23.前進あるのみ!
三日後、俺は学校へ行った。
手も大丈夫だ。怠け病も抜けた。でへ~。
すると長尾が、すぐに現れた。
俺、GPSついてんのかな?
『よぉ。手、大丈夫か? まだ、痛むか?』
『いや、もうどうってことないよ。何かに、コンって当たった時ぐらいだ。痛いって思うのは』
『そっか。バイトはどうすんだ? いつから行くんだ?』
『ママは一週間ぐらい休んでもいいって言ってた』
『そっか。俺、コンテストの次の日も店入ったんだよ。もう、お前の話で持ちきりだったぜ。「まひるちゃん、何で来てないんだ?」って、ほら近藤さん。手を怪我しちゃったって、ママが説明してたよ。心配してだぜ。いい客だよな。ま、一般のお客はいつもお前の女装みてるからさ、優勝したって言ったら「ああ、あの子はレベル高いからねぇ」なんて当然のように言ってた。な、俺の言った通りだろ?』
『へぇ~。ほんとか? それ』
『マジよ。俺は、嘘はつかんって』
まぁ、そこはどうだか分からないが……。
でもぉ~、ちょっと聞いたぁ? レベル高いってぇ~!
いやん、嬉し過ぎて踊っちゃいそうだわぁ。
『で、晴華ちゃんとはどうなった?』
うっ。長尾ぉ~。やっぱ、そうくるよなぁ。
そうなんだよぉ。そうなんだよぉ。実はなぁ、聞いてくれよぉって言いたいところなんだが、言えないんだよなぁ。
“加州雄が大好き”なんて言われちゃったよぉって、俺が言ったら。長尾が、
「まじか?」って、
で、俺が「マジさ」って答えて、
「よかったじゃん。嬉しいだろ~。コノコノぉ」
「やめろよぉ。でもホント。もう嬉し過ぎて頭が変になっちまいそうだよ」なんて言って、
「中学からだもんなぁ。結構、お前って一途?」
「俺もそう思ったね。自分でも以外って言うか………ただ、晴華に勝つ女子に会わなかったのかなってさ」
「でぇ~! のろけかよ~。で、告ったのか? 付き合ってくれって」……。
って。絶対、こうなるわな……だから、言わない。
で。俺は、
『あぁ、次の日電話で話した』
『で? どうなった?』
『今度、会う約束した』
『やぁ~。嬉しいねぇ。で?』
『それだけ……』
『へ? それだけって?』
『それだけって事は、それだけって事だ』
仕方ねぇだろぉ。俺の秘密は、まだ俺だけのもんなんだからぁ。
『お、お前……あの時、控え室でメッチャ興奮してたじゃんかぁ。あのテンションどこ行ったんだよ』
『……別に、そのままだけど?』
長尾の顔が、少し険しくなった。
当然だ……余りにも、俺はシレっとし過ぎている。自分でもそう思う。
『はぁ? お前、喧嘩売ってんの?』
何でそうなるんだよぉ。こっちが、はぁ? だぜ。
気持ちは分かるが……。
じゃ、こんなのはどうだ?
『いや。まぁ、照れてるだけだ……』
これでどうだ?
『ば、馬鹿ぁ~。そうかぁ~、何だお前照れてんのぉ? ま、分かるけどよぉ。久しぶりの再会だもんなぁ。余韻が残ってるっていうか、まだピンときてないって感じかぁ?』
うん。やっぱ単純だな、コイツ……。いい奴だ。
『う~ん。そんな感じだ。突然だったからなぁ』
『じゃ、これから始まる予感ですかぁ?』
『まぁ、序々に……な』
『そんな事、言ってていいのかぁ。あんな可愛い子、取られちゃうぞぉ』
ふ~んだ。好きだって言ってくれたも~ん。大好きだってぇ。
ふむ。長尾が言うのもわかるような気がする。
俺がハッキリしない態度だったら、晴華はどう思うだろう?
待てよ? 晴華は俺に、「付き合ってくれ」って言って欲しいのかな?
