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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
15/146

15.報いと報復

 眩しい……。

 

 ライトが私を照らしている。

 

 湧き上がる歓声……。

 

 私は光の中に立つ……。

 

 心が自由である事を感じる。

 女である事の自由さを……。

 

 

 

 ……とう! ……君。

 

 え? 

 

 ……でとう! よしむらくん。

 

 ハッ!?

 

『おめでとう! 吉村君!』

『あ……。ありが……とうございます』

 

 な、何だ? 俺は夢をみていたのか? 

 

 身体が宙に浮いているような……フワフワとした……煌びやかな世界にいた……私。

 私? 何言ってんだ? 俺……。フワフワ?

 

『文句なしの優勝だよ。この会場の中で、誰かこの結果に不満を言う者はいるかね?』

 

 観客に向かって、主催者の中島氏が大袈裟なジェスチャーをしながら問いかけた。

 

『『ありませ~ん!』』

『『文句な~し!』』

『今度、デートしようぜ!』

『俺としようぜ!』

『私として~』

『『アハハハ……』』

 

 大きな拍手と訳の分からない野次を交えた歓声が、会場中に響き渡る。

 

『よぉし、いい子達だ。まぁ仮に文句があると言う奴には“お前の目は節穴だ!”と言ってやるがな』

 

『『『アハハハ……』』』

『『そうよね~!』』』

 

 中島氏は観客とのユニークな掛け合いで、会場の雰囲気を最高に盛り上げた。

 さすがだなぁ、このオッサン。だてに代表取締役やってんじゃないな。

 

『では、表彰状と記念の盾、賞金の授与です』

 

 司会者がそう言うとあの進行係が俺の横にスッと立った。

 おっ。

 奴は俺の顔を見てウィンクしてきやがった。

 惚れたな? ダメだぞ~、俺には心に決めた人がいるんだからな。ざんねーん!

 

 中島氏が俺に賞状を渡してくれる。

 俺は受け取るフリだけして(怪我してるからね)、進行係が全て受け取ってくれた。

 何かいいなぁ、こういうの……。女として扱われてるって感じだからか?

 いや、友達だ。友達の助け合いだ。

 

 うん。俺、友達いないもんな。っていうか、友達がいない事気がついたのついさっきだけどな。

 駄弁るヤツらはいるぜ。好きな子の話とかで盛り上がったり……。

 でも、基本合わせてるだけだから友達って言えるかどうか……。

 やっぱ、勿体無い事してたのかもな。しゃあないけどさ。

 

 別に不便でも何でもなかったし、逆に煩わしくないくらいで丁度よかった。

 それもこれも、”変態“の所為だ。

 かっ かっ かっ かっ かっ かっ かっ、笑っちゃうよな~。

 

 今は純子ママのとこで、よろしくやってるから気にもしなかった。

 言ってみれば、温室でぬくぬくってとこだな。

 実際、悩みとかも減ってるしな。ストレスも溜まんないし……。

 

 友達かぁ。良いかもしんないな。

 

 こうして波乱塗れの(俺の周りの事だぞ)女装コンテストは大歓声の中。

 俺の優勝で幕を閉じた__。

 

 よしよし。良くやったぞ、俺。

 

 正直、ヒヤヒヤもんだったぜ……長尾の野郎、土壇場でエライ事しくれやがってよ。

 まぁ、いいさ。

 この金をアイツの顔に投げつけてるんだ!

 それでアイツとはおさらばさ。

 

 待ってろぉ! 長尾! そして、俺の前から消え失せろ!

