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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
143/146

143.長い一日。

『一秒でも早く、その部屋から出ろよ!』


 やなぎ……。


「まひる、シャワーは?」

「えっと……。私……」

「フ……。昨夜の君は可愛かったよ」


 ひっ!

 あ、服……。は、裸……。


 私はシーツに包まれた自分の身体を、胸の隙間から覗いた。


 そ、そんな……。


「まさか……」


 ヒロさんは優しく微笑むと、私の頬に手を当てた。


「苦しそうだったからね……」

「だけど……」

「まひる……。慌てないで、よぉく自分を感じてご覧?」

「自分を感じる……?」

「そうだ……」


 あ……。

 何も感じない……。

 触れられた感触も……。痛みも……。

 それに……。


「ヒロさん……」

「何もしてやしないよ。ずっと……寝顔を見ていただけだ……可愛い寝顔をね」

「ご、ごめんなさ……い」

「まったくだ。君に逢いたくて……やっと逢えたのに……。私は、とんだ妬きもちピエロになってしまったな?」

「そんな……。わ、わたし……」


 そんな……返答に困るような事を言わないで欲しい。


 私は彼の顔を見られなくなってしまい俯いた。

 ヒロさんは、そっと私の顎を掬い上げ呟くように言った。


「キスを……」

「え……」

「君の……。唇を私に……」

「ぅ……」


 少し乱暴に、私に唇を押し付けた彼は私を強く抱き締めた。


 あ……。


 柔らかな舌が入ってくると、身体の芯に電流が流れた。


 ビクッ__。


 下腹の……もっと下……。

 私の……掠れた……オトコの部分が……疼く。


 その刺激に、私は思わず彼を抱きしめた。

 ヒロさんは私をベッドに押し倒すと更に強く唇を吸った。


 私も自らの身体を押し付け、首に腕を回し唇を求める。

 暫くの間、私達はお互いの唇を激しく貪リ合った。


 彼の肌に私の胸が擦れる度に乳房の奥に電気が走り、少しずつ胸の突起が固くなるのを感じる。


 ん……ぁ。


 恍惚__。


 理性、羞恥、視覚、触感……私を取り巻く世界が白濁に溶けていく。

 身体中を駆け巡る快感が脳の全てを支配した。


 ぁあ、このまま……。

 もう……このまま……。


 背中から腰に……。

 太腿の内側からつま先に……。

 胸から……。


 私の身体の隅々まで這い回る快楽は、脳の芯を痺れさせた。


 ヒロさん……。


 けれど彼の指が、私の未知の部分に触れた途端__。


「ダメです!」


 私はヒロさんの胸を押し上げていた。


「……まひる」

「ご、ごめん……なさい。これ以上は……私……」


 驚いたように見下ろす彼の目は、とても悲しそうに見えた。

 暫く、私を見下ろしていた彼は溜息を吐くと、押し上げている私の腕を掴んで引き起こした。

 そして、もう一度優しくキスすると……。


「好きだよ……」


 そう言いながら、私を抱きしめ肩に顔を埋めた。


「シャワーを浴びてきなさい……。彼が来るよ」

「あ、はい……」


 私は急いでシャワーを浴びると、髪も乾かさず服を着た。


「早く行きなさい。もう着いている頃だ」


 ヒロさんはソファに深く腰掛け、タバコを燻らしながら言った。


「は……い。じゃ……」

「気を付けて……」


 ドアノブを掴んだ時、背中から聞こえたヒロさんの声は、いつもの優しい彼の声だった。


「……さようなら」


 扉を閉めると、私は走り出した。

 エレベータホールに着くと、階下行きが1つドアが開いたまま止まっている。

 そのエレベータに駆け足で乗り込んだ私は、閉ボタンと1階のボタンを同時に押した。


 31階……。


 天と地を思わせるような階数に、気が遠くなりそうだった。


 普段なら、“もう着いたの?”なんて思うほどの高速で上下するエレベーターが、今は病院の患者用の緩やかな速度に感じる。


 早く……。

 速く……。


 身体を縮め爪を噛みながら、ランプの動きをジッと見つめた。


 チンッ!


 ドアが開くと同時に飛び出した私は、ホテル前のロタリーに向かって走った。

 正面に止まっている車の横に人影が見える。

 腕を組み、俯きながらジッと身体を硬直させている柳が見えた。


「やなぎ……」


 呼びかけると、彼はすぐに頭を上げた。


「遅い!!」


 そう言うと、柳は助手席のドアを開けながら、私の背中に腕を回した。


「髪……。濡れてる?」

「え?」

「クッ……。乗れ!」


 バンッ!!


 柳は私を助手席に押し込むと、乱暴にドアを閉めた。

 運転席に乗り込んだ彼の表情は、例えないような程恐ろしい形相をしていた。


 やなぎ……。

 そんな顔……。


 ブォン! ブォン! ブォン!


 エンジンを必要以上に吹かし発進させた車は、ホテルから一般道に出る時、後方から来た車と危うく接触するところだった。


「きゃ!」


 いつもなら、ここで “ごめん、ごめん。大丈夫だったか?” と柳は訊いてくれる。

 だが、今日はジッと前を見つめアクセルを踏み続けた。


「ど、どこへ行くの?」

「……」

「ライミン?」

「……」

「や……なぎ……。あのね……」

「黙れ!!」


 ビクッ!!


