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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
13/146

13.ランドセル …1

 ― 小学校1年 ―


『かずお~! かずお~! 早くしなさ~い。遅れるわよ~!』

『は~い』


 ぼくは、よしむら かずお。6さい。しょうがっこう1ねんせい。


 今日も学校へ行かなくちゃダメなんだ。学校は好きだけど……。


『かずお! 何してるの! 早くご飯食べなさい!』

『は~い』


 毎朝、母さんが僕を学校に行かせようと急かすんだ。遅れたら先生に叱られるって。

 幼稚園の時は、そんなこと言わなかったのに……。


『かずおは、お兄ちゃんになったんだよ。もっともっと、お兄ちゃんになっていくんだよ』

『うん! 僕、お兄ちゃんになる。1年生になったら、友達100人作るんだ!』


 友達はまだ100人作れてないけど、いっぱいできた。男の子も女の子も、み~んな友達だよ。

 勉強も好きだよ。大きな声で本を読んだら、先生が褒めてくれたんだ。

 体育の時、逆上がりができなかった。だけど、隣の席の百合ちゃんが教えてくれたんだ。

 次の体育の時間。ちゃんと成功した。皆が拍手してくれたんだ。

 僕、学校は大好きだよ。だけど、だけどね……。


 僕のランドセルが……黒なんだ。


『いやだ! 赤い方がいい! 赤いランドセルが欲しいよぉ』

『ダメよ。男の子は黒よ』

『男の子は黒なの?』

『そうよ。かずおは男の子なんだからね』

『うん……』


 学校は好き。勉強も好き。友達も好き。

 花壇の水やりとか、ウサギさんに餌をあげるのも、先生のお手伝いをするのも大好き。

 だけど……僕のランドセルは……黒なんだ。


 何で、男の子は黒じゃなきゃダメなの? 何で、赤はダメなの?

 何で僕のランドルは黒なの?__





 わぁーーー!!! わぁーーーー!!

 会場の歓声がもの凄い。コンテストがクライマックスに近づいているんだ。


『25番。吉村加州雄さんで~す!!』


 大扇の透かしの部分から観客席を見る。

 おおぉ! すげぇよ。大盛況じゃんかぁ。


 俺は、凛姉さんから教えてもった“モンローウォーク凛スペシャル”で、緩やかにしなやかにステージ中央に歩み寄っていった。


 司会者が手のひらを上にしてエスコートしてくれる。俺は右手を彼の手のひらにそっと乗せた。

 う……。まだ、ちょっと痛むか。


 正面からは俺の姿は足元しか見えていないが、俺の横にいる司会者には俺の全身が見えている。

 司会者は扇に隠れている俺を見て、声を詰まらせた。


『あ……。よ、吉村君? えっと……』


 うふ♡ 

 俺はとっておきの上目遣いで司会者を見つめ……パチッ♡ ウィンクしてあげた。

 サービスよん♡


『えへ♡』


 司会者が赤くなって、頭を掻いた。

 アハ。何、照れてんだよ。


『お~い! 何やってんだよぉ! 早く見せろよぉ!!』


 イサオ軍団が野次を飛ばしている。

 はいはい。慌てるなってぇ。


 俺は少しずつ扇を上へ上へとずらしていった。

 司会者は俺右手を優しくサポートしてくれている。


 ありがと♡ 助かるわ♡

 彼の目を見つめながら微笑む。司会者も俺から視線を外さない……。


 うふ♡ あなたを、ク・ギ・ヅ・ケ!


