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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
28/146

28.家族会議(バトル)

 “ご家族の理解と協力が必要です。”


『はぁ~。アンタが女だったなんてねぇ。何でこんな事になってしまったのかねぇ……』


 母ちゃんと俺は、病院を出てから喫茶店に入った。

 母ちゃんは、ずっと同じ事を言いながら俺の顔をマジマジと見ている。


『心がだよ。何回、同じ事言ってんのさ』

『だって、生まれた時ちゃんとついてたんだよ』

『今もついてるよ。だからぁ、遺伝子も全部男だって。先生も言ってたじゃん』

『こんな事、あるんだよねぇ……』


 母ちゃんは凹んでた。自分の事みたいに……。

 そりゃ、そうだわな。

 自分の腹から出てきた時、多分「男のお子さんですよ~」なんて言ってその場で手渡されて、それから19年間疑った事なんてない筈だ。

 だって、俺は紛れもなく男だったんだから。俺だってそう思ってた。

 俺も母ちゃんも複雑だよなぁ。


『……アンタの選ぶ服。女物ばっかりだったね、そう言うと』

『へ? 俺?』

『そうだよ。アンタ、赤いのや……女の子っぽい色ばっかり選んでねぇ。母ちゃん、女の子が欲しかったからアンタがお腹にいる時ずっと女の子の名前考えてたんだよ。だから、そうなっちゃたのかって思って……「アンタは、男のだよ」って言い聞かせてた。母ちゃんの所為かもしれないねぇ』

『そんな事ねぇだろ。関係ねぇって。原因は分からないって先生言ってたじゃん。それじゃあ、まるで俺が母ちゃんに催眠術にでも掛けられてるみたいじゃん。変な考え方するなよ』

『納得がいかないんだよ。そうでも思わなきゃ。……アンタ、辛かっただろうに……こんな……病気に……なっ……て』

『ちょちょ、ちょっと。やめろって』


 母ちゃんは、声を詰まらせて泣き出した。

 おいおい。勘弁してくれよぉ。

 もっと、サラっと「そうなんだ~。じゃ、明日からアンタ女ね」って流してくれっての。

 こっちのテンションまで下るわ。


 俺は、もう凹むだけ凹んだんだからいいんだって、苛められたり、弄られたり、我慢してきたこと褒めてくれよ。

 で、チャンチャン♪ でいいじゃんかよ。


『わかった! 加州雄、母ちゃんアンタを守るからね。誰にも何も言わせない!』


 おお! そう来たかぁ。さすが、母ちゃん。立ち直りが早い。

「今晩、家族会議だ!」と言って、母ちゃんはレシートを強く握って、勢い良く立ち上がった。

 ゴチになりま~す。



『な~に、訳の分からない事いってんだぁ~。加州雄が女だってぇ? 馬鹿言ってんじゃねぇぞぉ。あんなチャラチャラしたバイトしてっから洗脳されてんだよ。やめちまえ! みっともない! 正和! お前の所為だぞ!』


 うん。思ったとおりの反応だ。


『アンタ! 私の話ちゃんと聞いてたのかい? この子は病気なんだって、生まれた時から心の病気なんだよ。何回説明したらわかるのさ』

『へっ! そんな病気聞いたことも見たこともないわ。自分に都合よくなるように、コイツがでっち上げてんだよ!』


 おいおい。そりゃぁないだろぉ。何のでっちあげだよぉ。俺にメリットあるかぁ?


『ばっかじゃないのぉ? あ~! アンタがこんなに分からず屋とは……知ってたけど、ここまでとはねぇ。呆れて物が言えないよ』

『やかましい! 加州雄! お前、何企んでるんだ! いい加減にしろ!』

『アンタ!! 何て事言うのよ!! この子が何を企むって言うのよ!!』


 今度は犯罪者かよ。実の息子だぜぇ。


『分かりました。私はこの子を連れて出て行きます。そうです。私が生んだ子なんですから!』

『ああ! 好きにすればいい。男で生まれた奴が女になってしまうなんて世間に恥ずかしくて、表も歩けなくなっちまう。だいたい、お前が次の子は女の子がいいなんて話ばっかりするから、こんな事になったんじゃないのか? ああ、そうだ。お前だ。お前のの所為だ!』

『『父ちゃん!!』』

『パパ!』

『博正!!』


 それはないだろ! 