 

 控え室に戻ると、ママと凛姉さんがバタバタと走り寄ってきた。

 

『カズオちゃ~ん! おめでとう! さすがねぇ。やっぱり、私が見込んだだけあるわ!』

『ありがとうございます。ママ。凛さん』

『よかったわよぉ! カズオちゃん。皆、会場の外で待ってるわ。お顔見せてあげてぇ』

『そうなんっすか? じゃ、早く着替えなきゃ』

 

 衣装を脱ごうとした俺の手を押さえながら、凛姉さんが微笑んだ。

 

『そのままでいいわよぉ』

『え、だけど……。汚れちゃう……』

『うふ♡ いいのよ。そのドレス、カズオちゃんにプレゼントするわ。優勝のお祝いよ』

『えっ。凛さん……。マジ……ッスか?』

『そうよ。マジッスよ』

 

 俺は嬉しかった。素直に嬉しかった。

 

 『母さん。ありがとう! (わたし)こんなのが、欲しかったの』

 

 ランドセルを……赤いランドセルを、やっと買って貰った。

 

 ランドセル? 俺は何を考えてるんだ? さっきも、そんな事……思い出してたよな。

 昔の事だ。昔、昔の幼い日の事。

 

『カズオちゃんったら。すっかり女の子になっちゃって♡』

 

 ドキッとした。

 

『ママ! な、何言うんですか!』

 

 そうだよ。進行係も……長尾もいる前で。

 焦るぜ……。やめてくれよ。

 

 でも、何だか嬉しい……。

 今まで綺麗とか可愛いとか言われるのは、勿論嬉しかった。

 店では、お姉さん達は基本“オンナ”なのだから、話題はその“オンナ”をどう美しく作り上げるかに集中する。

 女の子同士が、

 

『わぁ~。その服、凄く似合ってるぅ。か~わいい!』

『ね、ね。今日は化粧のりイイじゃん。何かいい事あった? 綺麗よん』

 

 って、類の会話だ。それと何ら変りはない。

 だから、俺は“キレイ”とか“かわいい”とかの言葉は言われ慣れてだんだ。

 嬉しいぞぉ。勿論。

 その為に俺は、臥薪嘗胆してるんだからな。

 

 だが、“女の子”って言われたのは初めてだ。

 しかも、その言葉がこんなに嬉しいなんて……。

 うん。もの凄~く、嬉しいぞぉ~。

 いやいや……。コホン。

 

 きゃ! すっご~く、嬉しいぃ~!

 え? やだ。嬉しさが倍増しちゃった。

 しかも、頭の中で響く声が女の子になっちゃってるぅ。

 コレって多分、潜在的願望の現われよねぇ。

 

 うっ、何やってんだ俺。分裂症かぁ?

 と、とにかく今は、え~と……。

 いやん! 何だったぁ? 結構、動揺してたのねぇ、私。

 ……やめろって。俺。

 

 俺は気を取り直して、軽くママを睨んだ。

 ママは悪戯っぽく笑いながら、ペロッと舌を出した。

 ったく~。頼むぜぇ。

 

『さっ! 行くわよ。カズオちゃん!』

 

 凛姉さんが呼んでいる。

 

『あ、は~い。今行きます。えっと……荷物は……っと』

 

 控え室を出る為、荷物をまとめようとして俺は振り向いた。

 長尾……。

 奴は俺の手荷物全てをまとめ上げ、机の上に準備していた。

 

 また、怒りが湧いてくる……。

 俺は奴を睨みつけながら、賞金が入っている袋から金を引っ張り出した。

 

『ほらよ! お前が欲しかった金だ! それ持って消えろ!!』

 

 俺は奴の顔めがけて、金を投げつけた。

 

 パンッ!!

 痛っ!!

 次の瞬間、俺はママに引っ叩かれていた。

 

『何てことするの! カズオちゃん! あなた、最低ね! 大事なお金をそんな風に扱うなんて! いったい何様のつもり? それが、あなたの仕返しの方法なの? そんな事で気が済むの? 長尾ちゃんの事で怒ってたのは分かるわ。でも、こんな形で仕返しするなんて……。あなたの言い方を借りて言えば、そんな思考回路を持っている人間はいつでもお金を粗末に扱うのよ! わたしはそんな人間許さないわ! そんな人と一緒にいたくない!』

『ママ……』

 

 俺は叩かれた頬を押さえながら、呆然とした。

 ママが俺を睨みつけている。

 俺は長尾の方へ目をやった。

 奴は下を向いて、真っ赤な顔をしている。俺が投げつけた金を拾うともしない。

 身体を震わせ、拳を握り締めている。

 

『う……くっぅ』

 

 長尾は嗚咽を漏らし……。肩を震わせながら、必死に耐えている。

 そうだよ。それが、見たかったんだよ。屈辱に歪むその顔を、俺は見たかったんだ!

