19.祝、優勝!
『まぁ~、アンタ達も暇ね~。いったい、何しに来たのかしらぁ? こんなに沢山の人間相手する方の事も、ちょっとは考えなさよぉ! ったく、結構面倒くさいのよ。大人しそうな顔して、しれっと座ってるけど。アンタ達の相手するのって、ホント大変なんだからぁ~』
『『『アハハハッハハハ』』』
茜さんの毒舌で店中が、ドッと湧いた。
コンテストで優勝した俺の御披露目の為、ステージ上で前振りをしてくれている。
マイクから次々と放たれる毒舌は、嫌味がなくとても愉快だ。茜姉さんは、そこが上手い。
『でぇ? 誰に会いに来たってぇ? 名前聞いとこうかしら? 私じゃない事は確かよね』
『い~や。俺は茜に会いに来たぞ~!』
『あら~! 嬉しい事言ってくれるじゃな~い。今晩お持ち帰りOKよ~』
『それは、いらん! 嫁に殺されるわ!』
『大丈夫よぉ。その前に私が、嫁を殺しといてあげるから~』
『『『ハハハハハハハハハハ!!!』』』
『よく言うよぉ!』
『『『アハハハハハハ!!!』』』
『で~。誰なのぉ? 教えてよぉ。後で苛めなきゃならないんだからぁ!』
『『カズオく~ん!』』
『『カ~ズぅ!』』
『『まひるちゃ~ん!』』
バラバラだ……。
仕方がないっちゃ、仕方がないが。
『はいは~い。カズって誰よ! うちにそんな子いないわよ! ママ! いつからこの店はオトコ雇ってんのよ!』
『何言ってんの! 全員オトコじゃない。アンタも含めてね』
『『『ギャハハハハハハ』』』
『あら? そうだったかしら? 長いこと女やってるから忘れてたわ』
『ボケてんじゃないわよ! アンタ、まだつい(・・)てるじゃない!』
『『『ハハハハハハハハハハ!!!』』』
『いやー! ママァ! やめて~! 言わないで~! 私、お風呂入る時でも下は見た事ないのよぉ』
『『『ギャハハハハハハ』』』
『いつまでやってんのよ! 早くしなさい! 次の客待ってんのよ! 今日は金ヅルが一杯来てるんだから! さっさと、引っ込みなさい!』
『『『ハハハハハハハハハハ!!!』』』
絶妙な掛け合いだ。ママと茜さんの毒舌会話で、大盛り上がり。
すっげ~! この人たち、ほんっと命掛けてるよな。
『コホン……。では、皆さん、今日は「まひるちゃん」で統一しましょう。よろしいですかぁ?』
『『『はぁ~い!!』』』
『オッケー!! ありがとうございます。皆が会いたい人の名前は~?』
『『『『まひるちゃ~ん!!』』』』
『OK!! You, ladies and gentleman. I introduce. It is today‘s contest champion まひる! Hey! まひる! Come on!』
私は、店中に響き渡る音楽と共にステージに登場した。
スポットライトが、私を照らしている。
私は、まひる。
ゲイバー“美無麗”のNo.1。
大拍手と大歓声に迎えられ、喜びを押さえられない私。
客席を見渡した。そして、一人一人の顔を見る。皆、嬉しそうに笑っている。
私を祝福してくれている。
『皆様。今日はありがとうございます。今日の為に協力してくださった方々、応援してくださった方々。優勝することで、皆様に多少のご恩返しができたかと思いますが、まだまだ返し切れてはいないでしょうが……』
『充分だよ~! まひるちゃ~ん』
『あは。ありがとうございます。すっごく嬉しいです。この後、皆様お一人お一人にご挨拶にまわりますので、まひるが行くまで帰っちゃだめよ!』
『帰れないよぉ~!』
『帰らないわ~! お持ち帰りするんだからぁ。カズぅ!』
げ! 沙也加さんだ。何で、ここにいるんだ? 長尾……?
ったく、……アイツには負けたよぉ。ハハハ。
その後、俺は各テーブルに挨拶して回った。
今日は90分で、入れ替えだ。何回転するんだぁ? 営業時間からして、いいとこ4回転ぐらいか?
