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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
125/146

125.結婚式当日。

 カラコロ♪ カラ♪


「あ! 柳さん。やっぱり来てたぁ」

「よぉ、朔。久しぶり」


 今日は長尾と彩の結婚式。

 私は柳と”ライミン”で待ち合わせ、やっぱり柳は先に来ていた。


「おはよう、マスター」

「おお! 久しぶりだな、朔ちゃん。どうだ? 学校の方は。楽しいか?」

「う……ん。フツウ」

「コラ! それヤメロって言ってるだろ?」


 朔也の頭を軽く小突く。


「いってぇなぁ」

「そんなに強く小突いてないだろ。それにいつも言うように『ふつう』って返事はやめろ」

「だって~。普通はフツウなんだもん」

「お前の普通と人の普通は違うんだから。生活環境とか、考え方によっても違うし……」

「あああ! もう分かったってぇ。面白くもないし楽しくもない。クラスの奴らが全員馬鹿に見える。これでいい?」


 いきなりキレた朔也に私たちは驚いた。

 私は思わず朔也の肩を掴んで、


「はぁ? お前、喧嘩売ってんのかぁ? 何、ヤケクソで答えてんだ!」

「ヤケクソじゃないやい! ホントの事を言っただけだよ。芙柚がそう言ったんじゃないか! 普通って言うなって!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てよ、2人とも。なんでいきなり喧嘩してんの? 訳わかんないんだけど?」


 柳が私と朔也の間に割って入って、2人の間に座った。


「ごめんなさい……」

「すみません。マスター」


 朔也は柳にすまなそうな顔を向けて謝った。

 私はマスターに詫びた。


「ふぅ。どうしたんだよお前ら、何かあったのか? 今日はおめでたい日なのに……。何やってんだよ。周りの俺達が笑ってなけりゃダメじゃん」

「うん……ごめん」


 私は柳に頭を下げながら、朔也の方をチラッと見た。

 朔也は、とんだ爆発発言をしてしまった感を漂わせている。

 私の視線を感じ、モジモジしながらバツ悪そうに項垂れていた。


「それにしても、朔。今のは聞き捨てならないぞ。クラス全員が馬鹿に見えるなんて」

「う……ん。ごめんなさい」

「まぁ、それは後で芙柚と話しろ。いいな? 芙柚もちゃんと聞いてやれ」

「わかった……」


 ふぅ……、結構ストレス溜まってるのね。

 離れてからは塾で顔を合わすだけ……。

 それも、帰りの電車の時間があるからゆっくりできないし。

 後で、ちゃんと聞いてあげないと……ね。


「っていうか、なんで男言葉?」

「え? ああ、今日は男でいなきゃダメだろ」

「二人の為にか?」

「そういうこと」

「そっか。じゃ、仕方ないかぁ」


 柳はそう言いながら天井を見上げた。

 なんだか残念そうに見えたのは、私の気のせいかな?

