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〜使用人の私が王子も敵国王子も夢中にさせる〜  作者: レノスク


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第6章 それが恋だと、気づくにはまだ遠い

カイル・アルディアは、自室の窓辺に寄りかかり、夜の庭を見下ろしていた。


月明かりに照らされた中庭。


昼間とは違い、静かで、少しだけ寂しい。

(……最近、変だ)


自覚はある。


けれど理由が分からない。


兄の恋を応援する。


それは決めていたことだ。


第1王子である兄、レオニスは優しくて、誠実で、誰からも慕われている。


アリシアの隣に立つのに、これ以上ふさわしい人はいない。


――はずなのに。

(なんで、あいつの顔ばっかり浮かぶんだよ)


カイルは小さく舌打ちをした。





翌日。


訓練を終えたカイルは、汗を拭いながら回廊を歩いていた。


「……あ」

角を曲がった先で、見慣れた姿を見つける。


アリシアだった。


重そうな箱を抱え、ふらふらと歩いている。


「……あのさ」

声をかけるより早く、足が動いた。


「ちょっと、それ重いだろ」


「え?」

驚いたように振り返るアリシア。


「カイル殿下!」


「殿下はいらない」

箱を軽々と受け取る。


「ほら、どこまで運ぶんだ?」


「え、えっと……倉庫までです」


「じゃあ行こう」

当然のように歩き出す自分に、カイル自身が少し驚いていた。

(……なんでこんなに自然なんだ)





倉庫に着き、箱を下ろす。


「ありがとうございます!」

アリシアは深く頭を下げる。


「……だから、頭下げすぎ」


「でも……」


「でもじゃない」

カイルはため息をつく。


「アリシアはさ」


「はい?」


「……俺と話すとき、緊張しなさすぎ」

アリシアはきょとんとした顔をした。


「そうですか?」


「そうだよ」

王子として扱われないことに、腹が立つわけじゃない。


むしろ――。

(……楽なんだよな)


「殿下って呼ばれないの、嫌ですか?」

アリシアが少し不安そうに聞く。


「……別に」

少し間を置いてから、付け加える。


「嫌じゃない」

その言葉に、アリシアはほっとしたように笑った。


「よかったです!」

その笑顔を見た瞬間。


胸の奥が、きゅっと締めつけられた。

(……なんだよ、これ)



その日の夕方。


レオニスと並んで歩きながら、カイルはふと口を開いた。


「兄上」


「どうした?」


「……もし」

言いかけて、言葉を止める。


「?」


「……なんでもない」

(聞けるわけ、ないだろ)


「もし、自分の気持ちが、誰かを傷つけるものだったら」


そんな仮定。


口にする勇気はなかった。


レオニスは穏やかな表情で前を見つめている。

(兄上は、あいつを――)


そう思った瞬間、胸がざわついた。

(……やめろ)


自分に言い聞かせる。


これは恋じゃない。


ただの興味だ。


兄の相手を知りたいだけだ。


そう、何度も。





夜。


ベッドに横になっても、眠れない。


アリシアが笑う顔。


驚いた顔。


少し困ったように頬をかく仕草。

(……あー)


カイルは、布団に顔を埋めた。

(これ、完全にアウトじゃないか)


それでも、まだ認めない。


認めた瞬間、

兄との関係も、

自分の立場も、

すべてが変わってしまう気がしたから。


だから、カイルは目を閉じる。


この感情に、名前をつけないまま。


――まだ、“恋”だと呼ぶには、臆病すぎた。

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