表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
124/146

124.結婚式前夜。

 

「ふふふ……♡」


 柳が私の横で含み笑いをしている。

 思い出し笑い? みたいな。


「なによ、ニヤニヤして。気持ち悪いわねぇ」

「別に……」


 別に……って、そう言いながらも笑ってるじゃない。変なヤツ……。

 最近、柳と私は一緒にいることが多くなった。

 日曜日は必ず“ライミン”に来るし、平日も何だかんだ言っては誘ってくる。

 昔、長尾とツルんでた時を思い出したりもする。

 私のカミングアウト以降、長尾(アイツ)とはいつも一緒だったなぁ。

 私の一番の理解者であって親友。大親友。朋友。

 (コイツ)は……親友って訳じゃないけど……、私を受け入れてくれているのだけは、分かるのよね。

 だって、私がこうやって一緒にいられるくらいなんだから。


 学生の頃は、特にどこかで待ち合わせしなくたって、学校で会うから自然に行動するのが一緒になる。まぁ、長尾は結構私を探し回っていたみたいだけど。

 それも長年一緒にいて波長が合ってくると、まるで引き寄せられるように同じ時間に、同じ場所にお互いがいるのが当たり前になってくる。

 そこにいるのが、ただ習慣になっただけって言われればそうかも知れないけれど……。

 今思えば私は、長尾が私を探しやすいようにワザと場所を決めて長尾を誘導していたのかも知れない。

 本当は、私は長尾に探して欲しかったのかも知れないなぁと思う。

 くれぐれも言っとくけど、変な意味じゃないわよ。


 で、その長尾の結婚式が明日。

 ちょっとセンチな気持ちになってしまう……なんちゃって。

 先日、彩のウェディングドレスの写メが送られてきたとき、麻由は奇声を上げて興奮してた。


『きゃあーーーーー!!! 彩ちゃん可愛い!! 見て見て! 芙由兄ぃ! 凄っく綺麗!!』


 確かに麻由の言う通り、彩は綺麗だった。

 大人の雰囲気が匂い立つような美しさだった。

 人って、女って、愛されているとこんなにも綺麗になるんだぁって、心底思った。

 ドレスのデザインも凄く良かった。

 彩の膨よかな胸を品良く包み込むようにあしらわれたレースの胸元、細いウエストが強調されるようにヒップラインから膝までは窄むようにデザインされているドレス。

 ’70年代に流行したような感じ。

 膝から下は豪華なレースが、これでもかっていうくらい重ねられて足元に華やかさを醸し出していた。


『ねぇねぇ、芙由兄。このベール何mあると思う? 写メが切れてるから分かんないけど。かなり長そうだよね』

『そうだな。まっ、彩はセンスがいいから本番が楽しみだな』


 私はその後も写メを何度も何度も見返した。

 私は着ることのないドレスよね……ハァ。


「芙柚、お前明日何着てくんの?」

「へ? 礼服に決まってるでしょ」


 そう言って、私はアイスコーヒーのストローを銜えた。


「礼服って、俺と同じやつ?」

「アンタと一緒かどうかは知らないけど、世間に出回ってる一般的なデザインの男物の礼服よ」

「何で?」


 柳は首を傾げて本気で訊ねている……。

 クゥ……出たか? 天然タイム。


「はぁ? 『何で?』って、アンタ馬っ鹿じゃないの!? じゃ何? 私にドレスでも着ろっての?」

「いや……俺は、てっきり……彩ちゃんと長尾だから……」

「長尾と彩だからこそ一般的じゃなきゃダメなのよ!! 何考えてんのよ。あの二人の大事な時に、私が飛んでもないパフォーマンスやってどうすんのよぉ!!」

「あ、いや……そんなつもりで言ったんじゃ……」

「式には、知り合いがワンサカ来るのよ。私の事知ってる人なんてウヨウヨいるんだからぁ。『え?あの子、男だったよね?』なんて、式のあいだ中ザワザワさせてどうするのよ。主役そっちのけで私が目立ってどうすんのよ! ちょっとは頭使って、気を回しなさいよ!!」

「ご……ごめん」

「……ったくぅ」


 ううぅ! 腹が立つ。コイツのこういうとこ、ほんとイライラする。

 普段はそんな事ないのに、時々ポカッと天然になるんだよねぇ。


「まぁまぁ、芙柚ちゃん。そんなにキツく言わなくても……。柳君は芙柚ちゃんのドレスが見たかったんだよな?」

「え? あ? や、やだなぁマスター。そ、そういう訳じゃないよ。俺は……コイツを女だと思って……るか……ら。普通……に……ただ……」


 柳は言葉をフェードアウトさせながら下を向いた。

 た、確かに言い過ぎた感はあるけど……。うっ、引っ込みがつかない。

 しかし、柳ってヤツは打たれ強いっていうか……。

 結構、一緒にいるとこんな場面は珍しくない。

 柳の天然が出た時は、ついギャアギャア口調になってしまうのよね、私。

 テレビドラマなんかで見る、うだつの上がらない亭主に嫁がギャアギャア言ってるシーンみたいな。

 なんでこうなるんだろう……。

 私なりに柳の事は気に入ってるっていうか、何かに障る気がしないから一緒にいられるのよね。

 なのに、変に天然が入ると凄くイラっとしてしまう。

 私……気が短くなっちゃたのかなぁ?


