあったと思うけどさ。

 だけど俺にとっては『忘れてくれてもいいぞ』って言うくらいの小さな1コマなんだから……。

 頼む……晴華、忘れてくれ。

 せっかくのハイテンションが台無しじゃ~ん。

 

「よせよ……あの時の事は、今日は勘弁……」

「うふ。そうね、ごめんなさい。加州雄、電話ありがと。画面を見なくても誰から電話が掛かってきたのが分るって何だか……あれね。ちょっと、くすぐったかったわ」

「くすぐったい?」

 

 どういう意味だろう? 

 俺には……今度、晴華から掛かってきたら分るかな?

 晴華の様子から見ると、期待できそうな感じだな。

  くすぐったい♡……か。

 

「うふふ。ねぇ、今日は何処へ行く?」

「晴華は? 何処へ行きたい?」

「う~んっとねぇ……お願いしてもいい?」

 

 晴華が上目使いに悪戯っぽい目をして、俺を見る。


 やめろぉーー! その目は毒だ。

 その目で見つめられると、俺は晴華の言いなりになってしまいそうになる。


 いや、なる。言いなりになってやるぞぉ。

 願いは何だ? 何が食べたい? 何処へ行きたい? 

 もうすぐ、クリスマスだ。服が欲しいか? ペンダントか? ピアスか? 

 おじさんが何でも買ってやるぞぉ~! 

 

「……ゲームセンター。……いいかな?」

 

 ゲーセン……。

 もしかして、また画面と睨めっ……こ? 

 ふ……。


 一瞬、白目を剥いて倒れそうになってしまった……。

 

『……プロ目指そうかなって思ってるんだ』

 

 その時、不覚にも晴華の言葉を思い出してしまった。

 チキショー!!

 

「ああ! いいよ。ゲーセン行こうぜ」

「ホント? 嬉しい! 私、まだ3連チャンできないんだぁ。悔しくってぇ」

「今日、頑張れよ。3連チャンするまで付き合ってやるよ」

「え~! ホント? う~ん、嬉しいけどぉ何かプレッシャー! よ~し! 頑張るぞぉ!!」

 

 おおぉ! 頑張ってくれ! 頑張って、さっさと3連チャン和了(あが)ってくれ。

 しかたない、俺の楽しみはその後にとっとくよ。

 

 おし! 今日は映画を見よう……ポップコーンでも食べながら……。

 バスケットの中に手を入れると晴華の手も一緒に入って来て……お互いの手と手が触れ合う。

 

『あ、ゴメン』

『いいさ、先に食べなよ』

『ううん。加州雄が先に食べて』

 で、晴華の手を優しく握って食べるふりをする。

『ヤダ~。それ私の手よぉ』

『あぁ。可愛いから間違えちゃったぜ』

 

 な~んて言って、ずっとその手を離さずに……エへへへへ。

 ああ! 妄想が止まらないぜぇ。

 俺はニヤケながらゲームの画面に視線を戻した。

 

「おっ。二萬でたよ~」

 

 “ポンっ!”

 

「よし! テンパイ! (ペー)を切ってと…」

 

 ん? ……えっえっえ~! もしかしてーーー!!

 

 “シューーーーーーーーーーーーーー……。チチ…… シューーッ! 

 ドッカーーーーーーーーーーーーン!! バリバリバリバリ!! ガタガタガタ……。”

 

 轟音と共にゲーム機が激しく振動した。

 

「うわぁーーー!!! やられたーーー!! マジかよーーー!!!」

「わわわわ!! どうしたの? 今の雷!! 役満級の雷じゃなかった?」

「……国……士……無……双……」

「えええ!! 和了(あが)ったのぉ!!」

「……振り込んだ」

「ゲ……あっそ」

「……」

 

 ……晴華、その反応はちょっと……俺は寂しいぞ。

 その後、俺の妄想は止まり、動揺が収まらず最下位の連続だった。

 チキショー!! 麻雀ゲームなんて大っ嫌いだぁ!

 

 で、晴華の方はというと……今日も3連荘和了ならず。

 

「あ~あ。何でだろうなぁ~? 何かこう……考え方変えないとダメなのかなぁ? ね、加州雄どう思う?」

「え? ……分かんねぇよ。晴華の手牌見てねぇし」

「そうよねぇ……」

 

 晴華、マジでプロ目指してんのかなぁ?


 晴華の横顔を見ながら複雑な気持ちになった。

 今の俺には、何かを目指しているとか目標みたいなものがない。

 ただ、漠然と日々を過ごしているだけで……。

 だから、晴華が何かに一生懸命になっている事が、それがなんであれ少し羨ましかった。

 

 それに……俺には晴華に言えない秘密がある。

 その秘密が、晴華が夢を語る度に俺の心に影を落とすんだ。

 晴華が夢を語り、輝けば輝く程俺の影は濃くなっていった__。 

 

 あぁ……晴華ぁ。俺はどうしたらいいんだよぉ……。

 俺……言えねぇ……よぉ。

 

 

 それから俺達は何度かデートした。

 晴華は俺がバイトしてるとこ(女装してチラシ配布)にも平然とやってきては、

 

「かずお~!」

 

 って、大きな声で名前を呼びやがる。

 やめろってば! って思うんだけど彼女の笑顔を見るとついニヤけてしまうんだな。

 

 晴華は俺が女装してるときは自然と腕を絡ませてくるんだが、男で会ってる時は絡ませてはくれない……。

 やっぱ意識すんのかねぇ?

