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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
19/146

19.祝、優勝!

『まぁ~、アンタ達も暇ね~。いったい、何しに来たのかしらぁ? こんなに沢山の人間相手する方の事も、ちょっとは考えなさよぉ! ったく、結構面倒くさいのよ。大人しそうな顔して、しれっと座ってるけど。アンタ達の相手するのって、ホント大変なんだからぁ~』


『『『アハハハッハハハ』』』


 茜さんの毒舌で店中が、ドッと湧いた。

 コンテストで優勝した俺の御披露目の為、ステージ上で前振りをしてくれている。

 マイクから次々と放たれる毒舌は、嫌味がなくとても愉快だ。茜姉さんは、そこが上手い。


『でぇ? 誰に会いに来たってぇ? 名前聞いとこうかしら? 私じゃない事は確かよね』

『い~や。俺は茜に会いに来たぞ~!』

『あら~! 嬉しい事言ってくれるじゃな~い。今晩お持ち帰りOKよ~』

『それは、いらん! 嫁に殺されるわ!』

『大丈夫よぉ。その前に私が、嫁を殺しといてあげるから~』

『『『ハハハハハハハハハハ!!!』』』

『よく言うよぉ!』

『『『アハハハハハハ!!!』』』

『で~。誰なのぉ? 教えてよぉ。後で苛めなきゃならないんだからぁ!』

『『カズオく~ん!』』

『『カ~ズぅ!』』

『『まひるちゃ~ん!』』


 バラバラだ……。

 仕方がないっちゃ、仕方がないが。


『はいは~い。カズって誰よ! うちにそんな子いないわよ! ママ! いつからこの店はオトコ雇ってんのよ!』

『何言ってんの! 全員オトコじゃない。アンタも含めてね』

『『『ギャハハハハハハ』』』

『あら? そうだったかしら? 長いこと女やってるから忘れてたわ』

『ボケてんじゃないわよ! アンタ、まだつい(・・)てるじゃない!』

『『『ハハハハハハハハハハ!!!』』』

『いやー! ママァ! やめて~! 言わないで~! 私、お風呂入る時でも下は見た事ないのよぉ』

『『『ギャハハハハハハ』』』

『いつまでやってんのよ! 早くしなさい! 次の客待ってんのよ! 今日は金ヅルが一杯来てるんだから! さっさと、引っ込みなさい!』

『『『ハハハハハハハハハハ!!!』』』


 絶妙な掛け合いだ。ママと茜さんの毒舌会話で、大盛り上がり。

 すっげ~! この人たち、ほんっと命掛けてるよな。


『コホン……。では、皆さん、今日は「まひるちゃん」で統一しましょう。よろしいですかぁ?』

『『『はぁ~い!!』』』

『オッケー!! ありがとうございます。皆が会いたい人の名前は~?』


『『『『まひるちゃ~ん!!』』』』


『OK!! You, ladies and gentleman. I introduce. It is today‘s contest  champion まひる!  Hey! まひる! Come on!』


 私は、店中に響き渡る音楽と共にステージに登場した。

 スポットライトが、私を照らしている。 


 私は、まひる。

 ゲイバー“美無麗(ビブレ)”のNo.1。


 大拍手と大歓声に迎えられ、喜びを押さえられない私。


 客席を見渡した。そして、一人一人の顔を見る。皆、嬉しそうに笑っている。

 私を祝福してくれている。


『皆様。今日はありがとうございます。今日の為に協力してくださった方々、応援してくださった方々。優勝することで、皆様に多少のご恩返しができたかと思いますが、まだまだ返し切れてはいないでしょうが……』

『充分だよ~! まひるちゃ~ん』

『あは。ありがとうございます。すっごく嬉しいです。この後、皆様お一人お一人にご挨拶にまわりますので、まひるが行くまで帰っちゃだめよ!』

『帰れないよぉ~!』

『帰らないわ~! お持ち帰りするんだからぁ。カズぅ!』


 げ! 沙也加さんだ。何で、ここにいるんだ? 長尾……?

 ったく、……アイツには負けたよぉ。ハハハ。


 その後、俺は各テーブルに挨拶して回った。

 今日は90分で、入れ替えだ。何回転するんだぁ? 営業時間からして、いいとこ4回転ぐらいか? 

 さっきボーイに訊いて見たら、人は増え続けていると……。

 詰め込むしかないな。

 ステージから見ても客席が、ギュウギュウ詰めなのが分かる。二人掛けの椅子に3人座ってるんだものな。

 店の中を、長尾を含めホール係が走り回っている。

 氷が足りないとか、お絞りが追いつかないとか、付き出しが、チャームが、フルーツが……。

 まるで、戦場だ。皆、汗だくで……。


 なんか……優勝して悪かったな……なんて、思わないよ~ん!