 それから柳は私をジロジロ眺め、


「芙柚、礼服。カッコイイじゃん。お前が着ると『男装の麗人』って感じだな」

「嘘! マジ? 苦労したんだよぉ。胸のアタリに布巻いてさぁ。まぁ、それほど大きくはなってないけど、体つきが丸くなったじゃない?」


 やぁだ、男装の麗人だなんてぇ♡ それって基本女性ってことよね。


「柳もカッコイイよ。やっぱ男はスーツよねぇ」

「そ、そうか?」


 柳は素直に照れている。

 アハ、可愛い。


「アレ? それ可愛いじゃん、リボン」

「うふ♡ 麻由が結んでくれたの。可愛いでしょ」


 今朝、麻由が、

『これくらいなら、お茶目でいいよね』

 って言いながら、私の三つ編みの先に白い小さなリボンを結んでくれた。


 柳と私の会話を朔也がつまらなさそうに聞いている。

 余程、黒服が着たかったのだろう。

 カウンターの下に足を当て、椅子をキコキコ揺らしている。


「どうしたんだ? 朔ちゃん。つまらなさそうだな」


 あっ、マスター、止めて……。


「別に……ふつう……」

「朔! お前、今ワザと言ったろ」

「ワザとじゃないやい。今のは普通だから『ふつう』って言っただけ」

「お前なぁ!」


 私は立ち上がって朔也を睨らみつけた。


「ちょっとまてよ、芙柚。お前、何カリカリしてんだぁ? おかしいぞ」

「別に……カリカリなんて……」

「してるよ! 今朝から、芙柚は何かにつけて煩いんだ!」

「そうなのか? 何で? そういえば……なんだか雰囲気が違うなぁ」

「え? 私? じゃない……俺?」

「ああ、なんだろう。言葉だけじゃないなぁ」

「そ、そうかな?」


 そ、そこんとこ。あんまり突っ込んでほしくないな……。


「うん。なんか……ソワソワしてるっていうか……。あっ! お前」

「え? なに? なに?」

「ア~ハハハハハハ。笑えるぅ」


 柳はそう言って笑いながら、テーブルに突っ伏した。


「な、なんだよぉ。いきなり、何が笑えるんだぁ?」

「ヒ~ヒヒヒッヒ。お、お前緊張してるな? アハハハ、長尾の結婚式だぜぇ。ヒイヒイイ……お前が緊張してどうすんだよぉ。親友だから分からないでもないけどさぁ、ハハハハ」


