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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
128/146

128.見つめる瞳、馳せる思い。(結婚式当日 4)

「俺、あっちの席がいい!」


 朔也が晴華と麻由の方を指差した。


「馬鹿! 名前書いてあんだろ? そこに座るのがルールなんだよ」

「エーーーッ!!」

「『エーッ』っじゃないの。早く座れって」

「ねぇねぇ。何とかならないのぉ?」

「ならないね。座れ!」

「ねぇ、芙柚ぅ」


 ゴッ!!

 思わず脳天にゲンコツを落としてしまった。


「いっ!!」

「じっとしてろ」


 朔也は涙目で頭を摩りながら、しぶしぶ席に着いた。

 友達用の円卓は3台。

 彩の友人卓が一台。長尾の友人達は2台を占領していた。

 大学と警察を分けたんだな。それも男ばっか

 私は大学組のテーブル。

 まぁその中に朔也は、ちと可哀そうな気がするけれど我慢するしかない。

 で、男どものテーブルに挟まれるような形で女の子のテーブルが設置されていた。


 う~ん。どう見ても合コン効果狙い。

 もしくは長尾側の友人達の策略……。上司からの圧力……。

 ガッシリとした体つきの猛者たちが座るテーブルに囲まれた女子テーブルから、今にも悲鳴が漏れるんじゃないかと思えるぐらい、見るからに恐ろしい光景だった。


「朔ちゃん、こっちおいで。1人分余裕があるみたいよ」


 晴華が朔也に耳打ちしに来た。

 朔也が私の顔色を伺いながら摺り寄ってくる。

 わぁ~ったよ。行け行け。

 私はテーブルに肩肘を突きながら、も片方の手をヒラヒラさせて“あっちいけ”してやった。

 朔也は目を輝かせんばかりに立ち上がり、晴華と手を繋いだ。

 チッ! 覚えてろ。


「じゃ、芙柚。連れて行くわね」

「ああ。ごめんな、気ぃ遣わせて。おとなしくしろよ」

「大丈夫。俺は泣き虫じゃないから」

「!!!」

「あっ!」


 2発目をお見舞いする。

 オトコになるって決めたらオトコっぽくなるもんだね。

 座り方など立ち振る舞いが何となく昔の私に戻っている。


「いいなぁ朔。女子に囲まれてぇ」

「ヘヘヘヘ……」


 柳が朔也に声を掛けた。

 と同時に晴華が朔也の手をグッと引っ張り、柳には目もくれず連れて行った。

 うん? 気のせいか? 晴華……機嫌悪い?


 その後の披露宴は噂通りのものだった。

 新郎を誘拐犯に見立て、『花嫁を解放しろ!!』と呼びかけるって感じのお芝居があると聞いていた。

 やっぱ警察は逮捕劇をネタにするんだな。

 結構、楽しみにしてたんだよね。コレ。

 長尾の場合は、新郎新婦の後ろの屏風の陰から犯人が突然出てきて、彩を人質にとった。


「キャーー!!」

「長尾! お前の嫁は俺が頂く」

「せ、先輩!」

「勤続10年。無遅刻無欠勤、運転免許ゴールドのこの俺が結婚できないのに何でお前ができるんだ!」

「そ、それは……」

「俺は自分の家も買った。ただ郊外だから市内に出てくるがが3時間かかるだけじゃないか! 親と同居だけどちゃんと2世帯住宅だし……玄関も別々なんだぞ。それなのに何故だ!!」

