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俺の恋。決めた恋。  作者: テイジトッキ
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100.矛先。

 

「先生! めっちゃくちゃカッケ~かったぁ!」

「そう……か」


 俺は電車の窓から外をぼんやりと眺めながら、隣ではしゃぎまわっている朔也に気のない返事を返した。

 はぁ~。何、感情的になってんだよぉ。……俺。


 確かに、俺はあの女にムカついたさ。

 俺が朔也から聞いた事を父親に話しているとき……目を細めて斜め下の床をジッと見ていた。

 俺には『ふ……、今更遅いわよ』って、ほくそ笑んでいるように見えた。

『私の気が利かなかったの……』な~んて言ってる口元が笑ってようにも見えたさ。

 狡猾? とまではいかない……。

 ただの腹黒女だ。


 そんなものを目の当たりにして『じゃ、僕はこの辺で……』って帰れる訳がないだろ。

 それは、俺が朔也を見捨てたも同然の行為じゃないか?

 いや~! ムリムリムリムリ……。

 とは言っても……。

 感情的な行動であったことは否めない。


 俺としたことが……。

 はてさて……どうするか?

 はぁ~。


 家に帰ると、送っていった筈の朔也が俺の後ろからヒョコっと顔を出したもんだから、もちろん皆びっくりしてた。


「どうしたの? お父さん、何て?」

「ああ、ちょっと話が食い違ってしまって……」

「話が食い違うって、どういうこと?」


 俺は朔也の了解を得て、朔也の家で起きた一連の流れを話した。


「酷い……」

「そうよねぇ。息子を信じてないのかねぇ?」

「信じてるだろうけど、それ以上に嫁を信じてるんだろ?」

「そんな事は、理屈に合わねぇぞ!」


 父ちゃん……。

 世の中の理屈全てに背を向けられている人物……。

 生きていくのが辛くないか?

 ほんっと、アンタ強いよな。

 そういうとこ、俺は心底尊敬してるよ。


「我が子を信じるってぇのは理屈じゃねぇんだよ!」


 よく言うよぉ、俺の話なんかこれっぽっちも信じなかったくせに。

 俺は覚えてるぜ。

『お前、何を企んでるんだ!』

 ふぅ……。そんな事はもういい、朔也だ。

 コイツをこのままにさせておく訳にはいかない……。


「いっそのこと、うちに引き取っちまえ」


 はいぃ~?

 なんとも、爆弾発言が飛び出したもんだ。


「あんた! 何、馬鹿なこと言ってんのさ。ペットをやり取りするんじゃぁないんだよ、他所さんの大事な息子さんなんだよ! 軽々しくそんなこと言うもんじゃないよ」


 まったくだ、朔也を連れて帰ってきた俺が言うのも何だが……。


「わ、わかってらぁ。お、俺がそれっくらい頭にきてるってことだ。それくらいお前だってわかるだろぉ」

「父ちゃんの気持ちはわかるけど、朔ちゃんにとっては父親なんだから。まるで父親がダメだって言われてるみたいに聞こえちゃ可哀そうじゃないか」

「何を言ってるんだ。俺は、そんな事は一言も言っちゃいないぞ。な? 朔、そんなふうに聞こえたか?」

「ううん、聞こえなかったよ。僕、僕……」


 朔也は父ちゃんの顔を見ながら、声を詰まらせた。


「どうしたんだ、朔!」


 俺達は父ちゃんの腕にしがみつく朔也に驚いた。


「僕……、う、嬉しくて……。は、初めてなんだ……こ、こんなふうに言ってくれる人……。パパのところに帰ってくるときも……歓迎されてないっていうのが、すごく伝わってきたし……。誰も、僕なんか……って……思ってたから」

「何、言ってるんだ。誰がそんなこと思うもんか! お前のパパだって、パパなりにお前の事を考えているさ」


 咄嗟に心にもないことを言ってしまったが……。

 そうでも言わないと、余りにもコイツが遣り切れないじゃないか……?


「う……ん。だけど、あの女は違う。僕が邪魔なんだ」


 そう言い切ると、朔也は俯いて歯を食いしばりポロポロと涙を流した。

 自分が邪魔者扱いされているなんてことを直に身体で感じるほど強い感情がぶつけられているんだろう。

 あの女の振る舞いから見ると、朔也の思い込みだけではないことが良く分かる。

 となれば……、父親か……。


 後日、俺は父親と再度連絡を取った。

 っていうか、パパの方から電話がかかって来たんだけどな。


「その……、何て言うか……。お世話になってるのに勝手なことだとは……解っていますが。朔也を返していただきたく……」


 はっ! 開いた口が塞がらなかったぜ!!