 グッ……。これだから、勘のいい奴は嫌なんだ。


「ほ、ほっといてくれよ」

「まっ、彩ちゃんは幼馴染だし? 大親友と幼馴染の結婚だけど、はっきり言ってお前は関係ないじゃん。アハハハハ、身内意識ってヤツ? おもしれぇ~」

「う、うるさい! 笑うな!」


 な、長尾もそうだけど……。

 その彩との結婚ってのがだな……。


「朔。安心しろ、ただの八つ当たりだ」

「八つ当たりぃ? そっちの方が、いい迷惑だよ!」

「アハハハハ。まぁ、そう言うなって。芙柚にすれば、ひとつの別れなんだぞ」

「別れ? 何で? いつでも会えるじゃん」

「うん。だけどな、住む世界がまるっきり違うんだよ。俺たちとは……な」

「住む世界?」


 そう、今までみたいに一緒に馬鹿もできない。

 長尾は私達と違う道を歩くんだ。

 動く歩道が何本も引いてある駅のエントランスで、別々の歩道に乗るみたいな感じ。

 同じ位置、同じ速さで動いているけど、違う道。

 アハハ、わっかりにく~い。


「朔。芙柚はな、嬉しいんだけど凹んでんだよ」

「芙柚……。凹んでんの?」


 朔也が不思議そうな顔をして私の顔を覗き込んだ。


「もう! 勝手に人の気持ちの中に入ってこないでよ! 朔! アンタも調子に乗るんじゃないわよ!」

「おお、恐。今度はヒステリーだ。朔、早くジュース飲んでしまえ。そろそろ行くぞ」

「はぁ~い」


 うぅ……ムカつくぅ……。

 だけど、確かに……私、緊張してる。

 気づいたのが、今朝になってからだったから。

 なんて馬鹿なのかしら、この私があんな事に気づかないなんて……一体。


 決して、忘れてたわけじゃないのに……。


 私達3人は電車に乗り込んだ。

 柳と朔也は楽しそうに話しているけど、私は目的地に近づくにつれ緊張が高まるのを感じていた。 

 あぁ……どうしよう。


 宝ヶ池~、宝ヶ池~。


 着いた……。

 ゾロゾロと電車を降りる人に紛れて、私達は駅のホームに足を踏み入れた。

 すると朔也が、急に駆け出した。


「センセ~! センセ~! 晴華先生!!」


 えぇ!! もう!? 早すぎるだろぉ。

 ま。まだ心の準備が……。気持ちの整理が……。ええい! 何言ってるんだ。


「こんにちはぁ、朔ちゃん。大きくなったわね」

「そうかな? 先生元気だった?」

「ええ、元気よ」


 私は覚悟を決めて歩き出した。

 あぁ、神様。左右の手と足が、ちゃんと交互に出ていますように。

 胸を締め付けている布にジワッと汗が滲んでいくのを感じる。


 なんて私は馬鹿なんだろう。

 彩の結婚式に晴華が来るに決まってるだろ。

 来ない筈がないじゃん。

 何で、今朝になるまで気づかなかったんだろ。

 だからといって、私が行かないわけにもいかなし。


 晴華がこっちを見ている。

 髪を耳に掛ける仕草……晴華だ。

 ドクン、ドクン、ドクン。


 聴こえてくるのは、自分の心臓の音だけ。

 駅のホームに行き交う人たちの姿が一瞬で消えてしまった。

 今この瞬間私の目に映っているのは、晴華の姿だけになる。

 晴華に続く一本の道が、私に向かってスゥーっと引かれた。

 私は晴華に向かって歩く。

 彼女を目指して、彼女だけを見つめて。

 一歩、一歩、晴華に近づく……。

 

「芙柚~。早くぅ」


 朔也が手招きして、私を急かしている。

 だけど、足が……重い。思うように前に進まない。今にも止めてしまいそうだ。

 と、その時。

 柳が私に肩を組んできた。そして、


「久しぶり、晴華ちゃん」

「柳君?」

「ああ、柳だよ」

「まぁ、何だか見違えちゃったぁ」

「ハハ。カッコイイだろ? さっき芙柚がそう言ってた」

「芙柚? 柳君、『芙柚』って呼んでるの?」

「ああ、そうだよ。だって、コイツは『芙柚』だからね。な、芙柚」

「あ? あぁ、そうだな」


 柳……何か変?


「長尾君はカズオって呼んでるから、男の人はそう呼んでるのかなって。私が勝手に思っちゃって」

「長尾は長尾。俺は俺。芙柚は芙柚」

「そ、そうね。ごめんなさい」

「謝る事なんかないよ。嫌だなぁ、晴華ちゃん」


 いいや……(おまえ)は謝る方向へ持っていった。

 ってか、何でそんなに威圧的?


「芙柚……。久しぶり」

「あぁ、久しぶり。元気してた?」

「うん。元気だよ」

「そ、そっか……」


 か、会話が続かねぇ~。

 ってか、ヤバイ。

 このまま目を合わせてると私……晴華から離れられなくなってしまう。


「さぁ行くぞ! 式の前に長尾の顔見にいくんだろ? 晴華ちゃんも彩ちゃんに会うんだろ?」

「え? えぇ……」


 晴華が柳に視線を移した。

 チェッ、柳のヤツ……。


「早く行こうよぉ」


 朔也が晴華の手を引っ張っている。

 う、羨ましい……。

 晴華と朔也が手をつないで私達の前を歩き出した。

 あぁ、晴華だ……。


 ってか、柳、重い!

 何で、コイツはずっと肩組んだままなんだ?


「ちょっと、柳。重いよ」

「……」

「柳ってば」


 私は無理矢理、柳から身体を離した。

 すると、柳がすぐに私の腕をガシっと掴む。


「痛っ、なんだよ。痛いじゃんか」

「俺……。離さないからな」

「え? 離さないって。言ってる意味が……」


 そう言いながら柳の顔を見上げると彼は真剣な顔をしていた。

 どうしたんだよ、柳。

 柳はフィっと私から目を逸らすと、今度は早足でスタスタと歩き出した。


「今、解った。お前が、何で緊張してたか……。」


 柳がブツブツと独り言を言っている。


「え? 柳……、どうしたんよ」

「……」

「おい、お前変だぞ? 急にどうしたんだよ」

「……」

「足……早ぇよぉ。なんだよ、いきなり。柳、俺……」


 すると、柳が急にクルっと振り向いた。

 その顔は、今までに見たことがない顔。

 柳の表情(かお)から、あの爽やかさは消え失せていた。

 そして静かに……言った。


「俺の前で……男になるな」



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