「そ、それは……」

「俺は腹は出てるが自転車にも乗れるぞ! 頭は薄いが帽子を被れば隠せるじゃないか!」

「せ、先輩! 彩を離してください!」

「それに俺はお前の弱点をしっているんだからな」

「じゃ、弱点?」

「あれを見ろ!」


 犯人役の先輩が指差す方向にスクリーンがスルスルと下りてくる。

 そこには長尾の幼い時からの『恥ずかしい』写真が次々に映し出され、会場は大笑いの渦に包まれた。

 “美無麗”で女装しておどけている写真もあった。


「彩さん! 本当にこんな奴と結婚してもいいんですか? 今ならまだ間に合います。ボクに乗り換えることもできます!!」


 犯人役の真に迫った問いかけに彩が答える。


「大丈夫です。私は、どんなに恥ずかしい人でも敏文さんを愛していますから」


 と言うと、犯人役の手からスルリと身体を抜け離し長尾の元に駆け寄った。

 長尾は彩を受け止め、


「先輩。ボクはあんなことや、こんなことや……恥ずかしいことは一杯ありますが、彩を愛する気持ちは誰にも負けません! 必ず、彼女を幸せにします!」


 で、2人が抱き合って、皆からのキスコール♡

 アハハハハ♡

 茶番劇もいいとこだけど、先がわかってても本当に面白かった。

 披露宴の司会進行は警察関係の方々が引き受けてくれているとは聞いていた。

 たいしたもんだ。招待客は全員堪能したに違いない。


『それでは皆様、暫くの間ご歓談ください』


 の司会の言葉を合図に友人席に座っている男達がビール瓶を手に、ほぼ同時に立ち上がった。

 目指すは、女子席!

 おお!! なんと恐ろしい!

 女の子達は、突然何が起きたのか分からず全員が目を見開いた。

 両手で自分の身体を抱きしめ縮こまってしまっている女子もいた。

 まるで野獣に襲われている美女たちのような……。イヤーーー! ヤメテーーー!!!


 が、よくよく見ると皆順番に挨拶をしている。

 大きな体の男が頭を掻きながら身体を縮め、腰を折って頬をピンクに染めながら名刺を差し出していた。

 女子たちは次々に名刺を渡されながらグラスにお酒を受け、快くにこやかに応対している。

 将来はこの中からカップルが誕生する可能性ありってとこなんだよね。

 なんとも微笑ましい光景じゃないですか。


 その後はそれこそお決まりの進行で、最後は両親へのお礼の言葉。

 また感涙の時間がやってきた。

 女手一つで長尾を育ててきた母親と向き合った場面は、それこそ涙なしでは見ていられなかった。

 長尾が母親に向かって、とぎれとぎれに言った『ありがとう』の言葉が、心底胸に沁みた。


「今は泣いていいぞ」


 スポットライトの光の中の長尾達を眺めている時、暗闇の中で柳が囁いた。

 柳の息が耳元にスゥっと当たった時、心臓がドクッと強く跳ねた。

 今、この時に不謹慎だけれど……性的感情エロティックな感覚が身体の芯に走った。

 あ……♡

 柳がそっと私の腰に手を回す……。

 ドキドキドキドキ……♡

 あ……いや……腰が……。

 下半身に痺れを感じ、急に立っていられなくなってしまった。

 ガタッ……。


「大丈夫か?」

「あ……うん。ごめん、大丈夫」


 よろめいた拍子に、椅子に躓いた私を柳が受け止める。

 ドキドキドキドキ……♡

 柳の腕につかまり立ち上がる。

 もう……何やってんの私……。

 でも、柳の胸……気持ちいい……。

 あっ!


 柳に引き上げられ立ち上がった時、肩越しに晴華と目が合った。

 じっと……刺すような眼差し。

 それでいて、とても悲しそうな……。

 晴華……。


 私はまるで浮気現場を見られたような後ろめたい気分になり、咄嗟に晴華の方へ体が動いた。

 

「どうした?」

「え? あぁ……なんでもない……」


柳の問いかけに、バツ悪さを感じながら視線を長尾に戻す。


はっ、私は何しに行こうと思ったのかしら。

言い訳? 何の言い訳?

『晴華、違うの。あれは、弾みで……』とでも言う気?

馬っ鹿じゃない? 今更、何を取り繕う必要があるのよ。

……だけど……晴華のあんな悲しそうな()は見たくない。

ちょっとぉ、悲しそうなのは自分のせいだとでも考えている?

この期に及んで……自惚れるにも程があるってもんだわ。ハハハ……。

だけど、背中に晴華の視線を感じる……。


私は傍らに柳の肌の温もりを感じながら、ずっと後にいる晴華に思いを馳せる。

溢れ出る晴華への想いに、私の胸は押し潰されそうになっていた。

晴華……。俺の恋。


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