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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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18.満足の向こう側……俺の場合”変態”

 

『脇毛かぁ……』


 今、俺と長尾は店に向かっている。

 病院から直行する事にしたのだが……俺の手にはギブスが施されている。

 そのテープ式のギブスを眺めながら、女医の質問を頭の中で思い返していた。


『脇毛、生えてる?』


 俺は、脇毛が薄い……。

 いや、脇毛だけじゃない。体毛が全体的に薄い。

 他の奴と比べて、薄いかな?

 高校の時、少しだけそう思った事がある。

 だが……それだけ。悩むなんてない。不便でもない。さっぱりしたもんだ。

 と思っている筈なんだが……俺は、真夏以外半袖の服は着ない。


 何故かって? やっぱ、薄いからだ……。

 悩んではいないが……その……カッコ悪いかもって思った時があって。

 それから、何となく半袖は着なくなった。


 中3の頃だったな。晴華に片思いしてた時。今でもだが。ほっとけ。

 男らしい奴を見て、いいなぁって思っていたのは確かだ。

 女って、ヤッパあんなんが好きなんじゃないかなって、思ってた頃だ。


 晴華と離れてからは、違った。

 日に焼けるのも、あまり好きじゃないし……。


 要は、晴華が好きだから、晴華好みになりたいって思っていたんだな。

 晴華=女の子。女の子の好み=晴華の好み。みたいな……。

 だからと言って、女子達の好みを把握していた訳ではない。

 当時のモテモテ君を参考にするのが、関の山だな。

 で、そいつがわりと毛深かったりしたら……分かるだろ? 分からないか? 

 そうだよ、俺が単純過ぎたんだ。悪かったな。フン!

 毛深いのがモテる。って思う訳だわ。


 体型がヒョロイってのも、当時はコンプレックスだったな。モテモテ君はガタイがいい。

 制服を着ていて、ヒョロそうに見えても脱ぐとそれなりだ。

 俺は服を着ていてもヒョロイし、脱げば更にヒョロイからな。

 まあ、そんなこんなをひっくるめて半袖を遠ざけたのは確かだ。


 あと、髪の毛だな。俺はずっと長めだ。髪を切るのが、ほんっと嫌だった。今でもだが……。

 小学校の頃はまだまだ大目に見て貰えていたが、中学に入ってからはそうはいかなかった。

 学校の校則より、親が煩かったな。

 何かにつけて、『髪を切れ』『散髪行け』と言われまくってた。


『そんなだから、勉強できないんだ』


 とかなんとか。ほんとかよぉ~って、舌出してたけどさ。

 その頃からだ。アニメキャラを隠れ蓑にし出したのは。

 我ながら、妙案だったと思ってた。セコイけどな。


 一時、ずっとヘアピンをして学校に通っていた事があった。

 俺は満足してたんだが……アレは危険だ。

 何がって? 満足と言う言葉が危険だって言ってるんだ。今、思い出しても震えてしまう……。


 満足というのは充分であること、不満がないって事だろ? だが、ずっとそのままでいられるか? な訳ないよな~。そう、飽きてくるんだ。

 そうなってしまったら……もっと、もっとが始まってしまう。

 もっと可愛いもの、もっと綺麗なもの……坂を転げ落ちるように貪欲になっていくんだな。

 俺だけか? 

 ゲームにしたって、何だってそうだ。満足→飽きる→もっと→もっと、が止まらなくなってしまう。

 悪くはないさ、貪欲な精神は必要なものだ。

 勉強に貪欲、金に貪欲、全部ひっくるめて生きる事に貪欲。

 まぁ、俺の勝手な解釈だけど。貪欲な人間は一生懸命だと思う。全てにじゃあないぞ。

 例え、好きな分野にだけでも貪欲さがあれば、誰でも一生懸命になれる。

 ゲームなんかでも、クリアするまで諦めないとか……。

 ん……執着を生じさせるかも知れないが、それも考えようによっては悪い事ではないだろう。


 生活している中で一生懸命になれる分野があるのと、ないのとではかなり違うと思う。

 俺にとっては、中学卒業以降、その分野がなかったから……かなり違うと言い切ってしまうんだが。


 とにかく、ヘアピンをもっと可愛いい、もっと綺麗なものに……と、欲したのは確かだ。

 想像してみろよ。髪の長い男が(肩スレスレぐらいが限界だったが……それ以上になると、切らされるから)赤や黄色やピンクのビーズの付いたヘヤピンしてんだぜ。笑うだろ?


 俺だって最初はそうなるなんて思わなかったさ。

 母ちゃんの黒いヘヤピンをバッテンの形にして付けるだけで満足してたんだから。

 学校行ったら女子達が、


『吉村君、か~わいい!』


 って言ってくれるんだもんな。嬉しかったねぇ。

 男友達に、


『馬鹿か? お前』


 って言われても、女子が「かっわいい」って言ってくれるから、男共の言葉なんか聞いちゃいなかった。

 で、もっともっとの罠に掛かってしまったんだな。結局、最後は変態扱いだ。

 まぁ、昔の事だ。忘れてたよ。こんな些細なこと……ちっ、思い出してしまったぜ。くっ。



『え? 脇毛ってなんだ? 脇毛がどうした』


 長尾が俺の独り言に反応した。


『うん? いや、何もない』


 俺はそう言いながら、長尾の横顔をチラッと見た。


 うん。コイツを標準としても、やっぱり俺は薄いな……。

 長尾は毛深い方ではないと思う。

 こうやって顎の辺りを見ても、モミアゲから髭に繋がっているのを剃っている形跡はない。

 う~ん。っと、心の中で唸っていたら、


『お前、脱毛してんだろ?』


 と言ってきた。

 一瞬、驚いたが大方お姉さんに聞いたんだろう。


『ああ。コンテストに出るって決まってから、莉奈さんに連れてって貰ったよ。ツルッツルだぜ。触るなよ!』

『触わらねぇよ! 前から思ってたんだけど……。気ぃ悪くすんなよ。お前って、女みたいだよな。接客、合ってるよ。俺、店のお前見るたび錯覚する時あるんだ。ママの目利きって凄いよな』