 あの女ぁ、とんでもない絵を描きやがった。


 朔也がこっそりあの女の服を着て嬉しそうに鏡を覗き込んでいるんだとよ。

 それもこれも俺の影響だとさ。

 仕草も、言葉遣いも女の真似をして……。

 ゲイバーで働いている俺のせいだとさ。


 ぶぁっか! じゃないのぉ~?


 あの女ぁ! よりによって俺に矛先を変えやがった。

 チッキショーーー!!!

 そのせいで、学校でもなかなか友達ができないとか、苛められてるとか何とか……。

 はっ! 単純、浅はか、アホくさ!

 また、それをパパが信じきっちゃってるんだからさ。

 手に負えないってか、情けないぃ……。


 があぁーーー!!! 腹立つぅぅぅ!!!


 で、今後の進学とか……。

 早い話が俺の傍に置いておいてこれ以上おかしくなっては困るということだ。

 ハハハハハ……。


 ざけんじゃねぇぞぉ!!!


 あの女もパパも本当の俺の事なんか知りもしない。

 そんなパパとの理不尽なやり取りの中で、俺はとても言う気になれなかった。

 あまりにも馬鹿らしくてな。

 どうせあの日朔也を送り届けに行った時、俺を見てピンッときたんだろうさ。

『これは使える』ってな。

 きっとアイツは、とことん朔也の居場所をなくす気でいやがるんだ。

 まともじゃねぇ、アイツは根っからの変態だ!

 下衆野郎だ!


 くっそぉ! 絶対にそうはさせないぞ!




「えぇ~!! ちょっとぉ、どういうことよぉ。朔ちゃんってそんな酷い目に遭ってるのぉ」

「おまけに、まひるの事ネタにまでしてぇ」

「腹黒い女ねぇ~。マジ、ムカつくぅ」

「え? で、朔ちゃん帰しちゃうの?」

「そんな家にぃ~?」

「だけど、朔ちゃんの家なんでしょぉ。しかたないんじゃないぃ?」

「にしてもさぁ~。ねぇ、どうすんのぉ? まひるぅ」


 控え室は朔也の話題で持ちきりだ。

 お姉さん達が朔也の哀れを口々に嘆いている。

 み~んな心配してくれてるんだけどぉ……。

 ほんとにもう、どうしたらいいのぉ~。


 私だって朔也を帰したくなんかないわよ。

 あんなサイテー女のとこになんかぁ。

 あの女のことだから、ここぞとばかりに朔也に嫌がらせをするのは目に見えてるわ。

 当然父親の目を盗んで、けなげな継母になりきりながら。

 でもって、あのバカッパパは嫁の言いなりになって朔也の言うことなんか聞きゃしないって筋書きよ。

 あ~ん! もう何なのよぉこのストーリーはぁ、安物の昼ドラみたいになっちゃってるじゃない。 

 自分の想像力の乏しさに辟易しちゃうわ……。


 っていうか……俺、いつの間に朔也のことをこんなに考えるようになってんだろ?


 最初は俺の勘違いから始まった。

 俺と同類か? なんてな。

 だが、朔也はれっきとした健全な男子だ。

 時折、頼もしささえ感じる。

 最近は生意気になってきたが、それくらいでないとなって普通に思える。

 俺の家族にも馴染んできたせいか……。


 あの晩、朔也の寝顔を見ながら感じた母性……。


「はぁ~。私、朔也を引き取れないかなぁ?」

「まひる。アンタ、なに甘いこと言ってんの?」

「ママ……」


 ふと口を突いて出た俺の独り言にママが反応した。


「あ、いえ……。このままあの子を家に帰すのに後ろ髪を引かれるって言うか……」

「アンタが後ろ髪を引かれようが前髪を刈り取られようが、あの子にはちゃんとした父親がいるのよ」


 俺はママの当たり前の言葉に、何故か無償に腹が立った。

 ムキになってしまったっていうか……。

 みぞおちの辺りが……ザワザワして嫌な感じがした。


「分かってますよ! だけど、あの家はダメだ。あの子の為にならない」

「アハハ。随分、知ったような事を言うのねぇ? 一体、何様かしら? まひる、アンタも偉くなったものねぇ」


 な、何だ?

 ママが俺に突っ掛かってきてるのか?

 それとも俺が、ママの言葉に過敏になってるのか?

 う……、ムカムカが抑えられない。


「だって! あの女は……」

「まひる。悪いけど、アンタには何もできないわ」




いつも読んでいただき、ありがとうございます。

途中からヘコタレてしまい更新が儘ならなくなったにも関わらず、アクセスしてくださってることに感謝しており励まされています。

そして、そんなこんなで100話までくることができました。

すべて皆様のおかげです。

引き続きの読了よろしくお願いします。

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