表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
25/146

25.問診票

 

 家に帰った俺は自分の部屋に入り、赤縁メガネの女医に手渡された「問診票」を前にしてボールペンを指先でクルクル回していた。


『ごめんなさい。試したの……それくらい、あなた綺麗……』


 だって~! 「それくらい、あなた綺麗……」なんだってぇ。

 ひゃひゃひゃひゃぁ~。


 また、言われちゃったぁ~。最近、とっても気分がいいわぁ。

 これってコンテストに出たお陰よね? あんなに嫌だったのにねぇ。

 長尾ちゃんに感謝しなきゃ。うふ♡

 あっ! 賞金……。半分っこするの忘れてる。明日渡そうっと。


 それでぇ? フムフム。

 問診票を覗き込む。


 ☆該当する項目の□にレ点を、ご記入お願いします。

 ……っか。

 問診票に、ざっと目を通して見た。

 23項目ある質問の中で、目に付く項目が三つある。


 ・戸籍の改名 ・立ちションの経験 ・ランドセルの色


 名前を替えたい。先ず、1番に思う。

 替えれるのかな? 結構、面倒くさいって聞いてるけど。


 立ちション……。

 経験はあるが嫌な思い出の1つだ。友達に無理やり、やらされた。


 苛める方法の1つだな。恥ずかしかったなぁ……。

 真っ裸になれって言われてるみたいだったな。

 でも、やらないと“オンナ”って苛められるから仕方なかったんだ。

 結局、苛められたけどね。


 黒のランドセル。学校へ行くのが嫌になるくらい嫌だった。


 でも、こんなふうに問診票にあるって事は、こんな俺達の経験の中では外せないポイントなんだろう。


 あと。家族構成の欄があって、その下にどのような家庭の教育でしたか? って書いてある。


 どんな家庭の教育? どういう意味だろ…。

 俺ん家は爺ちゃんと婆ちゃんが一緒に住んでいて、父ちゃん母ちゃん、兄貴に妹。麻雀家族。

 その辺の家族とそう変らないと思う。父ちゃんが大酒ぐらいで暴れてるなんて家ではない。みんなで和気あいあいと麻雀して、水面下で金を取り合いしている普通の家族だ。


 続いて、幼少期→学童期→思春期と順を追って友達とか、どんな遊びをしたか、服装、成績、身体の違いへの意識、初恋……。


 生い立ちってとこかな?


 ふむ。幼少期と学童の低学年はママゴトが多かったな。

 質問の空欄に書き込んでいく作業を、独り言を言いながら淡々と進めていく。


 高学年になって、野球とかサッカーとかやったけど上手くはないので俺にはツマラナイ遊びだ。

 かと言って、彩のいるところへ戻ろうとも思わなかった。戻りたくなかった。

 だから、苛められても男友達に必死で着いて行ってたな。

 立ちションもその時だ。


 SEX、マスターベション。

 俺はまだ童貞だ。彼女イナイ歴19年。


 マスターベーションは中学から。

 晴華に片思いしている時は、俺の相棒は大活躍だったぜ。

 だけど、晴華と離れてからはその気にもならなかった。そして再会……。

 また、お世話になっている。たまぁに、だけどな。


 SEX。

 興味が無いわけじゃない。ピンと来ないんだな。

 店のお姉さんと下ネタ話をしていると、時々ムズムズしてくるぐらいだ。

 エロ本見ても……こんな胸欲しいなぁ。って感じだからな……。

 ちょっと、違うよな。


 他の男共がオオカミの牙を砥ぎながら、涎をたらすように見ているのとは違うんだな。

 う~ん。なんていうかなぁ……。あ、ファッション雑誌。

 もしくは、整形外科のサンプルを見てる感じなんだなぁ。

 欲情しないんだ。


 晴華は別だぞ。晴華には欲情する。

 言い方が変かも知れないが、晴華になら抱かれてもいい……。


 コレは、なかなか人には言えんぞ。言わないけどね。

 赤縁メガネぐらいだな……言えるとしたら。当たり前か。テヘ。



 二日後__。


 今、俺は赤縁メガネの前にいる。

 真城 麻子。(しんじょう あさこ)赤フチの、名札を確認した。


『吉村さん。あなた、自分を指す一人称は何?』

『一応、「俺」ですけど……』

『どんな気分? 自分で納得してる?』

『う~ん。いい気分じゃない。口癖的っていうか……仕方ないし、慣れましたよ』

『頭では?』

『へ? 頭?』

『そう、何か考える時も「俺」なの?』

『時々、今は「まひる」ですけど。昔は「アタシ」だった時ありました。でも、つい口に出しちゃうんで「俺」でやってます』

『そう。「まひる」って?』

『今、ゲイバーのバイトしてて……源氏名です』

『誰が考えたの? あなた?』

『僕です』

『……名前。替えたいのね?』

『はい!』


 うん、我ながらいい返事だ。


『わかった。それには、診断書が必要になるわ。あなたがMTFであることを証明したものね』


 MTF(Male to Female)……女性への男性。


『その為には、遺伝子の検査をしなくてはならないの。クラインフェルターは、女性の遺伝子を身体に持つ人の事。身体的にあなたのようなに、とても女性的な人の多くはクラインフェルターの可能性が高いと言われているわ。その場合MTFの診断書は出ないのよ』


 遺伝子に女性が含まれている。

 あの、YとかXの組み合わせ……なんちゃらってヤツだろ? 