 どうだぁ? どんな気分だぁ? 悔しいか! 腹が立つか! 

 おっと。笑いそうだぜ……。ヤバイ、ヤバイ。

 

 ちっ! この状況じゃ、俺が悪くなっちまうじゃないかぁ。くそっ!

 何でなんだよぉ。何でこうなんるんだよぉ。

 

『カズオちゃん。あなた何も分かってないわね?』

『な、何をですか……』

『ふぅ……』

 

 ママは深いため息を尽きながら、呆れたような仕草をした。

 

『長尾ちゃんがしでかした事はとても褒められた事ではないわ。目的のために考え出した手段……。まぁ。手段を選ばなかった事が、結果カズオちゃんを傷つける事になってしまった。その手段が、周りにどれだけの影響を及ぼすか? って考慮が欠けてたのよね。浅はかと言うしかないわ。長尾ちゃんはそこに責任が取れないんだから。だから、カズオちゃんが傷ついた事も、後の祭り。だから、気づいたら何らかの処置をしなければならないわ。それが理解されるかされないかは別としてね。で、処置した結果。要するに謝った結果、カズオちゃんは理解しなかった。許さなかった。それが、長尾ちゃんに与えられた報いなのよ。でも、カズオちゃん。あなたが長尾ちゃんにやった事は全く別のものよ。ただ自分の感情を……気分を晴らす為だけに、わざと人を傷つけたのよ。その違いが分かる? やり方云々かんぬんの問題じゃないの。長尾ちゃんの目的はお金を稼ぐ事だけど。カズオちゃんの目的は、長尾ちゃんを傷つける事なんだから。心の持ち方が全く違うのよ。残念だけどカズオちゃん、私から見ればあなたの方が長尾ちゃんより邪悪だわ。あくまでも、私の見解だけどね』

 

 ママ! それは、あんまりだ! 長尾より邪悪なんて……。

 俺は、傷ついたんだ! これ以上ない裏切りじゃないか!

 ママの理屈が分らない! 分かんねぇよ!!

 俺は被害者じゃないか! 

 

 ママに対して怒りが湧いてきた。身体がカァーっと熱くなる。

 俺は拳を握り締めて、ママを見た。

 多分、睨んでいるだろう。

 

 こんな風にママを見たくないのに! ママがあんな事言うから!

 ああぁ! 腹が立つ! コイツの所為だ! 何もかも長尾の所為だ!

 

 俺はもう一度、長尾を睨んだ。

 

『分かってないようね。凛ちゃん行きましょ』

 

 ママはそう言うと踵を返した。俺たちを残してさっさと出口へ向かう。

 

『え? でも、皆待ってますが……』

『病院に行ったとでも言えばいいわ。取り敢えず二人共、頭を冷やしなさい。それが済んだら店に来るのよ。それとこれとは関係ないんだから……この意味まで分からなかったら、私はもう知らないわ』

 

 俺は控え室に長尾と一緒に取り残された。

 何で、こんな奴と! 

 

 ママの靴音が聞こえなくなった瞬間_

 

 俺は長尾に向かって罵詈雑言を浴びせようとしたが、上手く言葉が出てこなかった。

 怒りが頂点に達して思考が止まっているんだ。余裕がない……。

 コイツよりも俺が邪悪だって? ふざけんなよ!

 

 そして、やっとの思いで言葉が口から出てきた。

 

 

『お前そんなんで、よく生きてんね。早く死ねよ!』

 

 

 自分の言葉を聞いて思った。

 

 邪悪は俺だ……。


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