表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
141/146

141.おしおき。

 凛さんは、ヒロさんを誰にも取られまいとしがみついている。

 その異様な光景は、純子ママが額に手を当てトホホと呆れるほど……。


「ちょっと凛ちゃん……。誰も取って食やしないわよぉ。ヒロさんが困ってるわよ?」

「だってぇ……。離れたくないんですものぉ」


 彼女は、まるで子供のようにヒロさんの肩に顔を埋める。


 やれやれ……。


 純子ママの心の声が聞こえてきそう。


「ねぇ、ヒロさん今度はいつ帰るの? それまでに凛をどこかに連れてってよぉ」


 いきなり、パッと顔を上げた凛さんが言った。

 すると、少し経ってヒロさんが言った。


「そうだな。一度、デートするか」

「ホント? 嬉しい!! 絶対、約束よ!」


 凛さんは飛び上がって喜び、そのままヒロさんに抱きついた。


「アハハハ、潰れてしまいそうだなぁ。私が壊れたらデートできなくなってしまうぞ」

「ダメよぉ~! ダメダメぇ!」


 ヒロさんのお席には、純子ママを始め凛さん聖子さんアユミさん、そして私。

 1人のお客様に対して、たくさんのホステスがつき、とても賑やかなお席になった。


 皆、ヒロさんに憧れていたお姉さん達。

 もちろん、『憧れ』だけ。


 でも、凛さんは『夢』を見ていた。

 絶対に叶える『夢』として__。


 そんな時の彼女は、本当に輝いて見える。


 凛さんのこういうとこ、大好きだなぁ……。


 と思いながら、私は幼女を見るような目で彼女を眺めていた。


 ん?


 ふと、視線を感じた__。

 視線を感じた方に顔をやると……。


 (ヒロさん)と、目が合った。

 私は、何の気なしに微笑んで返したが、ヒロさんは目を細めてジッと私を見続けた。

 その視線は私を完全に捉え、動けなくした。


 コポコポ……コポ……。


 え……。

 何、これ……。


 水……の……中?



 騒がしい店内で、ヒロさんと私の空間だけが切り取られたような__。


 水槽の……中?……外?


 あ……でも、息が……苦しい……。


 コポコポ……コポ……。


 目の前で足を組んで座っているヒロさんの目が……細めた目だけが光っているように見える。

 彼の刺すような眼差しが、とても冷たく感じた。


 周りの喧騒が遠くに聞こえる__。


 コポコポ……コポ……。


 うっ……苦しい……。


 彼は私を見ながら、指先をスッと動かした。


 ビクッ!

 あ……。


 ヒロさんの指に弾かれた水が、小さなうねりになって私に届いた。


 え?首筋に……。


 そして、また彼は指を動かした。


 ビクッ!

 あ……。


 か、肩に……。


 彼が指を動かす度に、私の身体が反応する__。


 視られている……。

 彼の指が、私の身体のあちこちに触れる……。


 (ヒロさん)の指先から送り出されるうねりが、一枚一枚私の服を剥ぎ取っていく__。

 彼の視線が髪飾りもドレスもすり抜け、丸裸にされる__。


 やだ……何? 

 恥ずかしい……。


 私の身体は、完全に彼の視線と小さく動く人差し指に絡み取られてしまった。

 彼の視線が身体中を舐め、小さなうねりが身体中を撫でまわす。


 クッ……。

 下腹がギュッと締まる……。



 私は膝の上で拳を強く握り、手のひらに爪を立てた。

 掌の痛みが、一瞬で私の意識を引き戻した。


 いつもの光景……。


 はぁ……。

 今日は何だか……変。


 欲情に似た疼きが下半身から立ち上がってくる。


 妄想……?

 こんな事、今までになかった……。


 これ以上ここにいると、本当におかしくなってしまいそう。


「ちょっと、失礼します」


 私はそれとなく席を立ち、控室に向かいながら熱くなった頬を撫でた。


 ほぅ……。


 後ろ手に扉を閉め溜息を吐くと、気を取り直して携帯の電源を入れた。


 9:52

 -朱音とは連絡が取れた。今、こっちに向かっている。

 今日はウチに泊めるよ。


 10:40PM

 -帰ってきたみたいだ。話、聞いてみる。


 11:00PM

 -別に、変わったとこはないみたいだぞ?

