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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
127/146

127.オトコとは。(結婚式当日 3)

 “新郎、長尾敏文。汝は山内彩を、幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓いますか?”


「誓います」


 “新婦、山内 彩。汝は長尾敏文を幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓いますか?”


「誓います」


 長尾と彩はお互いの手を取り合い、見つめ合い互いに誓い合った。

 そして、誓いのキス♡


 あぁ! なんて感動的なの。

 涙が止まらない。

 私は自分でも可笑しいくらい、涙でグチャグチャになっていた。

 両隣で柳と朔也が困惑している。


「もう……。芙柚、泣き過ぎ。せめて声を抑えてよぉ」


 朔也が肘で私を突きながら小声で言う。


「だって……だって……」

「お前がこんなになるなんて思わなかったよ」

「えっ……えっ……えっ……」


 私は必死で堪えるが、どうしても嗚咽が漏れてしまう。

 朔也は両手を広げて呆れ、柳は苦笑いを浮かべながら私の肩を自分の方へ引き寄せた。


 本当に私はどうしてしまったのだろう? 不思議、まるで頭の中に引出しの中身をぶちまけたような。

 今まで生きてきた中でこんなに泣いたのは、きっと初めて。

 胸に渦巻く感動の嵐、その強風に煽られて溢れてくる涙。

 涙って何で出てくるのか? なんて、真剣に調べようとなんて思ったこともない。

 だって、今までに殆ど泣いたことがないんだから。

 最近で記憶に新しいのは、晴華との別れの時だったように思う。

 それでも、自分から言い出したことに己が泣く権利などないように思い、悲しみや寂しさを噛みしめ堪えた。


 もしかしたら、そんなふうに過去に押し殺した感情は積み重なっているのかしら?

 感動、喜び、悔しさ、悲しみや辛さ、様々な感情の儘に自分を預けられなかった過去。

 それは自分がただ忘れているだけで、なくなってはいないのかしら?

 知らず知らず溜め込んでいたものが何かの弾みで、まるで堰を切って溢れだしたような?

 今、目の前で愛を誓い合っている2人が、弾みになっているに違いないことは確かだけど。

 こうして涙を流しながらでも、自分が可笑しくて堪らない。

 自分の滑稽さに本当は吹き出して笑いそうなのに溢れ出てくるのは涙だなんて、ホント笑っちゃう。


「ほら、外に出るぞ。大丈夫か? しっかりしろ」

「う、うん。もう大丈夫」


 一頻り泣きじゃくった私は柳の肩に埋めた頭を持ち上げ、涙を拭った。

 朔也は私に呆れてしまい、さっさと外へ出て行ったみたいだ。

 うん、アイツはそういうヤツさ。


 教会の外へ出ると皆が新郎新婦が出て来るのを待ち受けている。

 朔也はちゃっかり晴華と麻由の間に挟まって、キャッキャしながら並んでいた。

 うん、ヤッパリお前はそういう奴だ。

 私は柳に連れられて向かい側の列に並ぶ。

 晴華がチラッと私を見た。

 きっと泣き腫らした顔をしてるだろうと思うと恥ずかしくて下を向く。

 長尾の為にオトコになるって口では言ったけど、本当は心の隅にいる晴華の為。

 面目ない……。馬鹿だ……私。


 暫くすると教会の扉が開き、長尾と彩が幸せ一杯の笑みを浮かべ腕を組んで出てきた。

 沸き起こる歓声と喝采、皆が口々に祝いの言葉を叫んでいる。


「「おめでとう!」」

「「お幸せに!」」


 2人は降り注ぐライスシャワーと花びらの中で、幸せを振りまきながら歩いている。


「もう泣くんじゃないぞ」


 柳が耳元で囁いた。

 その時、もう既に涙腺が緩んでいた私は慌てて堪えた。

 柳は私のオデコを人差し指でコツンと軽く弾いて優しく微笑む。

 その笑顔に、私はペロッと舌を出して見せた。


「行くぞ!」

「おう!」


 2人でバスケットの中の米粒を掴み、満面の笑みを浮かべながら歩いてくるカップルに祝福を捧げる。


「「長尾! おめでとう!!」」


 長尾が私達に気付いてウィンクする。

 うふ♡ 今日の長尾はホント最高!!


