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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
109/146

109.一件落着。

 

 朔也との養子縁組を考えていたとき、塾長から


『君は最近見た目にも女性らしくなったようだが……』


 な~んて言われてから、俺はかなり浮かれている。

 もう、嬉しくって、嬉しくってぇ♡

 おまけに、極端でなければ服装変えても良いって言ってくれたぁ♡

 ふっふっふっふっふっ……。

 それからというもの、ウィンドウショッピングが楽しくって、楽しくってぇ~。


 ま、そんなに変化はないと思うけど、全体的に色目が変わるかな?

 俺は、淡い系が好きなんだなぁ。

 前に晴華が『加州雄は色が白いから淡い色が凄く似合う……』って言ってくれたしぃ。

 あれは、桜色のブラウスを初めて自分で買った時だったなぁ。


 だからぁ、ちょっと冒険しようと思ってるんだぁ。

 今まで着ていたカッターシャツをブラウスへ……そして、チュニックへ……少しずつね。

 気が付いたら……え? 女の子? みたいな……。エヘ♡


 ヒールの踵をコツコツ鳴らして、颯爽と歩くってのも夢みるけど。

 まぁ、ヒールはゲイバーの方で履いてるから慣れてるけど、あくまでも決められた囲いの中での話さね

 おっと、アブナイ、アブナイ……。

 ちょっと油断すると、負のオーラが漂ってしまう……。

 ふむ。最近、感情の起伏が激しいな……。

 晴華情報を聞いてからだな……。


 形の無い物をただ心の中で思っているだけで、幸せだった。

『こんな時、晴華なら……』なんて、考えるだけで彼女の吐息を感じた。

 そんな、妄想の世界で俺は機嫌よくやってきてたんだ。

 手が届かないから想像する、見ることができないから妄想する。

 俺の中で、晴華は妖精のような存在になっていたんだ。

 ましてや己で断ち切った(えにし)、何を望むことがあるんだ?

 だから、それで十分だったんだよ俺は……。


 だが、朔也の口から晴華の名前が飛び出したとき俺は悟ったんだ。

 逃げてる自分に気が付いたんだ……。


 うっそ~、そんな事はとっくに知ってたよん。

 だって仕方ないだろ? 自分で決めた事だけど寂し過ぎたんだもん。

 そんな寂しさに直面なんかできなかったんだもん。


 だけど、晴華の名前を聞いた時点で俺は望んでしまったんだ。

 晴華との距離を縮めたいと、彼女に会いたい、手を取りたい……。

 抱きしめたい……と。


 叶うことのない望みだな。

 ハハハ……。


 さぁて、バイト、バイト。

 もうすぐクリスマス、今日から衣装がクリスマスバージョンになるんだぁ。

 俺は初めて真っ赤なドレスを着るんだ。

 名付けて”セクシーサンタクロース“!……ダサいか?

 髪を盛りに盛って、所々にアクセントとしてキラキラとデコレーションした羽を散りばめる

 胸元には、この期間限定でママが貸してくれる超ゴージャスなネックレス。

 ドレスは、真っ赤なベルベット。

 肩を大胆に出して、体の線がモロに分かるドレスだ。

 言ってみれば、チャイナドレスの胸から下の分だけみないな形。

 ひざ上から裾に掛けて両サイドにスリットが入ってるから、座ると足が露わになる。

 歩くたびに太ももがチラチラ……。

 イイじゃん、イイじゃ~ん。

 思えば、晴華と再会した時もサンタクロースだったなぁ。

 あの時は白バージョンだったけど……。


「キャーー!!」


 突然、大きな悲鳴が聞こえた。

 店内が騒然とする……何だ? どうした?

 見渡すと手で顔を覆っているお姉さんを見つけた。

 沙羅さん?


「どうしたの! 何があったの?」


 ママが立ち上がって、慌ててテーブルに駆け寄る。

 すると、そのテーブルの客が、


「や、やだな~。そんなに驚くなんて思わなかったんだよぉ。何でもないから……ごめん、ごめん」


 と言いながら、首に巻いていたスヌードを鼻まで引き上げた。

 ん? 何か、隠した?


