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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
21/146

21.おかえり……。

 ゴン!


『いってぇ~! 何すんだよ!!』

『お前が、馬鹿なこと言うからだ』


 思わず殴ってしまった。左手で。


『だってよぉ。お前、ほんっとに綺麗なんだって!』

『はっ!?』


 いっ!? ガチ……引いた。

 長尾の顔が、みるみる赤くなっていく。


『ば! な、何恥ずかしい事言ってんだよ!』

『い、いや。俺も、な、何言って……んだ?』

『『……』』


 急に、変な空気になってしまった。


『ああ! 俺、片付けあるから先行っとくわ!』


 長尾はそう言うと、顔を赤くしたまま走り去った。


 馬鹿野郎! 何、言ってんだか……。

 びっくりしたぁ。一瞬、コクられたかと思ったぜ……。


 うふ♡

 でも、ヤッパリ綺麗って言われるのは嬉しいわ。女には最高の褒め言葉だもの。可愛い、綺麗。

 何度でも言ってちょうだ~い。

 でも、長尾ちゃんたら。まひるの事、なんだって思ってたのかしら? ゲイ? よね? 

 う~ん。どちらにしても……ふーん、そう思ってたんだぁ。

 でも、そう考えると長尾ちゃんていい子よね。そんな事、おくびにも出さないでさ。

 コンテストに優勝させようって頑張ってくれたじゃん。今度、突っ込んでやろうっと。


 でも、私は男には興味ないんだもの。私は女だけど、女が好きなの……晴華が好きなの。

 だから、男の子の話にも合わせられたのね。『好きなタイプ』とか『女の子とXX』とか『女の子と○○○』みたいな……恋焦がれる気持ちなんかは、多分一緒よ。


 えっ!?……ってっことは、俺ってレズかぁ?

「俺ってレズか?」ってフレーズも何か変だよな……。


 いったい、俺は何者なんだ? 

 ヤバイぞ……知らん間に、変態がレベルアップしてるじゃないか。

 どうすんだよ。秘密がまた増えたような気がする。ママに聞いてみるか? 

 俺の読んだ本に、このパターンはあったかな? わっかんねぇ。


 お姉さん達は……ノーマルで働いてる人以外は……ゲイか? 

 確かめた事ないからなぁ。ゲイっぽいけどなぁ。


 まぁ。どっちにしろ、まず俺だ。俺が何者か……理解しなければ。

 ちょっと、温室でぬくぬくし過ぎたかも知れないな。


 実際には、本当の意味で自分に直面はしていないからな。

 人と違う。変態かも。趣味がちがう? 頭が変? って、感じの……俺の言い方で『外枠』を弄ってたんだな。

 自分自身を第三者的に観るって感じだ。


 だから、本で『性同一性障害』って言う、精神的病気なんだって分かった時も。

 イメージの中で、遠くにいる豆っ粒みたいな自分に向かって、


『お~い。そうなんだってよぉ~! お前、病気なだってよ~!』


 って叫んでるみたいな感じだった。

 怖かったんだな。

 変な話だが、“病気”がいいか、“変態”がいいか……天秤にかけるみたいな。

 それっくらい、他人事にしたかった訳だ。全然、受け入れられなかった。

 今も……受け入れられてるか? ってガチで訊かれたら。多分、言葉に詰まる。

 これが本音だ。


 晴華は、俺の事どう思ってるんだろう……。

 あ~! 段々不安になってきたぁ~。

 ん? 今度、会う時。俺はどっちで行けばいいんだ? 男か? 女か?

 俺は、何を悩んでんだ? っていうか、悩むとこソコ? 


 頭いて~。今日はここまでだ。



 その夜、女医の言う通り手はかなり疼いた。

 頓服をもう一度飲んでベッドに入ったのはいいけど、晴華を思い出すと眠れない。


 今日の晴華を思い出す。

 俺に謝った時のあの真剣な眼差し。上目遣いの甘えた瞳も好きだけど、今日のあの瞳もいい♡

 俺って、ほんっと晴華の事好きだよな。 


 人を好きになるって、胸が締めつけられるようになるんだな。他の奴らもそうなのかな?

 嬉しいのに不安で、愛おしいのに恥ずかしくて、自分を曝け出したいのに隠したくて、色んな感情が混ざり合って……訳わかんない。


 いいんだ。訳なんかいらないんだ。晴華が好きだ。それが真実だ。


 そして、俺の親愛なる相棒2が、晴華への高まる気持ちを静めてくれ。そのお陰で、俺は深い眠りにつくことができた__。バキューン!!