さっきボーイに訊いて見たら、人は増え続けていると……。
詰め込むしかないな。
ステージから見ても客席が、ギュウギュウ詰めなのが分かる。二人掛けの椅子に3人座ってるんだものな。
店の中を、長尾を含めホール係が走り回っている。
氷が足りないとか、お絞りが追いつかないとか、付き出しが、チャームが、フルーツが……。
まるで、戦場だ。皆、汗だくで……。
なんか……優勝して悪かったな……なんて、思わないよ~ん!
だって。皆、忙しいけど楽しそうだもん。
長尾の奴、ガチで弾けてるよぉ。
案の定、店は4回転した。
もう。ヘロヘロ……。
あと少し、頑張ろう。頓服、飲んどいて良かった。
4回転目、最終ステージ。
足が縺れそうだ。
それでも、俺は踏ん張ってテーブルを回った。
『今日は、ありがとうございます』
『おめでとう。まひる、綺麗よ』
『ありがと♡』
もう、客の顔なんか見ちゃいない。顔に笑顔を貼り付けているだけ……くたくたよぉ。
凛さんから貰ったドレスの重さが効いてきてる。長時間はムリだな……重い。
補正の為に、身体に巻いた晒しもガムテで止めてるとは言え、ズレてきている。汗も半端じゃない。
あ~。早く、風呂入りてぇ~。
あっ。今日は風呂はダメって言われたんだっけ……。すこし、シャワー浴びるくらいならいいよね? このまま布団に入んのは、嫌だ。いいだろぉ? 女医。
『へぇ~。たいしたもんね。話には聞いてたけど、これ程とは、思っても見なかったわ……。丸っきり女じゃん。こんなオトコいるのねぇ』
『え?』
俺は、声の主の方へ顔を向けた。
『は~い! 久しぶりぃ~』
『いっ!』
今の俺はどんな顔してるんだろう? 多分、めっちゃくちゃ驚いた顔をしてると思うが。
身体まで固まってしまっているのだから。おまけに、息も止まってる。
『なによ~。そんなにビックリしなくてもいいじゃん。死んだとでも思ってた訳?』
そうじゃない。今、死にたくなったのは俺だ。
コイツがここにいるって事は……もしかして……。
俺は、我を忘れて辺りをキョロキョロと見回した。
『今、席はずしてるの。家に電話しにいったわ』
いるのか? 来てるのか!
い、いきなり心臓がバクバクしだした。
ど、どうする? どうするんだよ! 俺!
どうもこうも……。舞台挨拶はもう終わった。
「最後のステージだから、サービスよん」とか言って、客席に投げキッスして、思いっきり色気振り撒いて……。腰振って……。ウィンク……し……て。あああぁぁ。
見てた訳だろ? あれを、見てたんだろ!! あれを!!!
俺はガチで倒れそうになった。
キャー! どうしたらいいのぉ! 恥ずかしいってゆうかぁ。マズったってゆうかぁ。でも、分からないじゃない。まさか、来るなんて思わないしぃ、知ってるとも思わないしぃ、こんなの反則よぉ~。奇襲攻撃みたいなもんよぉ! 心臓が潰れちゃうくらいバクバクしてるぅ。
えっ? えっ? えっ? 何? あ~ん。まひる、もう何が何だかわかんな~い。クスン……。
……どうも、分裂症気味だな。
落ち着け、落ち着け、俺。
『何、自分失ってんのよ。さっさと挨拶済ませて戻ってきなさいよ。でないと帰っちゃうわよ』
『お前さぁ。何、勝手な事言ってんだよ!』
思わず怒鳴ってしまった。しかも、オトコで……。
一瞬、周りがザワつく。ヤバ!
『いやだぁ~! もう、苛めないでくださいよぉ~。可愛いお顔してぇ。結構、吹き矢飛ばしますよねぇ。しかも、毒矢』
くっ。コイツ、舌出して笑ってやがる……。
悪魔だ。コイツは魔女だ……。
山内 彩。超毒舌女。
そして……。
晴華の親友にして、幼い頃からの俺の敵だ。
お前だけには会いたくなかった。絶対に……。
ああぁ。でも遅い……。もう、始まってしまった記憶の回想……。
蘇える、幼少の頃の屈辱……。
忘れていた、惨めな過去……。
山内……。彩……。
俺はギリギリと奥歯を噛み締め、グッと拳を握り締める。
その時、店の扉が開いた。
店のライトに照らし出された、その姿を俺は目で捉えた。
瞬間にして、込み上げる思い……。
溢れる感情……。
喜び。気恥ずかしさ。戸惑い。愛おしさ__。
会いたかった。
晴華……。
……俺の恋。