 晴華が俺に近づく度に俺はドギマギしてしまうんだけど、晴華はまるで女友達と一緒にいるように振舞う。

 一緒に女物の服を見に行ったり、化粧品を見に行ったり……。 

 時々、『大丈夫か?』と思いながら、俺が晴華の顔を見ると、

 

「大丈夫よ。加州雄は綺麗だから、バレないわよ」

 

 って言うんだよな。

 いや、そうじゃなくてさ……。

 まっいいかぁ。

 

「ねぇ。普通さぁ、彼氏とこんなふうに洋服見たり、化粧品見たりってできないじゃない? だって、彼氏に会う為にお洒落したりメイクするんだもん。こういうのって、ネタバレだもんね。でも加州雄とだったら何も隠す事なんてないから、凄く楽チンだわ」

 

 う~ん……何か嬉しくないぞ。一緒にいて楽チンって……。

 晴華は俺を男として見てるのか? もしかして女友達? それは……ないだろ~。

 もしそうなら、かなり凹むぞ。俺は晴華の前では男でいたいんだぞ。

 

 そりゃあ、俺は髪も長いし……。

 身体だって、ヒョロイし……女装なんかしたら、ガチ女に見えるし……。

 だから、このバイトができるんだけど……。

 

 俺はバイトの都合上、髪を伸ばしている。伸ばしているだけじゃなく手入れも怠ってはいない。

 男心を擽るサラサラヘアーだ。

 頬にかかるレイアーは自分でも素晴らしいと思うくらい完璧なブロー。

 勿論、男になったときは髪を一つに纏めているさ。

 でも、たまに晴華が、

 

「加州雄って、メイクも上手だけどブローも上手いよねぇ。私なんかすぐハネちゃって……クセがあるのよね。加州雄みたいにストンっていかないの。今度、コツ教えて」

 

 なんて言っては俺を凹ます。

 悪気がないのが分ってるだけに……腹を立てる訳にもいかず。

 ただただ、ヘラヘラしてるだけ……。

 

 そもそも、何で俺は女装したまま晴華とデートしてんだぁ?

 ふむ、それは晴華がバイト先に来るから……その流れで……。

 ちゃんと電話して約束した時は男としてデートしてるけど……ん? 何で晴華は態々バイト先に来るんだ? 

 その後、俺は女のままだって知ってるじゃないか……。何でだ?……。

 ……やめとこ。これ以上考えを深めて行くと、望まぬところへ行き着いてしまいそうだ。

 

 その夜、俺の親愛なる相棒は、いつものように俺を慰めてくれたけど……何だか虚しさが深まるばかりだった。クスン……。

 

 翌日。俺は決心した!

 辞める。あのバイトを辞める。そして、男らしいバイトを探そう。

 バイトなしでは生活がキツイから、働かなければならない。

 だけど、何もあのバイトじゃなくてもいいじゃないか。

 そうだ。何でそんな簡単な事に気がつかなかったんだ。ハハハハ……馬鹿だぞ。俺。

 早速、俺はバイト先に連絡した。

 

「えーー!! 辞めちゃうのカズオちゃん。困ったわねぇ……。そんな急に言わないでよぉ。もう少しだけ、何とかならない? あと……1回。ううん、2回。2回だけ! ね! お願いぃ~。カズオちゃん人気あるのよぉ。特にコンパニオンのカズオちゃん。私が惚れ惚れするぐらい綺麗なんだからぁ。ねっ、お願いぃ~」

「はぁ……」

 

 以前の俺ならこの言葉にホイホイ乗せられていたかも知れないが……今の俺はそうはいかない。

 なんたって晴華の前で……いや、晴華にとって俺は男であり続けたいんだから。

 

「ねっ。カズオちゃん。2回だけコンパニオンの方でお願いね! バイト代も弾んじゃうわぁ!」

「……分りました。2回だけで……」

 

 うっ、金に負けてしまった……。

 情けねぇ……トホホ。

 

「あ~ん。ありがとう! 助かるわぁ~。じゃシフト、メールしとくわねぇ~♪」

「あ、はい。お願いします」

 

 ヨッシャー! これで女装とはおさらばだ。待ってろよぉ! 晴華ぁ。

 髪も切ってバリバリの男になってやるからなぁ!!!

 

 

「え? 辞めちゃうの?」

「あぁ。いつまでもやってられないよ、あんなバイト。それに……俺……晴華の前では、ちゃんとした男でいたいんだ」

「……」

「なぁ、晴華。俺……実は……晴華のこと……」

「……」

「……晴華? どうした?」

 

 どうしたんだよ晴華。急に表情(かお)が暗くなったような……。

 

「晴華……」

「加州雄……ごめん」

「え? な、なに?」

「ごめんなさい!」

「え? ちょ、ちょ……はるか! はるかぁ!!」

 

 晴華は悲しそうな顔をして……突然、どこかへ走り去ってしまった。

 へ? は……るか?

 

 おい! おい!! どうなってんだよぉーーーーー!!!

 

 

 


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