 こ、こんな、柳、見た事ない……。


 私は彼の横顔さえ見ていられなくなってしまい、俯いて膝の上で拳を握り締めた。

 暫くして、車が止まった気配を感じ顔を上げると、そこは各部屋にガレージがあるタイプのラブホテルだった。


「降りろ……」

「な、なんで? やなぎ……」

「降りてくれ……」

「なんで? こんなの……やだよ」

「頼むから……降りてくれ!」


 そう言うと、柳は車を降り助手席のドアを開けた。


「やだよ! やなぎ! こんな……きゃ!」


 彼は、私の腕を掴み無理矢理車から引っ張り出した。


「やなぎ!! やめて!!」


 それでも、柳は私の腕を掴み階段を上って行った。

 いくら抵抗しても解けない腕の力に怒りを感じ、恐怖に慄いた。

 柳は部屋の扉を開けると、私の腕を掴んだまま部屋の奥へと進んで行き、ベッドの上に私を放り投げた。


「なんで髪が濡れてるんだよ!」

「シャ、シャワーを浴び……」

「わかってるよ! だから、なんでシャワーを浴びる必要があったんだって訊いてるんだ!」

「べ、別に……。な、何もなかったよ……。目が覚めた時には……服、着てたもの……」


 嘘__。

 でも、ここはこう言うしかない……。


「じゃ、何もなかったのに、わざわざアイツの前で服を脱いだってことか!!」

「そ、それは……。で、でも……」

「お前! 俺が石でできてるとでも思ってるのか!! 俺の気持ち、知らないとは言わせないぞ!!」


 その言葉に、とてつもない罪悪感が胸を貫いた。


「あ……。ご、ごめん……な」

「謝るなぁ!! 何もなかったんだったら、謝るな!!」

「だ、だ……って……。キャ!」


 柳は、恐ろしげな眼差しを私に向けると、いきなり襲いかかってきた。


「な、何、するの!」


 彼は物凄い力で私の服を剥ぎ取っていった。


 ビリビリビリ!!


 チュニックの胸の繋ぎ目が裂け、ブラジャーの肩ひもが外れた。

 私は彼から逃れようと必死にもがいたが、力及ばず上半身が露わになってしまった。


 私は慌ててベッドのシーツを引き上げ胸元を隠し、憎々しく彼を睨みつけ背を向けた。

 すると、柳の動きがピタッと止まった。


「……で? これから……何が起きるの?」


 背中を向けたまま私がそう呟くと、柳は後ろから私を抱きしめた。


「愛してる……」


 そう言いながら、彼はもっと強く私を抱いた。


 満たされるとは……。

 こういうことを言うのだろうか?


 柔らかな温かいものが身体の中にパァッと広がった。

 ドクドクと激しく胸が鳴ってなっているように感じけれど、実は穏やかで……。


 涙が……涙が……胸の奥から溢れてくる。


 身体中の力が抜け、フワフワと宙に浮いているようだけれど、ちゃんと彼を感じている。

 愛されるというのは、こんな感じの事を言うのかもしれない。

 いや……違う。


 “愛されている”と、私が言った。

 それが、真実なんだ。

 

 私は溢れ出てくる涙に戸惑いながら、頷くことしかできなかった。

 彼は私を自分の方に向かせると、優しく口づけてきた。


 絡み合う舌が躊躇いながらお互いを求め、いたわり、愛しみ……。

 本当の自分を分かち合った__。


 ------------------


 ん……?

 あ……、いつの間にか眠ってしまってたんだ。


 スゥスゥと寝息を立てて眠っている柳の寝顔を見ると、また涙が溢れてきた。


「ふ……。よく寝てる」


 柳の額に掛かった前髪をそっと掻き揚げると、彼の手が伸びてきた。

 彼は私を引き寄せ、また抱きしめると髪を撫でた。


「ずっと……、ずっと……。好きだったんだ。大学の頃からずっと……」


 大学……?

 それって……私、まだオトコだったじゃないの。


「ま、その頃は、自分でも気づいてなかったんだけどな」

「気づいてなかった?」

「あぁ、ベトナムで好きになった子がいてさ……。上野がお前に似てるって……」

「なに、それ……」


 すると、柳は真面目な顔をして私を見つめた。


「好きになった子がお前に似てるんじゃなくて、お前に似てたから好きになったんだって……気がついたんだ」

「ふっ……。ここ、喜ぶとこよね?」

「あぁ、涙を流してな……」

「バカ……」


そして、私たちはもう一度、唇を合わした__。


 >>>>>  >>>>>>  >>>>>


「ねぇ、マスター。今、何時ぃ?」

「ん? 5時を回ったとこだなぁ」

「おい、朱音。ホントに芙柚と柳さん来るのか?」

「ん……。の、ハズなんだけどなぁ……。カイト、来ないのかなぁ?」


 “後で考える”なんて言っちゃたから、予定変更したのかなぁ?

 ホント、カイトって乙女心が分かってないんだから。

 でも、ヒマつぶしに朔也(コイツ)を呼んで正解だったな。アハ♡


 備えあれば、憂いなし__ってか?



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