 ふぅ。ちょっと構えてしまったが、ママの目利きで話が落ちらから良かった。

 だが、嬉しいこと言ってくれんじゃん? 聞いたかぁ? 錯覚するぐらい女みたいだってぇ~。

 長尾ちゃ~ん。アンタも目利きじゃないのぉ~。女みたいじゃなくて、女だなって言ってくれていいのよぉ。


『肩幅なんて小さくてよ。キミさん……は、違うか。凛さんと比べても、お前って華奢なんだよな。後ろから見たら、全然判んないんだよ』

『そ、そうなのか?』

『そうさ。誰が見ても、女だ。だから、コンテストに出ろって言ったんだ。まぁ、確かに邪心はあったけどよ。店の評判とかも上ればなぁって、漠然だけど思ったりして。ヒントはケーズ・スリーの店からの情報だけど。俺、こっちのバイトの方が好きなんだ。だから、店の為に何かしたいって言うか……』

『お前、凄いな。たかが、バイトなのにそこまで考えるのか?』

『よく言われるよ。何だろうな……忙しい店が好きっていうか、俺自身が忙しくしていたいっていうか……。性分だな』

『ふ~ん。そんなもんかねぇ。同じ時給貰っても、暇な方が得って考える奴の方が多いんじゃない? バイトなんて。特に学生なんか、そういう考えの奴多いぞ。俺もそっち系かも?』

『それは、それでいいんじゃないか? そりゃ、忙しい時に目の前でサボられたら腹が立つけど、バイトするって事自体が頑張る気があるって事じゃないかなって思うんだ』

『そっかなぁ? 楽して金欲しい奴も多いぞぉ。気に入らなかったら、すぐ辞めちゃうし。まっ、そんな奴らは、どこに行っても同じ事の繰り返しだろうけど。大概、店の所為にしたり、人の所為にしたりする奴がそんなふうになるよな。自分を見ろって言いたくなる時あるけど』

『カズオって、あんまり人の所為にしないよな』

『そんな事ねぇよ。今日なんか、思いっきりお前の所為だったぜ。この手も……』


 と言いながら、ギブスが巻かれた手を眺めた。

 俺だって、弱いさ。


 そんな事を話しているうちに、店に到着した。

 俺と長尾は、お互いの顔を見合って溜息をついた。

 今更ながら、自分達の馬鹿さ加減に気づいていたからだ。


『と、とにかく、頭下げるしかないよな』

『そ、そうだな。それしかない』


 ママの顔を見るのが怖~い。

 俺達は意を決して、エレベータに乗り込んだ。


 5F。チンッ!

 ゆっくりと、扉が開く。扉が全開になった時、目にした光景は、


『な! なんだ! これは!?』

『え? ムリだろ!』


 そこは、溢れんばかりの人だかりだった。

 店から溢れた客が、通路に溢れかえっている。


『あっ!! 帰ってきたぁ! カズ君が帰ってきたよぉ~!』


 その声に、通路に溢れていた客達が一斉にこちらに注目し、凄い勢いで近づいてくる。


 俺と長尾は顔を見合わせて、同時に叫んだ。


『来るなーー!!』

『助けてくれーーーー!!』




 俺たちは、客の列を整理していたボーイ達に助けられ、揉みくちゃになりながらも何とか店までたどり着いた。


 通路を歩いている時に客を見たが、殆どがうちの大学の奴らだ。

 長尾のチラシ効果かよぉ~。すげぇなぁ。


 などと思いながら、店の中に足を踏み入れると__。


『『おかえりーー!!』』

『『おめでとーー!』』


 こちらも、大盛況だ。

 今は、学生半分、一般客半分ってとこか……。外にいる客の人数からして……まだ、増えるかも知れないし。

 いったい今日は、何回転するんだぁ?


『おかえりなさぁ~い! カズオちゃ~ん、長尾ちゃ~ん!』

『『ママ!』』


 俺たちはママの顔を見てたじろいだ。

 笑ってるんだけど……微笑んでるんだけど……。

 怖いんだよなぁ~。


『うふ♡ 仲直りしたのね。偉いわよ』

『『すみませんでした!!』』


 俺たちは頭を下げた。


『うふふ。今日は忙しいわよぉ~! 長尾ちゃん早く着替えて。カズオちゃんお化粧直してきて。超特急よ! わかったぁ?』

『『はい!!』』


 俺たちは、急いで控え室に駆け込んだ。

 念の為に頓服を飲んでおこう。酒は飲まないから大丈夫だ。


 俺は、鏡に向かった。


 さあ、魔法をかけよう。


 私の美しさに、皆がうっとりする魔法を……。


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