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毎朝満タンのトラックで、異世界をゆっくり走る。  作者: たむ


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12/20

頼られるほど、掘られなくなる

助けが届くと、人は息をつく。息をつけば、手が止まる。彼が配った一本は命を救ったが、同時に「待てば来る」という学習も生んだ。無限の供給を前にすると、努力は割に合わなく見える。これは悪意ではない。人間の自然な反応だ。だからこそ怖い。今日、彼は自分の善意が村の背骨を溶かしていく瞬間を目撃する。

三日目の朝、井戸掘りの音は小さくなっていた。最初の日は若者たちが交代で土を掘り、女たちが土を運び、子どもが石を拾った。汗と砂埃が村に戻ってきた。それは希望の匂いだった。

だが二日目の夕方から、掘る人数が減った。理由は単純だ。

「水がある」

彼が配る一本が、今日を乗り切らせる。乗り切れたら、人は明日を先延ばしにする。

三日目、彼が村へ向かうと、広場に列ができていた。列は整然としているが、目は欲で濁っている。昨日は井戸掘りの手が土で汚れていた。今日は、多くの手が綺麗だった。

村長格の女が彼を見て、疲れた顔で首を振る。

「掘らない。待つ」

通訳の男が短く訳した。

彼の胸が沈む。予感はあった。だが現実になると重い。

彼は配布を始めず、地面に井戸の絵を大きく描いた。次に、一本指を立て、井戸の絵を指す。井戸を掘る者が優先。さらに、列を指し、×印を作る。待つだけの者には配らない。

ざわめきが怒号に変わる。

「昨日はくれた!」

「命がかかっている!」

彼は拳を握り、息を吸った。

命がかかっているのは本当だ。だが、命を守るために村の未来を殺すわけにはいかない。

ミアが彼の前に出る。耳を立て、牙を見せる。威嚇ではなく、盾だ。彼はミアの肩に手を置いて落ち着かせ、ゆっくり前へ出た。

通訳の男に言う。

「今日、配るのは半分。残りは井戸掘りに渡す。掘らないなら、ここを去る」

男が訳すと、村人の顔が変わる。恐怖と怒り。去られる恐怖だ。

村長の女が叫ぶ。怒号を抑えるように両手を広げ、何かを訴える。彼は意味を完全には理解できないが、必死さは伝わる。女は彼の袖を掴み、井戸の方へ引いた。

井戸の穴は途中で止まっていた。掘り返した土が乾いて固まり、崩れかけている。ここまで掘って、止まったのだ。

女は自分の胸を叩き、周囲を指し、首を振る。彼女一人では動かせない。

彼は荷台へ戻り、水を一本だけ持ち、井戸の縁に置いた。

「これが最後の合図だ」

言葉は通じない。だが、彼は行動で示した。

次に彼は、スコップを持つ仕草をし、井戸に降りる仕草をし、自分の腕まくりをした。

そして本当に、井戸の中へ降りた。

足場は不安定だが、壁に手をつき、慎重に下りる。土は硬い。乾いている。掘るのは重労働だ。

彼はスコップを借り、土を削った。汗が流れ、息が荒くなる。ミアが上から覗き込み、何か叫ぶ。

村人が集まってくる。最初は黙って見ていたが、次第に若者が一人降りてきた。次にもう一人。

掘る音が増える。

一時間、二時間。

硬い層を抜けた瞬間、土の匂いが変わった。湿り気。

誰かが叫ぶ。

さらに掘ると、水がにじんだ。少しずつ溜まり、底がぬかるむ。村人が歓声を上げる。女が泣きながら祈る。

彼は肩で息をしながら、心の奥で少しだけ安心した。

水が出れば、村は自立できる。少なくとも、彼が去っても生きられる。

だが、問題はもう一つあった。

水が出た瞬間、列の視線が変わったのだ。井戸水はぬるい。彼の水は冷たい。

井戸が復活しても、人は冷たさを欲しがる。

彼は井戸の縁に置いた一本を取り、村長の女に渡した。

「これは祝杯だ。だが毎日はやらない」

通訳が訳す。女は深く頷いた。

彼は村人全員に配りたかった。だが配れば、また掘る手が止まる。

彼は荷台を閉め、トラックに戻る。

ミアが不満そうに彼を見る。

彼はミアの耳の付け根を軽く撫で、地面に線を引いた。百本の線。その横に、もっと短い線を引く。干ばつの村では、特例の線を引いた。だがそれは永続ではない。

「助ける。でも、立たせる」

言葉は通じない。けれど、ミアはゆっくり頷いた。

夕方、彼は村を出た。

背中で歓声が遠ざかる。

救ったはずの場所で、彼は初めて「自分が壊しかけた未来」を見た。

無限の恵みは、油断すると骨を柔らかくする。

だから彼は次の村へ向かう。

骨を残す配り方を探すために。

第12話は「善意の副作用」です。配った水が努力を止め、村の背骨を溶かしかけた。彼は自ら井戸掘りに降り、行動で流れを変えましたが、冷たさへの欲は残ります。次話では大きな事件。魔物の大群が村を襲い、彼は初めて“上限を外す”決断を迫られます。

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