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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
117/146

117.記念写真。

「どこ行くの?」

「マスターんとこ……」

「ホント? わぁ、ヤッタ~! 俺、苺フロート食べよっと」



 私たちは朝食を済ませた後、朔也は勉強、私は塾の授業のチェックと資料を見直して、二人で暫くゲームで遊び耽った。

 明日は病院の日か……。

 カレンダーの書き込みを見ながら、ぼんやりと何を着ていこうかなどと考える。


「朔、出かけるわよ」

「うん? 今から? 俺、行かなきゃダメかなぁ」

「別に、好きにすればいいわ」


 私は立ち上がると、さっさと服を着替えた。

 朔也はゲームをしながら、そんな私を横目でチラチラ見ている。

 私は支度を終えると何も言わずに扉のノブに手を掛けた。


「俺も行く!」


 分かってるわよ。アンタがついて来ない筈ないでしょ?

 慌ててゲームを片付け、バタバタと階段を下りてくる。

 玄関で靴を履いていると居間からテレビの音が聞こえた。

 婆ちゃんがテレビを見ているんだろう。

 最近、耳が遠くなったのかボリュームが大きい。


「いってきま~す」


 通りに出て暫く歩いているとご近所の人に会った。


「こんにちはぁ」


 いつもの挨拶、目上の人への敬意、社交辞令。

 ご近所付き合いを円満にする為の……ただの愛想笑い。


「え? あぁ、こんにちは……」


 だけどその人は怪訝な顔をして、そそくさと立ち去っていった。

 ん? 人違い? 

 確か、杉下さんの奥さんだと思ったんだけど……。

 後ろ姿を見ても、確かに杉下さんだ。

 変ねぇ……。まっいいか。


 駅に向かう道を歩きながら、ぼんやりと婆ちゃんのことを考える。

 あの目……。

 確かに私を見て『加州雄』と言った。

 だけど、その少し前ほんの一瞬目に光がなかった。

 私はその目を思い出しながら歩いていた。

 そう……私は油断していた。


 また一人、ご近所さんに出会う。

 笑顔を浮かべ、ペコっと頭を下げるも相手は何やらいつもと反応が違う……。

 ????……。

 変ねぇ……、どうしたのかしら?

 私は急に疎外感に駆られ、何が何だか分からなくなってきた。


 ”あっ!”

 髪だ! 髪の毛を束ねてくるのを忘れていた。

 ご近所を歩くときは束ねるか、更にキャップを被るようにしていたのに……。

 今の私は長い髪を自然に垂らしている、おまけに薄化粧まで……。

 キャップを目深に被っていたなら、隠せるほどの化粧なのに……。

 婆ちゃんの事に気を取られていて……油断してしまった。


 あぁ……瞬く間に『吉村さんとこの息子さんって……』的な噂話が充満するのが予想できる。

 前にも一度失敗した事があったけど、あの時は母ちゃんが上手くとりなしてくれた。

 やってしまった……。


 だけど今更どうする事も出来ないし……。

 以前のように母ちゃんが上手く受け流してくれるのを願いながら、改札をくぐった。


「マスター! こんにちはぁ」

「おお!! 久しぶりだな坊主。元気だったか?」

「うん! 俺、苺フロート!」

「久しぶりですマスター。私も同じものを」

「OK! 今日はいい生イチゴがあるぞぉ」


 私たちは久しぶりによく喋った。

 よく喋り、よく笑う。

 相変わらずのマスターの軽快な話しっぷりは私たちを存分に楽しませた。

 だけど、私がつい婆ちゃんの話をしてしまったせいで、空気がどんよりしてしまい……。


「まぁ、月並みな言い方かもしれないが……いつかは通る道なんじゃないかなぁ。俺の母親は芙柚の婆ちゃんよりは若いけど、いつそうなってしまうのか……こればっかりは分からないからなぁ」

「そうね、なるかも知れないし、ならないかも知れないし……」

「ああ、そうだ。その時俺たちに何ができるか? じゃないか?」

「うん、そうよね。そう思うわ」


 あぁ、やっぱり此処へ来て良かった。

 少なからず気持ちが軽くなったような気がする。

 私たちは『苺フロート』を食べながら、また楽しく会話を弾ませた。


 ♪~♪♪~♪


 ん? メール? 