 皆が一斉に、非難の声を上げた。

 一番、驚いたのは婆ちゃんだ。

 バシッ!!


『痛い! 何すんだよ』


 婆ちゃんが父ちゃんの頭を叩いたんだ。ひぇ~。


『お前は翔子さんになんて事言うんだい! 情けないったら……。翔子さん、許しておくれよぉ。私がこんな出来損ないに育ててしまったぁ。ごめんなさいねぇ』


 全くだ。婆ちゃんの言う通りだ。


『おかあさん……』

『私と爺さんの世話をしてくれて、家の事から子供の事まで一人でこなして……。翔子さん、アンタには本当に感謝してるんだよ。なのに、なのに……この、大馬鹿もんが!』

『お母ちゃん。それとこれとは関係ないだろ!』

『関係なくないね。私だって、賢い子が欲しかったよ。なのに、こんな馬鹿息子が生まれてしまった。どこが、どう違うんだい! 女の子を望んで、女の子が生まれたまでさ!』

『そんな、無茶な屁理屈なんか通るもんか!』

『何が屁理屈なんだ。子供が手柄を立てたら、「さすが、俺の子だ。俺に似たんだ」なんて、調子のいい事言って。そうでなかったら翔子さんの所為ってかい! 全く情けないよ。お爺さんも何とか言ってやってくださいよ』


 婆ちゃんが爺ちゃんに向き直って、情けなそうな顔をしている。


『博正。もう少し頭を冷やして母さんの話をちゃんと聞きなさい。加州雄を見なさい。可哀相に……。この子が何をしたと言うんだ。お前の気持ちや世間体の事を話しているのではないんだ。加州雄が置かれた状況を話しているんだ。もっと自分の子の気持ちを汲んでやりなさい』


 お! しりとりゲームだ。そっかぁ、父ちゃん博正だったよな。

 ひろまさ→まさかず→かずお。

 おお! やるねぇ。爺ちゃんの名前なんだっけ?


『子供の気持ちをって……。じゃ、お父ちゃんもお母ちゃんも俺の気持ちを汲んでくれていたとでも言うのか? 俺だって……』

『何言ってんだ。私がアンタの気持ちを汲んでなかったって言うのかい? じゃ、アンタはいつ親の気持ちを汲んでくれたんだ?』

『そ、それは……お互い様じゃないか』

『何がお互い様だ。じゃ、何か? 私が、アンタの気持ちを汲まなかった仕返しを加州雄で晴らすってのかい!』

『何も、そんな事を言ってるんじゃないだろ!』


 あっ。源治だ。……ちぇっ。しりとり終わっちゃったよぉ。

 ま、兄貴の子供に賭けるか。男の子作れよぉ。


『お母さん。お体に障ります、落ち着いてください』

『落ち着けるもんかね。世間では、身体の不自由な子が沢山いるんだ。その親御さんがどんな気持ちでいるか……アンタにわかるかい? 五体満足で生まれて来てくれただけでも喜ばなきゃならないのに。生んでくれただけでも感謝しなきゃならないのに。翔子さんにまで、あんな酷い事言って……。アンタは、いつからそんなアンポンタンになってしまったんだ』

『そ、そんな言い方ないだろ、子供の前で……』


 でた~。子供の前で……。遅いよ、父ちゃん。俺たちは小さい頃から、婆ちゃんに叱られてる父ちゃんを散々見てきてるから大丈夫だよ。

 何とも思いやしないよ。ハハハ。


『何を今更。セコイ事言ってんじゃないよ。だから、アンタの麻雀だってセコ手ばっかりなんだ。ああいうのはね人間性がでるんだよ。チマチマ和了(あが)ったって、すぐにひっくり返されちまう。アンタの性格がよく出てるよ』