 結果、何でもなかった。

 実は、お客が(男性)髭の永久脱毛に挑戦したのだそうだ。

 ところが失敗……でもなさそうなんだけど、皮膚が魚の鱗のような模様になってしまったんだ。

 こいのぼりの身体部分の柄を、ちょっとエグくした感じ。

 俺も見せて貰ったけど、揉み上げの少し下から顎の辺りまで魚人間みたいだった。

 一目見るとギョッとするぐらいだから、かなりエグいと思う。


 でだ、この客が悪乗りして……。


『俺、人間じゃないみたいなんだ……。最近、体が変化してきてるんだ……。こんなこと誰にも言えない……もう、頭が変になっちまいそうだぜ!』

『何、言ってんのよ。そんな事ある筈ないじゃない。アンタはちゃんとした人間よ』

『いや……。ヤバいんだ……。かなり……かなり……』

『や~だ、じゃぁ見せてみなさいよぉ』

『いいのか? 驚くなよ』

『キャーー!!』


 ってな訳だ。

 まったく、治るまで家に引き籠ってろって。

 お騒がせにも程がある。


「ダメよぉ~。脱毛を甘く見ちゃぁ。それ、言ってみればヤケドなんだからぁ」

「そうぉよ。私達だって、そこんとこ凄っく気をつけてるんだからぁ。髭なんて特に顔だからさぁ」

「そぉそ。大事なお顔にアザなんかできたら大変」

「まぁ、アンタはどうでもいいかも知んないけどぉ」

「そ、それは、ないッスよぉ」


 いつの間にかお姉さん達が集まって魚人間を酒の肴にしている。

 魚人間はお姉さん達に突つかれて汗だくだ。


「そんなのはなね、ゆっくり……そうねぇ、最低半年は掛けなきゃぁ」

「そうよ、表面の毛が焼けても次の毛が出てくるんだからぁ、それを焼いたらまた次って感じでさぁ」

「だから、根気よく……、チリチリ、チリチリって、やってかなきゃダメなのよぉ」

「そ、そうだったんすかぁ」

「その手の事ならアタシ達に何でも聞きなさいって」

「あ……そう、そうします」


 魚人間はお姉さん達に囲まれて小さくなっている、だけど……油断するなよぉ。


「じゃ、コーチ料ね。ちょっとぉ~、こっちのテーブルぅ『ボトル入りまぁ~す♡』」


 アハハハハハ、やっぱりねぇ。

 お姉さん達が、恩着せがましく話し込む時は気をつけなくっちゃあ。

 いよ! お見事!!

 離れた席で心配そうに見ていたママが、失笑しているのが見える。

 アッハハハハハハハ! 久しぶりに大笑いしたよ。

 その夜、ママ達と食事をして帰った。

 楽しかったなぁ、何だろ……俺、なんか息詰まってたのかな?

 うん、色々あったもんなぁ。


 家に帰ると朔也が来ていた。

 何だ? 土曜じゃないぞ?


「おい、朔。何してんだ?」

「あ、おかえり」

「おかえりじゃないだろ? 明日は? 学校休みか?」

「ううん。パパがね、先生とこ行ってろって」

「はぁ?」

「朔ちゃんのお父さんから電話があったんだよ」


 母ちゃん……。


「なんでも、今の奥さんと話さなきゃならない事があるんだって。大事な事らしいよ。ほら、うちは全然かまやしないからさぁ『どうぞ』って言ったんだよ」

「ふ~ん……」

「ね、ね。ゲームしよ」

「馬鹿か? 明日は学校だろ。ここから通うんだ、早く寝ろ! だいたい、何で今まで起きてるんだ。早く部屋へ行け!」

「へぇ~い」

「朔ちゃん、歯磨きするんだよ」

「あいよ!」


 ったく、母ちゃんにはいい顔しやがって。

 チョーシこいてんじゃないぞ!


 後日、朔也の父親から電話が掛かってきた。

 あの女の事についてだった。

 朔也がイタズラをしてた頃に送られてきた写メの事を、彼女に問い詰めたらしい。

 最初は彼女を信じていたから、猫の仕業だと思っていたんだと。

 だけど、次第に彼女が言っていることに食い違いがあることに気がついたのだそうだ。

 そして、出張先から帰る日より二日前に帰ってみたそうだ。こっそりな。

 そしたら、部屋は朔也が送った写メと同じだったって訳だ。

 当然、猫なんていやしない。


「私は、父親として恥ずかしい。朔也は何度も私に訴えていました。だが、私は彼女を信じるばかりに朔也の言葉を聞き入れなかったのです。アイツは彼女に反抗的でしたからね。母親のこともあるし……全てが彼女に対して攻撃的だったんです。しかし、こうなったのも全て私のせいです。彼女をこのままにしておく事はできません……同じ事を繰り返す事はできないのです……」


 そんなこんなを経て、彼女もまた精神を病んだ。

 朔也自体は、あれから彼女には何もしていないと誓っている。

 勿論、そうだろう。アイツはそこまで馬鹿じゃない。

 今思えば、朔也の母が生きていた時、まだ婚姻関係があったにも関わらず他人の夫を奪ったという良心の呵責に苛まれていたのだろう。

 真実は分からないが、いま俺が彼女に対して心を砕いてやるとしたら、そんなふうに思ってやるしかないってことだ。


 そのおかげで、どう言う訳か……。

 我が家に、もう一人家族が増えた。




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