 携帯を手に取ってメール画面を開けたけれど新着がない。

 LINE? 

 画面を開くと……。


「わ! な、何コレ!!」

「どうしたの? 芙柚……。わぁ!!」

「何だ? お!」


 私たちはLINEに送られてきた写メを見て、大騒ぎした。


「うあ~! かっけぇ! これ麻由ちゃんだろ? で、こっちは彩ちゃんだよね! かっけぇ!!」

「おお! いいじゃないかぁ。へぇ、良く撮れてんなぁ。綺麗じゃないかぁ」

「う、う……ん」


 私はその写メをまじまじと見つめ……羨ましくて泣きそうになっていた。

 彩と麻由が二人して”花魁”に変身して写っている。

 妖艶に着飾った二人は、見違えるほどとても綺麗だった。

 彩が白地で麻由が黒地の双方とも花柄の艶やかな衣装を纏い、頭には大小の花飾りとバランス良く刺された数本の(かんざし)

 うなじから肩にかけて少し衿をはだけ、手には長いキセルを持って伏し目がちにポーズを取っている。


 古典的な柄の敷物と花弁を敷き詰めた床に座り、着物の裾からは白い足が隠くれるように魅せるように覗いていた。

 二人の背景には時代物の箪笥が置いてあり、花瓶に挿された花が上手い具合にタンスの引き出しの辺りに垂れ下がっている。

 写メは全体的に赤っぽい、赤いライトの中の二人に施されたお粉が物凄く映えていた。

 二人の美しさを浮き彫りにさせていた。


 綺麗……。


 あどけない麻由が緊張しながら大人っぽく微笑んでいる。

 カメラ目線でキッと目尻を上げ、キュッと口を結んでいる彩。

 二人共、何でこんな表情(カオ)が出来るんだろう。


 私は送られてきた三枚の写メを何度も何度も見返した。

 文字通り……見惚れていた。


 ”どう? 彩ちゃんと記念に変身してきましたぁヽ(*´∀`)ノ 今度、芙柚兄とも変身したいな。♥。・゜♡゜・。♥。・゜♡゜・。♥。”


 可愛い麻由のメッセージに何度も心の中で頷き、彩の美しさに目が離せなかった。

 そして妹の美しさが誇らしかった。


 カラコロ♪ カラ♪


 不意に店の扉が開いた……途端、声がした。


「やっぱりいた!」


 ビックリして入口を見ると……。


「柳……」


 白い歯をキラリとさせた男がこちらを見て笑って立っている。


「ここにいると思ってたんだ」

「あっ! BBQに来てくれたお兄ちゃんだ」

「覚えてたか? 朔也君だっけ?」

「うん。芙柚に会いに来たの?」

「ああ、久しぶりにここにも来たかったし。以前、日曜はここに居るって聞いてたから」

「でも今日は、僕たちも久しぶりに来たんだよ」

「そうなのか?」

「えぇ……」

「じゃ、ラッキーだな俺。空振りしなくて良かった」

「兄ちゃん、苺フロート美味しいよ」

「マジか? じゃマスター俺にも下さい、苺フロート」

「はいよ!」


 柳は私の隣の椅子を引くとストンと座り、カウンターに片肘をついて私の顔を下から覗き込んだ。


「な、なによ。人の顔ジロジロ見て」

「ハハハ。吉村だ」

「何言ってんのよ。吉村に決まってるじゃない」


 柳は嬉しそうな顔をしながらも、私の顔を見るのを止めなかった。


「もう! 何なのよ」

「はっ、別に。懐かしいなって……お? 何だそれ。え? これ吉村?」

「え?」


 柳は私の携帯の画面に目を向けそう言いながら、麻由を指さした。


「違うわよ。それは妹」

「え? そうなのか? やっぱ似てるなぁ、この間のお前とそっくりじゃん」

「店の私?」

「ああ、着物着てただろ。雰囲気が一緒じゃん」


 やぁ~ダァ。嬉しい!