『お母ちゃん! 関係ねぇだろ! そんな事!』


 婆ちゃん、最高! そうなんだよぉ。父ちゃんの自論は「和了ってなんぼ」なんだよな。

 確かにそうだけど、デカイ役を作って和了るのが醍醐味だと俺は思っている。


『お母さん……。もう、落ち着いて下さい。お願いします』

『私、本で読んだ事あるよ。父ちゃんが何で、そんなに興奮してるのか分かんない。まさか、カズ兄がそうだなんてビックリしちゃうけど……。話の方向が違いすぎて……馬鹿みたい』


 テーブルに両肘をついて、話を聞いてた麻由が話に入ってきた。

 そっか、そんな本読むんだ。


『親に向かって、馬鹿とはなんだ!』

『馬鹿だから馬鹿って言ってるんです。アンタはさっきから自分の事ばっかり言って、一言でも加州雄に「どんな気持ちなんだ?」とか聞いてあげていないじゃないの。一番辛いのは、この子なのよ。ねぇ……加州雄』


 お。今か……。


『……』


 上手くいくかなぁ。結構、難しいよぉ。母ちゃ~ん。


『加州雄……。ごめんね、母ちゃんはあんたの味方だからね』


 俺は、頭ん中で悲しい事……。小学校で飼育していたウサギが死んだ事とか、苛められた事とか、晴華がどっかへ行ってしまった事を高速で思い出していた。

 暫くして……。涙がポロっと、流れた。

 成功だ! やったぜ、母ちゃん。褒めてくれよな。


『な、泣けばいいってもんじゃないだろ……』


 すっげ~! 父ちゃん慌ててるよぉ。さすが母ちゃんだなぁ。


 母ちゃんは、喫茶店の帰りに

「父ちゃんは、こういう繊細な事が苦手なんだ。だから、力でガンガン押し通そうとする。だからね……」


 『合図を出すから、泣け』


 と命令された。

 俺は、一瞬引いたが……。これも、これからの人生の為だと思って……。


 そして、作戦は決行され……。みごと成功を収めたって訳だ。

 母ちゃんの口元が綻ぶのを、俺は見逃さなかったぜ。


『博正。お前は、何をいきり立ってるんだ。何が許せないんだ?』

『だって、お父ちゃん。信じられるか? こんな話……』

『ワシは信じとるよ。何を言ってるんだ』

『信じるのか? こんな……』

『博正。アンタは学がないねぇ。私と爺さんはちゃんと知ってるよ。この間テレビでどきめんたいーってのをやってたのを見たのさ』

『お婆ちゃん。ドキュメンタリーでしょぉ』


 麻由が面白そうに突っ込んでいる。


『あら。言えてなかったかい? で、爺さんと驚いてたんだ。なんてりーるたいむだって』

『婆ちゃん。リアルタイムだって』


 今度は、兄貴がツッコミを入れた。


『おや。また言えてなかったかい?』


 麻由は俺の隣に座っている。


『ねぇ。カズ兄ぃ』


 麻由が俺の袖を、そっと引っ張った。


『な、何……だ?』

『私は、大丈夫だよ。カズ兄、綺麗だし。序々に慣れていくしかないし……。友達にもちゃんと説明できる。分かってくれない子もいるかも知れないけど。私はカズ兄の方が大事だよ。でも、カズ兄……。お願いがあるの』

『何だ?』


 麻由は、一旦下を向いて。上目遣いで、躊躇いながら……言った。



『もし、これから先。カズ兄の名前とか変わっても……。


 麻由はカズ兄って呼んでもいい?』



『……ああ。いいよ。麻由……ありがとう』


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