 今、風呂に入ってる。


 11:32PM

 -母親の部屋に入った。

 今日はもう寝るみたいだ。

 仕事終わったら、電話くれよ。



 柳からのこまめなメールが入っていた。


 考えてみれば、女の子の朱音が柳に相談するなんて、ありえないかも知れない。

 でも、自分の家に帰らずに柳の家に行ったってことは、やっぱり何かあるんだろうと思った。


 ふと、時計を見ると閉店時間に近かった。


「もう、こんな時間?」


 慌てて控室から出ると、ママが私を探していた。


「あら、こんなところにいたの? ヒロさんがアフターに誘ってくださったのよ。行くでしょ?」

「え? 珍しい……」

「そうなのよ。凛ったら舞い上がっちゃってぇ。ヘタ打ちしなきゃいいけどねぇ」

「大丈夫でしょ。今日は絶好調だから」

「だから、心配なのよぉ。見境なく……みたいな」

「アハハ、相手はヒロさんですよぉ。いくら凛さんでも弁えてますってぇ」

「まぁねぇ。飲み過ぎなきゃいいんだけどねぇ……」


 テーブルに戻ると、お姉さん達がウキウキ顔でソワソワしていた。


「まひるも来るだろ?」

「はい、お邪魔します」


 ヒロさんは、そう言いながらウィンクすると、ママに行き先を告げた。


「私は凛と先に行ってるから、後で来るといい」

「じゃ、申し訳ないけど、後片付けお願いねぇ」


 凛さんはヒロさんと腕を組んで、身体をクネらせながら嬉しそうに店を出て行った。


 ヒロさん逹を追いかけて行った店は、超高級料理店。

 お姉さん逹は、こんな店めったに来れないと浮き足立っていた。


 ここは前に連れてもらった店ではないが、通された部屋は素晴らしい庭が見える部屋だった。


「素敵!」


 お姉さん逹が口々に感嘆の声を上げている。


 あ……。


 バックの中の携帯が震えた。


 -まだ、終わんね?

 -今日はアフターがあるから、明日電話するね。


 -何時に帰ってくる? 待ってるよ。

 -わかんない。


 -早く帰って来いよ。

 -うん。なるべくね。帰る時、携帯鳴らすわ。

 -わかった。


「どうした、まひる?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと……」

「もしかして、柳くん?」


 凛さんが、チラッと私に流し目した。


「また柳? 誰だい?」

「友達です」

「ただの友達じゃないよねぇ」


 凛さん……、今日は、やたら柳ネタで絡んでくるなぁ。


「おいおい、妬けるなぁ」

「もう、ヒロさん。今日は私だけを見てよぉ!」

「ハハハ。さっ、飲もうか」

「「「いただきまぁす!」」」


 そして、純子ママの予想は的中した……。

 おまけに、付き合わされた私までベロベロ……。


「あらあらぁ。ヒロさんごめんなさ~い」

「ハハハハ、かまわないよ。しかし、凛は強いなぁ」

「でも、今日なんかはからっきしですよ。ヒロさんに会えて、よほど嬉しかったんでしょうねぇ」

「そうなのかい? いやぁ、でも楽しかったよ」

「本当に。こんなにご馳走になってしまって。ありがとうございます」

「いや、大したことじゃないよ」


 ん……?

 ママの声?


 あぁ、寝ちゃたんだぁ。


 あれ? 凛ひゃん……。

 寝てるぅ。

 か~わいぃ!


 あぁ、わらしもムリ~。


「さぁさ、凛。起きて帰るわよ」

「う……ん。ヒロさ……ん」

「もう、この子ったらぁ。ふふふ……」

「ママぁ、車きましたよぉ」

「マナちゃん、手伝って」

「はぁい。凛さん、帰りますよぉ」

「ん~」

「まひる。帰るわよ」


 ママ……。

 あぁ、起きなきゃ……。


「ママ、まひるは私が送ろう」

「え? そうなの?」

「家を知っているから。前に……」

「……分かりました。じゃ、お願いしますね。マナ、行くわよ」

「じゃ、ヒロさん。さようならぁ」

「あぁ。おやすみ」


 パタン……。


「さてと……。まひる? 起きるんだ。帰るぞ」

「ん……」


 テーブルに突っ伏していた頭を上げると、ヒロさんが笑って頬を撫でた。


「なんだ、まひる。ヨダレが出てるぞ」

「ヒョダレェ?」


 あぁ……なんだか……視界が狭い……。

 ヒロさんの周りが……ボヤけて見える……。


「ヒロひゃ~ん……」

「ハハハ。大分、酔ってるなぁ。よっこいしょっと……」


 ん……フワフワ?