 だって。皆、忙しいけど楽しそうだもん。

 長尾の奴、ガチで弾けてるよぉ。


 案の定、店は4回転した。


 もう。ヘロヘロ……。

 あと少し、頑張ろう。頓服、飲んどいて良かった。


 4回転目、最終ステージ。


 足が縺れそうだ。

 それでも、俺は踏ん張ってテーブルを回った。


『今日は、ありがとうございます』

『おめでとう。まひる、綺麗よ』

『ありがと♡』


 もう、客の顔なんか見ちゃいない。顔に笑顔を貼り付けているだけ……くたくたよぉ。


 凛さんから貰ったドレスの重さが効いてきてる。長時間はムリだな……重い。

 補正の為に、身体に巻いた晒しもガムテで止めてるとは言え、ズレてきている。汗も半端じゃない。

 あ~。早く、風呂入りてぇ~。

 あっ。今日は風呂はダメって言われたんだっけ……。すこし、シャワー浴びるくらいならいいよね? このまま布団に入んのは、嫌だ。いいだろぉ? 女医(せんせい)


『へぇ~。たいしたもんね。話には聞いてたけど、これ程とは、思っても見なかったわ……。丸っきり女じゃん。こんなオトコいるのねぇ』

『え?』


 俺は、声の主の方へ顔を向けた。


『は~い! 久しぶりぃ~』

『いっ!』


 今の俺はどんな顔してるんだろう? 多分、めっちゃくちゃ驚いた顔をしてると思うが。

 身体まで固まってしまっているのだから。おまけに、息も止まってる。


『なによ~。そんなにビックリしなくてもいいじゃん。死んだとでも思ってた訳?』


 そうじゃない。今、死にたくなったのは俺だ。

 コイツがここにいるって事は……もしかして……。


 俺は、我を忘れて辺りをキョロキョロと見回した。


『今、席はずしてるの。家に電話しにいったわ』


 いるのか? 来てるのか!

 い、いきなり心臓がバクバクしだした。


 ど、どうする? どうするんだよ! 俺!

 どうもこうも……。舞台挨拶はもう終わった。

「最後のステージだから、サービスよん」とか言って、客席に投げキッスして、思いっきり色気振り撒いて……。腰振って……。ウィンク……し……て。あああぁぁ。


 見てた訳だろ? あれを、見てたんだろ!! あれを!!!

 俺はガチで倒れそうになった。


 キャー! どうしたらいいのぉ! 恥ずかしいってゆうかぁ。マズったってゆうかぁ。でも、分からないじゃない。まさか、来るなんて思わないしぃ、知ってるとも思わないしぃ、こんなの反則よぉ~。奇襲攻撃みたいなもんよぉ! 心臓が潰れちゃうくらいバクバクしてるぅ。

 えっ? えっ? えっ? 何? あ~ん。まひる、もう何が何だかわかんな~い。クスン……。


 ……どうも、分裂症気味だな。

 落ち着け、落ち着け、俺。


『何、自分失ってんのよ。さっさと挨拶済ませて戻ってきなさいよ。でないと帰っちゃうわよ』

『お前さぁ。何、勝手な事言ってんだよ!』


 思わず怒鳴ってしまった。しかも、オトコで……。

 一瞬、周りがザワつく。ヤバ!


『いやだぁ~! もう、苛めないでくださいよぉ~。可愛いお顔してぇ。結構、吹き矢飛ばしますよねぇ。しかも、毒矢』


 くっ。コイツ、舌出して笑ってやがる……。

 悪魔だ。コイツは魔女だ……。


 山内 彩。超毒舌女。 

 そして……。

 晴華の親友にして、幼い頃からの俺の敵だ。


 お前だけには会いたくなかった。絶対に……。


 ああぁ。でも遅い……。もう、始まってしまった記憶の回想……。

 蘇える、幼少の頃の屈辱……。

 忘れていた、惨めな過去……。


 山内……。彩……。


 俺はギリギリと奥歯を噛み締め、グッと拳を握り締める。

 その時、店の扉が開いた。


 店のライトに照らし出された、その姿を俺は目で捉えた。


 瞬間にして、込み上げる思い……。


 溢れる感情……。


 喜び。気恥ずかしさ。戸惑い。愛おしさ__。


 会いたかった。


 晴華……。



 ……俺の恋。



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