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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
12/146

12.いざ、出陣!

 バシッ!! <ゴキッ!? >


『ぐぁ!』


 うっ、く! 中指……やっちまったな。クソッ! 大扇持てるかな……。

 はぁはぁはぁ……。

 俺は長尾をブッ飛ばした。


『きゃーー!! 何やってんのよぉ! アンタたちぃ!』

『長尾ちゃ~ん! 大丈夫ぅ!!』

『カズオちゃん! どういう事なの!!』


 ママと凛さんが控え室の入り口から叫びながら走り寄ってきた。


『……』

『カズオちゃん!! 何とか言いなさい!!』


 凛さんは倒れた長尾を抱き起こしている。

 ママは怒りながら俺の肩を掴んだ。


『コイツに聞けよ……』


 俺はそう言うのが精一杯だった。

 そう言うと同時にその辺に置いてある椅子に、崩れるように座った。

 ふ~っ。クッソ~。イテェよぉ~。


 今日は短めのネイルアートを施している為、、拳を硬く握り締められなかった。

 その所為で……多分、折れた……。

 クッソーーーー!! (はらわた)が煮えくり返りそうだぜ!!


 この悪逆無道、極悪非道が許されるのか!

 コイツは優勝したら10万(実は20万円だった)とか言って、俺にエサを与えようとしやがったんだ。で、裏では……。

 いったい、こんなことして……いくら稼ぐつもりだったんだ!

 俺を! 俺の事を馬にまでして……。

 ああああぁ! くそ! 考えれば考える程、腹が立ってくる! 

 よそう……今、考えるのは止めよう。


 ……へっ。最初、俺がキッパリ断ったとき……さぞや、焦っただろ~な。ケッ!

 くそ! 頭が勝手に考えてしまう。……腹ただしさが収まらない。

 ……どの時点でこんなこと考えやがったんだ? 最初からか?

 ち! まただ……。くそっ。考えるな!


『きゃー! カズオちゃん! その手、どうしたのぉ!』


 椅子に座って手を額に当て下を向いていた俺に向かって、ママが叫んだ。


『いやだ~! パンパンに腫れてきてるじゃないのぉ! え? もしかして……折れたの』

『……ああ。……多分』

『もう! 何やってんのよぉ! こんな時にぃ!』


 ママは叫びながら地団駄を踏んでいる。

 だよな~。何やってんだぁ? 

 それもこれも! 何もかも、コイツが! ……あ。まただ。ふう……考えるなって。


『よしむらさ~ん! よしむらかずおさ~ん! 準備できましたか~? 次の次なんで舞台横に行ってくださ~い』

『ムリよぉ!』


 ママが進行係に向かって言った。


『え? どうしたんですか?』

『怪我しちゃったのよぉ』

『いっ! 大丈夫ですか?』


 進行係が俺に近付いて来て、俺の手に気がついた。


『あ~。これは……病院、行くか?』

『そうよねぇ。行かなきゃ』

『棄権……するか?』


 進行係が確かめるように、俺に訊いてきた。

 俺は即答した。


『いや、出る』

『え? ムリじゃないか? 凄いぞコレ!』

『痛み止めある? ママ……』

『ダメよぉ! カズオちゃん。ムリよぉ!』


 俺は衣装を着る為に立ち上がった。

 くっ! いってーーーーーーー! 痛すぎるーーーー!!

 肩の方まで痺れてきてるよぉ!!

 右腕全体が鼓動を打っているようだ。半端なく痛い! 

 だが、ここで止めるわけにはいかない。

 止めないぞ! 出るさ! 勝って! 絶対、優勝して! アイツに賞金を! アイツの顔に! 


 金を投げつけてやるんだ!!


 俺は歯を食い縛りながら、凛姉さんに向かって、


『凛さん。ドレス……着るの手伝って貰えますか』


 と、お願いした。


『カズオちゃん!!』

『ムリだろう!!』


 着替えるのを止めさせようとするママと進行係に向かって、俺は左手を上げて制止した。

 うっ。痛っ! ちょっとした動作も響くぜ……。

 長尾が頬を押さえ顔面蒼白になりながら、俺を見ている。


 鬼哭啾啾__。

 長尾……。

 今お前には。俺が鬼気迫って、物凄く恐ろしい気配を、殺気を漂わせているように見えているだろう。

 っていうか。そう見えていて貰わないとな! 