 もう、柳ったらぁ。


「そう? ホントに?」

「ああ! ウソじゃないって」


 テンション。バリ、上がりぃ~。


「で? 今日はどうしたの?」

「ああ。俺、日本に戻ってから就職したじゃん。俺、ちゃんと働くのって初めてだから……。最近、息詰まっててさ……」

「上野は?」

「ああ、多分アイツも同じようなもんだと思う。俺たちいつも一緒だからな。お前と長尾みたいな感じ?」

「それは、大学の時の事でしょ。今は違うわよ」

「そっか、そうだよな。アイツはお巡りさんなんだろ?」

「うん。で、もうすぐ結婚するんだよ」

「へ? 結婚? ま、まさか……あ・や……ちゃん?」

「アタリ!」

「クゥ~! やってくれるよなぁ。いい奴だもんなぁアイツ……長尾は」

「うん、すっごくいい奴。フフ、残念ね。アンタ失恋したんじゃない?」

「そんなのずっと前じゃん。好きになった途端、沈没したからな。撃沈だぜ」

「アハハハハハ。そうだったんだぁ」


 柳は再び、画面にジッと見入っている。

 フフ、彩……。綺麗でしょ? 


「そっか。彩ちゃん、結婚するのか……」

「フフフ……」


 あ~あ、哀愁漂わせちゃって……。


「まっ、俺は今がいいから」

「え? 彼女いるの? まさかベトナムで?」


 あら、意外だわ。


「いや、まだ彼女じゃないんだ。片思いだな」

「へぇ~。やっぱベトナムで?」

「いや、こっちでさ」

「そうなんだぁ。紹介しなさいよぉ」

「う……ん。まぁ機会があったらな」

「勿体ぶっちゃってぇ」

「仕方ないじゃんか、まだ彼女じゃないんだから」

「そっかぁ。じゃ、早くモノにすることね」

「そんな簡単にはいかんだろ」

「勢いよ、勢い。アンタ結構イケてんだから大丈夫だって」

「そっか?」

「そうよ。私が保証してあげる」


 柳は少しテレたように笑い、マスターが運んできた苺フロートの氷を削った。


「あっ、そうだ。吉村、今度図書館付き合ってくんね?」

「図書館?」

「ああ、仕事でちょっと頼まれてさぁ。社長が訳の分かんないこと言うんだよ」

「いいよ、いつ?」

「お前の空いてる日は?」

「私? 言ってくれれば、16時までならいつでも調節できるよ」

「分かった。メールするわアドレス教えてくれよ」

「はい。赤外線……やっといて」


 私は柳に携帯を渡し、苺フロートの最後に残しておいたイチゴを口に入れた。

 図書館かぁ、たまにはいいかなぁ。


「じゃ、そろそろ帰ろうか。朔、帰るよ」

「うん。マスターありがとう」

「また、来いよ」

「ええ、近いうちに」


 すると、柳が、


「俺も来るよ」

「ああ。大歓迎だ」


 私たちは店を出ると、店の前で別れた。

 私と朔也は右へ、柳は左。


「来週も来るのかぁ?」

「その前に図書館でしょう?」


 少し離れて叫び合う。


「メールするわなぁ!」


 私は柳に向かって両手を上げ大きな〇を作った。

 柳は大きく手を振った。


「フフフ……」

「何よ」

「別に……」


 朔也がニヤケた顔で私を見上げている。

 何なの? 感じ悪ぅ~。


 そして、家に帰った私には最悪な事が待ち受けていた。

 ダハ~。

 まっ、想定内……ですが。




116話の上書きが上手くできてなかったようで、少し加筆しました。

全体の内容は変わっていません。

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