139. 朔也◇◆朱音
アブナイ、アブナイ。
ったく、ちょっと目を離すとこれだから……。
一目でわかった……。
カイトが芙柚さんのことを好きだって事。
そして、朔也も……。
かぁ~、いったい何考えてんのぉ? 最近のオトコどもは……。
いくら、あの人が綺麗だからって……元は『オトコ』でしょ?
み~んなホモってこと?
信じらんな~い。
仕方ないわ! 私が皆の目を覚まさせてあげる。
私の魅力で……。
ま……、今は、ガキんちょにしか見えないかも知れないけど……。
と、特に、カイトは絶対ダメよ!
芙柚さんには悪いけど、カイトは私のモノなんだから。
カイトが、私じゃない人をあんなふうに優しい目で見るは絶対イヤ!
朔也……。あいつを巻き込んで邪魔してやる。
利害関係は一致するハズだから、きっと上手くいくと思う。
フフフ……。奴は私に負い目があるから……。
そこんとこをチョコチョコって弄れば、朔也は私の言いなりよ。
オーッホッホッホッホッホッ……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
……ったく、朱音のやつ。
オンナのくせに……。
なんで、あんなにゲーム強いんだよ!
クソッ! ムカつく……。
ちょっと、勝ったからって上からモノ言いやがって……。
だけど……楽しい。
芙柚はダメだ……すぐに、『もう、ムリ~』って言って、ゲームを放り出すんだ。
けど、アイツは違う……。
意地っていうか、最後の最後まで全力投球……。
その気迫に呑まれて、負けちまった……。
い、言っておくけど、気迫に呑まれただけだからな!
スキルは、絶対俺の方が上なんだからな!
次こそは、絶対勝つ!!
アイツは、柳さんを自分の方へ向かすのに躍起になってる。
俺が見てきた限り……容易いことじゃないと思う。
が、……協力してやってもいいぞ。
だから、きっとヤツは俺に何か持ちかけてくるハズだ。
柳さんには悪いけど……。
早く来いよ……。
芙柚が……柳さんの良いとこに気付くまでに……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ダメ、ダメ、ダメ、ダメェ……。
もう! カイトったら、芙柚さんしか見てないんだからぁ。
確かに……、芙柚さんは綺麗だし……。
女らしい……し。
優しいし……。
……すっごく、ステキ。
まいったな……。
こんなの……反則だよ。
ってか、何で今日アイツに負けたのかしら。
くやしーー!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
バカ朱音。
必死で柳さんに喰らいついてるのは分かるけど、それじゃ逆効果ってのが分からないかなぁ。
柳さんとか芙柚からしたら、俺達はまだ子供なんだから……直球投げてどうすんだよ。
それに、オトコはキャンキャン吠えるオンナは苦手なんだよ。
お前はそのまんまだ……出直しだわ。
へっへ~ぇ。
連勝だぁ! きっもちいい!! あの悔しそうな顔が、堪んねぇなぁ♡
バカ音! チョーシこいてんじゃねぇぞぉ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そうなんだ、芙柚さん……心はオンナなんだ。
なんか……フクザツ。
やっぱ……反則だよ……。
じゃ、芙柚さんって全部持ってるんじゃん……。
オンナの気持ちも分かって、オトコの気持ちも分かって……あんなに綺麗で……。
頭良くて、バカ朔が慕ってて……カイトに優しくされて……ズルイよ!
私……自分の事しか知らない……。
自分の事も、分かんなくなる時だってあるのに……。
芙柚さんなんて……キライだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
どうしたんだよ、バカ音のヤツ……。
芙柚の事、話したら急におとなしくなってさ。
『そういうの聞いたことある』って、言うから話したのに……。
ゲームにも気が入ってなかったみたいだし……。
俺、何か悪いこと言ったか?
ワケ、分かんね……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
もう!! 何なのよ! バカ朔!
何で、アイツが被災児なのよ! なのに、何にもなかったようにヘラヘラしてさ……。
私だって『パパに捨てられて不幸だけど、必死で頑張ってます』ってのが売りだったのに……。
これじゃあ、全然ダメじゃん!
芙柚さんも、バカ朔も……。
なのになんで笑ってる顔が、あんなに……ステキなの?
もう、ヤダ!!
私、1人がバカみたいじゃない……。
悲劇のヒロインに、全然成りきれてなかったって事じゃない。
私、1人芝居してたのぉ……?
カイトのバカ! 何でそんな話、聞かせたりするのよぉ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
何なんだよ、バカ音のヤツ……無視しやがって。
ツンケンするんなら、来なけりゃいいのに。
あ~、面倒臭ぇ。
ちぇ……。
面白くねぇ……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
うぅ……。
私って……、なんてブサイクな性格なんだろ……。
自分の唯一の“売り”が無くなった途端、まるで“剣”と“鎧”を失くした気分になっちゃった。
バカ朔が“最強”に見えて……悔しい。
で、私はカイトの陰に隠れてしまった……。
バカ朔の言う通り……バカ音だわ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
うぜぇ……。
もう、やめとけよぉ。
お前が来ると、雰囲気悪いんだよぉ。
柳さんも、何で連れて来るんだよぉ。
ったく、こんな空気読めねぇ人だったかぁ?
かぁ~! ちょー、ダルぃ~!!
芙柚は『あんなでも来てるって事は、何か言いたいことがあるんだよ。聞いて欲しい事があるんだよ。待ってあげなって』なんて言うけどさぁ。
ソレ、俺対象じゃないし!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
バカ朔なんて……キライ!
芙柚さんなんて……キライ!
でも、私が一番キライ……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
はぁ~、調子狂うよなぁ。
俺の横にちょこんと座ったかと思うと、な~んも喋らないんだから。
芙柚も知らんぷりだし……。
俺にどうしろってんだよぉ~。
めんどくせぇ~。
結局、なんも言わずに帰ってった……。
俺か? 俺が悪いのか?
何か、言ってけよ!
新しいゲーム……買ってみよかな?
アイツ、どんなのが好きなんだろ……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あれ? 朱音ちゃんは?」
「う……ん。今日は来ないって……」
「そうなんだ……」
「悪いな、朔」
「俺? 俺は何ともないよ。関係ないって」
「そうかしら?」
「なんだよ。別にアイツがいようがいまいが、関係ないもん」
来るさ……。
……。
おっせぇなぁ……。
……。
バカ音……。
……。
カラン、カラン♪
「……」
「……、ホラ、新しいやつ」
「う……ん」
ふぅ……。
しゃーねぇ、今日は負けてやるか……。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ねぇ、柳ぃ~」
「うん?」
「あの子達、何やってんのかしら?」
「さぁ? ゲームだろ?」
「そっか。ゲームかぁ」
「そ、人生ゲーム……か?」
「アハハ♡ 人生ゲーム……始まり、始まり~」
「シッ! 茶化すなよぉ」
「フフフ……」
「ハハハハ……。(俺はいつ始まるんかねぇ……)」