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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
20/146

20.俺の恋。最高の夜。

 晴華……。


 彼女は扉を後ろ手で閉めながら、こちらを見ている。


 髪、伸びたんだな。可愛い……その長さ、良く似合ってるよ。


 オレンジとグレーのボーダシャツの上に、丈の長い白に近いグレーのカーディガン、太腿の前と膝にかけて擦ったように見せているGパン。鎖の長いペンダントをアクセントにしている。


 ボーダシャツの首周りが広いので形のいい鎖骨が綺麗に見える。

 色白の晴華にオレンジが良く似合っていた。


 俺たちは見つめ合い……。

 晴華は視線を外すことなく、俺に近づいてきた。


『おめでと。加州雄』


 俺の前に立ち止まった彼女は、そう言うとニッコリ微笑んだ。


 久しぶりに見る晴華笑顔が、俺の心をざわめかせ、息が止まりそうな程締めつけ。

 このまま、抱きしめて髪を撫ぜてキスをして……二度と、離したくないと思わせる。


 好きだ……晴華。


 こんなに好きだったなんて……好き過ぎて苦しいよ。


 俺は晴華の頬に触れようとして手を伸ばした。

 ハッ! 

 今じゃない。今、俺は“まひる”なんだ。

 晴華の頬にそっと手を当て、


『ダメよ。今日は、まひるで統一してるんだから。私を呼ぶ時は、ま・ひ・る』


 と言いながら思いっきり微笑んだ。


『あ、ごめん。まひる、おめでと』

『うふ♡ ありがと』


 俺は晴華の頬に当てた手を下ろし、晴華の手をそっと掴んだ。

 手をゆっくりと引きながら彩の隣へ座らせる。


『じゃ、また後でね』


 軽くウィンクをして晴華の席から離れた。


 シェ~! 今。俺、何リットルの汗掻いただろう。

 はあ~、何とか切り抜けたって感じだ。

 まだ、胸はバクバクしている。

 ああぁ~。気になる、気になる、気になる、気になる、気になるぅ。

 晴華だ! 晴華だぁ! 晴華が来たんだぁ!


 その後、テーブルを5つ回って挨拶したが、もう気が散ってしまってどうにもならなかった。

 チラチラと晴華の姿を探して、確認して安心する。の、繰り返し。

 彩~! 帰るんじゃねぇぞぉ! 晴華を確認すると同時に彩の様子も伺う。


 ふむ。帰るようすはなさそうだな。

 俺は化粧直しの為。一旦、控え室に戻る。長尾がオレンジジュースを運んでくれた。

 俺は長尾を見た習慣、奴に抱きついた。


『わっ! 何やってんだよ! 気持ち悪ぃ~よぉ。離れろよ!』


 それでも、俺は更に力を入れて長尾を抱きしめた。


『お、おい! 怒るぞ! ふざけんなって! どうしたんだよ!』

『晴華だ!』

『へっ?』


 俺は長尾から身体をはなし、奴の腕を掴んで言った。


『晴華が来たんだ!』

『晴華って、誰よ』

『俺の片思いの子』

『お前……好きな子いたの』

『ああ、ずっとずっと好きだったんだ!』

『……へぇ』

『ああ! めっちゃくちゃ嬉しい! も、最高! 一年近く会ってなかったんだけど。店に来てるんだよ!』

『どこに?』

『ステージの正面のテーブルに座ってる。友達と一緒に』

『マジかよぉ。俺、お絞り持ってこっかなぁ』

『何か、飲み物サービスないのかよぉ』

『ば~か。今日はフリーだ』

『そっかぁ。おい! 化粧直し手伝えよ! 片手じゃ無理だ』

『ヘイヘイ。ご主人様』


 俺は鏡の前に座って、長尾に助けて貰いながら化粧直しを始めた。

 だが、こうしている間にも晴華が帰ってしまわないかと、気が気じゃない。


『なぁ、長尾。見てきてくれねぇか?』

『何を?』

『彼女、帰ってないかなぁ?』

『だ~いじょうぶだろう。帰りゃしねぇよぉ』

『そっかなぁ~』


 それでも安心できない俺は、長尾に頼んで見に行って貰った。


『さっさと戻ってこないと、帰っちゃうよ』


 彩の言葉が、俺を強迫観念に陥らせている。

 くぅ。彩ぁーー!! 