「と、とにかく余計な事は言わないように……大学の友達に会ったとしても、そこんとこ気をつけてよね。上野にもちゃんと言っておいてよ」

「分かってるよ……」


 柳はシュンとしながら答えた。

 その横顔を見ながら、いつも私は思う。

 コイツは絶対 “M” だ!

 私は柳に対してワザと辛く当たってる訳でもないし、まして苛めてる訳でもない。

 ただ、イラついたときは自分でも驚くくらい柳を責め立ててしまう。

 柳に対して感情の起伏がハッキリと現れてしまう。

 そんな時は……なんか後味が悪いっていうか、自己嫌悪に陥るときが多い。

 でも、柳は案外ヒョウヒョウとしていて……そんな態度にまた苛立つ時が、たまにある。

 まぁ、掻き毟られる程でもないだけマシかもしれないけど……てか、そんなヤツと一緒にはいないか。

 私と柳の関係って一体……。


 家に帰ると朔也が来ていた。

 今夜は久々のお泊まり、だけど何だか機嫌が悪い。


「俺も、その黒い服着たいよぉ」

「そんな事、今になって言っても遅いって。何で、もっと前に言っとかないの」

「だって……」


 朔也は自分が学校の制服で結婚式にするのが不満なようで、文句タラタラで不貞腐れていた。


「アンタが言い出しにくかっただけでしょ? パパに『買ってくれ』って」

「ん……」

「じゃあ、仕方ないでしょ?」

「なんで訊いてくれなかったんだよ。芙柚がぁ」

「甘えてんじゃないわよ! 一緒にいれば訊いたかも知れないけど、今は別々に住んでるんだから仕方ないでしょ」


 あ……。

 朔也が私を睨みつけた目が、じわっと涙目になった。

 ヤバ……言い過ぎた。

 悔しそうな顔をしたかと思うと……体操座りをしている膝に顔を押し付けた。


「ごめん、ごめん。ほら、泣かないの。今度は買ってあげるからさ」

「……今度って、何時(いつ)

「えっと……。今度は……今度よ。ハハハハ……何時って言われても」

「そんなの出任せじゃないか! 芙柚はそんな気ないんだ!」

「そんな事ないって、約束するよぉ。ね? 約束」


 私は小指を差し出しながら、朔也を宥めるのに嫌気がさして来るのを感じた。

 おい! ガキ。いつまでもグズグズ言ってると酷い目に合わすぞ。

 いやいや。ここは我慢、我慢。


「それって、何時の約束なの?」

「だ~か~らぁ。あ、ホラ。麻由がいるじゃん。麻由の結婚式。まだまだ先だけどその時には私が買ってあげるって。ね?」


 ちょっと……私が笑ってるのはここまでよ。

 早く顔を上げなさい。小指を出して私の指に絡ませなさい!

 私は我慢の限界を感じながら、俯いている朔也の頭のテッペンを見ながらイラついた。

 だけど、朔也は暫く俯いたままじっとしている。

 くっ、じれったいわね。いい加減にしないと……


「わかった……。約束……」


 朔也が急にそう言いながら、俯いたまま小指をゆっくりと差し出した。

 私は彼の小指に指を絡ませて、


「指切りげんまん、ウソついたら針千本飲~ます」


 と言いながら、結んだ指を上下に振った。

 ったく、中学1年生にもなって……まるで赤ん坊じゃない。

 すると、朔也が小さな声で話し出した。


「ずうっと先の話って。麻由ちゃんの結婚……」

「そうねぇ、やっと専門学校に入ったとこだし。保育士になって……う~ん、かなり先かなぁ」


 保育士の結婚適齢期なんて、私は知らないし……。

 私の感覚では……出会いってあるの? ってくらいの職業じゃないかな? なんて思ったりしてる。

 だって、大変そうなんだもの。


「すごく、先?」

「ま、まぁ。それは本人の事だから。いつどうなるか誰にも分からないじゃない? 大丈夫だって約束は守るから」


 変に突っ込まれないように上手く躱さなければ……。

 この子って、頭がいいから……。


「俺……それまで……ずっと、芙柚たちと一緒にいてもいいの?」


 あ……。

 そう言いながら、顔をあげる朔也の目は潤んでいた。

 寂しかったんだね……。

 私は朔也の頭に手を伸ばし、自分の胸に引き寄せた。


「馬鹿ね……。当たり前じゃないの。朔也(アンタ)は私達の家族なんだから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