 俺は扇を高く持ち上げ、下ろすと同時に扇を閉じた。

 そして、視線を司会者から正面に向ける。


 頭を少し傾け、傾けた方の肩を少し上げる。髪の毛がハラリと肩にかかる。

 少し、ほんの少しだけ顎を突き出し。胸を前に押し出す。腰を少し落としそれとなくヒップの線を強調する。この動作を流れるように遣って退ける。


 視線は一番後ろだ。

 一番後ろに焦点を合わせる事で、中央の席の全員が俺と視線を合わせていると錯覚する。

 本来なら長尾が立っている筈だったが、今はいない。

 そんな事……全然、かまわない。一番後ろの中央に立っている誰かに焦点を合わせる。


 そして、微笑む__。


『ほぉ……』


 観客席のあちこちから漏れ聞こえてくる……溜息。


 左右其々の客席に向かって同じ動作をした後司会者に視線を戻した。

 司会者は俺に見つめられて一瞬ボーっとしたが、すぐに我に返った


『い、いや~。驚いたな~。こんな綺麗な子が学内にいたなんて~。今度ランチ一緒にどう?』

『な~に。ナンパしてんだよぉ。司会者ぁ』


 ドっと会場に笑いが起こる。

 本当ならこの後、“モンローウォーク凛スペシャル”が炸裂する予定だったんだが、怪我の為司会者からの質問に答えるという形に変更になった。

 さっきの進行係が気を利かしてくれたんだな。

 いい奴だな……。


 司会者のキレのいい会話が大いに会場を沸かせた。

 彼は俺をエスコートしながら、ステージの端から端まで歩かせてくれる。

 なかなか気が利く司会者じゃないかぁ。

 俺を効果的に観客全員に披露してくれている。 

 おまけに時々小声で、


『手、大丈夫か?』


 なんて訊いて来る。

 さっきの進行係といい、この司会者といい。

 ほんっといい奴だな。

 何で俺は人を寄せ付けなかったんだろう。

 勿体無い事をしてたのかもしれないなぁ。


 でだ。肝心の会場の反応はどうだったかってことだが。

 良かったぞ。もの凄く良かった。

 俺の勘違いでなければ、手応えありってとこだな。

 男達は俺の美しさに溜息をつき、女達は羨望の眼差しを向けていたと思う。


 うん! よし! 貰ったな。



 ステージを降りた俺は、舞台裾で待っていてくれた凜さんと控え室に戻った。

 控え室では青い顔をした長尾が椅子に座ってうな垂れていたが、俺が入って来た気配に気がつくと飛び上がるように立ち上がった。


『カ、カズオ……お、俺……』


 俺は長尾を睨んだ。

 長尾は何か言いたげだったが、言葉を詰まらせて下を向いた。

 まだ、俺に話しかける根性が残ってるのかよ。

 はぁ、呆れるどころか、頭が下る思いだぜ。下げないけどねぇ。


『カズオちゃん大丈夫だった?』


 ママが心配そうな顔をして近づいてきた。


『はい。大丈夫ッスよ』

『ママァ。カズオちゃん綺麗だったわよぉ! 観客なんか全員溜息もんだったのよぉ。私、感激しちゃって思わず涙ぐんじゃったわぁ』

『そんな……凜さん。恥ずかしいじゃないっすかぁ』

『あらぁ。本当よぉ』


 えへ~。自分でもそう思ってるぅ! けど、言えないよなぁ~。

 私。綺麗? なんてなぁ~。

 ……。

 長尾と目が合った。

 テンション下るぜ……ったく。何してんだよ。どっか行けよ。

 あっ。金、投げつけるんだった。……そこで、死んでろ!


『カズオちゃん』


 ママが俺に話しかけてきた。


『はい。何ですか?』


 ママの手には、あの紙が握られていた。ママはその紙をテーブルの上に置くと、


『原因はこれね?』


 と、俺の顔を見ながら少し首を傾けた。


『……はい』


 俺は、返事をしながらもう一度長尾を見た。奴は下を向いたままだ。

 何やってんだよ! 死んどけよ!


『やっぱり。そうだったのね』

『そうです』

『酷いわよね。これって……』

『そうですよ! 俺はコンテストなんかに出る気はなかったんだ! コイツに何度も何度も言われて……でも、出る気はなかったんだ。なのに……お姉さん達の気持ちとか、全部利用して……俺を馬にまで……クソ!』


 腹ただしさが戻ってくる。

 ムカムカするぜ……。


『結論から言うわ。これは、ボツになってるのよ』

『えっ?』

『この賭け事は行われていないってことよ』

『え……ど、どういう……』

『この紙は、前に私が既に見ていたの。その時点でストップしてるのよ。長尾ちゃんも馬鹿ね。さっさと捨てりゃいいものを……普段から、整理整頓できてないのよねぇ』


 いやいや。焦点そこじゃないし。


 俺はママの話を聞いた。

 店での事だ。俺がバイトに入ってなかった日の事__。

 ママが、閉店の最終点検の見回りをしていたら、長尾が控え室でテーブルに紙を広げて、何やら1人ブツブツいいながら紙に何か書き込んでいたんだそうだ。

 驚かしてやろと思って、ソロソロと後ろから近づいて……ふと、紙に目をやったら俺の名前が書いてあるのが見えたんだ。全体像がザっと見えた時、ママはピンっと来たそうだ。


『長尾ちゃん。アンタ、何する気?』


 長尾は、まぁ集中してたんだろうな。ママに声を掛けられて飛び上がったらしい。


『あ! ママ! お、お疲れ様っす』

『見せなさい。それ』

『い、いやぁ。こ、これは……』


 長尾はそれを隠すようにテーブルの前に立って、うろたえていたと。


『見せなさい!』

『い、や。学校のレポートですよぉ』

『見せろ!ってのが聞こえねぇのかよぉ!!』

『はいぃ!!』


 もろに男に戻った(一瞬だけど)ママにビビッた長尾は、恐る恐る紙を差し出した。


 アハ。やっぱ、ママ。そこ、男出ますよね。








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