 俺はこんなに人を憎んだのは初めてだ。

 と、同時に殺したいと思うなんてな……。

 勿論、ガチで殺したいなんて思ったのも初めてだ。


 殺さないさ……。殺せない……。殺せる筈なんかないもんな……。


 ああ、だから殺さない。殺さないよ。……な。な~が~お~。

 憎しみとは不思議なものだな……笑みが零れるんだな。俺だけか?


 とにかく俺は右手を庇いながら、痛みに耐えながら、凛さんとママに手伝って貰い衣装を身につけた。痛み止めも飲んだ。

 応急処置として手の平にカードケースを当てホータイをグルグル巻いてある。

 カードケースは硬くて薄いから丁度よかった。

 ホータイを巻いている途中で

 ん? 折れてないかも……と思ったが、黙っておいた。

 長尾にはできるだけ長い間、罪悪感を持ち続けて貰わないとな。一生でもいいくらいだ。


『大丈夫ですかぁ』


 さっきの進行係が、また戻ってきて顔を覗かせた。

 心配してくれているようだ。こんな、いい奴もいれば、あんな……。

 俺もしつこいな……。後にしろよ。考えるのは……。


 今は、ステージを成功させなければ……。


『ほんとに! カズオちゃんがこんなに頑固だなんて。知らなかったわ!』

『ほんとねぇ~ママ。私もビックリしちゃうわぁ。あっ、ごめん。痛かった?』

『だ、大丈夫です……』


 ママと凛姉さんはブツブツ言いながらも、手伝ってくれている。


 痛み止めが効いてきたのか……? さっきよりは、ほんの少しマシになってるような……。

 俺は包帯のなかで指に少しだけ力を入れてみた。

 ……ん? 動いた?

 きゃん。折れてな~い。黙っとこぉっと!


『どう? 痛む? 薬、ちょっとは効いてきた?』

『あ、はい。そのようです。さっきよりは、ほんの少しだけマシかと……』

『とにかく、あまり動かなくていいから。扇どうする? 持てる?』

『大丈夫。持ちますよ。持てます』


 俺は左手で大扇を持ち上げ、バサッと開いて見せた。

 その様子を見ていた進行係が声を掛けてきた。


『いけますか? もう、次ですよ』

『ああ! 行くよ』


 俺が返事をして振り向き、立ち上がって進行係に微笑むと……。

 ん? どうしたんだ?


 奴の目がまん丸になった。

 おい! どうしたんだよ!


『き、き、きれいだ……。凄く……凄く、綺麗……です』


 俺は驚いたね。奴は、本当に感激していた。

 言葉の最後が敬語になっちまってるよぉ。

 俺達にとっては、こんな姿。日常のことだから、そうも思わなかった。

 イサオに負けたか? と思ってたくらいだからな。

 そりゃ、いつもより気合いは入ってるけど。俺だけじゃあない。

 出場する奴全員が気合入りなのは間違いないからな。


 そっかぁ~。そんなに綺麗か~。

 おまえ……いい奴だな。ほんっといい奴だなぁ。


 うん。……サービスしてやるか。


『うふ♡ ありがと♡』


 パチッ♡ 

 奴は俺のウィンクに顔を赤くして下を向いた。

 しぇ~! 最高だなぁ。よっしゃー! おおお! 闘志が戻ってきたぁ!


 コイツのお陰だ。


 うふ♡ ありがと♡ 


 何度でも言ってやる。


 うふ♡ ありがと♡


 俺は進行係と凛さんに支えられながら、舞台横まで行った。

 控え室を出る時、長尾を思いっきり睨みつけるのも忘れなかった。


 進行係は緊張してたなぁ。額に汗が滲んできてたもんな。

 可愛い奴だ……な。


 会場から聞こえてくる声援が段々大きくなってくる__。

 いい感じの緊張感が俺に纏わりつく。

 ステージへの階段を一歩、二歩とゆっくり上っていく。

 上がりきったところで凛さんが大扇を手渡してくれた。


『頑張ってね。カズオちゃん!』

『うん! ありがとう。凛さん』


 俺はステージの方へ向き直り、大きく息を吸って……吐いた。

 そして目を閉じて待つ。


 司会者が俺の名前を呼んだ。


『エントリーナンバー! 25ば~ん! よしむら~かずおさ~ん。どうぞぉ~!!』


 ステージ中央では司会者が俺の方に手を伸ばして、招いてくれている。


 ドレスのスパンコールがライトに照らされキラキラ輝いている。

 俺は大扇をバサっと開き顔から上半身が隠れるように持ち替えた。

 そして、しなやかに歩き出す。


 さぁ! 行くぜ! お前ら全員、よ~く目ぇ見開いてろ!



『格の違い!』ってのを見せてやるよ!!




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