 翌日。PM8:00。


 すぅーーっ。はぁーーー。 すぅーーーーっ。はーーーーーー。


 今、俺は自分のベッドの上で携帯電話を前にして正座している。

 深呼吸……。ラジオ体操したいくらいだ。

 

 そのくらい落ち着かない……。


 電話するって、約束したものの……。

 いつすればいいの分からなくて、2時間が経ってしまった。


 ちっせ~。なんて臆病なんだ。

 だって~、いっぺん逃げられてんのよぉ。臆病にもなるわよぉ。


『よし! 掛けるぞ!』


 俺は携帯電話を握り締め、画面をスライドさせた。

 “晴華”の文字の上を指でタップする。

 呼び出し音より、俺の心臓の音の方が大きいような気がする。

 どきどきどきどきどきどきどきどきどきどき……。


『はぁい。もしもし、加州雄? 遅かったのね。もうちょっと早く掛かってる来るかと思って待ってたのに、忙しかった? あっ、手は大丈夫なの? 今日も病院行った? 先生なんて言ってた? どれ位で治るの? 昨日は疲れたでしょう。すっごい人数だったもんね。でも、加州雄が主役なのよね~。なんか、自分のことみたいに嬉しくってぇ。加州雄から目が離せなかったんだよぉ。あの帰り道さぁ、彩ッたらねぇ………』


 え? え? え? え? え? は、晴華? 今、誰と喋ってんの?


『も、もしもし? 晴華?』

『うん? どうしたの?』

『い、いや……いきなり、喋りすぎってことない?』

『そう? だって、加州雄が掛けて来るの遅いから。話したい事が一気に噴出しちゃったぁ』


 そうぉかぁ。そうぉなのかぁ。待っててくれたのかぁ~。


 こ、この野郎ぉ。

 晴華、お前は俺の心の的を射抜く弓の達人だぁ!

 感激し過ぎて言葉が出てこないぜ。なんてな。


『いや。晴華の都合聞くの忘れててさ。こんくらいの時間でいいかなぁって、思って掛けて見た』

『そっかぁ。明日ってだけで、時間言わなかったもんね。あは。私一人で盛り上がってたのね』


 いいや! 俺も盛り上がってたぞ~。夕べから……おい!

 ってかぁ~。嬉しいこと言ってくれるのなぁ。


『いや、俺だって楽しみにしてたから……』

『ほんと? よかった。で、手はどうなの? どうなったの? 何でそうなったの?』

『質問が多いなぁ。晴華ってそんな、弾丸トークな子だった?』

『多分、まだ興奮してるのかも、“まひる”ちゃんに』

『よせよぉ。嬉しいけどさぁ。自分の基準と、人の目と必ずしも一致するってことないんだぜ。俺なんかバイトで、いやって言う程ほどきれいな男の人見てるんだから。自分の事なんか分かんないよ』

『優勝できないと思ってた?』

『いや、それは……自信はあった』

『わぁ! すっごい。言うよねぇ~』

『そりゃぁ。格が違わぁ! 一日だけの付け焼刃な奴に負けたら、俺クビだわ』

『そりゃ、そうだ!』

『『アハハハハ』』


 今日の晴華は楽しい。いつも楽しかったけど。なんか……雰囲気が……ノリがいいって言うかぁ。

 何で、もっと早く電話しなかったんだろう。馬鹿だぞ、俺。エヘヘ。


『あっ、手。手はどうしたの? あれってギブスみたいだったけど』

『ああ。ヒビが入ってるって。メッチャ細かい筋みたいな』

『え~! そうだったの? で、昨日あの仕事こなしてたのぉ?』

『ま、まあな。長尾が助けてくれたし……。店の人達も』

『そっかぁ。長尾君って、エレベータまで来てくれた人でしょ?』

『ああ、そうだ。あいつだ』


 それから俺は、晴華と離れてからの話をした。バーテンのバイトで酔っ払った事。女装に戻ったきっかけ、コンテスト出場の成り行き。


『色んな事あったんだね』

『ああ。結構、目まぐるしかったんじゃないかな?』

『そっかぁ……。そうなんだぁ……』


 ん? 晴華?


『どうした? 晴華?』


 声のトーンがガクッと下ったぞ……。


『……加州雄。あのね、昨日も言ったけど。私ね……ずっと謝りたかったの。……あんな事しちゃダメだよね。いきなり、何も言わないで走ってどっかへ行っちゃうなんて……。電話掛けてくれてるのに、取らないなんて……。メール……返信しない……なんて……。私、人にそんな事されたら立ち直れない……。なのに、加州雄に……』

『……晴華』

『ごめんね。ごめん……ね。加州雄……』


 ひっく……ひっく。

 晴華が泣いている……。


『晴華……もういいよ。泣かないで晴華』

『うっ、うぅっ……私』

『晴華……俺の所為で苦しかったね』

『違う。私の所為なの……私が、私が……』

『大丈夫。怒ってなんかない。確かに訳分かんなかったけど……寂しかったけど。今、晴華と話してる。それでいい』

『加州雄ぉ……。ごめ……ん……なさ……いぃ』


 ああぁ、どうしよう。晴華が泣いてるぅ。

 どうしたらいいんだよぉ。

 慰めるってどうするんだぁ?


『泣かないで晴華……。おかえり』

『ただいまぁ……加州雄ぉ』


 ああ。好きだ、晴華ぁ。



『おかえり、晴華。大好きだよ』



『うぅ……うっ。私も加州雄が、大好きなの』


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