「ホ~ラ。やっぱり吉村だぁ」


 不意に声が聞こえた。

 その声に振り返って見ると、長尾のサッカー仲間が立っていた。

 私をスーパー銭湯に連れ込んだ奴らだ……。


「うわ、吉村。お前綺麗になったなぁ。噂には聞いてたけど……へぇ。人間こんなこと出来んだなぁ」

「にしても、泣き過ぎだろう」

「ほんとほんと。いくら親友の結婚式でもさぁ。なんか違うぜぇ」

「マジ号泣してる奴がいるって見てみたら吉村でさぁ。俺は目を疑ったさ。前々から思ってたけど、ちょっと女々しくないかぁ?」


 はっ?

 そいつ等は冷やかし口調で私に近づいてきた。

 目が笑ってる……。見られてたんだ。

 好きな事言いやがって……女が女々しくて何が悪いってのさ。


「おい、田村。そういう言い方はないだろ? それって、他で聞くと気分の良い言葉じゃないぞ。ちょっと慎めよ。今日は聞き流してやるけど、今度また同じような事を言うようだったら、俺がお前に己の間違いを教え込むことになるぞ」


 柳がそう言いながら私の肩を押し退け、ズイっと前に出た。

 すると、問題発言野郎が、


「あ……あ。悪かったよ。言葉が過ぎたな。吉村、悪い」


 と、手の平を合わせ拝むようにして即座に謝った。

 よし、空気が読めるヤツだ。許してやる。

 いや。その発言自体、空気読めてない。前言撤回。


 だけど柳……。

 なんて頼もしいんだろう。

 身体自体は連中の方がガッシリしているから、もし殴り合いになったとしら柳が勝つ保障はない。

 だけど言葉に説得力と言い方に迫力があった。

 それに奴らだってそうそう馬鹿ではない。時と場所ぐらいは弁えている。


 これって、私……守られたんだよね?

 一瞬、私は柳の横顔にポゥっとなった。

 連中がそそくさと私達から離れて行ったのを見届けると、柳は私に振り返り、


「お前なぁ、しっかりしろよぉ」


 と叱る。


「ご……めん。ありが……とう」

「ったくぅ……。ありがとうじゃねぇよ」


 柳は溜息を吐きながら、前髪を掻き上げた。


「だいたいお前が言い出したことだろ? 今日は一日しっかり”オトコ”でいるって……。何やってんだよ。まだ披露宴があるんだぞ。大丈夫か?」

「うん……分かってる。ごめん」

「男ってのは自分の感情を容易く曝け出したりしないんだぞ。グッとここに留めておく生き物なんだ」


 と言いながら、柳は自分の胸に拳を当てた。

 確かに……。

 子供の頃、男は泣いちゃいけないってよく言われてた。

 私が自分は男だと信じていた頃。


 だけど、何かの本で読んだのか、誰かに聞いたことなのか覚えてないけど”泣く”っていう行為はとても大切な事なんだって……。

 悲しいから泣く、寂しいから泣く、辛いから、悔しいから……。

 泣くっていうのは”負”の感情が纏わりついてくる事が多いと思うけど、そんな時”オトコは泣くな!”って言われガチなんだよね。

 多分、男はそんな”負”の感情に負けるなってことなんだろう。

 強く生きろ! 的な?


 だけど、負の感情にこそ自分を委ねることが一番大切な事なんだと、そうでないと心の底から笑えなくなってしまうと。

 まぁ、泣くにしても笑うにしても自分の感情を表に出さなくなったら……出せなくなってしまうよね。

 喜びたい時に喜べない、泣きたい時に泣けない。

 心の中の本当の自分が表情に現れないってことが起こるんだ……そして、まるで能面のようになってしまう。

 その影響で辛いのは、伝えたい時に伝えたい人に、伝えられなくなってしまう事……。

 そういう男の人いるよね……私の周りで思い当たる人の顔が何人か浮かんだ。


 男って辛いね。かつて男だった私には分かるよ。

 私をたしなめる柳の顔を見ながら思う。

 ヤバ、まるで他人事にしてるよ私。


「ちゃんと聞いてんのか? 目が浮ついてるぞ。他の事考えてんじゃねぇよ」

「聞いてるよ。ちゃんと聞いてます、聞いてます。ちゃんとオトコします」


 ふぃ~。これだから、勘のいい奴は……。

 私はやる気を見せる為ネクタイをグッと引き上げ、キッと柳の顔を見上げた。

 すると柳はニッと笑い、私の頭を小突きながら言った。

 

「まっ。女のお前には、分からんとは思うけどね」


ズキュン!!

や、や~なぎぃ~♡

 

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