 ふ~ん。俺ってどうなんだろ?

 検査して貰うか。


『その検査して貰っていいですか?』

『OK! 吉村さんは、今後はどこまで考えている?』

『どこまでとは?』

『そのままでいるか、ホルモン療法を施すとか、手術療法を希望するとか』

『まだ……具体的に考えてないんです。カミングアウトのタイミングとかも……する気なかったんですけどね』

『する気になってるって事?』

『はぁ……』


 う……ん。聞いてみるか? 俺のレズ疑惑を……。


『あ……の。僕、おかしいかも知れないんです』

『何が?』

『僕、性別オンナですけど、好きな人も女性なんです』

『心の性別ね。気にしなくていいわ、MTFの多くは女性が好きなの。全然、普通よ』


 え? 普通? 俺が普通? 

 以外だ。逆に驚いた。

 あれだけ変態扱いされて、女みたいだと苛められて、俺の中では『俺は変なヤツ』が根付いてるっていうのに、この赤フチは「普通」って言ったぞ。

 初めてかもしれない……。俺の人生で初めて俺を、普通呼ばわりする人間がいるなんて。


 俺は、言葉を噛み締めた。ふつう……。

 女性が好きだという、一部分だけの話だが。そんな事はどうでもいいんだ。

 ふつう……。う、嬉しいなぁ。言葉って大事だよなぁ。


 まるで、暗闇の中に大きな手が入って来て、俺の首根っこを摘んでポンって明るい場所に引き出されたような気がした。

 うふふ……。ニヤけてしまう。


『好きな子、いるのね?』

『はい。そうなんです』

『そう。その子に、カミングアウトする気なの?』

『ゆくゆくは……。と思ってますが……』

『その前に、自分を知りたいってとこかしら?』


 すっげ~! 見抜かれてるよ。

 先生! 僕、あなたに着いて行きます!



 なんかぁ、いい先生に出会ったな。純子ママもそうだけど……。

 人を寄せ付けなかった俺が、出会いによって救われ、前進しようとしている。

 うん。辛酸を舐めた過去とは、おさらば~だ。


 俺は、病院から出るとママに電話した。


『ママ。長い間すみませんでした。今日、ギブス取れたんで』

『あ~! カズオちゃん~。丁度いいとこに電話くれたわぁ~。今、何処? タクシー代払うから。今すぐ、店に来れる?』

『え? は、はい。いいですよ』

『慶ちゃんがね。風邪ひいちゃってコンパニオンに穴あきそうだったの。行ってくれないかな?』

『いいっすよ。店で着替えていいんですよね』

『ええ。電車で行くんだけどいい? 真美ちゃんたちは先に行ってるの』

『大丈夫です。すぐに向かいます』

『ありがとう! 待ってるわぁ』


 俺はタクシーに飛び乗り、店に直行した。


 久々に、衣装を着る。嬉しい……。やっぱり、いつも女でいたい。

 男のフリをするのが苦痛に思う日が、時々ある。

 朝起きて、鏡を見た途端。外に出たくない日がある。


 最近、髭が少し気になりだしている。

 体毛が薄い分、太い毛をたった一本でも見つけると叫び出しそうになる日がある。


 それでも、ゲイバーのバイトで気持ちを取り戻してきた。

 心が平静でいられる、スペースだ。


『おはようございます。ママぁ』

『ああぁ。ありがと、カズオちゃん。今日はあなたの、お気に入りの服を用意しといたわ』

『あはは。がんばります』


 俺は、ママに手伝って貰い。化粧をすませ、服を着替え……。

 よし! 準備オッケー!!


『これ、地図。分かるかしら?』

『大丈夫っす。行ってきます』

『気をつけてねぇ~』


 う~ん。これは、急行に乗って行くべきだな。

 俺は駅のホームで電車を待ちながら、携帯ゲームで遊んでいた。


 陽がまだ高いうちに、女装のまま外出するのにも慣れてきた。

 余り、人と目を合わせないってのもあるが。

 度胸がついてきたのかも知れない。


 暫くすると、電車がホームに入って来た。

 あっ。ラッキー、横並びのシートじゃないや。

 進行方向に二人がけのシートがあるタイプの車両だ。

 窓際に座りたいなぁ。


 俺は、上手い具合に窓際に座ることができた。

 ゲームをしながら……。目が疲れてきた……。目がかすむ……。


 眠気に襲われ……携帯を落としたのにも気づかず、俺は夢を見ていた。


 腰まである草が茂っている草原に、今着ているワンピースで俺は立っていた。

 風が、俺の頬を撫で……髪をなびかせる。


 足元の草が、俺の太腿辺りで揺れている。

 うふ♡ くすぐったい……。自然っていいなぁ。


 足元の草は左右に揺れながら……まるで、音楽に合わせて揺れているようだ。


 右に、左に、右に……。左に……。

 上に……。下に……。上に……? 下にぃ……??


 意識が段々ハッキリしてきた。いつの間にか、横に誰かが座っている。


 うん? うん?????



 な、何やってんだぁーー? コイツ!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