 いい匂い……。


 ガチャ。


「旦那様、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ。ほら、乗るんだ」

「……。」


 バタン。


「どちらに?」

「○○○の○○町だ」

「かしこまりました」


 ブォン……。


「……ん? ヒロひゃん?」

「起きたか? 大丈夫か?」

「かえるの? まひる、まだ飲みひゃ~い!」

「おいおい、もう大分飲んでるぞ?」

「だぁいじょ~ぶ。ひょうは、い~っぱいのむ~ぅ」

「冗談だろう? もう無理だよ、まひる」

「イヤだぁ~! のむんだぁ~! のむんだぁ~!」

「わかった、わかった。わかったから、暴れなくていいって」

「如何なさいますか?」

「そうだな……」

「のむぅ~。のむぅ~。のむぅ~」

「……では、ラウンジへ」

「かしこまりました」

「やったぁ~! ヒロひゃ~ん。あいひてるぅ~」

「はぁ、まったく……。シラフの時に言って欲しいもんだねぇ」


 カラン……。


 あれ?

 ヒロひゃんだぁ~。


 わぁ、このカクテル美味ひぃ~。

 あぁ、ヒロひゃんって素敵だなぁ~。


 あ、レーズンバターだぁ。

 コレ、だ~いすきぃ。


 あ~ん、視界がせまいぃ~。

 ハッキリ、見えないよぉ~。


 ♪♪~♪~


 ん? 電話? 私? 


「まひる? 携帯が鳴ってるよ」

「わひゃひの(私の)?」

「あぁ、君のだ」


 あぁ! ヤ、ナ、ギだぁ~!


「もぉ~し、も~しぃ」

「お前、まだ帰ってないのかぁ?」

「う~ん、まだみたぁ~い」

「何言ってんだ、他人事かよ。もう、遅いぞ」

「だぁ~いじょ~ぶだぁってぇ」

「ったくぅ、大分、酔ってるな?」

「なことないよぉ」

「誰のアフターだよ。俺の知ってる客か?」

「ヒロひゃん!」

「ヒロさん? 誰?」

「ん~っと。エロほんのひとぉ」

「エロ本?」

「名前かえたときのぉ、エロほん! おとなひぇん!」

「大人編? え!アレって実話なのか?」

「ひょうだよぉ~。ながおがぁ、勝手にぃ~、わひゃひのひみつ、ネタにひたのぉ。ヒドイでひょぉ~」

「ってか、お前大丈夫なのかよ。そんなヤツと一緒にいてぇ」

「だぁ~いじょ~ぶだぁってぇ」

「ママ達もいるんだろうなぁ?」

「み~んないるよぉ」

「ならいいけど……。俺、迎えに行こうか?」

「だぁ~いじょ~ぶだぁってぇ!」

「ヤバいぞ、お前。本当か?」

「う~ん。ホント、ホントぉ」

「う……ん。分かった、明日”ライミン”行くぞ」

「らいみ~ん。いくいくぅ!」

「朝、電話するから。朔也も連れて来いよっと……学校かぁ。にしても、気をつけて帰れよ」

「わあった、わあった」

「ったく、お前はぁ。おい! 芙柚、そんな奴に犯されんじゃねぇぞ!」

「わあった、わあった! あいひてるよぉ~やなぎぃ~」

「へっ! わあった、わあった。シラフの時に言えっての」


 カラン……。


「芙……柚?」


 カラン……。


「そんな奴に犯されんじゃねぇぞ……か」


 カラン……。


「これは……。お仕置きだな……まひる」


 〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉


 ピピピ……。ピピピ……。ピピピ……。


「う……ん」


 ピピピ……。ピピピ……。ピピピ……。


「う~ん」


 ピピピ……。ピピピ……。ピピ……カチ。


「あ……。朝……」


 ♪♪~♪♪~


「はぁい……」

「起きてるかぁ?」

「うーん、なんとかぁ……」

「お前、昨日ひどかったぞぉ」

「う……ん。頭、痛い……」

「だろうなぁ」

「″ライミン″行くぞ」

「う……ん」

「迎えに行こうか?」

「ううん。シャワー浴びたいから……。先に行ってて」

「あぁ、わかった」


 ガチャ。

 ザーザー……。

 キュッ。


「まひる。シャワー浴びるかぁ?」


 えっ?


「ヒ、ヒロさん!?」

「どうした? 起きれないか?」


『ヒロさん? バッキャロー! 芙柚! お前、今どこにいるんだ!!』

「ど、どこって……」


 こ、ここは……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