う~ん。晴華と会うときは、その辺を探りながら話をしなければならないな。
でもって、俺自身の事も……。やっぱり、病院へ行く日を早めるべきだな……。
俺が一人でぶつぶつ言ってると長尾が、
『ね、ねぇ。あの晴華と一緒にいた、超可愛い子誰だ?』
『彩か? 知らない』
『お前……。頭おかしいんじゃない? 「彩か、知らない」って、知ってんじゃん。何よ、それ。ケチってんの?』
『そうじゃない。同級生だったからな。同じクラス、晴華の親友』
『やっぱ、知ってんじゃん』
『アイツはやめとけ』
『なんでだよ。彼氏いるのかよ』
『知らない。いるかも知れないし、いないかも知れない。どっちかと言うといない方に俺は賭けるけど』
『へ? どういう意味だ? いないなら良いじゃん』
『やめとけって。アイツと一時間も話したら、胸から鎖垂らした化けもんに変っちまうぞ』
『は?……』
『言葉がはっきりしてて、心が折れ捲くるってことだ』
『そ、そうなのか?』
『でもまぁ、こっちにヤマしい事がなければどうって事ないけどね』
『だ、だよな。そうだよなぁ』
『けど、俺の好みじゃないから何とも言えんが。モテるのは確かだ』
そうだ。アイツは超可愛くて、超モテる。あの可愛さは憧れだ。
目が大きくてパッチリとして、おまけに瞳がデカイから黒めがちってヤツなんだな。
よく、カラーコンタクト入れて大きく見せてる子いるだろ? 彩はそんな事しなくても、人形みたいな瞳を持っている。
子供の頃、アイツの目を触ろうとして叱られた事あるんだ。
嘘だと思うか? これホントの話。そんなけキラキラしてたんだ。
睫毛もフサフサで、それは今でも変ってなかったな。……実に、羨ましい。
大人になって、鼻筋が通ってきてたな。
うん。唇をキュッと結ぶといい顔になる。
彩の顔は、なんていうか“かっわい~”って感じの甘ったるい可愛いじゃないんだ。
切れ可愛いっていうか、凛としてるんだな。
性格は合わんけど……こんな女になりたいと思わせる奴だ。
自分を大事にしてる。そこは尊敬していた。今でもそうか?
まっ、人間ってさほど変らんもんだと言う、多分今もそうだろう。
弱々しいところがないんだ。
だから、彩派の男はMだと思うんだ。
まぁ、あんな可愛い彼女ができるんだったら、望んでMになる気にもなるんだろうが……。
俺は、遠慮しておく。
あ~。長尾。お前も、“M”を目指す男になってしまうのか……。
『でさ。カズオ~……』
分かり易いよ。長尾。
言いたいことが、手に取るように分かる。
そうだな、コイツはいい奴だ。一回くらい願いを聞いてやってもいいかぁ。
『今度、晴華に言っとくよ。彩も連れて来いって』
『ホントか? やったぁ~!! 感謝するぜぇ、カズオぉ』
『後は、知らんぞ。お前が化け物になろうが、ミイラになろうがお前の望んだ事だからな』
長尾はコクコクと、子犬のように頷いていた。面白い奴だ。
うん。2人っきりで会うより、誰かがいた方がいいかもしれない。
でないと、爆走してしまうかもしれない俺がいるからな。
晴華とは……。
そうだな、少し遠回りしてみよう。
少しずつ、時を重ねるのもいいかも知れない。
いつかは、話さなければならないだろう。
その所為で望む結果が得られなかったとしても……。その確率の方が大きいが、それはそれだ。
それまでは、俺の傍にいてくれ晴華。
俺と長尾は話しながら、学内を横切っていた。
久しぶりに学校へ来ると人が多く感じる。と言っても、たかだか2~3日空いただけだが。
人が多いところは、埃っぽく感じて余り好きじゃない。
潔癖症って訳ではないんだけどなぁ。
『カズオ。今からどこ行くんだ?』
『ああ。レポートの資料探しに来たんだ』
『そっか。じゃ、俺。今日の講義、もうないからバイト行く前に飯でも食いに行くわ。お前は、今日も休みだろ?』
『ああ。休みだ。ママに宜しく言っといてくれ』
『おおぉ! じゃぁな』
俺達は別れて歩き出した。
もう、冬だな。
さぁ! さっさと用事を済ませてしまおう。今日は、久々に麻雀ゲームがしたい気分なんだ。
晴華、誘ってみてもいいかな?
俺がそんな事を考えていると、長尾が走って戻ってきた。
『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。カズオ……』
『どうしたんだ? 何、走ってんだよ』
長尾は息が出来ないぐらい走ってきたようだ。
俺は長尾が話せるようになるまで、待った。
『大丈夫か? 水、買ってこようか?』
俺がそう言うと長尾は激しく首を振った。
『ダメだ! はぁ、はぁ。お、俺はお前に忠告する為に待ってたんだ。忘れてた』
『何をだよ。何かあったのか?』
『あ、あれを見ろ』
俺は長尾が指差す方を見た。何やら人だかりができている。
『何だ? アレ。何か貼り出してあるのか?』
『お前だ。お前の写真が貼ってあるんだ。皆、お前見たさに集ってる。行ったら、大変な目に合うぞ!』
ゲッ!!
とんでもない事になっていた。
確かに、コンテストが終わったら俺はどうなってるんだろうって思っていたが……
これが答えだ。
俺は、回れ右をして歩き出した。
そおっと、そおっと……。
『あ! カズだぁ!』
俺と長尾は、その声をスタートの合図に走り出した。
いやあ~! お約束すぎるぅ!!
『何で、電話してこなかったんだよーーーー!!』
『すま~ん! 携帯、家に忘れてきたんだぁーー!!』
ったく、コイツはぁ~。
『つかえねーーーーー!!!』
俺は今までの人生で、これ以上必死になったことがないくらい走った。
長尾をぐんぐん追い抜く__。
もう、後ろは振り向かないぜ! 待ってろぉーー!!
はぁ~るかぁーーーー!!!