 過去の思い出が、どうしても俺を落ち着かせない。

 アイツは有言実行の女なんだ。


 早く戻らないと……。

 俺が片手でぎこちなく化粧直しをしていると、ママが部屋に入ってきた。


『大丈夫? カズオちゃん。手伝おうか? でも、もうすぐお終いだから適当でいいわよ』

『は、はい』


 適当か……うん、それでもいいか。

 俺は、口紅を置くとすぐに立ち上がった。


『どうしたの? やけに急いでるじゃない』

『あ、知り合いが来てて……』

『まぁ、そうなの。早く行ってらっしゃい』

『はい! 行ってきます』


 と、部屋を出ようとした時、長尾が入って来た。


『おい! カズオ、早く行けよ。待ってんぞ』

『マジか? 行ってくるよ』


 俺は慌てて、部屋から飛び出した。

 でも、走り出すときドレスの裾を摘むのは忘れてないぞ。


 部屋から出ると晴華のテーブルに直行する。


『おまたせ♡』

『やっと来たわね。かずお』

『まひるだってんだろ!』

『彩~。意地悪しちゃダメよ』


 あぁ。晴華ぁ。いい子だなぁ。もう、俺は溶けてしまいそうだよぉ~。


『何で、今日来たんだ? ってか、何で知ってんだ?』

『佐藤君よ。カズ……まひると同じ大学なの。でも、カズ……まひるが出場するのは知らなかったわ』

『そっ。アンタが出てきた時だって、私らはアンタだって分かんなかったわ。分かったのは晴華だけ』

『え? そうなの? 皆、分からなかったの?』

『分かるわけないじゃん! コイツがオカマになってるなんて、知らないんだから』

『オカマじゃねぇよ!』


 一々勘に触る奴だ。コイツは……。

 だけど、晴華は気づいたんだ。まぁ、当たり前かずっと女装してデートしてたんだものな。

 でも、女装で初対面の時も分かってたよな。何でだ?


『でも、本当に綺麗ねまひる。うっとりしちゃうわ』

『ハハ。何か微妙だな。褒めてくれてんのは分かるけどさ』


 ホント微妙だよな。男になるって決めて晴華がどっか行っちゃって。女装に戻って、晴華が戻ってきて……綺麗って褒めてくれてる。それを、嬉しいと思う俺。

 でも、やっぱり晴華の前では男でいたいと思う。

 もどかしいなぁ。晴華、また連絡としてくれるかなぁ? また、デートしてくれるかなぁ? 女装でもいいからデートしたいなぁ。


 晴華の顔を眺めながら、物思いに耽っていたら長尾がやって来た。


『いらっしゃいませ。お飲み物のお替りはいかがですか?』

『私、これと同じものを……彩は?』

『私は、もういいわ。それに、お店終わりじゃないの? ホラ』


 振り返ると、ママがステージに上がったとこだった。


『皆様。本日はご来店下さいまして誠にありがとうございました。またのご来店をスタッフ一同心からお待ちしております』


 普段なら、こんな挨拶はしない。今日は特別だ。イベントの時は客が帰り易いように、こうやってアナウンスする。でないと、いつまでもズルズル駄弁ってたりするからな。

 まぁ、店側の都合だわ。


『じゃ。帰ろっか』

『うん。じゃ、帰るね』

『ああぁ。今日はありがとう晴華』

『私には? 言わないの?』

『……気をつけて帰れよ。晴華』

『ちょっとぉ。アンタ無視する気ぃ?』


 あら? 誰かしら? 何かいたかしら?

 俺はガチでシカトした。くくぅ。怒ってる怒ってる。


『カズオ。ダメよお客さんなんだから』


 晴華が俺を諭した。

 ヘイヘイ。わかりやしたよぉ。


『どうもありがとうございましたぁ~』

『アンタ! ムカつくわね! ふん!』


 彩はさっさと扉に向かって歩き出した。あっかんべ~だ。お尻ぺんぺん。


『もう! 何でカズオと彩は仲が悪いの? 昔っから……』

『そんな事ねぇよ。それより晴華……あのさ』


 早く言わなきゃ。今度いつ会えるかって……。


 すると、晴華が急に真剣な顔をして俺を見つめた。   


『カズオ。ごめんね。私、カズオに酷い事したよね……ずっと気になってたの。謝らなきゃって……ほんとに、ごめんね』


 晴華、そうか。思ってくれてたんだ。

 許~す。それでいい。その言葉だけでいいよぉ。


『晴華……いいんだ。終わった事は……それより、今度はあるのかな?』

『え? 今度? 今度があるの?』


 あは。このセリフ、あの時と一緒だ。


『ああ、お前が嫌じゃなかったらな』

『嫌じゃないわ。カズオの着メロそのままよ。画面見なくてもカズオからの電話って、すぐに分かるわ』


 晴華ぁ! この野郎!! お前は俺を喜ばすに掛けては天才だなぁ!

 嬉しいぞぉ!!

 よおし! 今夜は俺の親愛なる相棒が久しぶりに活躍する気配がするなぁ。ハッハハハハァ

 あっ。怪我してるんだった……。じゃ、反対側の相棒を……。


『電話するよ! 明日、絶対!』

『うん! 待ってる。手、お大事にね。おやすみなさい』


 俺と長尾は晴華をエレベータまで送っていった。エレベータの中には不貞腐れた彩がこちらを睨んでいたが、そんな事は気にもしなかった。


『『ありがとうございましたぁ!!』』


 俺と長尾は、頭を下げた。エレベータの扉がゆっくりと閉まる。少しずつ晴華の姿が見えなくなって行く。

 そして、扉が完全に閉まった。


『へぇ~。片思いねぇ~』

『中学からな……』

『シェ~! マジかよ。信じらんねぇや』

『なんでだよぉ』

『……』

『何で、信じられねぇんだよ』


 なんだ? どうしたんだ? 

 長尾は暫く俯いて何か考えているようだったが、顔を上げて俺をみると……。

 不思議そうに言った。



『カズオぉ。お前って、ノーマルだったの?』 



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